●国際活動委員会からのお知らせ

 

〈欧州〉

OHIM-SecondBoardofAppealの審決

RetailService(小売りサービス)を指定した商標の登録可能性

 

(概要)

 CTMに基づく商標登録出願においてRetailServiceを指定することは可能である。

(審決日)

 19991217(事件番号R46/1998-2)

(事件の経緯)

 A)   審判請求人(商標登録出願人)は、次のサービスを指定して、CTMに基づく商標登録出願を行った。

           「第35類 消費者が商品を見たり購入することを可能にするために、他人の利益のため、多様な商品を集めること−搬送を除く−。商業的または宣伝目的のためにホールやショールームでの陳列を組織すること。」

 B)    OHIMの審査官は、概略、次の理由で出願を拒絶した。

           「このサービスは、他人の利益のためのサービスではない。出願人だけの利益のための、補助的な販売活動である。」

 C)   審判請求人は、CTM規則の解釈等に基づき、前記サービスの登録適格性を主張した。これが本件審判での争点である。

 D)    OHIMPresident(長官)は、審判合議体からのコメント要求に応じて、RetailServiceは登録されるべきでないと述べ、その理由を詳細に示した。

(審決の要点)

 1.    審査官の判断は誤りである。指定されたサービスは、単なる補助的活動ではない。また、小売業者と需要者の両方に利益があるものである。さらに、CTM規則は、サービスが金銭的価値のために提供されていることを要求していない。

    2.   しかしながら、この指定サービスの記載は不明瞭である。サービスが提供される分野を記載すべきである。例えば、「運動用品の分野における小売りサービス」のようにである。そのような記載がなければ、例えばCTM規則7(自他商品識別力など)の判断が困難になり、また、どこまで権利が及ぶのか不明確になる。

 3.    審査において指定サービスの記載を修正する機会が与えられるべきである。

(結論)

 審査官の決定は取り消す。さらなる手続のため審査に差し戻す。

(参考)

 本件審決は、OHIMHPから、事件番号および審決日を基に取得できる。 この審決によれば、小売りサービスについてCTMの登録が取得できる可能 性が示された。しかしながら、CTMのシステムでは、各国において登録の 有効性が否定される可能性は残っている。逆に、小売りサービスの登録を拒 否している国(例えば英国)での扱いが変更される可能性もある。

 

〈米国〉

明細書中に引用した雑誌のタイトルはクレームに記載した包括概念の

構成について具体的な構造を記載したことになるとした判決

 

 この事件は、Amtel社がInformationStorageDevice社に対してアメリカ特許第4,511,811号を侵害するとして訴えたものである。

 連邦地裁では、被告の主張を認めて、本件特許は特許法第112条第6項に定めた要件を満たしておらず、記載不備があることから、特許は無効であると判断した。

 この特許のクレーム1では「高電圧手段」を構成要件としており、所謂「means+function」形式となっているが、明細書中には高電圧手段の具体的な構造が示されておらず、Dickson論文を引用しているに過ぎなかった。特許法第112条第6項では、「means+function」という表現形式が認められるのは、明細書中にその手段の具体的な構造が開示されていることを条件としており、またMPEP(アメリカ特許審査基準)608.1(p)によれば、特許以外の文献を引用しただけでは、クレームに記載の構成を説明したことにはならない旨の規定があることから、高電圧手段の具体的な構造が開示されていない、というのが連邦地裁の判断である。

 原告はこれを不服として連邦控訴裁判所に控訴した。控訴裁判所では、審理の結果、この判決を破棄して地裁に差戻した。

 控訴裁判所の判断では、論文の引用により具体的な構造の説明に代えることは無制限に認められる訳ではないが、本件に関しては、論文に当業者が明確に理解できる程度に構造が開示されており、記載不備には当らないとした。その根拠は次の通りである。

 包括概念の構成について具体的なサポートが明細書に存在するか否かは、当業者の理解に基づいて具体的に判断しなければならないものであり、また最近出された審査官の補足ガイドラインにおける特許法第112条第6項の解釈も同様の趣旨となっている。

 そもそも、第112条第6項の規定は、第112条第1項の規定、即ち明細書には発明を当業者が実施できる程度に記載しなければならないと要件に対する加重要件を定めたものではなく、クレーム中の包括概念で示した構成は、明細書の記載内容から当業者が理解できる程度に具体的な構造が開示されていることを要件とするものであり、具体的な構造そのものを明細書中の具体的な説明として明示することを要求しているものではない。本件の高電圧手段は、論文の記載から当業者が十分理解できるものである。

 なお、主任判事は少数意見として、クレーム中の「高電圧手段」がDikson論文を読むにしろ、また従来からの周知技術を参酌するにしろ、当業者が理解できれば、記載不備はないと考えるべきであり、文献の引用に格別の制限を設けるべきではないとしている。というより、文献の引用を積極的に認める方が明細書の記載の簡略化にとって必要であり、文献の引用を制限した場合には、明細書が極めて冗長なものとなり、むしろ好ましくはない。また、非特許文献の引用を制限したMPEP608.1(p)については、その文献が実際に容易に入手できるか否かを具体的に判断すべきである。なお、この論文はアメリカで名の通った図書館では必ず入手できるものである。