●国際活動委員会からのお知らせ

 

〈米国〉

 

クレームされていない構成要素にもベストモード要件の適用がある

 

(判決要旨)

 クレームされた発明を実施するのに必要な場合、クレームに掲げられていない発明の構成要素もベストモードの要件が必要な場合がある。しかしながら、ベストモードは、出願時に発明者が知っている必要がある。また、発明者がベストモードとして考えていた場合、ベストモードして十分に開示されている必要がある(ロードアイランド州地裁、19991110日判決)。

(事件の概要)

 光学的ディスク記憶システムに関する特許を保有している原告ASI社は、被告Data/Ware社を前記特許の権利を侵害しているとして訴えた。Data/Ware社は、前記特許がベストモードの要件と実施可能性要件を欠いているとして無効を主張した。

 Data/Ware社は、DMA(ホストコンピュータ、バッファメモリ及び光学ディスクシステムとの間でデータを伝達する方法)が発明のベストモードとして開示されるべきであると主張した。一方、ASI社は、データ伝達の方法はクレームに明記されていないので、ベストモードの要件をデータ伝達に適用すべきでないと主張した。

 裁判所は、ASI社の主張を拒絶し、クレームされた発明を実施するのに必要な場合、クレームに掲げられていない発明の構成要素もベストモードの要件が必要であるとの判断を行った。

 ASI社は、さらに、データ伝達がクレームされた発明の一態様であるとしても、発明者が、出願時にDMAがデータ伝達に対するベストモードであると信じている必要があると主張した。裁判所は、この点に同意し、Data/Ware社の証拠は、不十分であると判断した。

 さらに、裁判所は、データ伝達のためのDMAの使用は当業者にとって明らかであることから、発明者がDMAがデータ伝達のベストモードとして考えていたとしてもDMAは前記特許に十分に開示されていると判断した。

 

〈中国〉

 

中華人民共和国でインターネット上の著作権侵害が初めて認められた

 

 1999918日に北京の人民地方裁判所で、著作権侵害事件に関する判決が下された。これは、中国の人民法廷がインターネット上の著作権侵害を裁いた最初のケースである。

 原告は、中国の文化省元大臣を含む6人の著名な作家であった。これら作家の7件の小説が、被告たるベィジン・センポック・インターコムテクノロジー社により、作者の許可および対価の支払いなくして、ベィジン・オンライン(BOL)のウェブサイトに掲載された。

 この事件は恥ずべき行為として中国全土に知られることになり、殊に著作権とインターネットとの境界について国民の注意を惹き付けた。現行の中国著作権法は、インターネット上での著作権の保護に関する特定の条項を設けていないためである。同時に著作権およびネットワークの範囲について、専門家の間から異なる意見及び強力な議論が百出した。

 原告側弁護士は、著作権法には大衆との伝達権について明確な規定はないが、インターネット上の著作権は著作権法により保護されるべきものだと主張した。すなわち、著作権法第10(5)条によれば、著作権は“利用権および報酬権、すなわち人の著作物を複製し、実況し、放送し、展示し、配布し、映画化し、翻訳し、注釈を付し、編集する等により利用する権利および人の著作物を前述した手段により利用することを他人に許可し、かつそれにより報酬を得る権利”を含んでいる。この法律に述べられている権利は限定的(non-exhaustive)なものではなく、大衆との伝達権は「・・・・という用語に含まれるべきことが明らかだ、というのである。

 しかし被告側の弁護士は、インターネットは旧来の媒体と全く異なった媒体の新たな形式であるから、本件が支配されるべき条項は著作権法中に存在しない、と主張した。「・・・・という用語は、人民議会(の常設委員会)によって、または人民最高裁判所によってのみ解釈されるものだ、というのである。

 媒体に変化はあっても、著作物に変更はない。北京の人民地方裁判所は、デジタル形式での著作物の使用は媒体の変化をもたらしている。・・・・しかしその過程で、新たな著作物が生み出された訳ではない。著作物における著作権の所有者は、それに対して未だ著作権を有している」との判決を下した。そして被告に対しBOLのウェブサイトへの謝罪文の掲載と、87米ドル〜1,576米ドルの賠償金支払いとを命じた。

 インターネット上での著作物の使用は無秩序状態にあった、と一般に認識されている。本件を統括したYangBoyong判事を含む多くの専門家は、本件の結果はネットワーク産業の標準化に貢献し、また他人の著作物を掲載しようと探索している者逹に警告を与える効果があると評価している。専門家は、本件の判決が、現在改訂作業中である著作権法の改正にも寄与するものと確信している。

 また中国は、WIPO著作権条約(WCT)WIPO上演演奏条約(WPPT)とに加盟する必要性を、近い将来に考慮することになろう。