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ヒット商品を支えた知的財産権 Vol.23
「対震丁番」

特許第1606244号

 美和ロックと言えば「鍵」の最大手メーカー。その鍵メーカーで、鍵にも劣らないヒット商品となっているのが「対震丁番(たいしんちょうばん)」だ。丁番は開き扉などが一方の端を軸として開閉できるように扉枠に取り付ける金具のことで、「ちょうつがい」と発音した方が一般にはなじみ深い。

 「地震になったらすぐに扉を開けて」とは、誰でも耳にしたことがある防災フレーズである。これは、図に示すように地震によって扉枠が変形し、扉の左上が枠に当たり、開かなくなってしまうからだ。こんなときでも、この対震丁番なら女の人の力でも楽に扉を開放することができるという。

 その原理は至って簡単である。それは、丁番の軸の部分に埋め込まれたバネが縮んでドアが下がるため、変形した扉枠に扉が当たっていても、小さな力で扉を開けることができるようになる(写真はバネが見えるように外筒をカットした見本)。この対震丁番については、「基本特許の他に数件の周辺特許を取得して他社の参入を防いでいる」(製品計画部技術情報課の宮口聡弁理士)

 昭和58年に発売された対震丁番であるが、その売り上げは阪神大震災を境に倍増したという。地震に対する意識の高まりの現れと言えよう。さらに、通常の丁番の代わりにこの対震丁番を取り付けるだけで、簡単に扉の地震対策を行うことができ、扉周りを通常と異なる設計にする必要がない点も、対震丁番の大きな特徴だ。ロングセラーとなっている背景には、このような簡便さも評価されているのではないだろうか。

 「この発明は個人発明家の売り込みがきっかけだったんですよ」と商品開発本部I・L技術部の加藤義明さんは振り返る。耐震扉に関するアイディアは多く、それは丁番に限らない。売り込みがあった発明も、丁番に関するものではなく、さらに実用に耐えないものだったそうだ。しかし、その発明の検証のために実験を繰り返すうちに、丁番で扉枠の変形に対応できることに気づいたそうだ。

 商品名の「対震丁番」について、「対震」は「耐震」の間違いではないか?思われた読者も多いだろう。この疑問には加藤さんにお答えいただこう。「『耐震』では地震にあっても壊れないように耐えるという意味になる。しかし、この丁番は地震に『耐える』構造ではない。この丁番は地震による変形を受け入れ、『地震に対して有効な丁番』であるとの想いで『対震』にしました。」

 美和ロックでは、主力の鍵製品の分野でも特許、意匠、商標の権利化に努めている。

(取材協力 美和ロック株式会社)

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