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ヒット商品を支えた知的財産権 Vol.4
「Xスタンパー」

実用新案1120473号

ハンコ社会の“必需品”

 日本は“ハンコ”社会である。役所に対する申請書から会社の残業届、書留郵便や宅配便の受け取り、果ては町内会の回覧板までハンコが要る。こんな社会ニーズに応えて、職場や家庭で“必需品”抜いされているのが、シヤチハタ工業(本社名古屋市、社長・舟橋紳吉郎氏)のスタンプ台や朱肉の要らない浸透印「Xスタンパー」である。その種類の中でも特に「ネーム印」においては昭和40年の発売以来、累計1億2000万本の販売実績を誇る。国民一人ひとりが1本ずつ使った勘定だ。

 その基礎を築いたのが創業者の故会長・舟橋高次氏である。同社は戦前、スタンプ台の専門メーカーだった。昭和20年代後半、日本は戦争の痛手もようやく癒えて、産業界には事務能率向上の機運が高まった。高次氏は多様化の時代の変化をいち早くくみ取り、新商品の開発を日夜模索した。

 そこでひらめいたのが、ゴム印自体にインキを含浸させてなつ印できるスタンパーの開発だ。しかし、同社にはゴムを扱った経験がなく、試行錯誤の連続。当時、売り出されたばかりのウレタンフォームを苦心して入手、印字体を試作したが、なつ印できるのはせいぜいセメント袋や米袋。ハンコのように書類に押せる代物ではなかった。

 同氏は大学、公設研究機関、ゴムメーカーなどに日参し、教えを乞い、技術の蓄積に努めた。その間、テストにテストを重ね、失敗の連続であり、研究開発に携わった全員の努力の結果誕生したのが、体積中の60〜70%に微細な連続気孔を持つ印字体だ。この構造によってインキの量が抑制されて、なつ印時ににじんだり、垂れ落ちたりせず、書類にきれいななつ印ができるようになった。これは、Xスタンパーの基本特許でもある。さらに、売り上げを伸ばしたもう一つの開発成果に、スプリング式の“スライド”がある。スライドはスプリングによって上下動し、なつ印しないときには印面より下方に出ている。このため、印面キャップをとっていても机や書類、着衣が汚れにくい。

 研究開発の成果は特許権だけでなく、実用新案権、意匠権、商標権で“多重防護”するのが同社の戦略で、デザインやネーミングの保護も決しておろそかにしない。

 林良男法務部部長は「当社はスタンプ台が営業の中心だったころから類似品の市場流入を厳しくチェックしてきた。そうした伝統があって、業界にもシヤチハタ商品は模倣しにくいという認識が浸透したのではないか」と話している。

(取材協力 シヤチハタ工業(株) 及び 代理人 綿貫達雄弁理士)
注「Xスタンパー」はシヤチハタ工業(株)の登録商標です。

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