ヒット商品を支えた知的財産権 Vol.38
使いやすさ、美しさを追究した髪ゴム「ヘップリング」
商標番号 第4392841号 意匠番号 第1057274号
髪を束ねるのに便利かつおしゃれなアイテムが、カラフルな髪ゴムだ。そのトップメーカーのイノウエが開発した「ヘップリング」は、一見つなぎ目のない、リング状の製品である。それまで市販されていた髪ゴムは、1m程のひも状のもの、あるいは金具で両端を留めてリング状にしたものだった。
ひも状のものは、利用者が好みの長さに切って使える利点がある反面、結び目がほどけたり、きれいにできないことがある。リング状のものならば、そうした心配はないが、金具とゴムの間に髪がはさまるという欠点があった。この課題を解決するためにイノウエが取り組んだのは、ゴムの両端を接着してリング状にする技術である。
髪ゴムは、ゴムの芯を組紐が覆っていることから、素材の異なるゴムと組紐を同時に接着しなければならない。しかも、接着面にはゴムの引っぱる力がかかる。「発想してから満足のいくものができるまで、約五年かかりました。途中で断念しかけたこともあります。一番難しかったのは接着剤です。メーカーさんと試行錯誤を繰り返しました。」と同社社長の井上旭さんは振り返る。
接着できても、つなぎ目が盛り上がってしまっては、美しさや使用感を損ねる。この点を改良するのも大変だった。ゴムの断面はまん丸ではないので、接着は目で見て力を加減する手作業でなければできないそうだ。
ヘップリングのつなぎ目は、注意して触らないとわからない。その売り上げは、従来品とは比べ物にならないほど飛躍的に伸びたという。この画期的な技術で、同社にとって初めての特許も取得した。井上さんは「うちの真似をした製品がずいぶん出てきたことから、知財強化を図る必要を感じていた。」と出願の背景を語る。
接合部に関する特許では、構造や方法に加え、つなぎ目の美しさを実現した点を発明と認められるよう、工夫したという。ファッションに関わる企業ならではのこだわりだろう。ヘップリングについては2件の特許のほか、商標、意匠を登録している。
日本の伝統を継承する組紐メーカーを前身とする同社の製品は、髪ゴムを中心とするゴム芯入り組紐が7割を占める。パッケージ用の装飾ゴムは、丸い品物の包装に使われることが多い。「結びの文化が失われ、紐を結べなくなった」ためだと井上さんは指摘する。
組紐のノウハウを持つイノウエは、知的財産権を事業戦略の柱として、「結べない」現代のニーズに応えるとともに、紫外線カットなどの機能を備えた製品開発を進めている。