知的財産権の事例
CASE
実用新案事例
Xスタンパー
ハンコ社会の必需品
日本は「ハンコ社会」である。役所に対する申請書から会社の残業届、書留郵便や宅急便の受け取り、果ては町内会の回覧板までハンコを使う。このような社会ニーズに応えて、職場や家庭で「必需品」扱いされているのが、スタンプ台や朱肉の要らないシヤチハタ株式会社の浸透印「Xスタンパー」である。
シヤチハタの発想
昭和20年代後半、日本は戦争の痛手もようやく癒えて、産業界には事務能率の向上の機運が高まった。そんななか、シヤチハタ株式会社創業者の舟橋高次氏は、ゴム印自体にインキを含浸させて捺印できるスタンパーを開発した。しかし、同社にはゴムを扱った経験がなく、試行錯誤の連続。当時売り出されたばかりのウレタンフォームで印字体を試作したが、ハンコのように書類に押せる代物ではなかった。
同氏は、大学や公設研究機関、ゴムメーカーなどから技術を仕入れ、体積中の60~70%に微細な連続気孔を持つ印字体を開発した。この構造によってインキの量が抑制されて、なつ印時ににじんだり、垂れ落ちたりせず、書類にきれいななつ印ができるようになった。さらに売り上げを伸ばしたもう1つの開発成果に、スプリング式の“スライド”がある。スライドはスプリングによって上下動し、なつ印しないときには印面より下方に出ている。このため、印面キャップをとっていても机や書類、着衣は汚れにくい。
実用新案登録出願するシヤチハタ製品保護の取組み
研究開発の成果は、特許権だけでなく、実用新案、意匠権、商標権で“多重防護”するのが同社の戦略で、デザインやネーミングの保護も決しておろそかにしない。同社は、かつてスタンプ台が営業の中心だったころから類似品の市場流入を厳しくチェックしてきた。そうした伝統があって、業界にもシヤチハタ製品は模倣がしにくいという認識が浸透したのではないだろうか。
※「Xスタンパー」の実用新案権は、1984年10月23日に満了。