平成18年度会長就任挨拶
就任のご挨拶―弁理士の本来業務を大切にしつつ、明日へのロマンを持ち、弁理士としての社会的使命を果たそう― |
会長 谷 義一 |
平成18年度日本弁理士会会長に就任するにあたり、ご挨拶申し上げます。
知的財産推進計画が進み,知財に対する重要性の認識が深まり,弁理士に対する社会の期待が高まってきています。社会からの要請が増えつつある現在,迅速かつ的確に対応することで,弁理士の評価を高めることが肝要です。そこで,知財の専門性および国際性の両面から弁理士の役割を捉え,知財の主役としての責務を果たすことを目指します。社会的使命を果たすためとはいえ,日本弁理士会の活動は会員の会費によって支えられており,その財源には限界がありますので,“小さな政府”を意識した効率的な会務運営を行っていく所存です。
方針としてまず優先したいのが,弁理士業務の根幹である権利取得実務能力の強化と質の向上で,e-ラーニング研修システムを利用しつつ,研修の質と量を充実させることで対応します。また,国際競争力のある弁理士の育成についても強化する考えです。特許,意匠,商標委員会などの各専門委員会の専門性を向上させ,外部への意見発信や政策提言も行っていきたいと思います。その成果を会員へ迅速に還元することで,会員のレベルアップにも役立てます。
弁理士の業務内容も時代とともに変貌を遂げつつあり,対特許庁手続以外,例えば中小企業,ベンチャー企業,大学等の知財支援や,知財の価値評価,企業における知財リスクマネジメントなどの分野を,業務の一環として如何に取り込むかを真剣に考えていかねばなりません。そのためには,知財ビジネスアカデミーを活用し,弁護士や公認会計士といった他士業との相互研修や,知財専門職大学院等の大学との交流を活発に行うことを視野に入れています。e-ラーニング研修システムも活用します。
社会貢献の面では,昨年度より展開中の地域知財活性化運動を地域知財運動として組織し,定着させ,中小企業支援をその一環として実行し,成功事例の創出を進めていきます。昨年度に構築した弁理士知財支援ネットを駆使し,地域ブランド対応の商標キャラバン隊の経験,ノウハウ,人脈を活かして,効率的な活動を展開するとともに,タウンミーティングや知財協定を通しての地方自治体支援も継続していきます。
国内はもとより,国際業務の観点から十分な力を持つことも要請されています。弁理士は伝統的に外国との交流が長く,経験やノウハウ,そして人脈を持っております。これらをフルに活用し,これまでのネットワーク化や意見交換の場の創出に加えて,更なる相互の連携を通して,弁理士の国際的プレゼンスの向上を図っていきます。模倣品の問題は,我が国の産業に多大なる影響を及ぼしており,我が国政府においても,大きく採り上げられていますが,我々弁理士が,民間サイドから,模倣品対策について知財実務能力を十分に発揮して対処することで知財立国政策への貢献を目指します。弁理士の国際活動は,歴史的に見て,欧米との交流が主体でしたが,ここ20年ほどは,中国,韓国などとの交流も増えてきています。これからのアジアの時代に向けて,東南アジア諸国,インド等とも交流を深め,我々の100年余を誇る弁理士の経験とノウハウを共有し,これら地域の知財専門家の育成ならびに研修の充実化に貢献したいと思います。そして,その成果が我々会員にも還元されるように努力します。また,国際展開を図る上での広報活動にも力を入れていきます。我々の持つ知財および英語力を十分に活用して,我々の知財実務や判例の英訳を行うなど,国際業務への対応力が存分にある点を周知させていきたいと思っております。
これらに積極的に取り組むためには,我々弁理士の事務所の業務基盤が安定していることが不可欠であり,業務環境の整備も重要政策の一つとしています。具体策として,弁理士業務に必要なコンテンツ(公報類,法改正,審査基準改訂,対庁協議等)を格納した,使い勝手の良い業務支援システムの実現を目指します。さらに,弁理士を支える事務所スタッフの能力,モラルおよびモチベーションの向上を目指す研修の導入を行います。弁理士法改正にも関連しますが,単独会員事務所の後継問題や事務所合併時の障害を少なくするためにも,一人法人の実現,指定社員無限責任制度の導入など,特許業務法人の使い勝手の向上を主張します。また,事務報酬のあり方について,整理検討する時機にきており,具体的提言を行っていきたいと思います。
日本弁理士会の収入は,会員の会費によって賄われているため,会務運営の効率化,スリム化を目指すことも,長期の展望において必要です。地域支援,社会貢献等,必要なときに必要な事業を行うことは当然ですが,事業の見直しにも取り組んでまいります。いわゆる「小さな政府」を目指す第一歩として,委員会のうち現在休会しても差し支えないもの,統合可能なもの,ワーキンググループ化する方が良いもの,常議員会で審議してもらえるもの等を整理し,委員数も必要な人員の精鋭を主体として活動していただく方針です。
平成12年の弁理士法改正の5年後の見直しについても,本年度が正念場であり,昨年度より継続して対応します。量的拡大のみを目標に掲げるのではなく,需要に基づく必要な数の弁理士を,最低限の実務能力を担保して供給することができてこそ,初めて我が国の知財立国へのロードマップが描けると思います。弁理士を「技術と法律の素養を具えた国際的対応ができる知的財産の実務専門家」と捉えて,一過性の試験のみを重視せずに,真に知財の分野で活躍できる可能性を秘めた者を弁理士として育成することを目指し,研修と試験とを一体化させた試験研修制度を主張し,その実現を目指します。既登録の弁理士に対しては,実務能力の向上を担保し,さらに新規業務についての研修も行うなど,先に述べた研修制度の充実化などに取り組みます。
我々弁理士は,学者でも理論家でも批評家でもありません。“実務家”そのものです。これまでの豊富な実務の積み重ね,経験を基盤として,知財サイクルの拡大された業務範囲の中で,グローバルな知財業務を意識して取り組んでいこうではありませんか。現実に会務を運営していくにあたり,多くの課題も生じると思いますが,真摯に取り組んでいく覚悟です。そのためにも,会員の皆様にご協力いただき,共に考えながら,諸々の課題を実現させていく所存です。皆様のご支援とご協力を賜りますよう何卒宜しくお願い申し上げます。