● 国際活動委員会からのお知らせ(2000年7月)

〈欧州〉
バイオ関連特許が共同体特許構想に影を落とす

 ご存知のように共同体特許条約(CPC)は、二十年以上も店晒しのまま発効していない。最近、ヨーロッパの共同体特許制度を、条約ではなく、別のやり方で実現しようという動きが出ている。EUの法律に当たる理事会の「規則(Regulation)」によって、共同体特許制度を確立しようとする動きである。
 ヨーロッパ特許条約は、植物品種やコンピュータプログラムの特許性を認めないなどの点で改正が望まれているが、全加入国の同意を取り付けるのが困難であり、改正はきわめて難しいといわれている。その一方、共同体商標(CTM)は、条約ではなく、EUの「規則」により定められており、順調に運用されている。
したがって、ヨーロッパにおいては、条約ではなく、EU理事会の規則により制度を定めてゆく方がよいとの認識が広まっている。
 1999年2月12日には、EUワイドの単一特許を認めることが重要な政治的課題である、という発表が欧州委員会によりなされている。その一月後、スキャンダルに絡んで欧州委員会は辞任してしまったので、現在に至るまで大きな動きは見られていないが、現在のボルケシュタイン委員長は、今年の3月30日、夏までに共同体特許に関する文書を公表することを明らかにした。
 その一方、エジンバラ大学に対する特許が、欧州議会の話題になっている。昨年12月に特許されたEP695351号である(日本の対応公報は特表平9-500004号)。
グリーンピースなどは、この特許は、遺伝子操作を行ったヒトの胎児のクローニングをカバーしていると反発している。これは、ヒトのクローニングに特許を認めないとしたEU指令98/44/EC(「バイオテクノロジー・ディレクティブ」)に違反するものである。EUのメンバーではないが、この指令に従うことを表明しているEPOは誤りを認めたが、自発的に特許を取り消すことはできないので、グリーンピースとドイツ政府が特許異議を申し立てた。ボルケシュタイン委員長は、審理が通常より迅速に行なわれることを約束している。また、欧州議会はこの特許を非難する決議を採択した。
 特許の内容は次のようなものである。請求項1は、「動物幹細胞を単離するおよび/または富化するおよび/または選択的に増殖する方法であって、該方法は、細胞の生存の助けとなる培養条件下で、該細胞の供給源を維持する工程を包含し、該細胞の供給源が、(a)所望の幹細胞および(b)幹細胞以外の細胞で特異な発現が可能な選択マーカーを含む細胞を包含することで特徴づけられ、それにより、該選択マーカーの特異な発現が、該所望の幹細胞の選択的な単離および/または生存および/または分割を生じる、方法」であり、請求項47は、「請求項1〜36のいずれかに記載の方法により得られる幹細胞を培養する工程、および前記選択マーカーを続いて切除する工程を包含する、トランスジェニック動物を調製する方法」にかかるものである(和訳は、上記特表公報による)。
 なお、7月5日、ボルクシュタイン域内市場委員長は、共同体特許制度に関する理事会規則案を欧州議会に報告した。
(参考)
http://europa.eu.int/rapid/start/cgi/guesten.ksh?p_action.gettxt=gt&doc=IP/00/71
4|0|RAPID&lg=EN

〈米国〉
製品デザインに関するトレードドレスの侵害立証には、
二次的意義(セカンダリーミーニング)の証明が必要

(事件の概要)
 米国最高裁判所は、トレードドレスの侵害訴訟において、全会一致の判決で次のように判示した。「プロダクトデザインは、そのデザインが二次的意義(セカンダリーミーニング)を有するという証明が必要である。なぜなら製品の色と同じく、プロダクトデザインについては、その商品特徴を出所元と同一視するという消費者の性向がないからである。」(2000年3月22日判決)。
 Samara Bros Inc.は、花や果物の種々の形状のアップリケを含むシアーサッカー(縦糸の縞目などを縮ませたりした薄織りリンネル)用服地を用いた子供服を製造している。フィリピンのJudy-Philippine Inc.(JPI社)は、Wal-Martとの契約で、Wal-Martの「Small Step」というラベルを付けたシアーサッカー地を製造した。JPIはSamaraの衣類16種類をコピーしたが、そのうちの13種は著作権法登録によって保護されたアップリケを用いたものであった。Samaraは、Wal-Martをランハム法43条(a)違反、及び著作権侵害として訴えた。陪審はWal-Martがこれらの権利の侵害であるとして、差止め請求と損害賠償とを認めた。第2巡回裁判所においてもこれを支持し、このアップリケはランハム法によって保護されるものであると判断した。
 しかし、米国最高裁は以下の理由でこれを認めず、破棄し、第2巡回裁判所に差戻した。
(判決の要点)
 ランハム法43条(a)は、他人のどのようなシンボル、マーク(Device)やトレードドレスの使用に対しても、商品の出所混同を起こすときに救済の対象となる。トレードドレスとは、そもそもパッケージや商品の外装のみを意味するものであったが、その意味が商品のデザインにまで拡大されており、追加された43条a(3)によって強化されている。裁判所は、生産者に対して、その者のトレードドレスに識別力があることを立証することを常に要求している。識別力がなければ、トレードドレスが商品の出所混同を生じさせることがないからである。標章は本質的に識別力があるか、又は二次的意義(セカンダリーミーニング)を通じて識別力を獲得する可能性はある。しかし、標章の一カテゴリー、例えば「色彩」については、本質的に識別力があるとはいえないので、二次的意義(セカンダリーミーニング)を示すことなくしては保護されるものではない。

〈米国〉
親出願とその継続出願間で、発明者が一部異なる場合における
米国特許法第102 条(e)項の規定の適用

1. 事案
 原告である特許権者は、癌患者用鎮痛剤に関する3件の特許権を侵害されたとして、予備的差止命令(Preliminary Injunction)を求めた。これら3件の特許権は、いずれも、最終的に特許された出願(以下「親出願」という)の継続出願に基づくものであった。親出願と係争特許とは、複数の発明者のうち一部のみが同一であった。
2. 被告の反論
 被告は、係争特許が、米国特許法第102 条(e)項の規定に該当し、親出願に対して新規性がないので無効であるとする抗弁を行った。その理由として、1966年のCCPA判例(In re Land)を引用し、親出願に基づく特許で列挙された発明者が、その継続出願に基づく係争特許で列挙された発明者と同一でなく一部が重複する場合、米国特許法第102 条(e)項に規定する、「他人(by another)」に該当し、係争特許は、親出願に対し当然に(Inherently)新規性がないことを主張した。
3. 判決の概要
 ニューヨーク州南地区地方裁判所は、被告が主張する特許無効の抗弁を退け、原告が求めた予備的差止命令を認容した。同裁判所は、(1)係争特許及びその親出願の間で、発明者の一部が重複すること、及び(2)継続出願において追加された発明者は、親出願の出願時に継続出願に係る発明を知悉していたという理由で、1988年のCAFC判例(Applied Materials Inc. v. Gemini Research Corp.)が適用され、継続出願は、米国特許法第102 条(e)項に基づく新規性の喪失はないとした。

〈米国〉
Fan with "Baffle Means"に関するClaimは、
Means-Plus-Function Claimではないとした

(結論)
 クリーンルームで使用される遠心ファンに関する特許の"Baffle Means"というクレーム用語は、35USC第112条に規定されるMeans-Plus-Function Termとして解釈されるべきでなかったと、連邦巡回控訴裁判所が2000年4月18日に判決を下した(Envirco Corp.対Cleanroom Inc.事件 Fed. Cir. No. 99-1111, 4/18/00)。
 "Means"という用語のクレーム中の使用は、クレームの構成要素がMeans-Plus-Function Elementであるとの推定を成立させる。しかし、クレームの記載がこの機能を実施するための十分な構成(構造)を記載しているならば、この推定は覆されると法廷は推論した。法廷は、否侵害という略式判決を取り消して、従来のクレーム解釈のルールを適用し、告訴されたFanのBaffleの形状は特許クレームの範囲内にあると認定した。
(要旨)
 地方裁判所はEnvirco Corp.の特許(USP No. 4,560,395)について、クレーム中の"Second Baffle means"をMeans-Plus-Function Claim Elementとして解釈した。したがって、同裁判所は対応構造を求めて明細書の記載を調べ、第2実施例のSecond Baffleが連続円弧面を有することに注目し、この円弧即ち曲面はクレームを限定すると解釈し、告訴されたFanのL型即ち直角配列の衝音材は原告の特許権は侵害しないと結論を下した。しかし、原告は控訴した。
 地方裁判所の判決に対して、連邦回控訴裁判所は、"Means"という用語を含み機能を記載しているクレーム要素はMeans-Plus-Function Claimであると推定されると認定した。しかし、このクレーム自身がクレームされた機能を実行するに十分な構成を記載しているならば、この推定は覆されると述べた。
 該特許のクレームは、"Means"という単語を使用しているが、"Baffle"という用語はそれ自身構成的な用語であり、更に該特許のクレームはBaffleの特定の構成を記載している。この構成を記載している点が、Means-Plus-Function Claim Elementは、構成の説明なしに機能(Function)をのべているものである、という法律上の要件と抵触しており、該"Second Baffle Means"クレーム要素は、第112条の取り扱い要件にあてはまらず、一般的なクレーム解釈ルールにしたがって解釈されべきであり、このルールにより"Second Baffle Means"は、空気流れを反らすための面をカバーしていると決定した。