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商標「福沢諭吉」の無効審決について

 山梨県の印鑑メーカーが商標登録していた「福沢諭吉」について、学校法人慶應義塾が登録無効審判を請求していた事件で、今般、その登録を無効とする審決が出されました。その審決の根拠は、公序良俗違反(商標法第4条第1項第7号)です。

 商標法第4条第1項第8号において、現存する者の氏名は、その承諾を得ない限り、登録ができない旨規定されていますが、死者の氏名については、この8号は適用されません。しかし、著名な外国の俳優等については、これまで商標法第4条第1項第7号を根拠に、国際信義に反するという理由で、拒絶されてきました。しかし、国内における歴史上の人物の氏名からなる商標は多数登録されています。今回の審決は、日本人の死者の氏名に関する比較的珍しいケースで、今後の審査に影響を及ぼすものであるのか、注目に値します。

 慶應義塾は、その商標登録に対し、この無効審判の他、不使用に基づく取消審判を2件請求しています。一つは、「文房具類及びその類似商品」についてであり、他の一つは「雑誌、新聞及びその類似商品」についてです。商標権者は、前者については答弁をせず、後者については、「印章」について使用している事実を立証しましたが、「印章」は取消に係る指定商品に属しない商品であるとして、いずれも登録が取り消されています。

 ところで、商品「印章」の印影は、商標でしょうか。商標は、商品やサービスを区別するための目印です。木製の将棋の駒のような形状に書かれた「通行手形」の文字は、自他商品の識別機能を果たす態様で用いられているものではないから、商標の使用には当たらない、と判断された判決があります(昭和62年8月28日東京地裁 昭和59年(ワ)10502号)。

 なお、広島の酒造メーカーも、酒類について「福沢諭吉」の登録商標をもっています。

商標委員会副委員長 古関 宏
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