●国際活動委員会からのお知らせ

 

 

〈米国〉

銀行業において商標権を持っていても(商標:Commerce)、

保険業で同様にその商標権を確立できるわけではない、

という控訴裁判所の判決

 

(事件の概要)

 CommerceNationalInsuranceServiceInc.(以下、CNIS)会社、及びCommerceInsuranceAgencyInc.(以下、CIA)会社間の"Commerce"という商標の争いである。

 CNISは、その前身の会社において、1974年から"Commerce"という商標のもとに銀行業を行ってきた。一方、CIAは、1984年から同じく"Commerce"という商標のもとに保険業務を行ってきた。CIAは、大きな会社ではなく南ニュージャージー地区で業務を展開しているに過ぎなかったが、当地区のCNISブランチとは友好的に共存してきた。

 ところが、1996年からCNISは、一般の保険業にも参入すると表明し、CIAの混同が生ずるとの主張に対しては否定する一方で、CIAに対して"Commerce"の商標権を侵害するとの主張を行った。

 地方裁判所ではCNISが勝訴したが、控訴裁判所ではCIAが逆転勝訴したものである。

(地方裁判所ではCNISが勝訴した理由)

 大きな会社であれば銀行業と保険業が似ていることから、消費者はこの会社が保険業に進出してくるであろうと期待するであろう(ここで、逆の混同が生じている)との主張と、多額の商標プロモーションが行われたことが評価されたと思われる。また、商標の所有権や混同の可能性を証明(混同の証明ではない)したとの主張も認められた。

(控訴裁判所ではCIAが逆転勝訴した理由)

 上級裁判官は上記の事実認定を非難している。実際の混同のケースはまったく示されておらず、商標プロモーションもCIAの設立当初にされていた事実はなかったからである。

 また、CIACNISの信用を利用する意図があったとされる証拠が提出されなかったこと、CNIS10年以上に渡ってCIAの使用を認識し、同意していたことも理由の1つである。

 さらに、CNISは銀行業では独占を認めるだけの使用者と認められるが、保険業のような二次的な使用ではそこまでの事実を認定するだけの根拠に欠けるとの判断も示した。

 またさらに、"Commerce"は商標として各種ビジネスで多用されるごく平凡な商標であることもこのような判断に影響を与えている。

(総括)

 この控訴裁判所の判断は妥当であろう。大きく力のある会社が小さい会社の商標を使用する場合にこのような逆の混同が生じるようである。この判決を見る限りでは、逆の混同が生じた場合には「小なりといえども…」というまじめな会社であれば敗訴することはないように感じられる。我が国では登録主義的色彩が濃いので、このようなケースは起こりにくいと考えられる。米国という国の怖さを感じさせる事件である。

 

 

〈米国〉

USPTOビジネス方法特許ラウンドテーブルフォーラム

 

 去る2000622日、米国特許商標庁(USPTO)は、ビジネス方法特許に対するラウンドテーブルフォーラムを発表した。特に、現在行われている審査の改善に関するものである。

 1998年から1999年にかけて、クラス705に属するビジネス方法特許の出願件数は、1,300件から2,600件、すなわち2倍に増加している。これは、ステート・ストリート・バンク対シグニチャー・ファイナンシャル・グループ事件において、米国連邦巡回控訴裁判所(CAFC)が、ビジネス方法特許の特許性を認めないような法理はない、と判示したことが原因と考えられる。

 かかる事態に鑑み、去る2000329日、USPTOはビジネス方法特許企画を発表した。それは、電子商取引を基盤とするビジネス方法出願については、再検討を加えるとするものである。具体的には、ビジネス方法特許を含むクラス705に属する出願は、特許を受けるためにはサーチ要件に沿っていることの確認、認可理由の再考及びクレーム範囲の再考等の再検討が加えられるのである。

 このため、USPTOは、審査官の技術トレーニングの強化、審査のガイドライン及び具体的事例の修正、及び現在の先行技術調査の拡大に関するプログラムを創設した。更にUSPTOは、外部機関プログラムを制定している。これはソフトウェア、インターネット及び電子商取引産業との間にパートナーシップを築き、各分野における先行技術文献の収集及び、自由な意見を求めることにより、USPTOにおける審査に役立てんとするものである。

 ラウンドテーブルフォーラムのトピックは、以下のとおりである。

1.         どのようにしてビジネス方法特許出願を審査するか?

            1)            特許を受けるための要件は何であるか?

            2)            公知プロセスを自動化したもの新規性及び非自明性の要件は何か?

2.         電子商取引の革新、進化及び発展を図るうえでのビジネス方法特許保護による影響

            1)            ビジネス方法特許は、電子商取引を活性化させているのか、それとも抑制しているのか?

3.         ビジネス方法特許出願のための先行技術データベースの構築

            1)            ビジネス方法の先行技術の特色は、何であるか?

            2)            新しいデータベースの分類及びアクセスはどうするか?

            3)            ビジネス方法特許の先行技術データベースを構築する上での課題は何か?

4.         去る2000329日に発表された、USPTOビジネス特許企画の討論

            1)            企画はビジネス方法特許出願について高まっている関心に、適切に取り組めているか?

            2)            USPTOが注目しているビジネス方法に関連する他の問題点があるか?

 なお、ラウンドテーブルは、去る2000727日に再び行われた。その内容が明らかになれば、また情報を提供する予定である。

 

 

〈英国〉

英国控訴裁判所

タキソールの投与形態に関するBMS社特許を無効と判断

 

 英国控訴裁判所(CourtofAppeal)は、ブリストル−マイヤーズ・スクイブ(BMS)社の特許を無効であると判断し、同社の控訴を棄却する判決を下した(2000523日付)。同裁判所は、BMS社特許の新規性及び進歩性を否定した同じ侵害事件の下級審判決(1998820日付)を支持し、さらに、特許クレームが治療方法に該当することも無効理由とした。

 対象特許は、公知の抗癌剤であるタキソールの、公知の副作用である白血球の減少を抑制しつつ、癌の治療効果を得るための特定の投与形態を規定していた。

 クレーム1は、次のとおり:「タキソールと、致命的なアナフィラキシー様反応を防止するのに十分な薬物との、同時に、分割して、又は逐次的に投与するための医薬を製造するための使用であって、該医薬は、135mg/m2175mg/m2のタキソールを、約3時間以下に渡り、癌を治療しかつ同時に好中球減少症を低減させるための手段として、投与するためのものである、使用」(EP054001B1;訳語は、対応の特許第2848760号公報を参照)

 新規性及び進歩性に関しては、BMS社の研究者がスライドを伴う口頭発表で、タキソールの連続注入を3時間行う場合を、従来どおり24時間行う場合と比較していたことが問題になった。BMS社は、発表データからは、3時間の注入が24時間の注入と同程度に有効であることは明らかでなく、また3時間の注入により好中球減少症が低減されることは開示されていないと主張した。しかし、判決は当該発表から、3時間の連続注入で癌の治療を試みることは妥当であり、副作用低減の効果は実施により必然的にもたらされる結果に過ぎないとして、新規性及び進歩性を否定した。BMS社は、第二医薬用途(スイス・タイプ)クレームについての欧州の判例に依拠して、新たな効果の発見を反映する新たな治療用途としての特許性を主張した。しかし、判決は治療の対象疾患も治療の方法も従来と同じであるので新たな治療用途とはいえない、とした。

 第一審では、本件特許クレームは医薬の製造に関すると解釈された。これに対して、控訴審では、本件発明の本質は、タキソールの連続注入を24時間から3時間に変えることで副作用を低減しつつ同様な治療効果が得られることにあり、薬剤を投与し副作用等をモニターする各段階に医師が関与する以上、特許クレームは、医薬の製造ではなく治療方法に該当すると解釈された。

 

 

〈台湾〉

自己の登録商標を防衛するために、

防護標章登録要件が大幅に緩和される模様

 

 台湾商標法第22条第2項においては、商標権者は自己の登録商標と同一の商標につき、自己の登録商標の指定商品とは非類似の商品であるが、その性質において関連性がある場合は、防護標章登録ができるとしている(著名であるかどうかは不問)。

 この点、著名性を登録要件として課す日本の防護標章登録制度とは異なる。

 台湾当局は、更にある種の分野においては、商品とサービス業務との間の関連性が深まる傾向にある点に着目して、前記の商品同士の間の性質の関連性に限らず、同一商標については、これまでは認められなかった商品分野とサービス分野の関連性を認める(著名商標については言わずもがな)こととし、この場合は、商品分野、サービス分野相互で防護標章登録を受けられるようにすることを内部的に決めた。

 これまでは、例えば、食料品には商標が使用され、食料品の配送分野においてはサービスマークが使用されるが、他人の商標登録を阻止する観点からは、商標には商標には商標が、サービスマークにはサービスマークが有効であるだけで、いずれか一方を防護標章登録に代えることはできなかった。

 伝えられる台湾当局の今回の決断によって、商標権者は、商品に関連するサービス業務について、防衛的観点から防護標章登録出願を行うことができる。さらに、著名商標の商標権者は、極端に言えば、あらゆるタイプのサービス業務をカバーする防護標章登録出願を行うことを考慮することも可能になる。

 

 

以上