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記者懇談会・議事録(2011年1月)

平成23年度 第8回記者会見報告書

日 時: 平成23年1月17日(木) 10:00〜11:00
場 所: 弁理士会館 2−B会議室
テーマ: 著作権侵害におけるキャラクター等著作物の「似ている/似ていない」について
出席者: 日本弁理士会(5名)(敬称略)
副会長 稲岡 耕作
執行理事 中川 裕幸
執行理事 青山  仁
広報センター 副センター長 高橋 英樹(司会進行)
広報センター 部長      秦  正則(議事録)

議事

1.開催の挨拶(高橋副センター長)
2.著作権侵害におけるキャラクター等著作物の「似ている/似ていない」について(中川執行理事)
(1)本記者会見開催までのいきさつ
・報道されたミッフィー×キャシーの判決(ミッフィー事件)はオランダの法律での裁判であり、オランダの法律と日本の法律は異なるのでオランダの判決をそのまま日本に当てはめることはできない(よって、判決の解説や評論等はこの場ではできない。)。一方、日本のインターネット(2ちゃんねる等)でも「似ている」「似ていない」の議論がなされている。仮に我が国の法律で裁かれた場合どうなるのかということであれば、ある程度指針も出ているので、そういう話をすることは可能であり、引き受けた。
(2)ミッフィーとキャシーは似ているか
・ミッフィー事件について、オランダの新聞には、「『キャシーはあまりにもナインチェ(ミッフィー)に似ている。ミッフィーは構成的に独特の特性を持っている。色彩や手と足と鼻/口の位置、ドレス等も同様であり、独自のきちんとした外観を持っている。また、これらの構成はキャシーにも見られる。』と裁判所は判断した。」とされている。
・なお、ミッフィー(ディック・ブルーナが創作。オランダでは「ナインチェ」。「ミッフィー」は英語表記。)は創作されてから50年近く、キャシー(サンリオ)は30年以上経過しているキャラクターである。
・なお、資料にある4種の判決については、セミナー等でもよく聴講者に判断してもらうが、正解しないことが多い。
(a)本の表紙「表紙イラスト事件」:侵害となる。
(b)イラスト「武富士事件」:原告は経度通りに並んでいないのだが、被告はその並びも含めて模倣しており侵害。
(c)イラスト「商業広告事件」:コンセプトとは一緒だが、表現として異なるので非侵害。
(d)被写体を人為的に真似た写真「みずみずしいスイカ事件」:被写体を自分で用意して写真を撮る。従来は侵害とならないケースが多かったが、本事件は侵害(高裁)。
(3)著作権の侵害要件、著作物の保護要件等
・一般に、保護を受ける対象であり(自分条件)、相手側が一定の行為をしている(相手条件)場合に侵害が成立し、著作権侵害の場合、@著作物であること(自分条件)、A相手が類似物を作っている(類似物であること)、B依拠していること(以上他人条件)、の3要件となる。特許権等の産業財産権では、自分の権利があることをまず考え、前記の@を証明するが、著作権ではそうではないことを、以降の内容を参照しつつご理解いただきたい。
・なお、著作権の保護要件は、著作物であること(著2条1項1号)+保護除外すべきものか(著13条。これはベルヌ条約(仏)から来ている。)
(4)我が国における著作権侵害の判断手法の例
・江差追分事件(被告:NHK)を紹介。同一性(類似性)ある部分を抽出するが、同一性ある部分の著作物性が否定された(非侵害)。なお、依拠性は肯定された。
・本事件の判断は、対象を比較して同一性(類似性)ある部分を抽出し(前記のA)、同部分の著作物性(同@)と依拠性(同A)を判断する(A→@、Bの順で判断される。)。このように、著作権侵害では、著作物性が明らかな著作物は、著作物性を最初に判断しない(なお、フライパン等の著作物性に疑義がある実用品等の場合は、著作物性の判断を最初に行う場合もある。)。
(5)侵害判断におけるルールについて
・法律解説書事件を紹介。共通部分が創作的な表現でないため非侵害。
・アンコウ行灯事件を紹介。アイディアは共通するが、本質的特徴部分を直接感得できるものではない(具体的な表現としては似ていないだろう)ということで非侵害。
・タウンページキャラクター事件を紹介。本を擬人化したという点については共通する。一方、原告漫画も被告イラストも、キャラクターの目等で表情を表現しており、そのこと自体はアイディアであって、著作権法で保護されるものではない。よって、「アンコウ行灯事件」と同様、アイディアの共通性では著作権の侵害にはならない(非侵害)。
・ケロケロケロッピ事件を紹介(原告:サンリオ)。ケロケロケロッピは著作物であるが、カエルを擬人化することは広く知られた手法であり、このような広く知られた手法により創作された著作物の権利範囲は狭いと考えられ、非侵害。
・交通標語事件を紹介。交通標語等のスローガンについては、著作物性が認められない場合も多く、また、認められた場合であっても、その同一性(類似性)が認められる範囲は一般に狭い。このように、長さや内容に制限のある著作物の権利範囲は狭く、非侵害。
(6)翻案・複製について(ミッフィー事件では翻案という主張もあると思い整理)
・翻案(漫画のアニメ化、小説の映画化等)は表現媒体の違いであるという人もいるが、裁判所は複製と翻案はその程度の差であり、リニアに考えている。裁判所は、@コピー(複製)A新たな創作ない、本質的な特徴を有する(複製)、B新たな創作あり、本質的な特徴を有する(翻案)、C新たな創作あり、本質的な特徴を喪失(別著作物)、の4段階で判断する。
・前記のアンコウ行灯事件では複製・翻案の程度による整理を、江差追分事件では複製の定義を行っていることからも、裁判所は複製と翻案について複製の延長線上が翻案と考えていることがわかる。
(7)再び、ミッフィーとキャシーが似ているかを考える
・ミッフィーとキャシーの共通点である丸い顔の輪郭等はウサギを擬人化する際のありふれた手法であり、また、ミッフィーのような単純な図案は、権利範囲が狭い。そして、翻案にも該当しない。
・以上より、私見ではあるが、我が国では著作権侵害は認められないのではないかと考える(有名なキャラクターと似たものを作るということが商業のモラル上どうかということは別にして。)。
(質疑応答)
・「交通標語事件」で、被告側が「ボク安心ママの胸よりチャイルドシート」であった場合、侵害となるか。
→5・7・5調でもあり、膝と胸の差くらいではおそらく侵害となるであろう。
3.日本弁理士会会設大分事務所の開設について(稲岡副会長)
・大分事務所は日本で2つ目の会設事務所である(1つ目は青森市。昨年1月に開設)。大分市は弁理士過疎地(弁理士が1人もいない)であり、大分県等から要請があった。
・弁理士が個人で事業としてやっていくには厳しい場所であることから、日本弁理士会としては場所の費用を出している。弁理士も地域貢献が主である。
・前記の青森市のケース(会設青森事務所)では、知財関係の相談が200〜300件ある。出願にはなかなか結びついていないのが実情であるが、知財の活性化には繋がっているようである。
・広瀬勝貞大分県知事は元経済産業省事務次官であり、知財にも積極的である。会設大分事務所の場所も大分県ソフトパーク内であり、環境的にも優れている。
・具体的な運営は、福岡市の弁理士3名、小倉市の弁理士1名で行われる。これら4人の弁理士が1週間交代で駐在する。
(質疑応答)
・大分市が弁理士過疎地ということであるが、他の都道府県はどうか。
→県庁所在地である大分市には弁理士がいなかったが、大分県全体でみれば、国東半島に弁理士が1名いる(高齢であり、この方からも会設事務所の希望があった。)。会設大分事務所の開設により、弁理士がいない県庁所在地はなくなった。
4.弁理士会からの連絡事項
・「知的財産フォーラムinたま」(H23.2.4.立川市市民会館で開催)についてPR(以上、高橋副センター長)。
5.閉会の挨拶(高橋副センター長)
(配付資料)
・「著作権侵害の判断手法」(著作権侵害におけるキャラクター等著作物の「似ている/似ていない」)(中川裕幸先生作成)
・「日本弁理士会会設大分事務所を開設」(日本弁理士会関東支部)
・「知的財産フォーラム IN たま」チラシ(日本弁理士会)
 
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