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記者懇談会・議事録(2005年02月)

平成16年度第9回記者懇談会

日 時: 2005年2月23日(金)午後1時〜2時
場 所: 日本弁理士会地下1階 第8会議室
テーマ: 青色LEDの職務発明訴訟の和解について

出席者:記者20名
日本弁理士会6名
  弁理士 大西正悟(前副会長)
  広報センターセンター長 鴨田哲彰  副センター長 大石治仁
  委員 市東 篤  石井 豪

内容

(1) 挨拶(鴨田哲彰広報センター長)
(2) 青色LEDの職務発明訴訟の和解について(大西正悟弁理士会前副会長、産業構造審議会知的財産政策部会特許制度小委員会委員)
(1)先ず、現行の職務発明制度および職務発明訴訟について説明があった。
  • 「発明を奨励し、産業の発達に寄与する」というのが特許法の目的であり、職務発明制度(同法第35条)もこの目的の下に設けられている。職務発明制度は、使用者に対する奨励(第35条第1項及び第2項)と従業者に対する奨励(同条第3項及び第4項)とに分けられるが、職務発明訴訟ではとくに対価の額を規定する第4項が問題となっている。第4項は強行規定である旨の最高裁判決がある。
  • 第35条第4項については次のような問題点がある。
    1. 「使用者の利益および貢献度」のみに基づき対価の額を算出する規定であるため、報奨規定等により対価が支払われていても、特許発明の製品がヒットして会社の利益が大きくなると、対価不足となり事後的な対価請求が起こり得る。
    2. 「その発明がされるについて使用者等が貢献した程度を考慮」という規定であるため、文字通り解釈すれば発明完成後の貢献度は考慮されないことになる。しかし、発明による利益は発明完成で生じるのではなく、製品を実用化し販売等する必要があるため、発明完成後の貢献度を考慮しないのは公平性に欠ける。
    3. 使用者の利益額のうち「その発明による額」を算定することの困難性があり、複数の発明が関係していれば一層困難になる。また、外国特許に基づく利益をどのように評価するか、という問題もある。
  • 「記録情報再生用の光ピックアップ装置」の職務発明訴訟の高裁判決では、外国特許に基づいて得られた利益も含めて対価が算出された(地裁判決では外国特許に基づく利益は除外されている)。また、その発明について使用者等の貢献度は80%、発明者の貢献度は20%(原告の貢献度はこのうちの7割=14%)と判断された。
  • 「人口甘味料アスパルテーム」の職務発明訴訟判決では、外国特許に基づいて得られた利益も含めて対価が算出され、更に特許を取得していない外国に輸出した利益も含めている。また、その発明について使用者等の貢献度は95%と判断され、その貢献度には「その発明がされるについての貢献度」のほか、「その発明により利益をうけるについての種々の貢献度」も含めている。
  • 「青色LED」の職務発明訴訟の地裁判決では、使用者等が他社に実施許諾していないケースであり、対象特許発明の実施を禁止したことにより使用者が得た利益により対価の額600億円(認容額は、請求額の200億円)が算出された。また、対象特許について使用者等の貢献度は50%と判断された。
    「青色LED」の職務発明訴訟の高裁和解では、対象特許の対価だけでなく原告が被告に譲渡した日本特許等195件および対応外国特許の全てに対する対価の額として約6億円+損害遅延金約2億4千万円が算出された。また、使用者が貢献した程度は95%と判断された。
(2)次に、「青色LED」の職務発明訴訟の和解について考察が述べられた。
  • 対価の額は「発明を奨励し、産業の発達に寄与する」という法目的に沿ったものであるべき、という東京高裁のコメントは首肯できる。
  • 弁理士会としては、額の是非は別にして、従業者に対する対価支払いが認められたことを歓迎する。
  • ただし、個人的見解であるが、今回の使用者の貢献度95%(発明者の貢献度5%)と判断されたことについて、東京高裁のコメントは「原告の職務発明の全体としての貢献度が、これまでに前例のない極めて例外的なものとして高く評価する」としているが、「記録情報再生用の光ピックアップ装置」より発明者の貢献度が低く、「人口甘味料アスパルテーム」と同一の評価であり、「前例のない極めて例外的なものとして高く評価」されているかは疑問が残る。
    また、コメントでは「それでもなお、その相当の対価は、特許法第35条の趣旨および上記2例の裁判例に照らし、上記金額を基本として算出すべき」と述べているが、上記2例の裁判例に照らして貢献度をどのように決めたかを示して欲しかった。実際の貢献の程度を客観的に評価する手法が確立されることが望まれる。
(3)更に、今年4月1日から施行される改正特許法第35条について説明があった。
  • 改正特許法第35条第4項は「勤務規則、契約等により対価の額を定めるときには、その定めが不合理と認められるものであってはならない」としているので、対価の定めが合理的であると判断されるとその定めが尊重され、「報奨規定等により対価が支払われていても、その後に会社の利益が大きくなると事後的な対価請求が起こる」という現行法の問題は小さくなる。
  • 合理的か否かの判断については、特許庁により事例集が発行されているが、司法の判断は不明であるという問題が残されている。
    合理的な規則等の設定に際して最も重要なことは、お互いに誠意を尽くして協議を行うと共に全員に開示して全員が納得するということであるが、勤務規則のように全社員を対象とするときに全員が納得するという点に難しさが残るため、例えば研究者毎に公平な立場で協議を行って結んだ個別契約であれば合理性が高くなるのではないか。
(4)最後に、外国における職務発明の取り扱いについて説明があった。
  • 職務発明に対して対価を支払う法律(特許法)を有している国はドイツ及び中国くらいであり、米国、ヨーロッパ諸国では職務発明の帰属は雇用契約に規定するか、原則として会社に帰属するようになっている。
  • 「対価の額が定額であるから発明者が海外に流出する」との意見があるが、対価の額が低額であるということのみをもって発明者(研究者)が日本から海外に流出するとは考えにくい。特に、職務発明制度を有していない国に行くということは法律上の対価請求権がなくなるものであり、職務発明制度を有している日本の方が法制度上で優遇されているといえる。
  • また逆に「職務発明制度により、海外の企業が日本進出を控える」との意見があるが、今回の「青色LED」の東京高裁コメントの「対価は、従業者の発明のインセンティブとなるに十分であるべきで、使用者が競争にうち勝ち発展していくことを可能とするものであるべき」という趣旨で、従業者及び使用者の双方が肯ける判断がなされる限り問題は少ないと考える。
(3) 質疑応答
参加者との間で次のような質疑応答があった。
  • 今回の「青色LED」の職務発明訴訟の和解は、使用者の貢献度95%という基準を示したものと考えるか。また、使用者の貢献度95%という数値が今後定着すると考えるか。
  • 使用者の貢献度について最高裁はどのように判断しているのか。
  • 貢献度だけでなく、使用者が得た利益の算出方法についてはどのような基準が裁判所で示されているのか。
  • 改正特許法における合理的な契約とはどのようなものか、入社時のみの契約で足りるのか、あるいは毎年契約の更新が必要か。
  • 改正特許法について特許庁のガイドラインとは別に弁理士会でガイドラインを作成する予定はあるか。
  • 今後、弁理士会として仲裁センターで職務発明を取り扱う予定はあるか。
以上
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