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記者懇談会・議事録(2011年10月)

平成23年度 第5回記者会見報告書

日 時: 平成23年10月14日(金) 13:30〜14:30
場 所: 東京倶楽部ビル14階 14−A会議室
テーマ: 米国特許法改正について
出席者: 日本弁理士会(6名)
副  会  長       井澤  幹
執 行 理 事       永岡 重幸(スピーカー)
広報センター 副センター長 鈴木 一永
広報センター 第2事業部長 茅野 直勝(司会)
広報センター 第2事業部  秦  正則(議事録)
広報センター 第2事業部  田村 拓也

議事

1.開会の挨拶(茅野直勝 広報センター第2事業部長)
2.米国特許法改正について(永岡重幸執行理事)
(1)改正の経緯等
・改正の原案(草案)は2005年に作成された。
・法改正には、高い失業率に対し雇用機会を増やす等の意図が感じられる。また、企業より大学発明に配慮している印象である。
・今回の改正は米国特許法の歴史上最大の改正(約30項目)である。
・法改正については現時点では不透明な部分も多い。施行規則、審査基準の改正はこれからである(スピーカーの知人米国弁護士が法改正のセミナーに6回ほど参加したが、毎回内容が若干異なるものであったらしい)。
・注目度の高い先願主義への移行については、オバマ大統領の署名日(2011年9月16日)から1年半後であり、まだまだ先である。
・段階的に施行される(施行日は5種類。(2)参照)。


(2)重要改正項目
[2011年9月16日施行]
・当事者再審査の基準の明確化等。
・先使用権の適用範囲の拡大(従来はビジネスモデルだけだったが、それ以外の発明にも適用可能となった)。
・ベストモード(発明の一番いい実施形態の開示。米国では必要)要件を具備していなくても、権利行使できないことを訴訟で主張不可。
・特許権がなくなった後に製品に特許番号が付与されていた場合の罰金制度の緩和(違反者を見つけることをビジネスにする人が出てきたため)。
・パテントトロール対策(個別提訴していたものを、まとめて1つの裁判で処理するようにした)。
・マイクロ出願人(小規模出願人)の手数料緩和(75%減)。

[2011年9月26日施行]
・料金の15%値上げ(サーチャージ:surcharge)。審査官の増員、教育費用、システム更新のためによるものと考えられる。
・優先審査。4800ドルを支払えば12月以内に審査開始(従来の早期審査等とは要件が異なり、4800ドルを支払えば、内容や要件に関わらず、審査を開始する)。すでに約500件が申請されている。

[2011年11月15日施行]
・オンラインを使用せず紙出願をした者に対して料金を値上げする(400ドル追徴する)。

[2012年9月16日施行]
・当事者系レビューの導入。当事者系再審査に代わる制度。
・付与後レビューの導入。従来日本にあった異議申立て制度のようなもの。
・情報提供制度の改正。
・補充審査制度の導入。
・法人出願が可能になる。

[2013年3月16日施行]
・先願主義への移行等。


(3)先願主義について
・これまでは米国が世界で唯一の先発明主義の採用国であった。なお、先願主義へとなるが(特許制度のハーモナイゼーション)、日本の先願主義とは異なる(先公開型の先願主義)。
・グレースピリオド(新規性喪失の例外)の考え方が日本と米国では異なっている。改正米国法はインターナショナルグレースピリオドを採用した。
・「有効出願日」という概念を導入した。優先権主張をしていない場合は米国出願日、優先権主張をしている場合は優先日が有効出願日となる。
・ヒルマードクトリンの排除(資料参照)。後願排除効について優先権を認めなかったし言語差別をしていた。
・先公開型の先願主義であることが大きな特徴である。先願主義ではあるが、先に公開した方が勝ち(先に公開した者が先に出願した者より優先される)という考え方を盛り込んでいる。公開日から1年以内に出願をすることが条件である。


(4)付与後レビュー(異議申し立て)
・特許発行日から9月以内に請求できる。
・使える資料が広い。


(5)当事者系レビュー(無効審判に近い制度)
・付与後レビューの期間(9月)後に実施されるのが通常である。
・使える資料は特許文献、印刷文書のみであり、付与後レビューと比較すると狭い。


(6)情報提供制度
・現行法でもある制度であるが、出願公開後6月以内等に従来技術情報(従来技術と本発明の関連性等)を説明できる。


(7)補充審査制度
・情報開示義務を悪意なく忘れて特許になった場合の開示義務違反のペナルティを回避するため、権利化後に先行技術情報を提出して再度審査してもらう制度である。


(8)留意点
・いわゆるラボノートは不要にはならず、改正後も必要である。
・ベストモードについては、改正法にも要求する規定は残るので、日本出願に関しては現行法と同じと考えた方がいい(ベストモードは書く必要がある。書かないと優先権が認められない)。
・102条の改正により従来技術が広くなるので、先願主義への移行前に出願した方が特許になりやすいといわれている。
・異議申立期間が9月しかないので、その期間にライバル会社の特許を消滅させるというビジネスが生まれてくる可能性がある。
・改正の整合性がとれていないので(ベストモード等)、訴訟で問題になる可能性あり。また、新法適用なのか旧法適用なのかを審査官が正確に判断できない可能性がある。
・審査官の新規雇用(2000人増員)とその教育。


(9)今回の改正から外れた項目
・出願公開制度(米国のみの出願は相変わらず出願公開しない)。
・日欧の新規性喪失例外規定の改正(日本のグレースピリオドは6月、欧州はグレースピリオドそのものがない)。


3.質疑応答
(1)従来の争点としていわゆる3倍賠償があったが、この議論はされていたか(今回の改正に導入されなかった理由があるのか)。
  →CAFCの判決を見ると損害賠償の問題は解決済であり、敢えて改正法に盛り込む必要はないと判断されたと思う。
(2)「ヒルマードクトリン」についてもう少し丁寧に説明して欲しい。
  →(ホワイトボードを用いて説明し)改正後は日本の特許法と同じで、先に出願したものが排除権を持つようになった(ヒルマードクトリンが排除される)。
(3)今回の改正によって、日本企業への利害得失があれば教えて欲しい。
  →ヒルマードクトリンがなくなったので、日本企業に限らず「先願者」になった場合には有利となる。当事者のどちらかになるかによって異なるが、自己の判断で権利主張をしなかった開示内容によっても後願を排除できるようになる。
  →補充審査制度により、RCE審査(2000〜3000ドルかかる)をしないとすれば、負担低減となる。
  →有効出願日の存在は大きいと思われる。現行法では日本での発表から1年以内にアメリカの出願する必要があったが、改正により日本の出願から1年以内に米国出願すればよいことになったので、学会などへの発表・公開についてより救済されることになる。
  →情報提供制度が充実し、可能な期間も出願公開後2月から出願公開後6月となったので、今までされなかった攻撃をされる可能性も生じることとなった。情報提供制度の認知度はこれまで低かったが、今後はライバル会社などの動向にも配慮する必要がある。
(4)未確定なことが多いことや整合性がないところがあることは通常のことなのか。
  →今回の改正では米国特許庁と法律家の間で密なコミュニケーションが取れなかったという側面が見えるし、条文を直すべきところなのに直していないところがいくつかある。例えば、ベストモードの記載不要となったが、実際は書かないと大変なことになる。
  →大学の意見を入れたため、先公開型の先願主義という折衷案にした。しかし公開の内容と出願の内容の一致の程度がどれくらい必要なのか不明(公開の内容が3ページ 出願書類の内容が100ページの場合、その3ページが「公開」の要件を満たすのか、等)。


■配付資料
・「米国特許法改正」資料(日本弁理士会 執行理事 永岡重幸)
・知的財産支援活動だより(日本弁理士会)
・パテントアトーニー(小冊子)(日本弁理士会)
・日本弁理士会 広報センターからのアンケート


 
 
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