ヒット商品を支えた知的財産権 Vol.34
「ぬちマース」
近年は健康と味の両面から塩にこだわる人が増えている。そんな中、従来とはまったく異なる製塩法によって海から生まれた塩が、沖縄の言葉で「命の塩」を意味する「ぬちマース」である。 一般的な自然海塩の塩分含有量が85%程度であるのに対して、「ぬちマース」は73.3%しか塩分を含まない。残りは全てミネラルで、その種類も世界一多いとギネスに認定された。 まろやかな味わいだけでなく、さまざまなミネラルの働きで塩分を体内から排出することでも「ぬちマース」は注目されている。 「ぬちマース」をつくる「常温瞬間空中結晶製塩法」は、霧状の海水を空中に飛ばして水分を気化させ、塩分と共にミネラルを全て取り出すことを可能にした。工場には真っ白な塩が雪のように降り積もり、その光景はテレビなどでもしばしば紹介されてきた。 2003年度の中小企業長官奨励賞を受賞したこの製塩法のポイントは、海水を微細な霧状にする技術である。この部分は、開発者の高安正勝氏がラン栽培で生みだした技術の転用だった。気化熱を利用して温室の温度を下げる装置として開発したものだ。水の粒が大きいと、常温下では完全に気化する前に落下してしまう。ノズルから放出する方法では水の粒が十分に小さくならない。試行錯誤の末に、遠心力を利用して水を微細な霧状にすることに成功した。 |
高安氏が塩の製造・販売の自由化を新聞で知ったのは1997年1月。水を海水に換えれば、水分が気化してミネラルの豊富な塩ができるという確信は、すぐさま実証できたという。海水の濾過、濃縮、塩の回収方法など全部で21項目から成る製塩法の特許を出願するまでに要したのは、わずか1か月半ほど。その翌月に製塩業・ベンチャー高安有限会社を設立した。技術ができたことによって起業したのだ。
「ぬちマースは人類に必要なものだという自信はありましたが、最初はそんな方法で塩ができるはずはないと、誰にも相手にされませんでした」と高安氏は当時を振り返る。国内に続き、98年にはアメリカをはじめ海外でも特許を出願し、審査中のEUとブラジルを除く全ての国ですでに特許を取得した。海外からも注文が増え、韓国では合弁会社を設立して現地生産を始めた。「事業拡大は特許のおかげ」と高安氏はいう。
250gで1000円という価格にもかかわらず、「ぬちマース」をスナック菓子、味噌、しょうゆなどの原材料に使うメーカーも出ている。その付加価値の高さが認められた証拠である。「ぬちマース」に続く姉妹品として「ちゅらマース」「ぬちにがり」などを発売したベンチャー高安の売上は倍増している。
(取材協力 ベンチャー高安有限会社)