ヒット商品を支えた知的財産権 Vol.9
「糸ようじ」
苦労の末の価値ある知的財産権歯や歯茎の健康に対する関心が高まり、歯ブラシと菌磨粉だけでなく、さまざま歯周病予防のための製品が市場に登場している。その代表的な製品の一つで、こうした口腔ケアの市場を拡大するのに寄与したのが、小林製薬の「糸ようじ」である。 「糸ようじ」は1987年11月18日の発売から、順調に売り上げを伸ばしてきた。小林製薬は続いて歯間ブラシも発売し、歯のケアに関する製品の市場育成にも力を注いだ。歯間清掃具の市場は1987年には30億円弱の規模だったが、97年には70億円を越すまでに成長した。この分野で小林製薬のシェアは四分の一と、トップクラスである。 開発に着手したのは1987年初頭。事前の周到な市場調査結果をもとに使いやすさを第一に考えて開発が進められ、糸の強度と、ようじ部分の曲り具合をポイントに改良が重ねられた。 発売の直前まで続いた試作品づくりを経て、「糸ようじ」は発売された。発売に先立って、「糸ようじ」の名称の商標を出願し、その形状については、最終候補品を含め数種の意匠を同時に出願したという。 |
歯間清掃用のデンタルフロスとようじを組み合わせた製品が出始めた時期だが、先行商品の権利に十分配慮して開発が進められており、意匠登録はすんなり通った。が、商標登録はそうはいかなかったようだ。同社では商品のネーミングについて、消費者に製品内容が的確に伝わること、をコンセプトにしているそうだ。
「糸ようじ」はそのよい例だが、審査で普通名称と判断されたことから審判に持ち込まれ、「かなり苦労しました」と同社製造開発事業本部研究グループで知的財産権を担当する石塚孝幸さんは言う。「糸ようじ」に限らず、同社では新製品を市場に出すに際し知的財産権の取得を重視している。石塚さんによれば「新製品はほとんどの場合、発売前に意匠登録出願をします。商標登録も原則的に出願します」とのことだ。
今や一般名称とすら思われる「糸ようじ」という、わかりやすいネーミングは、この製品がヒットした一因であると石塚さんは言う。その知的財産権としての価値は、商標登録の苦労を補って余りあるものだろう。また、使いやすさを追求した結果、出来上がった製品だからこそ、10年を経ても消費者に支持され、市場に残っている、とも石塚さんは語る。試行錯誤を繰り返して生み出された形状は、意匠登録によって守られている。
(取材協力 小林製薬(株) 代理人 辻本一義弁理士)