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記者懇談会・議事録(2012年2月)

平成24年度 第9回記者会見報告書

日 時: 平成24年2月16日(木)10:30〜11:30
場 所: 東京倶楽部ビル14階 14−A会議室
東海支部室 会議室(TV会議システムにて放映)
近畿支部室 会議室(TV会議システムにて放映)
テーマ: 医薬品特許の保護範囲について
(2/6知財高裁大合議判決全文公開を受けて)
出席者: 日本弁理士会(4名)
アミカスブリーフ委員会 委員長  黒川  恵(スピーカー)
副  会  長          井澤  幹
広報センター 第2事業部長    茅野 直勝(司会)
広報センター 運営委員      田村 拓也(議事録)

議事

1.開会の挨拶(茅野直勝会員)
2.医薬品特許の保護範囲について(2/6知財高裁大合議判決全文公開を受けて)(黒川恵会員)
●大合議について
 →知財高裁には、17名の裁判官がいる。各裁判官は、第1部から第4部のいずれかの部に所属し、その全員が特別部にも所属している。
 →大合議は、いずれかの部の3名の裁判官によるものとは異なり、特別部に属する5名の裁判官によって審理される。早期に司法判断を要する事案、見解の統一が求められる事案等を、その対象としているようである。
 →知財高裁大合議判決は、最高裁判例に準ずる先例としての意義を有する。ただし、下級審であるので最高裁で結論が覆る可能性もある。
●本事件の概要について
 →原告は、被告製品の特許侵害を訴え、製造販売の差止め及び在庫品の廃棄を求めた。被告は、侵害訴訟の中で特許無効の抗弁をしていた。
 →原判決(東京地裁)では、特許無効の抗弁について判断せず、特許侵害について判断し、控訴人の請求を棄却した。物の発明について、特許請求の範囲に当該物の製造方法が記載されているときは、物の構成を記載することが困難であるとき等の特段の事情がある場合を除き、製造方法を除外して技術的範囲を解釈することはできず、被告製品の製造方法は特許発明の製法要件を充足しない、と判示していた。
 →知財高裁での控訴審は、原判決を正当であるとし、控訴を棄却した。



●本事件の発明について
 →特許法上、発明は(1)物の発明、(2)方法の発明(経時的要素が含まれる)、(3)物を生産する方法の発明の3つのカテゴリーに分けることができる。
 →本件発明は、不純物量を特定したプラバスタチンナトリウムであるので、「物の発明」である。一方、当該物は、構成要件中に「製造方法」を含んでいる。製造方法が構成要件として記載された物の発明を、一般に「プロダクト・バイ・プロセス・クレーム」という。
 →「プロダクト・バイ・プロセス・クレーム」の技術的範囲に関し、これまで下記2つの考え方が対立していた。
(1)プロセスに限定されない「物」の発明として捉える(物質同一説・「非限定説」)
(2)「プロセス」に限定された物の発明として捉える(「限定説」)
 →その権利範囲は理論上、非限定説が限定説よりも広くなる。しかし、実際には、非限定説であっても、出願の経過等に鑑みて限定説に近い権利範囲として認定されることもあり得る。



●本判決の要旨
 →侵害事件控訴事件におけるプロダクト・バイ・プロセス・クレームの技術的範囲の解釈に「限定説」「非限定説」の争いがあったものについて、真正プロダクト・バイ・プロセス・クレームでは非限定説、不真正プロダクト・バイ・プロセス・クレームでは限定説を採用すると共に、無効抗弁の判断の前提となる発明の要旨の認定をも同様であるとした。
 →プロダクト・バイ・プロセス・クレームの技術的範囲については、物の構造又は特性により直接的に特定することが出願時において不可能又は困難であるとの事情が存在しない場合、その技術的範囲は、クレームに記載された製造方法によって製造された物に限定される、とした。
 →特許無効の抗弁に関し、プロダクト・バイ・プロセス・クレームの要旨の認定については、物の構造又は特性により直接的に特定することが出願時において不可能又は困難であるとの事情が存在しない場合、その発明の要旨は、クレームに記載された製造方法によって製造された物に限定して認定される、とした。



●本判決が示すプロダクト・バイ・プロセス・クレームの技術的範囲の見解
 →特許法70条の文言どおり、特許発明の技術的範囲は、「特許請求の範囲」の記載に基づいて定めるべきであり、「製造方法」が記載された「物の発明」の技術的範囲は、当該製造方法により製造された物に限定して解釈・確定される。
 →「物の発明」であれば、構造・特性により当該物が特定されることが望ましいが、出願時にそれが困難である場合、製造方法によって特定されることも許される。そのような事情が存在する場合、物を特定する目的で製造方法が記載されたものとし、その技術的範囲は「物」一般に及ぶとして解釈・確定される。
 →すなわち、プロダクト・バイ・プロセス・クレームにより定まる技術的範囲は、下記の2つのパターンがある。
(1)真正プロダクト・バイ・プロセス・クレーム(物の発明を構造・特性により出願時に特定することが困難)
⇒その製造方法に限定されることなく、同方法によって製造される物と同一の物に範囲が及ぶ
(2)不真正プロダクト・バイ・プロセス・クレーム(物の発明を構造・特性により出願時に特定することが困難でない)
⇒その製造方法により製造される物に範囲が限定される。
 →真正プロダクト・バイ・プロセス・クレームであると主張する立証責任は、その主張者にある。



●本判決が示す無効の抗弁についての見解
 →最高裁判例(リパーゼ判決)において、発明の要旨の認定は、原則として特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきである、とされた。この基準は現在、特許を取得する際の手続きのみならず、無効審判における発明の要旨認定にも用いられている。侵害訴訟においても、無効抗弁の成否を判断する前提となる発明の要旨は、無効審判手続において特許庁が把握すべき請求項の具体的内容と同様に認定される。
 →発明の要旨は、真正プロダクト・バイ・プロセス・クレームの場合、その「物」一般に及ぶと認定され、不真正プロダクト・バイ・プロセス・クレームの場合には、記載された製造方法により製造されたものに限定して認定される。



●まとめ
 →本判決は、プロダクト・バイ・プロセス・クレームの技術的範囲に関し、真正プロダクト・バイ・プロセス・クレームでは非限定説、不真正プロダクト・バイ・プロセス・クレームでは限定説を採用すると共に、無効抗弁の判断の前提となる発明の要旨の認定をも同様であるとした。今後の上告審により、結論がどのようになるかが注目される。



3.質疑応答(主な事項)
Q:そもそもいい判決といえるのか。
A:両面的で、かつ様々な意見がある。理論的には、技術的範囲の解釈としては、不真正プロダクト・バイ・プロセス・クレームの場合は「限定説」が採用されるので、形式上権利範囲は狭くなる。一方、権利範囲が狭いのであれば、特許が無効になりづらくなる。

Q:本事件が大合議で審理された理由はあるのか
A:相対的に重要だと判断されたのであろう。

Q:国際的な観点でどのような点が重要なのか
A:プロダクト・バイ・プロセス・クレームの技術的範囲の解釈について、米国で「限定説」を採用すると判断されたことがあった。私見であるが、知財高裁は、プロダクト・バイ・プロセス・クレームの技術的範囲の解釈について、国際的な統一を図ろうとしたのかも知れない。

Q:今回の判決は、医薬品業界に影響を与えるのか。
A:あくまで私見であるが、2社の当事者間の争いについての判決であり、医薬品業界に直接影響を及ぼす、例えば、本判決によって医薬品業界におけるクレームの記載やその権利化の手法が、劇的に変化するとは考えにくい。むしろ、本判決を受けた特許庁の対応を見守る必要があるだろう。

Q:プロダクト・バイ・プロセス・クレームは、世界で判断が異なっていた?
A:アメリカでは、2年ほど前に限定説に統一された。ヨーロッパでは、そもそも真正でないと出願できない。本判決を踏まえると、世界的に統一されてきている、と捉えることができるのではないか。

Q:例えば、iPS細胞においては、その性質を記載することが困難であると考えるが、本判決に基づくと、真正プロダクト・バイ・プロセス・クレームに該当すると解釈することができるのか。
A:特許請求の範囲の記載等によって、真正・不真正の判断が異なってくるものと考えられる。なお、本判決で真正・不真正の判断基準を明確にしたとまでは言えないだろう。



閉会の挨拶(茅野直勝会員)

・「意匠活用レシピ」等が配布され、案内された。


 
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