ホーム > 日本弁理士会の活動 > 意見・声明 > [声明]特許特別会計の改革について(No.2)
本文の先頭です

[声明]特許特別会計の改革について(No.2)

平成17年11月16日
日本弁理士会

 政府の経済財政諮問会議において去る10月21日有識者議員から「特別会計・特定財源制度の改革」について意見書が提出された。「特別会計の改革にあたっての原則」として、「民間でできるものは民間に」を標題に13特別会計に対して市場化テストを実施し、撤退、民間委託又は一般会計化を検討することが提案された。その一つに特許が挙げられている。

 日本弁理士会は、国際競争力強化の観点から、知財戦略に逆行が生じないよう次のとおり意見を表明する。

 日本弁理士会は、知的財産立国という国家戦略的視点にたって狭義の特許審査は国が行うべきものであり、民間委託すること、および独立法人化することに反対する。

【理由】

  1. 機能から見て狭義の「特許審査」(特許を与えるべきか否かを判断する審査)は民間委託に馴染まない
     機能的に分類すると広義の特許審査には、先行技術調査と、狭義の「特許審査」としての特許対象、特許性(新規性・進歩性)、公序良俗違反、公衆衛生阻害要因に関する審査が含まれる。
     この内、先行技術調査はマニュアル化が可能であることから、民間開放可能であり既に民間委託が進みつつある。
    一方、狭義の「特許審査」は、審査官が発明の新規性・進歩性を判断し特許付与の決定を行うものであり、独占排他権としての特許権を形成せしめる国の処分行為を成すものである。
     また、この種処分行為に対しては厳格な中立性と高度な判断力を要するものでありマニュアル化には馴染まない。
     さらに、裁判の第一審機能を持つ準司法手続としての「審判」についても国自らが担うことが、ユーザーたる企業・国民にとってその意義が認められている。


  2. 特許特別会計は我が国の知財立国、産業の国際競争力強化を図るための制度の維持・発展を支える礎である。

  3. 狭義の「特許審査」を政府が行うことは国際条約上の責務である
     パリ条約第12条第1項には、「各同盟国は、工業所有権に関する特別の部局・・(省略)・・を設置することを約束する。」と規定する。特許協力条約(PCT)第2条()には、『「国内官庁」とは、特許を与える任務を有する締約国の政府の当局をいう。』と規定している。即ち、PCTでは、「特許を与える任務」である特許の審査を政府当局が行うことを当然の責務としている。

  4. 憲法で知財保護を謳おうとする動きに逆行
     今や、我が国においても、知的財産の保護を憲法に謳おうとする動きが起きている。(自由民主党の新憲法草案や民主党の憲法提言)
     このような時に、特許審査を民間委託することや独立法人化することは知的創造立国に逆行する。


  5. 知的覇権競争の世界の流れに逆行
     米国は、小さな政府を推進する一方で、米国特許商標庁の審査官を大幅増員している(現在、約3200名)。これは、米国が特許を中心とする知的財産の保護の強化が米国の国際競争力の回復の源泉であることを正しく認識した結果である。
     中国は、ここ数年間に審査官を大幅増員し(約300名)、韓国では、博士レベルの審査官の採用策をとり、手続き電子化を進めるなどして、それぞれ特許審査体制を強化している。
     世界が国を挙げて特許政策を強化しようとしているこのような時代に国の役割を放棄すれば知的覇権競争からの我が国の落伍を招くであろう。


  6. 審査迅速化の一層の推進のため総合的に施策行うべきであり独立法人化には馴染まない
     平成16年5月に成立した「特許審査の迅速化等のための特許法等の一部を改正する法律」は、審査待ち期間短縮を狙ったものである。そして昨年より任期付審査官の毎年約100人の増員が行われているが、なお滞貨は増大傾向にある。
     よって、審査期間の短縮は審査の民間委託・独立法人化ではなく、調査報告前置制度の導入等を含めた一層の審査体制の強化を目指した、政策と実施を一体となり総合的施策によって図られるべきものである。


  7. 特許特別会計の必要性について
     特許特別会計は、ユーザーたる出願人及び権利者の費用で賄われており、我が国の知財制度の維持・発展を支える重要な役割を果たしている。特許特別会計は、迅速・的確な特許審査の実現に取り組むための資金需要に迅速かつ的確に対応するために採用されたものである。米 欧主要先進国においても、我が国同様、審査手数料等を財源として、審査・審判等を行う独立採算制を採用している。これが、ニーズに一致しているからである。
     かくて、特許特別会計を廃止ないし一般会計化する特段のメリットは認められない。


  8. 新たな戦略的議論のフォーラムを
     特許審査のあり方については、審査迅速化の施策も含め、戦略的な視点から検討することが望まれる。調査報告前置制度の導入等を含む総合的施策を単に特別会計の適否に止まらず知財戦略の国家的レベルで検討する新たなフォーラムでの議論が急務である。
以上
ページの先頭へ