ヒット商品を支えた知的財産権 Vol.54
音商標によるブランドの保護「Hisamitsu」
TVやラジオなどで流される久光製薬のコマーシャルは、どの商品の場合でも、メロディーにのせた「ヒサミツ♪」という会社のロゴ商標が最後に流れる。TVの場合には、このロゴ商標が動画として動きながら現れる。同社は、このロゴ商標を、日本でも導入が検討されている音の商標(サウンド商標)として、アメリカをはじめとする12カ国・地域で登録を受けており、さらに7カ国に出願をしている(動画による動く商標としては、4カ国・地域で登録を受けており、4カ国で出願をしている)。
同社製品を展開している海外の国・地域でも、CMには「ヒサミツ」のロゴ商標を音とともに(TVではさらに動画を加えて)流している。アジアでは香港、台湾、シンガポールなどでサウンド商標がすでに保護対象として制度化されており、同社も登録済みだ(サウンド商標が保護対象になっていない韓国では、動く商標を登録している)。同社の製品である医薬品は、各国の厚労省に相当する機関での販売承認が必要であるため、模倣品に同じ販売名がそのまま使われることはない。その代わり、パッケージデザインや販売名のロゴ(字体)が頻繁に真似される。
「売れれば売れるほど、その信用にあやかる(フリーライドする)模倣品は出ます。だからこそ知的財産権が必要なのです。ロゴの色、デザイン、サウンドなどは企業の信用、イメージを消費者に向けて伝える重要な媒体です。商標には企業と消費者をつなぐ情報伝達(コミュニケーション)機能があるのです。従来、商標の三大機能は、商品あるいはサービスの出所の表示、品質の保証、広告の機能であるといわれてきました。メディアや社会の変化に伴い、マーケットもグローバル化し、今や商標は、三大機能の枠を超えた企業の信用や情報を、ひいては信用・品質の高い商品・サービスを日本国(Made in Japan)から世界に発信するための情報を、消費者に伝達する機能を備えてきているのです。視覚で捉えるだけではなく、五感で識別できればそれは標章であるという観点から、匂い、動きなどもブランドの要素として大事です。」と、同社法務部長の堤信夫さんはいう。
同社は、サロンパスを発売した1934(昭和9)年当初から、宣伝カーなどを利用して、商品の優れた点を消費者に直接伝える宣伝広告に力を入れ、これを「実宣活動」と呼んできた。1953(昭和28)年、民放のテレビ放送開始に際しては、いちはやくTVCMを流した。こうした、消費者の五感に訴える「実宣活動」の精神が、商標を重視する現在の姿勢につながっている。サロンパスが発売から75年を経てなおロングセラーであり続けるのも、ブランドの意義と在り方を大事にしてきたからにほかならない。
「技術はもちろん重要ですが、技術や商品、サービスの信用を含むすべての知的財産の集大成が商標(ブランド)だと捉えています。半永久的に続く商標で企業の信用を維持する、これこそまさに企業の財産です。」という堤さんは、商品やその情報を世界規模で同時に提供・発信する時代にあって、ブランドの保護は企業にとってますます大切になるだろうとみている。