日本弁理士会の活動
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令和4年度デザインパテント
コンテスト
独立行政法人工業所有権情報・研修館理事長賞 受賞者インタビュー
石川県立工業高校
2022年度のデザインパテントコンテスト(以下デザインパテコン)の工業所有権情報・研修館(INPIT)理事長賞は石川県立工業高校3年(応募時)の松本瑞姫さんの「枝豆プッシュグリップ」が受賞した。スマートフォンの背面につける、枝豆の形状をしたシリコン製の落下防止アクセサリーである。スマホ使用時には枝豆の三つの豆に指をかけて固定し、持ち運ぶ際は折り畳んでコンパクトにできるデザインだ。
同校デザイン科では3年生で専門コースを選択する。松本さんはプロダクトデザイン専門コースに進み、どうやったら自分の考えを製品に落とし込めるのか初めて考えたという。デザインパテコンの応募を前提とした授業があり、そこで各自が応募作のアイデアを考えることから取り組みが始まった。松本さんは応募作のほか、詰め替え用ボトル、ランチョンマットのようなものを考えたが、応募作以外の2点は、自分でもあまり納得のいくものではなかったそうだ。9人のクラスメートがそれぞれのアイデアを発表してお互いに評価しあう合評会を経て、応募作を絞り込んだ。合評会は改良点を指摘するなどさまざまな意見を出し合い、さらに先生のアドバイスを受けて、各自のアイデアを磨く場にもなっている。松本さんの「枝豆プッシュグリップ」は「かわいい」と好評で、先生にも「よく思いついたね」と評価されたそうだ。
応募作を「枝豆」に決めた時点で、すでにデザインの原型は出来上がっていた。携帯電話の落下防止アクセサリーはすでに多くの製品が出回っている。友人たちが利用している製品や、量販店などに並ぶ多様な製品を見て、指を3カ所にかければさらに落ちにくくなるのではないかという着想が生まれた。登録意匠が多いことは予測していたが、実際に検索すると1万点以上がヒットして「どうしようか」と思ったそうだ。検索を続けていく中で、3つの突起がある意匠はなかったので、これならばいけるという感触を得た。6月から応募作品の製作に取り組む中で登録意匠の調査に2ヶ月ほどかかってしまった。毎日検索を続けながら、合間に既存の意匠とかぶらないデザインを詰めていく時間を挟むことが、気分転換にもなったようだ。その過程で、3カ所に指をかけると逆に指が固定され過ぎて使いにくいかもしれないとも思い、改めて従来品は機能性や使いやすさが考慮された洗練されたデザインだと実感し、とても勉強になったという。
折り畳める従来品には突起を引き出すバネタイプとシリコンタイプがあったが、松本さんは柔らかいシリコンを使いたいと最初から決めていた。使う時は伸ばして指をかけ、たたんでカバンやポケットに入れればかさばらない。突起が3つと考えた時に、豆のイメージが浮かんだ。枝豆にしたのは「一番好きな豆で、フォルムもしっくりきたので。空豆は豆が大きすぎるなと思いました」と明かす。作品を仕上げていく上で難しかったのは、伸ばした時の高さ、豆の大きさ、間隔などディテールのサイズを決めることだった。ウレタンフォームで大きさの違う豆などを試作したが、小さなパーツを何回も作って、最終的な形にするのには手間も時間もかかった。「この作業はとても大変で、胆力が必要でした」と松本さんは振り返る。落ちないように指を固定できるか自分の手で試したほか、クラスの友人たちにも試してもらったそうだ。「シリコンでは作っていないので、本当に想定している機能になるのか、実はわかりません。もしシリコンで作る機会を得られれば、全ての人が使えるようにサイズとか研究したい」と語る。
文章を書くのは好きだったという松本さんだが、デザインパテコンの応募では作品を言葉で表現するのが難しくて、学外の人たちにどうしたら作品を伝えられるのか苦労した。またと2年生までにポスターなどのコンクールに何度か応募したが、良い成果は得られなかったことから、デザインパテコンで優秀賞のみならず、INPIT 理事長賞の受賞は想定外だったようだ。「高校生活最後に出したコンテストで大きな賞を受賞できたことに、本当にびっくりしました。自分で気に入っていた作品だったので、それが高く評価されたことがとてもうれしかったです」と受賞の喜びを語る。
松本さんは美術教師を目指しての進学を決めている。以前から先生たちに教師を勧められていたそうで、デザインパテコン応募作の候補だった2作品も子供が使えるものだったというから、子どもたちと関わる資質が認められていたのだろう。「自分のアイデアを表現する、クリエイトする楽しさを教えられたらいい」と思うとともに、自分の作品も作っていきたいと夢をふくらませている。