日本弁理士会の活動
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令和5年度パテントコンテスト
文部科学省科学技術・学術政策局長賞
受賞者インタビュー
茨城県立つくば工科高等学校
2023年度のパテントコンテスト(以下パテコン)で文部科学省科学技術・学術政策局長賞を受賞したのは、「ロボット用テザー式アーム機構」を発明した茨城県立つくば工科高等学校ロボット工学科3年(応募時)のチームだ。彦坂智貴さん、栗原佑飛さん、圓城寺隼人さん、押木秀穏さん、甲斐龍之介さん、関空翔さんの6人は、2年の課題研究の授業でソーラーパネル表面を清掃するロボットを課題として選んだ。課題研究は自分たちで課題を考え、ロボットで解決する方法を見出すというもの。生徒たちがさまざまに課題を出して絞り込んだ上で、関心のある課題ごとに5、6人のチームで取り組んでいくそうだ。
茨城県はいばらきエネルギーシフト促進事業により、住宅をはじめさまざまな形でソーラーパネルの導入が進んでおり、通学の際にもよく目にする。そうした中には雑草に覆われ、あるいは表面に落ち葉が積もって汚れているものもあった。学内にある実験用のソーラーパネルに落ち葉をのせて発電効率が悪くなることを検証、インターネットを通じた調査では堆積物による異常な発熱が破損や火災の原因にもなり得ると確認できた。チームの6人が最初に抱いていたロボットのイメージはバラバラだったが、アイデアを出し合い、紙やホワイトボードに書いては議論を重ねて一つにまとめていった。その過程で実用化されている産業用ロボットなどについて調べる中で、JAXAが国際宇宙ステーションでソーラーパネルのメンテナンス用ロボット「REX-J」の実験をしたことを知る。「REX-J」はテザーで移動するもので、無重力空間で実験された仕組みを地上に応用できないかと考えたのが開発の始まりだった。
ソーラーパネルには高所に斜めに設置されているものもあり、どのような形状や大きさ、設置場所でも落下の危険性のない小型のロボットを目指した。そこでソーラーパネルの四隅にテザーを引っ掛けて、これをロボットに取り付けたアームでつかんでパネル上を移動する仕組みを考案した。テザーの巻き取り、繰り出しをするリールは2つのプーリー、ばね付きヒンジ、たるみを検知するリミットスイッチ、モータ制御用マイコンなどで構成されている。開発を始めた時、プーリーは1つだったのでテザーの繰り出しができなかった。それを無理に繰り出そうとすると、リール内部でテザーがたるみ、絡まってしまう。打開策を求めて同校の機械科にあった機械でワイヤを送り出す機構を観察して、テザーを繰り出す方法を検討した。問題点にぶつかるたびに、チームのメンバーはそれぞれの意見を出し合って試行錯誤を繰り返した。プーリーなどの部品はオリジナルで設計し、3Dプリンタで作成したものも少なくないが、うまく出力できないこともあり時間がかかった。特に2つの特殊な形状の円筒形から成る固定器具インターフェースは、それぞれの円筒の角度を変えるなどして何度も実験して、最終形にたどりつくまでに手間取ったそうだ。
3年になる頃に、プーリー2つのリールの機構が固まった。また指導に当たる鈴木悟史先生からパテコンを紹介され、応募してみようと意見がまとまった。過去の受賞作にはどのような発明があるか調べたが、この時点ではまだ開発作品に改良すべき点が残っていたので自信があったわけではなかったようだ。しかし、応募を決めたことで締め切りまでに作品を完成させるという目標も明確になり、チームの士気は高まった。課題研究の授業での研究も続き、放課後はもちろん、夏休みも毎日登校してそれぞれに分担している仕事に取り組み、実験を重ねた。一番大変だったのは、これでいけると思ったものが、実験すると考えていた通りには動かないことだったと、6人は振り返る。何がダメだったのか検討し、改善して実験することの繰り返しだった。この開発を通じて、メンバーのさまざまな考え方、自分にはない発想に触れたこともいい経験になったと、みんな感じているそうだ。
夏休みが終わる頃にはテザーの巻き取り、繰り出しとたるみ検出ができるようになり、応募作品として完成した。パテコンの応募書類作成に際しては、せっかく応募するのだから特許庁長官賞にも挑戦しようと、長官賞応募者のみに求められる要件についても書類を提出した。それだけ発明内容に手応えがあったのだろう。優秀賞に加えて特別賞を受賞できたことが「とにかくうれしかった」チームには、特許出願書類の作成が待っていた。同校では3年生は卒業準備のため2月は自由登校になっているが、6人は毎日登校して出願書類作成に取り組んだ。応募書類でも苦労したのだが、部品の形状やリールの機構、テザーの動きなどを言葉と図だけで説明するのが難しかったという。特許出願書類の作成では、普段作成しているレポートとは書き方が大きく異なり、どこから手を付けていいのか戸惑ったこともあった。しかし、文書の構成から文章の作り方まで弁理士から丁寧に指導を受けたことで、なんとか特許出願書類を完成させることができた。
最後に鈴木先生にパテコン応募の意義を伺った。「課題研究は自分たちで課題を探すことからスタートします。いろいろな課題を出し合いながら、一つの成果にまとめていった内容が校内だけでなく、外部から評価を受けることも重視しています。外部の評価を受ける機会の一つがパテコンだと思います。応募したことで、自分たちが学び、研究していることが実際に社会に接続されていることを実感したのが、今回の一番大きな成果だったと考えています。」