ヒット商品を支えた知的財産権 Vol.26
「チルドマン」
家庭用冷蔵庫の新機能として、「乾燥しない」あるいは「エチレン吸着」が話題になっているが、これらの機能を最初に実現したのが、長野県須坂市に拠点を置くオリオン機械の業務用冷蔵庫チルドマンであったことは、一般には知られていない。 民間研究機関から、秋に収穫したイチゴをクリスマスケーキ用に鮮度維持できる冷蔵庫の開発を依頼されたことから、チルドマンは生まれた。 乾燥を防ぐ第一条件は庫内無風状態にすることである。そこで従来のような冷却ファンは使えないことから採用されたのが、ドア以外の壁面5面を熱交換器とする方式だった。無風で高湿を維持する業務用冷蔵庫は、すでに大手メーカーから出ていたが、壁面につく霜の除去、強度、温度の変動幅などに問題があった。そこで先行する製品からニーズを読み取り、「エチレン吸着」、「望ましい低温環境」、「霜取りと水滴の落下防止」という課題をクリアし、庫内の相対湿度90%、温度幅±0・5度を実現した。 チルドマンから思わぬ副産物も生まれた。試作段階で、乾燥を嫌うそばの保存にも、同様の機能を持つ冷蔵庫が求められているという情報を得た。そば処で知られる戸隠に近い須坂のこと、試験材料を入手の難しいイチゴからそばに変えたところ、「そば通」の役員の提案で試験用のそばを自分たちで打つようになり、ついには別会社を設立して高山亭という蕎麦屋を開店してしまったという。 |
チルドマンの発売は1987年。2年後にキャリータイプなどを加えてシリーズ化し、従来製品より2〜3割価格が高いにもかかわらず、毎年売れ行きが倍増する大ヒットとなり、NHKの新技術紹介番組でも取り上げられた。この動きに、大手メーカーが即座に追随、同様の製品を出したが、チルドマンは現在でも蕎麦屋では80%のシェアを持つ。
同社技術管理部特許・法務グループの久保順一さんは「知的財産は会社の将来を決めるもの」という。新たな分野に進出し、関連特許、実用新案、商標も含めこれまで50件以上を出願したチルドマンによって、全社的にその認識が高まったそうだ。
(取材協力 オリオン機械株式会社)