ヒット商品を支えた知的財産権 Vol.16
「マルチエ」
世界で最も名の通った高級ブランドの一つ、ルイ・ヴィトン社の製品は、日本でも多くのファンを持つ。ルイ・ヴィトン社は、代表的なモノグラム・キャンバスをはじめ、エピ、タイガ、ダミエ、ヴェルニなどの鞄や衣料を次々と発表し、優れたデザインとクォリティの高さで人々を魅了してきた。 貴婦人たちのお気に入りの荷造り用木箱職人として高く評価されていた創業者ルイ・ヴィトンは、19世紀半ば当時旅の主流であった鉄道や船の荷積みに適した画期的なトランクを発明した。従来の馬車の旅に用いられた丸い蓋のトランクを、平らな蓋を採用して積み重ねられる形に変え、「グリ・トリアノン」と名付けられた防水性のあるキャンバス地で覆ったものである。その独自性と高い品質が大評判になる一方で、模造品に悩まされることになった。 模造品によるブランドイメージや信頼の喪失、消費者の利益の喪失を危惧したルイ・ヴィトン社は、その後、二種類の「レイエ・キャンバス」「ダミエ・キャンバス」とデザインを変更し、いずれも大成功を収めるが、さらなる模造品が出回る皮肉な結果となった。 そこで考案されたのが、より複雑なデザイン「モノグラム・キャンバス」である。これは登録商標の『LV』のイニシャルに、ジャポニズムとアール・ヌーボーの影響を受けた花のモチーフを組み合わせた独創的なもので、世界で初めてのブランドネームを冠した製品の誕生となる。 |
「当社はいつの時代も多大な時間と労力を注ぎ込んで、時代背景やニーズにあったデザインや素材を開発してきました。そのオリジナリティと品質の保証として、またそれらを守るものとして登録商標は重要です。」ルイ・ヴィトンジャパン(株)の知的財産権担当PRマネージャーの橋詰千寿子さんは、こう語る。
製品の商標登録は、パリの本社が管理している。一方、ルイ・ヴィトンジャパンでは、知的財産に関するセミナーやシンポジウムを開催したり、特集記事やテレビ番組を報道するなど、様々な独自のPR活動を行っている。「多くの方に知的財産の意義や重要性を理解していただければ」と橋詰さんは語る。
商標権を取得することにより、模造品に登録商標が使用された場合には、商標法により有効な保護を得ることができ、また、海外から持ち込まれる模造品には、輸入差し止めなどの水際措置を税関で取ることができ、ブランドを有効に保護できる。
ルイ・ヴィトンジャパンでは、今後も様々なPR活動を展開していくそうだ。
(取材協力 ルイ・ヴィトン ジャパン)