ヒット商品を支えた知的財産権 Vol.5
「ドッチファイル」
切れ目のない権利取得で競合品封じビジネス文具大手のキングジム(東京 社長宮本彰氏)は、主力商品のラベルライター「テプラ」のテレビCMにアイドルタレントを起用するなど積極的な宣伝活動を通じて、知名度を高めているが、その地歩を固めた商品の一つが、パイプ式とじ具を使用した「ドッチファイル」(登録商標)である。書類のヤマと悪戦苦闘するビジネスマンにとって、手放すことのできない優れものだ。二穴パンチ穴を開けた書類をとじる簡単な構造だが、長年にわたってほぼ独占状態を保ってきた秘訣は、新製品を開発するたびに、実用新案権などを途切れることなく取得し、アイデアの保護を図ってきたことにある。 このドッチファイルの出発点は、昭和39年に発売された「Gファイル」。優れた機能やデザインの製品に送られるGマーク商品に選定されたことにちなんで名づけたものだ。 従来、書類をとじる方法といえば、千枚通しで穴を明けた書類を紐でとじ込むというのが一般的で、書類が厚くなると紐を通すだけでも一苦労だった。これに対してGファイルは真っ直ぐな金属製のパイプに差し込むだけで簡単にとじることができることから人気を呼び、現在でも60%以上のシェアを獲得している。 |
ただ、Gファイルは書類を一方向にしかはずせない方式だったため、先にとじこんだ資料を取り出そうとする場合、新しい資料も一緒に取り出さなければならないと言う難点があった。そこで考え出されたのが左右どちらからでも開閉できるドッチフアイル。従来金具の一方だけだった開閉部を両側に設けた構造だ。ネーミングはその機能をもとにしている。昭和50年に発売したが、開発本部特許課の金森春樹課長によれば、社内には「Gファイルの売れ行きが良いのに、その足を引っ張るような製品を出すべきでない」との意見もあったと言う。しかし、「少しでも不便を感じるユーザーがいたら、そのニーズに答える必要がある」と言う意見が通って発売したことが成功につながった。
「消費者の満足」は同社が真っ先に掲げる経営理念で、現在では、とじ具の操作部分を改良して使い易くしたニュードッチファイルや材料を合成樹脂化したカラードッチファイル、さらには表紙ととじ具を容易に分別処理できると言う環境問題に配慮したスーパードッチファイルなども開発し、企業の事務合理化に寄与している。金森課長は「厚型のファイルといえば、当社の商品と言う認識が市場に浸透している」と言い切るが、それも「工業所有権の取得をつねに念頭に置いて新製品開発に取り組む」と言う裏付があっての発言で、これが他の追随を許さない理由にもなっている。
(取材協力 (株)キングジム 及び 代理人 砂川昭男弁理士)
注「ドッチファイル」は(株)キングジムの登録商標です。