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ヒット商品を支えた知的財産権 Vol.25
「チョークレスボード」

特許第1135945号

 一見すると、ただの緑色の「黒板」だ。近づくと、細かい蜂の巣状の模様が見える。「磁石ペン」で書くと白い線が現れる。「イレーザー」でこすると、たちまち元の緑に変わる。

 別の長い「イレーザー」を端から滑らせていくと全面が白く変わった。「磁石ペン」で書くと、今度は白地に緑色の字が浮かび上がってくる。この不思議な商品は、(株)パイロットが販売している「チョークレスボード」である。

 この商品の母体となる「磁気泳動表示方式」パネルが発表されたのは、四半世紀を遡る。まず、この基本原理を説明しよう。

 二枚のシートの間のハニカムに、微細な磁性粒子を含んだ少し粘性のある特殊なミルク状の液を封入して、パネルをつくる。この上を磁石ペンでなぞると、白い液の中から磁性粒子が引き寄せられ、字や絵が描けるのだ。この字や絵は、粘性のある液に浮かんでいるので、いつまでも消えることはない。

 字や絵を消す時は、パネルの裏側の磁石を移動させる。磁性粒子が裏側に引き寄せられ、ミルク状の液に飲み込まれて、表面は元通り白くなる。(株)パイロットは、この基本原理について特許を取得した(特許第1135945号)。

 この特許を利用したパネルは、おもちゃの筆記板に採用され、今もベストセラー商品になっている。この方式ではミルク状の液と黒い磁性粒子が主役だが、「チョークレスボード」にはさらに進んだ技術が使われている。

 磁石には、「N極」と「S極」とがあるが、磁石粒子の磁極を別々に色染めして、同じ磁極での反発を利用して磁石粒子を回転させると、表面側からの書き消しが可能になる。ところがこのコントロールは難しい。磁石粒子がダンゴになってしまうと、明瞭な線は書けない。そこで磁石粒子とこれを支持する液体との関係の研究を重ねて、この商品が完成した。

 図に示すように、磁石粒子のN極を緑色に、S極が白色に着色されているボードの上をN極の「磁石ペン」でなぞれば、磁石粒子が回転して、白い筆跡が残る仕組みだ。イレーザーを使って、部分的な消去もできる。訂正も可能だ。

 この商品は、特許・意匠・商標等を出願し、万全の体制を整えて、昨年の夏に発売された。ホワイトボード用の色マーカーにより磁石ペンで書いた図面の上に注釈などを書き入れることもできる。

 注目すべき点は、「チョークレスボード」が「人間と環境に優しい商品」ということだ。粉やカスが出ないから、こすれて衣服を汚すこともない。インキ切れの心配もいらない。インキ溶剤の匂いもない。専用の磁気ペン、イレーザーは半永久的に使用できる。

 学校やオフィス、病院やクリーン環境を要求される職場で、いま注目を浴びている商品である。

(取材協力 (株)パイロット 知的財産部)

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