日本弁理士会の活動

ACTIVITY

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先生のための(知財の)
ひきだし!理科編

大人でも思わず引き込まれるおもしろ知財エピソード集です。 小学生から高校生までを対象に幅広くご利用ください。

テーマ:ブラウン運動って
役に立つの?

Keywords ブラウン運動、ロバート・ブラウン、アルベルト・アインシュタイン、ジャン・ペラン、粒径測定、モーター動力、経済的指標、粘度測定
法域 特許法
教科 理科(物理、化学)

ブラウン運動とは、溶媒中に浮遊する微粒子が不規則(ランダム)に運動する現象です。これは、イギリスの植物学者のロバート・ブラウンが、1827年に、水の中で花粉のふくろがやぶれて出てきた小さな粒が生き物のように動きまわることに気づきました。しかし、当時はこの現象がなぜ起こるのか、誰も説明することができませんでした。

1905年、ドイツのアルベルト・アインシュタインは、微粒子のまわりにある気体や液体の分子の運動が、ブラウン運動の正体であると考え、数学的に解析し、1908年にフランスのジャン・ペランが、ブラウン運動を観測し、アインシュタンの理論が正しいことを証明しました。
これらの発見によって、絶えず熱運動をしている気体や液体の分子が微粒子に衝突する結果、微粒子がランダムな運動をする、つまり、ブラウン運動をする、ということが分かりました。 さて、特許庁の特許情報提供サービスで検索すると、1993年4月~2014年6月までの間、「ブラウン運動」に関係する特許が54件あります。多くは、微粒子の粒径を測定する手段としてブラウン運動を利用したもの(特許第5498308号など)ですが、超小型のバブルモーターの動力として利用するもの(特許第5131835号)、不確実性がある経済的指標の確率過程モデルとして利用するもの(特許第5084968号)、血清または血漿の粘度測定に利用するもの(特許第4958272号)など、100年の時を越えた現在でも、様々な形で「ブラウン運動」の理論が用いられています。

(履歴情報)2015/03/11 掲載

テーマ:発明はどのような視点で考える?

Keywords 発明、アイデア、チェックリスト、新規な発明、進歩性、特許権
法域 特許法
教科 理科

 発明家の自伝を読むと、多くの場合、身の回りの不便な事柄を解決しようと創意・工夫を重ねていたら、発明が生まれたと書かれています。
 アイデアの発想法としては、「オズボーンのチェックリスト」が有名です。「オズボーンのチェックリスト」は、以下の9つの視点からアイデアを発想していきます。
 ①転用(他に使い道はないか?)、②応用(他からアイデアを借りることはできないか?)、③変更(変えてみたらどうか?)、④拡大(大きくしてみたらどうか?)、⑤縮小(小さくしてみたらどうか?)、⑥代用(他のもので代用できないか?)、⑦置換(入れ替えてみたらどうか?)、⑧逆転(逆にしてみたらどうか?)、⑨結合(組み合わせてみたらどうか?)

 このような視点でアイデア発想の習慣をつけることは、とても重要です。しかし、アイディアを発想しても、新規な発明であって、進歩性を有する発明(出願時の技術水準に基づいて容易に考え出すことができない発明)などの特許要件を満たさなければ、特許権は付与されません。

(履歴情報)2015/03/24 掲載

テーマ:海の宝石「真珠」と特許

Keywords 真珠、アコヤ貝、炭酸カルシウム、真珠養殖業、御木本幸吉、日本の十大発明家
法域 特許法
教科 理科(化学)

 石灰水に息を吹き込むことで、その水が白濁します。これは、水酸化カルシウム(Ca(OH)2)と二酸化炭素(CO2)との反応により、炭酸カルシウム(CaCO3)が生成されるためです。

 このありふれた物質を主成分としながら、海の宝石と称されるのが「真珠」です。真珠は、体積の大部分を占める炭酸カルシウムの層と、僅かな真珠特有のタンパク質の層が、核を中心として積層した構造を有しています。これらの層に当たる光が透過・反射することで、神秘的で美しい輝きを纏いつつ、硬質の炭酸カルシウム層間に軟質のタンパク質が介在することで強靭な性質を併せ持っています。

 明治時代、御木本幸吉氏は、アコヤ貝の中に異物が混入すると、身を守るために真珠質を分泌して異物を包みこみその層が成長することで真珠となるという知見を得て、真珠素質被着法の発明をし、特許権(特許第2670号)を取得しました。この発明を契機に日本の真珠養殖業は飛躍を遂げて一つの産業として成長しました。

 御木本幸吉氏は、その功績により「日本の十大発明家」の一人とされ、そのレリーフが特許庁舎1Fロビーに現在も飾られています。

(履歴情報)2015/03/24 掲載

テーマ:自動ドアの起源はいつ?

Keywords 自動ドア、動力、プトレマイオス朝、アレクサンドリア、ヘロンの公式
法域 特許法、実用新案法
教科 理科、数学、歴史

自動ドア(Automatic door)は、電力などの人力以外の動力によって、自動で開閉される扉をいいます。古くから、人力を用いず、自動で扉を開閉させたいと考えていたようです。

世界初の自動ドアは、紀元前2世紀のプトレマイオス朝のアレクサンドリアで登場しています。世界初の自動ドアの発明者はヘロンで、「ヘロンの公式」で知られる数学者でもあります。神殿の入口で参拝者が火を灯すと、炎が密閉容器内の空気の体積を膨張させ、膨張した空気が水を密閉容器から受け容器に移動させて、受け容器の水量の増加により扉を開閉させたと伝えられます。日本では、昭和初期になって自動ドアが登場しています。戦時中、航空母艦(加賀や赤城など)の格納庫の防火・防弾用として自動ドアが設置されました。

2015年2月10日現在、特許庁の特許情報提供サービスで「自動ドア」を検索すると、1052件がヒットしました。そのうち、例えば、特開2011-42998号公報等のタッチセンサ等の接触方式が37件ヒットしました。さらに、例えば、特開2013-61273号公報等の赤外線センサ等の非接触方式が56件ヒットしました。

(履歴情報)2015/03/24 掲載

テーマ:堆肥化と特許

Keywords 食品ロス、有機性廃棄物、堆肥、発酵、微生物、農業・畜産
法域 特許法
教科 理科(生物)

近年、食べられるのに廃棄される「食品ロス」が問題となっています。このような食品廃棄物や畜産経営体から排出される家畜排泄物などの有機性廃棄物を、堆肥として再利用することが行われています。堆肥は、植物に養分を供給するとともに、土壌の性質を改善し地力を高めることができます。

一般に、有機性廃棄物の堆肥化は、好気性微生物の発酵を利用して行われます。発酵には、微生物が活動しやすい条件を整えることが大切です。近年では、臭い対策が容易で、気候の影響が少ない密閉型撹拌装置(コンポ)が用いられています。

コンポは、円筒の容器内で、通気しながら複数枚の撹拌翼を用いて有機性廃棄物を発酵させる撹拌装置です。撹拌装置といっても、装置自体が大型であることや、通気撹拌を行うこと、撹拌速度が極めて遅いことなど、コンポ特有の構成があります。このようなコンポには、多くの特許が取得されています。例えば、撹拌翼の形状に関する特許(第6235253号)や、容器内へ導入する外気を加温する熱交換手段に関する特許(第6284785号)などが取得されています。
また、植物由来の有機性廃棄物の堆肥化において特定種の微生物を用いる特許(第6376751号)なども取得されています。

農業や畜産といった一次産業に関わる分野も、他の分野と同様に多くの発明に支えられています。有機性廃棄物の再利用や農業・畜産を支える技術として、今後も堆肥化技術が進歩していくことでしょう。


 

1  コンポ
2  容器
3  回転軸
4  撹拌翼
4d 通気孔
5  機械室
6  送気手段
7  ヒータ


(履歴情報)2020/09/14 掲載

テーマ:バイオミメティクスって何だろう?

Keywords バイオミメティクス、レオナルド・ダ・ヴィンチ、オットー・シュミット、ロータス効果
法域 特許法
教科 理科(生物)

 「バイオミメティクス」とは、日本語訳では「生物模倣」であり、生物のもつ優れた機能や形状などを模倣し、工学分野や医療分野などに応用することです。生物を模倣するという考え方は、かなり昔から行われています。例えば、ルネサンス期には、レオナルド・ダ・ヴィンチが、飛行する鳥類を熱心に観察し、飛行装置のスケッチの中に、鳥類のスケッチを残しています。そして、1950年代後半に神経生理学者のオットー・シュミット博士によって、バイオミメティクスという概念が生まれました。博士は、シュミット・トリガーという、イカの神経系を模倣したノイズ除去用電気回路を発明しました。
 バイオミメティクスは、現在では、サメ肌から生まれた高速水着、蚊の針から着想した痛くない注射針、トンボの羽から生まれた風力発電機、ハスの葉の撥水効果(ロータス効果)など、様々な分野に利用されています。また、特許発明にも、これらの技術が利用されており、例えばロータス効果を利用した包装容器(特許第6530101号)など、多くの特許発明があります。このように、生物の勉強も特許発明に役立っているのです。

(履歴情報)2021/02/19 掲載

テーマ:石けん、ドクターストーン?

Keywords 発明、石けん、界面活性剤
法域 特許法
教科 理科(化学)

 石けんは、子供達に大人気の漫画・テレビアニメの「Dr.STONE(登録商標)(ドクターストーン)」で、科学文明が失われた、まるで石器時代のような環境で、主人公が初めて作った化学物質として登場します。この漫画は、科学文明が失われた環境から、科学文明を再び築いていくお話なのですが、その中で、石けんは、医者代わりの命の石であるドクターストーンとして、大活躍します。また、実際の社会でも、コロナ禍によって、石けんでの手洗いの大切さが見直されました。
 実際に、石けんの歴史は古く、紀元前3000年頃、古代ローマ時代の初め頃にさかのぼります。古代ローマのサポー神殿での神事で、羊を焼いているときに、落ちた油が木の灰と混ざり、石けんのような物質ができたと言われています。このサポー(Sapo)神殿は、英語での石けん(soap)の語源とされています。このように、石けんは、現代文明の当初に発明され、活躍していた化学物質です。
 そして、石けんは、現代まで継続的に研究や開発がされています。例えば、石けんは、界面活性剤の一種ですが、現在でも、石けんや界面活性剤を利用した発明が、年間で数千件は特許出願されています。このように、皆様の身近にある石けんは、現代文明の当初に発明され、現代に至るまで改良されながら、現代文明を支えてきた化学物質なのです。

(履歴情報)2022/02/28 掲載

テーマ:アンモニア合成と特許 

Keywords 化学反応式、ハーバー・ボッシュ法、ノーベル賞
法域 特許法
教科 理科(化学)

 塩化アンモニウムと水酸化カルシウムの粉末を混合し、試験管で加熱すると、アンモニアが発生します。理科の実験で、ガスを溜めた丸底フラスコの口を仰いで、恐る恐る臭いを嗅ぎ、特有の刺激臭にウっと顔をしかめたことがある人も多いのではないでしょうか?
 このアンモニアですが、現代においても、化学肥料や化成品 の原料として欠かせない物質です。現代において主流のアンモニアの工業的合成方法は、今から100年以上前の1913年にドイツ人のフリッツ・ハーバーおよびカール・ボッシュにより確立されました。1908年10月13日に、ドイツで特許出願され、1911年6月8日に許可されています。
 ハーバー・ボッシュ法は、下記の簡単な化学反応式



 で表されますが、当時は、工業的なスケールで効率的に合成することが困難とされていました。空気中の窒素を水素と直接反応させてアンモニアを合成し、化学肥料の製造を可能にすることから、「空気からパン(Brot aus Luft)を作る」方法とも呼ばれ、人口の増加に伴う食糧問題を解決しました。
 ハーバーとボッシュは、この功績を称えられ、ノーベル賞を受賞しました。
 アンモニア合成技術は、100年以上前に確立した技術であり、既に成熟し、もう進歩も少ないのではないかと思ってしまうかもしれませんが、実は近年も研究開発が進めらえており、アンモニア合成およびその利用に関して、毎年75~230件ほど世界で新たな特許出願が行われています(特許庁調べ*1)。
 新規な触媒、再利用可能エネルギーを利用した原料を用いる新しい合成技術、カーボン・ニュートラルに向けたクリーンな燃料や燃料電池、排気ガス浄化、水素の運搬役などの新たな用途の出願が多いようです。例えば、低い反応温度かつ低い反応圧力でも高いアンモニア合成活性を有する触媒に関する出願(特開2022-70143号)や、窒素と水とから、常温常圧でアンモニアを合成する新規な触媒に関する国際特許出願(国際公開2019/168093号)がなされています。
 特許制度には、発明の「保護」と「利用」のバランスをとり、技術の累積的進歩を通じて産業を発達させるという目的があります。アンモニア合成技術開発においても、特許制度が果たす役割は大きいといえるのではないでしょうか。

*1:令和元年度 大分野別出願動向調査(https://www.jpo.go.jp/resources/report/gidou-houkoku/tokkyo/document/index/needs_r01_02.pdf

(履歴情報)2023/03/23 掲載

テーマ:発明はどのような視点で考える?②

Keywords アイデア、特許要件
法域 特許法
教科 理科

 「テーマ:発明はどのような視点で考える?」では、アイデアを発想しても、新規な発明であって、容易に考え出すことができない発明、などの特許要件を満たさなければ、特許権を得られないことを説明しました。
 「容易に考え出すことができない」と聞くと、特許権を得ることはとても難しいと感じるかもしれません。
 では、身の回りにある単純な仕組みの道具などについて、特許権を得ることはできないのでしょうか?
 今回は、「はさみ」に注目してみます。
 はさみは、2枚の刃で挟むようにして物を切る道具です。この道具は、2枚の刃を接続するネジを「支点」とし、持ち手を「力点」とし、刃の部分を「作用点」とした、てこの原理を用いた道具です。このはさみは、一説には、紀元前10世紀頃から使われてきたともいわれています。そして、てこの原理という仕組み自体は、小学6年生の理科の教科書でも確認することができる仕組みです。
 そうすると、はさみは、遥か昔から使われており、その仕組みは教科書に載るほど基本的な仕組みであることから、現代において「単なるはさみ」を発明しても、新規でなく、容易に考え出すことができる、として特許権を得ることはできません。
 しかしながら、特許情報プラットフォームというデータベースを調べると、はさみの発明についての出願(特許を得るための手続き)は、約3000件ヒットし、2018年以降も毎年20件程度の出願が確認できます。
 そして、実際に特許権を得た特許発明として、例えば、小型超強力ハサミ(特許6968440号)、多機能ハサミ(特許6764044号)、理美容鋏(特許6916557号)、電動はさみ(特許7140168号)、直線が楽に切れるハサミ(特許6582167号)、高枝鋏(特許6810955号)などがあります。
 つまり、現代でもはさみの発明がなされ、特許権を得られているのです。
 そこで、これらの発明を眺めてみると、発明を考える視点について、大切な視点がいくつか見えてきます。
 その1つは、「機能」です。はさみに「物を切る」という機能があることはもちろんです。しかし、「物を切る」といっても、切る対象が「髪」と「紙」では、求められる「切れ味」や「安全性」といった機能が異なります。そして、切れ味や安全性が同じでも、「使い易さ」や「耐久性」といった機能が異なることもあります。そして、それらの機能を得るためには、最適な形状や大きさが異なってくることがあります。そうすると、機能に着目して発明をすると、今までにないはさみを考えられるかもしれません。
 実際に、特許情報プラットフォームで確認した特許発明では、これまでに見たことがないような形状のはさみも登場していました。
 このように、発明の「機能」に注目し、容易に考え出すことができないような「機能」を得られるようにすることが、発明を考える視点の1つです。この視点を持てると、はさみ以外にも、教科書に仕組みが載っているような身の回りにある単純な仕組みの道具について、特許権を得ることができるかもしれません。

(履歴情報)2023/03/23 掲載

テーマ:炎色反応を利用した特許発明

Keywords 炎色反応、自然法則、発明
法域 特許法
教科 理科(化学)

 「炎色反応」とは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、および銅などの金属、或いはそれらの塩を炎の中に入れると各金属元素特有の色を示す反応のことをいいます。化学では、比較的に早い段階で、この炎色反応を学習されると思います。炎色反応は、金属の定性分析に利用されたりしますが、実は、数々の特許発明に利用されています。特許法で、発明は、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものと定義されているのですが、炎色反応も、自然法則に該当するからです。
 特許庁のデータベースで、炎色反応を利用した特許発明の数を調べてみますと、2022年11月の時点で、189件でした。特許発明の内容は、分析装置、花火、発煙筒、トーチ、コンロ、および監視カメラなどがありました。また、東京オリンピックの聖火リレーで使用した水素トーチにも炎色反応が利用されています。水素トーチの炎は無色透明ですが、この炎を炎色反応でオレンジ色に変えています。このように、授業で学習する炎色反応などの自然法則が、発明の創作にもつながることを知っていただければ幸いです。

(履歴情報)2023/03/23 掲載