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ヒット商品を支えた知的財産権 Vol.48
新たな性能を守るための特許戦略「キュキュット」

特許第3617838号、意匠登録第1215001号、商標登録第4760169号

 2004年春に発売された花王株式会社の食器用洗剤キュキュットには、発売直後から好評意見が多く寄せられたという。これは、新たな性能である素早い泡立ちとすすぎ、ぬめりが残らない洗いあがりが、消費者をとらえたことの証左である。

 汚れ落ちのよさを求める消費者が実感できる性能を、どう設計するかが洗浄剤開発のカギとなる。キュキュットは「素早い」をキーワードにしたと語る、同社ハウスホールド研究所の吉田隆治さんが着目したのは、界面活性剤・アルキルグリセルエーテル(AGE)だった。単分子として働くAGEの特徴が速泡性と、油汚れを素早く取り去る性能を生んだ。AGEを含む新たな洗浄成分は、ミクロウォッシュと呼ばれている。

 ミクロウォッシュの技術は、液体洗浄剤組成物として特許出願、登録されている。一般の洗浄剤に使われている成分とAGEとの組み合わせは公知だったことから、AGEを特定の1種に限定した選択発明として出願された。

 「選択発明では、効果、即ち何を実現するかを明確にしなければなりません。一番強調すべき性能として、早いすすぎと洗いあがりの感触を取り上げました」というのは、同社知財センターの網屋毅之さんである。特許化に当たってぬめりのない洗いあがりの感触は、消費者のニーズに合致することを主張した。また、従来の洗浄剤に関する特許で、すすぎに言及されている例は少ないという。

 特許出願では、技術を説明するための「性能の数値化が最も難しい」と吉田さんはいう。JISなどの基準はあるが、それでは示せない性能がある。洗い上がりの感触などは官能評価で示すことになるが、その内容が曖昧だと受け止められないように示すことがポイントになる。

 洗浄剤は歴史の長い分野であり、また競合商品も多い。「液状の洗浄剤は、成分を混ぜれば誰でも簡単に同じものを作ることができる。特許は広くとるのが望ましいのですが、どこまで限定したら認められるかとの兼ね合いで、出願内容を決めていきます」と網屋さんはいう。同社では、研究開発で新たな技術ができた時点で特許をとり、商品化の進展とともに周辺を守るための特許のほか、商標や意匠を出願するそうだ。キュキュットも商標、意匠が登録されている。

 05年にシンクの水アカ汚れも落とせる「クエン酸効果」を、さらに翌年「ピンクグレープフルーツ」、「若竹」を追加したキュキュットは、同社の主要ブランドの一つに成長した。

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