知的財産推進計画2006に盛り込むべき政策事項に対する意見(日本弁理士会)
内閣官房知的財産戦略推進事務局御中
会長 佐藤 辰彦
「知的財産推進計画2006」の策定に向けた意見(日本弁理士会)
(1)総論
知的財産立国の実現に向けて、2003年7月に「知的財産の創造、保護及び活用に関する推進計画」が策定され、爾来3年が経過しようとしている。その間に、知的財産戦略本部が中心となった知的創造サイクルの活性化により、目標とされた「情報づくり」は着々と進展していることに敬意を表したい。取組み方針においても、従来の枠にとらわれない、世界に通用する制度作り、迅速な改革、が浸透しており、我が国産業の再生に大いに寄与したことは疑いがない。
知的財産の模倣侵害国においては、我が国の知的財産政策を模範とし、我が国の知的財産政策を模倣する時代になったことは、進められている知的財産政策が国際標準になりつつあることを意味している。今後は、さらに進化している「推進計画」の全うに向けて邁進して戴きたく、日本弁理士会も知的財産立国の実現へ向けて今後一層の協力と支援をする所存である。
以下の意見が、推進計画06の策定における参考になれば幸いである。
(2)知的財産の創造について
(2−1)基礎研究に基づく基本・基盤技術の創造と活用推進
創造・保護・活用の知的創造サイクルを早く回転して知財立国の実現を目指す知的財産計画も第一段階から第二段階に進むこととなった。第一段階では、種々な施策が策定・実践され、一定の成果をあげてきた。第二段階では、この更なる推進を行うと共に、知財立国を実現するために策定した施策の見直しが必要である。
真の知財立国実現には、日本の技術的な優位性を確立することが基本であり、この為には、優れた基本・基盤技術(発明)を日本で次々に生み、民間への普及・転用による実施化が必要であるが、第一段階では環境の整備に力点が注がれ、この点への注力が少なかった。
そこで、第二段階の一つの柱として、この基本・基盤技術(発明)の創造と普及・転用、即ち活用の施策を策定・実践すべきである。この基本・基盤技術(発明)の創造を主に担うのは大学を始めとする公的機関である。なんとなれば、この様な基本・基礎技術(発明)は基礎技術の研究によって生まれるものであり、民間企業で行うことは困難で、正に国家が行う部分である。例えば、年間5兆円の国家予算が投入される大学、公的機関(例えば産総研)の研究テーマが産業に直接つながるテーマが中心となる傾向が、知的財産推進計画がスタートして以来顕著になってきているので、この点を見直し、基礎研究のテーマにもシフトすること。更に、大学・公的機関に限らず、基礎研究に基づく、基本・基盤技術(発明)の普及・転用、即ち、活用について国家の具体的な施策を策定し、推進すべきである。
これ等の施策を策定することが、真の知財立国実現に必須である。
(2−2)大学等における機関一元管理
大学における知的財産の機関一元管理を原則としたルール作りは、殆どの大学において体制整備を終えており、この点においては初期の目的を達成したといえる。しかし、一元管理に不慣れな大学知的財産本部等においては新たな管理運用面での問題が生じている。大学内での機関一元管理が教員、研究者に徹底しておらず産業界との間で足並みが揃わなかったり、出願前公開の対応が不完全なために充分な権利取得ができなかったりしている。また大学知的財産本部の知的財産管理人材の不足は未だ大きな課題である。
このような状況を踏まえると、大学等における機関一元管理については、その後の管理運用面での課題や問題点を洗い出し、企業や特許事務所の管理等を参考にして、円滑な運用ができる体制を整備する必要がある。このためには、「大学知財管理・技術移転協議会」などの連携組織や、JST等により、円滑な運用のための指針、指導体制を構築充実することを提唱する。
(2−3)大学等における総合的な体制強化
大学等の知的財産管理体制については、前述のとおり制度が定着しつつある段階であり、その活動成果が大学に帰属するまでには至っていないところが殆どである。このため、政府の財政的支援は引き続き継続する必要がある。また諸外国の例を見ても、収益達成には相当の年月を要していることから、我が国においても、性急な結論は慎み、大成するために広い視野での期待が望まれる。具体的には当初の5年間の支援は、少なくとも2〜3年の支援延長も考慮する必要がある。
それと共に、大学知的財産本部の人材不足を補うための、人材情報の充実、人材交流の活発化、外部知的財産専門人材の支援、等についてJSTなどが主になった対応策を講じる必要がある。この点に関しては既に、延べ約100名の弁理士が大学知的財産本部やTLO支援の奉仕活動のために、大学内外で活躍中である(日本弁理士会ホームページで公開済み)。さらに日本弁理士会では、今後これらの活動に参加可能な弁理士の情報をまとめており、近々公開予定である。
(2−4)知的財産関連活動に関する費用の充実
大学特許出願については、平成17年度から外国特許出願に限られてはいるものの、出願経費の支援が充実しており、この点では産学連携推進への貢献度が大きいと考えられる。しかし、昨年までと異なり、日本国特許出願経費についての支援が無いのでこの点についての再検討が必要である。
(2−5)研究開発における特許情報の活用
2005年度から、大学等における論文等の書誌情報と特許情報との統合検索システムの運用開始のためのデータベース管理支援がなされており、研究現場における特許情報の活用が期待されている。
これについては、実際の研究現場では、論文は検索がなされるが、特許情報の検索はなされない場合が多い。また、特許情報の検索はなされても、研究活動への活用は極めて少ない。引き続き、研究と特許とは車の両輪であり、特許は研究活動の技術移転には不可欠であることの研究者の意識改革に向けての施策を継続強化する必要がある。
(2−6)大学等の秘密管理の推進
研究者など大学関係者の営業秘密管理の徹底が促されているが、これらの指導は現実には殆どが大学知的財産本部人材を通じてなされている。説明会などでの周知が期待されているが、それでも周知されていない研究者も多く、情報漏れによる問題発生やその可能性が指摘されている。今後も引き続き、営業秘密管理の徹底について、各大学単位でなく、全国的なレベルでの普及徹底策を講じるように期待する。(2−7)大学等のコンテンツの発掘
産学連携は理系だけでなく、文系大学や文系学部への普及も視野に入れるべきである。文系大学によっては、映画、アニメ、ゲームなどのコンテンツの研究をしているところもあり、また小説や脚本などの研究もある。さらには、地域振興や観光などについては、理系よりも文系大学が関与している場合が多い。これらの文系大学から独自に、さらには産業界との連携により、新たなビジネスチャンスが生まれる可能性は大きい。このような文系大学で生まれる知的財産への配慮も必要であり、これらについての調査と支援を検討されたい。
(3)知的財産の保護について
(3−1)知的財産立国の定義について
知的財産基本法における「知的財産」の定義は、人間の創造的活動により生み出されるもの、及び事業活動に有用な情報であるとされているが、「知的財産権」の定義については、法令又は法律上の権利とされており、その差は大きい。このため、ビジネス上の新たな営業手法、ノウハウ、伝統技術、高度熟練技術や技能など、知的財産として保護することが我が国の産業政策上極めて有益であるにもかかわらず現実には保護されていない事柄が数多くある。世界における我が国の立場を考えると、このような長年の蓄積により日本独特の探求や涵養によって醸成された無形資産を知的財産権として保護する手立てを考慮し、日本の工芸、工業経済社会を支えてきた独特のスキルを何らかの手段で法的に保護するべきである。
(3−2)特許審査の迅速化
日本弁理士会は、既に本年1月17日に、特許審査迅速化・効率化のための行動計画に対して、出願数などを行政が調整することによる迅速化は取るべき施策でないこと、出願の中間処理段階での迅速化など審査に関連して寄与できることについて最大限の努力をすること、現在の3年の審査期間については一手法として延長するなどの抜本策を検討するべきこと、を発表した。
もとより、特許出願の審査は出願後に迅速になされることが好ましく、特許審査迅速化・効率化本部が設置され、行動計画が発表されたことは基本的には好ましく、これによって真の意味での特許審査迅速化が図られれば好ましいと期待する。しかし、この行動計画の具体的措置は審査能力の強化など本質的な部分も含まれるものの、「産業界・弁理士(会)の取組への支援」に例示されている、審査請求済み案件の取り下げ促進、企業別審査請求取下げ動向の公表、弁理士の出願関連活動状況の情報提供など、後ろ向き施策と判断せざるを得ないものや、審査促進に寄与しないものなども含まれているのは誠に残念である。産業界や代理人も、審査迅速化については協力するのは吝かでなく、このためには産業界、代理人と充分な話し合いの上に、審査促進策を決めるべきであり、民間の協力なくして審査促進はありえない。審査迅速化の施策実施に当たっては、官庁側の一方的な方向付けでなく、民間の意見や施策も取り入れ官民一体となった事前準備を義務付けることを推進計画に含めるべきである。
また、この行動計画には外国出願の比率を国内出願の3割以上にするという提言がなされているが、これを支援するための施策についての提言はない。外国出願の奨励にあたっては、外国出願を容易にするための人的インフラの整備も必要であり、これを支える人材としての弁理士、弁護士等の活用にも触れるべきである。
現状の審査状況では、通常の審査速度よりも早く審査を受けたい場合の早期審査制度は不可欠である。しかし見方を変えれば、早期審査を行なった案件と同数の案件の審査が遅れることになり、不公平感は否めない。
一方、特許出願の全体をみれば、現状の審査速度に不満のない技術分野もある。また、現状の審査速度よりも遅くても問題のない分野もある。特許権のストックでなく、真に必要な状況で権利が得られれば問題がないとの考えもあり、その一部は実用新案出願制度と共通する。このような意味からは、すべての技術分野について審査を促進するのではなく、技術分野ごとに審査速度を政策的に変えることも視野に含めることも考慮するべきである。
(3−3)遺伝子治療・再生医療の特許制度整備
専門調査会の努力により、医療機器の作動方法や、医薬の新しい効能を発現させる方法が特許可能となった。しかし、遺伝子治療や再生医療についての基本部分は依然として特許対象とはなっておらず、期待はずれの感がある。引き続き、これらの分野に関する対応を継続されたい。
(3−4)デザイン保護のための意匠制度整備
構造、機能面での新しさも必要であるが、優れたデザインでないと消費者は魅力を感じない時代になっている。また、工業社会が進展すると、デザイン面が重要になる。この点では、我が国は単なる機能面を開発する時代は過ぎ、見た目で美しく、安らぎや楽しさが得られる商品を望む時代になっている。ファッションやスポーツカーのイタリア、時計のスイスなど世界の消費者に根強い人気のあるデザイン国家を確立している国は多い。他人のまねでなく、オリジナルデザインで勝負する製品を少しでも増やす土壌を国民全体に植えつける必要があり、この観点からの教育や意匠法の整備をするべきである。この場合には、迅速な審査や意匠権の強化などについて、我が国の保護体系に照らした適切な審査のあり方や運用について検討して対応をするべきである。
これらの迅速審査や権利強化の検討は、ブランド保護のための商標制度の整備についても同様である。
(3−5)営業秘密の保護
度重なる不正競争防止法の改正によって、企業の元従業員による企業の営業秘密の国外流出問題対策は前進している。しかしながら、秘密保持義務を課した場合とそうでない場合の罰則の適用が問題特許なったいきさつがあるなど、この問題に関する我が国契約慣行の定着及び、秘密保持義務の向上に向けた国民のマインド醸成を図らなければならない。なお、このような営業秘密の海外流出については、日本企業を定年退職した熟練人材や、日本企業の海外進出を介してのルートが多いと解されていることから、日本企業においても定年熟練者の国内再雇用を奨励し、さらには国内再雇用時の税制優遇措置を講ずる必要がある。
公開された特許出願内容が海外への技術流出の原因となり問題となっているとの前提に立って、これへの対応が指摘されている。しかし、この点が問題となっていると認識している企業が多いのか、その詳細はどうなのかの分析がなされているとの資料は明らかでない。具体的にどのような問題があり、それはどのような技術分野か、流出技術の内容はどのような種類なのかの精査が必要なのではないか。特許庁では、日本出願に対する海外出願の比率向上を各企業に要望しており、それによれば海外で特許権として保護されれば問題は少ないし、本来的に防衛的な特許出願であれば審査請求もしないので、審査迅速化の妨げにならず、しかも他社も特許を得られないので問題にはならないし、それを他社が真似したとしても、当初から予定していたことなので大きな問題は生じない。
(3−6)世界特許システムの構築
特許の相互承認、世界特許システムの構築など、出願人にとって日本国内だけでなく世界的な権利を、迅速に経済的に取得できる世界的な制度の実現は極めて重要な課題であり、これへ向けて多いなる貢献を期待している。一方では、世界特許システムが構築された場合に、日本語のあり方については基本的なポリシーを明確にしておく必要がある。使用言語が英語やその他の小数言語だけになったりすることは世界の知的財産制度を引率している我が国の相対的地位の低下だけでなく、日本個性の埋没に繋がるので是非とも避けたいところである。(3−7)知的財産に関する外国関連業務の専門家による遂行の奨励
我が国産業の国際競争力の強化は、我が国にとって継続的に取り組まなければならない課題であり、その重要性が今後ますます増大していくことは、諸般の状況から明らかである。
斯かる我が国産業の国際競争力の強化に貢献する手段の一つが、我が国の知的財産についての国際的保護であることは、万人が認めるところである。我が国の知的財産についての国際的保護とは、我が国で生まれた知的財産について、我が国においてのみならず、諸外国(国際機構等を含む)においても適切な知的財産権を確立し、当該知的財産をその知的財産権による確実な保護のもとに置くことである。
特定の外国において知的財産権を適切に確立するためには、当該国での直接的作業に加えて、種々の具体的準備作業(斯かる作業を外国関連業務という。)を我が国で行うことが必要とされる。このような外国関連業務の質の如何が、外国における知的財産の保護の適否を左右し、延いては、我が国産業の国際競争力に大なる影響を及ぼすことになる。
知的財産に関する外国関連業務にあっては、国内における知的財産権の確立のために要される作業と同様に、専門的知識と実務とが必要とされ、それらが駆使されなければならない。そうでなければ、外国において知的財産権を得ようとするものが不利益を蒙ることになってしまうからである。
そこで、知的財産に関する外国関連業務について、それが知的財産の専門家により遂行されるようにすることを推奨することとすべきである。そして、そのための具体策の一つとして、知的財産に関する外国関連業務を弁理士が弁理士の義務と責任とのもとに遂行する業務として明確に位置付ける施策が必要であり、斯かる施策がとられるべきことを「知的財産推進計画2006」に盛り込むことが強く望まれる。
(3−8)模倣品・海賊版対策の強化
海外市場での模倣品・海賊版対策の強化について、世界的な模倣品拡散防止条約の提唱は我が国が世界に先駆けて提唱した独自のスキームとして大いに評価したい。
これらの模倣品や海賊版であるとの判断は、法律的な判断になるので、知的財産についての専門知識を持った弁理士や弁護士などの専門家を積極的に活用し、国際性や公平性を考慮して権利者と輸入者の当事者対立構造を構築するべきと思量する。
(4)知的財産の活用について
(4−1)中小ベンチャーに対する弁理士情報の提供
日本弁理士会では、ホームページに「弁理士ナビ」検索システムを構築し、地域、専門分野などの情報に基づいて、最適な弁理士が選べるツールを提供している。今後は、この検索システムをバージョンアップしてさらなる使い勝手の向上を図っていく。
(4−2)中小ベンチャーへの権利取得支援
現状において、中小ベンチャーへは、特許出願費用の減免などの支援策があり、弁理士も特許出願受任時にはその説明を徹底するべく日本弁理士会からの通達がなされている。
しかしながら、この費用減免制度は証明書や特別の手続きを要するなど使い勝手の面からは改善の余地がある。米国特許庁のスモールエンティティ制度のように、単なる自己申告による手続きへの改善を考慮する必要がある。
さらには、中小ベンチャーの特許出願に際しての、先行技術調査は国家的支援が望ましく、IPCCなどが中小ベンチャーなどの特許出願についての先行技術調査を行なう制度の構築が待たれる。
また、特許出願時における弁理士費用も負担が大きいと考える中小ベンチャーもある。中小ベンチャーからの特許出願依頼は、出願内容のまとめまでに多大な時間と労力を要することが多く、またコミュニケーションにも手間が掛かるが、多くの弁理士は社会奉仕の精神に則り、これらの問題にも拘わらず、さらには弁理士報酬も低額で対応していることが多い。しかし、弁理士も代理業務で生計を立てているからには限界があり、弁理士報酬が高額であるとの指摘に対しては忸怩たる思いをしている場合がある。
近年は、弁理士報酬への支払いは金銭だけでなく、成功報酬型や、株式による支払いなど柔軟な対応が可能となっているが、これらの運用においては契約書や税務面での取り扱いが複雑であり、実際にはほとんど行なわれていない。
そこで、政府が主体となるファンドを設立し、弁理士報酬はこのファンドに請求し、中小ベンチャーはこのファンドに株式や債券を提供する仕組みを作ることにより、中小ベンチャーが安心して特許出願ができる制度を構築することが好ましい。
(4−3)知的財産を活用した地域振興
地方公共団体において地域知的財産本部の開設が相次いでいる。これらの取組みは始まったばかりであるので、これからの成果が期待される。特に、地場産業の活性化、地域ブランドの世界ブランド化、知的財産活用型の観光政策など、活用できる応用範囲は無限と言える。 これらの知的財産本部には、未だ知的財産専門家の参加が少ない。大学知的財産本部については、文部科学省の指導と支援もあって、当初から外部知的財産専門家の参加があったが、同様に地域知財本部についても当初から外部の知的財産専門家の参加が好ましく、この面での徹底を図るべきである。
日本弁理士会は、これらの地域知的財産本部への弁理士派遣について、要望があればいつでも弁理士を派遣できる体制があり、また弁理士会アクセスポイント、支援センターや知財ビジネスアカデミーによる地域知財本部人材の支援、教育研修についても対応できる体制にある。
(5)コンテンツをいかした文化創造国家への取組について
(5−1)コンテンツをいかした文化創造国家への取組み
高度熟成社会においては、目に見える製品よりも、見えないコンテンツが重要となることが多い。この点において、知財推進計画が早くからコンテンツビジネスについて今後の日本社会が必要とされる資源であると指摘したことは尊敬に値する。
(5−2)可視的コンテンツの活用
音楽関係において過去数十年にわたって著作権管理団体としてJASRACが機能しており、今後は利用性の向上が期待されている。
これに対して、絵画や映像などの可視的領域コンテンツについては目だった発展はない。このため、これらの利用を望む組織団体が多いに拘わらず、飛躍的かつ組織的な発展はなく、個別の相対取引の範囲を出ていない。個別契約交渉の不慣れや管理不足により、我が国古来の文化、アニメ、ゲームなどの世界最先端文化が安価に諸外国へ流出する原因になっているともいえる。
今後は、音楽以外のコンテンツについても、可視的領域コンテンツ管理団体など新たな概念で、真の公平感のある流通紹介制度を完備することにより、適正な価格で容易に流通できる制度の構築に努めるべきである。
(5−3)日本文化の魅力再評価
茶道、華道、能楽、禅などの古来伝統的な日本文化、漆器、陶磁器、などの工芸文化、を初め我が国には百年単位で培った他国には真似のできない伝統文化がある。これらのあるものは家元制度、親方制度などにより保存されているが、これらを模倣から保護する国家制度はない。諸外国には我が国特有のこれらの文化を真似た魑魅魍魎が跋扈している。このような、デジタル文化では生まれることのない日本文化を知的財産として保護する新しい制度の構築が必要であり、新たな登録制度の設立必要性を提唱する。
(6)人材の育成と国民意識の向上について
(6−1)弁理士の大幅な増員や資質の向上
日本弁理士会は当初から、質的担保を前提に弁理士を増員し、これを踏まえて質量ともに充実した知的財産専門職人材の育成が重要であることを表明している。人数を増加するのであれば、それなりの教育制度が構築されなければならない。
「知的財産基本法の施行の状況及び今後の方針について」において確認されているとおり、弁理士の数は毎年急増しており、平成17年度の弁理士試験合格者は711名に達している。しかしながら、日本弁理士会の調査結果によれば、実務未経験者が3割に達し実務能力の担保ができていないこと、平成14年の弁理士試験から条約を論文式試験から除いたために国際性の素養の担保がなされなくなっていること、更に論文式試験における技術系科目と法律系科目のあり方が必ずしも社会が弁理士に求める素養を担保するものとはなっていないことなど、弁理士の質の面における育成が図られる形になっていない。
この問題を解決するためには、弁理士試験制度の充実並びに弁理士登録前義務研修制度の創設によって、弁理士の実務能力を制度的に担保していく必要がある。ついては、この趣旨を反映した下記の提言がなされるべきである。
『・知的財産国家戦略を推進するために弁理士の資質向上と共に、量的な増加を図ることにより、利用者に十分な専門サービスが提供される環境を整える。
・技術と法律の素養を具えた、国際性のある知的財産専門家としての弁理士を育成する観点から、現状の弁理士試験の問題点を分析し、大学院や特許事務所における実務研修も考慮して登録前研修制度の導入を含めた新しい弁理士試験研修制度の実現を図る。
・弁理士が利用者に対して質の高いサービスを提供するためには実務に不可欠な能力を維持する研修が重要であり、日本弁理士会は、社会の期待に応えるため、より一層の研修制度の充実を図る。』
(6−2)特定侵害訴訟
特許侵害訴訟においては、「特定侵害訴訟における単独受任等の検討も含めた弁理士の積極的活用等」について提唱されている現状も踏まえ、弁理士の今後の特許侵害訴訟における活躍範囲の充実とその具体的案について積極的な方策を講ずるべきである。
(6−3)弁理士の地方展開について
日本弁理士会のアクセスポイント設置や全国支部制度により、地方在住の依頼者への利便性も飛躍的に向上している。また、四国、九州地区など都会弁理士による支所設置が目だって増加している。
このため、知的財産について相談やソリューションは今後も弁理士が知的財産職業専門家としての自覚と責務を持って対応できる体制が確立されており、もはや弁理士過疎の言葉は過去のものになっている。
(6−4)国民の知的財産意識の向上
日本弁理士会は弁理士が自己のふるさとに帰って知的財産を推奨啓発する運動を進めており、小学校や中学校において講演研修を実施している。このような草の根運動を通じての幼少期からの知的財産啓発運動が極めて大切である。石油等の化石資源の少ない我が国が世界有数の工業立国となれたのは、類稀なる日本民族の刻苦勉励の証でもあるが、明治以来の国民教育の結果でもある。
今後も世界の中での日本でありうることは避けられない状況にあり、このためには今後数十年から百年先の我が国の在り方を考えると、無形の状態にある知的財産から、頭脳労働によりこれらを具現化し現実的な成果を得る知的財産国家戦略は、我が国にとって不可欠な進路であり、日本弁理士会も国民の知的財産意識の向上についての方針に絶大な支援をする所存である。