ヒット商品を支えた知的財産権 Vol.50
太陽熱温水器の定番「ゆワイター」
太陽熱温水器の代名詞ともいうべき、矢崎総業株式会社の「ゆワイター」の発売は1976年のことである。同社の吸収冷凍機の技術を活かした、太陽エネルギーによる冷暖房給湯システムの実用化が開発の契機だったと、環境システム開発センター副センター長の浅井俊二さんはいう。その背景には、第1次、2次石油危機時の原油の安定確保に対する危機感と同時に、国際的な太陽エネルギー利用の気運の高まりがあった。
74年、太陽熱により冷暖房・給湯ができる実験ソーラーハウスを完成し、世界ではじめて太陽熱による冷房を行った。このために開発したのが、太陽集熱器「ブルーパネル」である。透過性の高い半強化ガラス(のちに半強化白板ガラスを採用)、温水に対する耐食性に優れたステンレス鋼などの新素材を、メーカーの協力を得て開発した。単独開発した選択吸収面とその製造方法は、国内はもとより、海外30ヵ国以上で特許出願した。
この時期は太陽熱利用の市場が限られていたことから、ブルーパネルのコスト低減を図り、市場拡大するための商品として浮上したのが、住宅用太陽熱温水器だった。既存の汲置き式太陽熱温水器は、日が陰ると貯湯水が冷めてしまう欠点があった。そこで、集熱器上部に保温した貯湯槽を、下部に集熱器を配置し、日射により自然循環する自然循環型に着目した。
集熱板は、プレス成形した2枚のステンレス鋼板をシーム溶接して水路を形成したもので、水路を一つおきに溶接することにより凍結で水の体積が増加しても、溶接していない部分がふくらんで、破損を防止できる。一度に8本を溶接できる、8連シーム溶接の技術も生み出した。
さらに、貯湯槽のカバーを反射板として活かし、冬期に追い焚きなしで風呂に利用できる日数を増加させた。また当時、主に緩衝材に使われていた発泡スチロールを断熱材として利用するなど、協力メーカーとともに商品化開発が行われた。
ゆワイターという名前は、社内で公募した中から、当時の矢崎裕彦社長(現会長)が採用したという。機能をずばりと表現する商品名は、消費者の認知度を高めるのに効果的だった。商標のほか意匠や実用新案を登録したが、それでも、76年の発売直後から、デザインなどの類似品が市場にあふれた。その中で、当時は、給水自動止水装置(ボールタップ弁)の摺動面に湯垢が付着して起きる止水不良は業界の常識だったが、それを改善する為に考案されたフッ素樹脂コーティングが、実用新案として公告され、ロイヤリティー収入が入った時は、至上の喜びだったと考案者の環境エネルギー機器本部住設企画部主管の吉広孝行さんは振り返る。以来30年以上にわたり、ゆワイターは時代に応じて進化し続け、ロングセラーとなっている。
1941年創業の矢崎総業は、自動車用のワイヤーハーネスや各種計器のメーカーとして成長を続ける一方で、空調システムやガス機器などのエネルギー機器の分野でも事業を拡大してきた。法務室管理部部長の勝亦佳仁さんは、特にエネルギー機器の営業部門は特許を営業戦略に活用することを常に考えてくれるので、特許的にもやりがいのある仕事ができると語る。