ヒット商品を支えた知的財産権 Vol.52
豊富な発泡を実現した入浴剤「きき湯」
ツムラライフサイエンス株式会社の「きき湯」は、温泉ミネラルと炭酸ガスが温浴効果を高め、各種の諸症状を和らげるというコンセプトに基づき、「バスクリン」、「日本の名湯」に続く入浴剤として開発された。各地の温泉を研究してきた開発チームは、新しい商品の着想を、日本一の炭酸泉である大分県・長湯温泉で得たという。長湯温泉の肌にまとわりつく泡の感覚から、豊富な発泡というテーマが生まれた。
その発泡を実現するために採用されたのが、ブリケットという形状である。顆粒より大きく、錠剤よりは小さいランダムな形をいう。それまで、ブリケットが入浴剤に使われた例はなかった。試作した発泡形成物が小さく砕けたものを、なにげなく浴湯に投入した偶然がもたらしたアイディアだった。
浴槽に投入した際に、湯の底から湧き上がるような発泡を実現するべく、温泉ミネラルと有機酸、炭酸塩の種類・配合量の組み合わせを追求し、試作品は400近くに及んだ。イメージに近い発泡に至ったものの、ブリケットに成形する段階で、新たな困難にぶつかった。凸凹のある2本のロールで原料粉末を圧縮成形するのだが、ロールにべっとり付着してしまったり、成形したものがぼろぼろに崩れてしまったりで、さらに試行錯誤を繰り返さなければらなかった。成形性の最適化と安定性の課題をクリアして、発売にこぎつけたのである。
2003年の発売時に市場投入された3アイテムは、成分の違いも関連して、それぞれに溶解状態が異なる製品に仕上げられている。また「きき湯」というネーミングは、温泉成分による疲労回復効果を印象づける名称として採用された。開発に数年をかけた商品の良さをユーザーに伝えるパッケージとして選ばれたのが、四角柱のボトルである。4つの面をフルに活用して、成分表示のみならず、その温浴効果をアピールする情報媒体の役割も兼ね備えるものとなった。
入浴剤市場では、国内外の多様な商品が展開されている。「きき湯」は成形性、強い発泡性による浴湯の汚れというブリケット特有の問題を、最適な成分の配合によって解決した点を明確にして特許を得た。特許出願によって、同様の商品開発を進めていた競合他社の動きを制することに成功し、「きき湯」は特徴的な入浴剤として市場の優位性を獲得している。
ツムラライフサイエンス株式会社は、2006年に株式会社ツムラの家庭用品事業を担う100%子会社として設立された。入浴剤をはじめ、ヘアケア、スキンケアなどの領域にも事業を広げている。2008年8月、ツムラグループから独立した同社は、入浴剤を牽引する商品として、「きき湯」を位置づけている。