ヒット商品を支えた知的財産権 Vol.12
「シャトルシェフ」
日本酸素の真空保温調理器「シャトルシェフ」は、多様な使い方があるにもかかわらず、取り扱いが簡単で高齢者に優しい製品である。発明者の一人、樋田章司技術開発部部長は「高齢者は若い人と比較して料理に対する姿勢が違う。美昧しい物を作るのに労をいとわない。火を使う時間が短く、安全性が高いことも喜んでいただいている理由でしょう」と話す。 同社は工業用ガスのトップメーカー。素材産業であるため、景気に左右されやすい。そこで20年ほど前から低温利用技術などを活かして生活関連分野に積極展開してきたが、シャトルシェフもその一つ。ステンレス製魔法びんの技術を応用したことがポイントで、真空断熱構造のステンレス製保温容器に取っ手付きの調理鍋(内鍋)をスッポリはめ込んで密封保温する仕組み。 素材を調理鍋で煮たのち、鍋ごと保温容器に入れると、とろ火にかけてじっくり煮込んだのと同じ効果がある。当初、煮炊きと保温を同じ容器で行うことを考えたが巧くいかず、保温容器と調理鍋を分けて考えたことが、成功した理由という。 |
製品の発売は9年前で、特許も24件が登録済みだ。初めは基本技術を実用新案として出願したが、弁理士のアドバイスで特許に出願変更した。それにより幅広く、強い権利を取得でき、他の追随を許さない製品が生まれた。販売形態は自社ブランドとOEM(相手先ブランド製品)となっている。
「国内では特許にからむトラブルに巻き込まれたことはほとんどない」(樋田さん)営業部員に模倣品を見分けるチェックリストを渡して監視させていることもトラブルの芽を早い段階で摘み取ることに貢献してきた。
現在、11カ国で特許を取得するなど海外市場にも目を配っている。輸出も好調で、特に中国圏向けが伸びている。樋田さんは「漢方やスープなど長時間かけて煮込む料理に使われているようです」と説明している。
(取材協力 日本酸素株式会社 代理人 志賀正武弁理士)
注 「シャトルシェフ」は日本酸素株式会社の登録商標です。