●国際活動委員会からのお知らせ

〈米国〉

米国特許クレームにおける不定冠詞「a」の解釈

1. 事案の概要

KCJコーポレーション(以下「KCJ社」と略す)は、キネチック・コンセプツ・インコーポレーテッド(以下「KC社」と略す)により製造販売されたマ

ットレスが、自社が有する、空気浮揚マットレスに関する米国特許第4,631,767号の特許権を侵害するとして、連邦地裁に提訴した。特許クレーム1は、「下

部の連続した膨張可能な室をなす手段(means defining a lower, continuous,inflatable chamber)」を構成要素の一つとしていた。

KC社のマットレスは、頭部用、胴部用及び脚部用の3個に分割された膨張可能な室を組み合わせてなるものであった。

なお、クレーム記載の解釈において、不定冠詞「a」又は「an」は、「少なくと1つ(at least one)」を意味するとの判例がある(In re Teague 117 USPQ284)。

2. 連邦地裁による第1審判決

連邦地裁は、特許クレーム1の上記文言は、マットレスが、分割されていない単一の室からなることを必要しているとして、KC社のマットレスには、文

言上の侵害はないとした。また、連邦地裁は、KC社のマットレスには、均等論に基づく侵害もないとした。KCJ社は、連邦地裁の判決を不服として、CAFCに提訴した。

3. CAFCによる第2審判決

CAFCは、判例に基づき、文言上は、本件特許の室は、単一のものに限定されないことを前提として、明細書の記載及び出願経過において、本件特許の室

を、単一のものに限定されると解釈すべき特殊事情があるか否か審理した。その結果、CAFCは、KC社のマットレスを構成する3個に分割された膨張可能

な室は、本件特許クレームの「下部の連続した膨張可能な室をなす手段(means defining a lower, continuous, inflatable chamber)」に該当するとした。しかしながら、KC社のマットレスは、特許クレーム1に記載された、他の2つの構成要素を満たさず、しかも、これらの構成要素は、出願経過を検討すると、先行技術を避けるために補正加入されたものであるので、均等論に基づく侵害もないとした。

しかしながら、CAFCは、連邦地裁が、特許クレーム中の不定冠詞の解釈を誤ったことは、実害がない(harmless error)として、連邦地裁の判決を支持し

た。

連邦地裁の判決に至る論理過程に誤りがあっても、結論が妥当であれば、訴訟経済の見地から、CAFCは、下級審の判決を支持したものと思われる。

〈米国〉

PTOビジネス方法特許ラウンドテーブル(2000/7/27)

1)去る7月27日に、USPTO(United States Patent and Trademark Office)後援によるラウンドテーブルが開催された。参加者は主に弁護士、及び電子商

取引事業者の役員等でありビジネス方法特許を取り巻く問題について議論した。

パネリストらは、PTOがビジネス方法特許に対して与えている監視レベル、出願審査における先行技術の種類、及び再審査手続の改善の必要性等について質

問を投げかけた。

2)これまでの経緯について簡単に説明しておくと、3月29日にPTOは電子商取引を基盤とするビジネス方法出願については、再検討を加えると発表した。

具体的には、ビジネス方法特許を含むクラス705に属する出願は、特許を受けるためにはサーチ要件に沿っていることの確認、認可理由の再考及びクレーム

範囲の再考等の再検討が加えられる。このためPTOは、審査官の技術トレーニングの強化、審査のガイドライン及び具体的事例の修正、及び現在の先行技

術調査の拡大に関するプログラムを創設した。

3)ラウンドテーブルにおいては、以下の如く活発な意見・質問がなされた。

PTOは、出願処理において危機感がないと考えられる。PTOは、審査においては先行技術として文書による証拠を望んでいるのかもしれないが、そう

でない先行技術についても取り組む必要がある。」とJerry Reidinger弁護士(アマゾンドットコムの代理人)は語る。またTim O'Reilly氏(O'Reilly出版社の創設者)らは、出願を拒絶する明確な基準及び主要ケースを設けておく必要があると指摘した。さらに、Jay Thomas(ジョージワシントン大学法学部教授)Jeffrey Kushan弁護士は、「PTOは、疑わしい出願は自信を持って拒絶すべきである。」「PTOは、ビジネス方法特許についてアグレッシブな立場をとるべきだ。」と主張した。

4)Thomas曰く「審査官は有用な多くの先行技術に対して、無頓着であることが大きな問題だ。」と指摘する。さらに、審査官に対して与えられる先行技術調査の時間が極めて短いと付け加えた。一出願につき16から17時間しか費やすことができず、十分それを検討する時間がないと発言した。

これを受けてPTOの特許委員であるNick Godici氏は「一般的に、審査官は18から19時間しか先行技術調査のための時間が確保されていないことは認め

る。しかしビジネス方法特許出願については、平均31時間費やしている。」と反論した。

しかしながら、ハーバード大学のJoshua Lerner教授によると、「しばしば、先行技術調査では正しい引用文献を抽出するが、審査官はその抽出した先行技

術の意味を正確に把握できていないことがある。」と発言した。バーンズアンドノーブル社の代理人であるSteaven I.Wallachは、Lernerの意見に同意し、「セクション102と103においては若干疑問点があり、審査官は抽出した先行技術を注意深く検討する必要がある。」と付け加えた。

5)O'Reillyによると「ビジネス方法特許及びソフトウェア特許のための先行技術は、PTOが調査しているところとずれていることがある」そうだ。先行技

術として利用するためには文書化されていることが必要であるが、それはこの非常に速度の速い分野において困難であるという。

この他、ソフトウェアプログラマーは、新製品を開発する際、先行技術調査をすることに対して積極的ではないと他の人は注目した。「研究開発の際に徹

底的に先行技術文献を調査するバイオの分野と異なり、プログラマーは新製品を開発する際は、滅多に調査することはない。」とGlenn S Tenney氏(電気電

子工学知的財産委員会議長)は言う。また、Tenney氏は、「大学は深い歴史を持つソフトウェアの歴史を教えていない。」と付け加えた。「その結果、新人審査官は古い先行技術を理解するための基礎となる歴史的なものよりも、現在のソフトウェア知識しか持たない。」と言う。

6)「たとえ、PTOのデータベースにおける先行技術が有用であったとしても、まだまだ効率的とはいえない。最高のインターネット検索エンジンはインターネットの約20%の情報を検索する。」とKeith Kupfer氏(Software & Information産業機関の弁護士)は語る。「先行技術調査をうまく処理する方法の1つはGnutellaの様なWebサイトを開発することだ。先行技術を提出したい者は、自分のハードディスクに関連ある情報を置いておけばよい。」と彼は提案する。

また、弁護士は先行技術を見つけるために自分自身でインターネットを活用すれのもよいと提案した。Jeffrey R.Kuester弁護士は、例としてこのように語

った。「ある弁護士は特許を無効にするための先行技術調査に関連する疑問と抗弁を公表したところ、彼は100ものe-Mailを瞬時に受け取った。その中には

彼が欲しかったぴったりの先行技術があった。」

7)再審査制度についても様々な問題提起がなされた。

「再審査制度は1980年代に初めて導入され、年間3,000件程度請求されると見込まれていたが、今のところ、年間たったの400件しかない。個人が特許

に異議を申し立てるには、何らかの動機が必要である。」とThomas氏は言う。

さらにThomas氏は、「PTOは先行技術を集めるためのパートナーとして、一般市民を用いる「特許報奨金」システムを考案すれば」と提案した。

Jeffery Kushan氏によると、「現行の再審査制度では、後の訴訟のための禁反言の効力を理由に、それを使うことは第三者にとって合理的でない。」という。

現在のところPTOに先行技術を与えることは、「撃ってくれ」というようなものだとKushanは言う。Laurieは、法改正があってとしても第三者は先行技術

を再審査よりも訴訟において、自分の持つ最高の先行技術を使うであろうと推測する。なぜなら、新しいルールは提出された先行技術に対して、禁反言の効

力を有することになるからである。誰も新しい手続きを使う気はない、とNancy Linckは言う。

LinckとArmitageは共に欧州特許庁と日本特許庁が使用している手続きについて指摘し、特許されてから最初の9ヶ月は特許を取り消すための期間が与え

られていると言った。彼らは、USの再審査制度も同様に修正すべきだという点で同意した。

8)最後に、あるパネリストは「そもそも特許制度は産業を促進しているのであろうか?」と少し古い議論をした。しかしながら、他のパネリストは「ド

ットコム社会において特許の地位は、競争のために不可欠なものである。」と議論した。Tenney氏によれば、シリコンバレーにおいては特許の地位は金に値するそうだ。これについて、O'Reilly氏は「ビジネス方法特許出願は多くの後発者によってなされている。インターネットがよい例だ。なぜなら、市場参入のバリアが極めて低いからである。」と分析した。

以上のような活発な意見がなされラウンドテーブルは幕を閉じた。

〈米国〉

米国特許法改正に対応した規則の最終版が発表される

1999年の11月に、米国特許法がIntellectual property and Communications Omnibus Reform Act of 1999の一部により改正されている。早期公開、ビジネ

ス方法に関する先使用権などの他、継続審査の新規定、仮出願に関する改正、一定の先行技術が非自明性の考慮の対象にならなくなったことなどが含まれて

いる。今年の3月には、5月29日から施行される手続的な改正部分に関する暫定規則を米国特許商標庁は発表しているが、今年8月16日に規則の最終版を

発表した(65 Federal Register 50092)。いくつかの点で暫定版とは異なっている。暫定版は5月29日から有効であったが、最終版は発表後直ちに発効した。

継続審査(continued examination)

継続審査とは、新たに加えられた第132条(b)により、新出願をすることに伴う書類提出手続きを簡略化して、審査の継続を求めることができるように

するものである。上記の暫定規則によれば、その費用は690ドル(スモールエンティティーは345ドル)であり、それは最終規則にそのまま受け継がれてい

るが、最終規則では、出願の手続きが終了(closed)したものでないと継続審査を受けられないことが明記されている。これは、現在審査が行われている出

願に対して継続審査の請求(request for continued examination)を提出しても出願人にとって得ることがないため、そのような請求を防ぐための規定である。

仮出願(provisional application)

特許法の111条(b)には、仮出願に関する規定があり、同条の(b)(5)には仮出願から通常出願への変換(conversion)ができる旨の規定がある。しか

し、以前の法律では、仮出願は12か月後に放棄されたものとみなすと規定されており、どのように仮出願を通常の出願に変換できるか示されていなかった。

したがって、この12か月の最終日が休日に当たっても、次の営業日まで、この期間が伸びることはないと考えられていた。今回の特許法の改正ではこの点

が訂正されて、次の営業日まで仮出願が特許庁に係属するものとされた。また、優先権の利益を受けるためには、仮出願と通常出願が「同時係属」しなければいけないという規定も削除された。これにあわせて、暫定規則の37CFR§1.53

c)(3)で必要な規定が加えられていたが、最終規則では同じところに追加されて「本パラグラフのもとでの仮出願の通常の出願への変換により、少なく

とも変換を請求された仮出願の出願日からそのような出願の結果得られる特許期間が計られることになる。したがって、このような特許期間に関する不利な

結果を避けるために、仮出願の利益を主張して、特許法第119条(e)の規定のもとで通常の出願を提出すること(このパラグラフのもとで仮出願を通常の

出願に変換するのではなく)を考えるべきである。」という文章が加わった。手数料の上でも上記変換と仮出願に基づく利益を主張した新たな通常出願とで何ら変わりはないので、この変換手続きのメリットは不明である。

非自明性に関する先行技術

従来、特許法第102条(e)(先行出願にかかる特許の開示内容が後の出願の新規性を阻却する規定)のもとでの先行技術は、第103条の非自明性の判断に

おいても先行技術となるものであった。今回の特許法改正により、この第102条(e)の先行技術は、発明の時点で、発明者または発明の譲受人となる資格

のある者が同じである場合には、非自明性の判断に加えられないこととなった。

この改正については、暫定版でも最終版でも同様に取り扱われている。この法改正は、先行特許の開示内容の取り扱いを日本の特許法第29条の2の規定に

若干なりとも近づけるものである。なお、この改正に関してはガイドラインが4月11日に別途発表されている(1233 Off. Gaz. Pat. Office 54 (April 11, 2000))。

なお、Federal Registerは、〈http://www.access.gpo.gov/su_docs/aces/aces140.html〉から検索できる。

〈カナダ〉

WTO世界貿易機関の薬物決定を満たすため、特許規則の撤廃促される

カナダ産業省によると、カナダの処方薬規制に反対する世界貿易機関の裁定に従う一環としてカナダ連邦政府は、"特許医薬品の製造と貯蔵に関わる規則"

の撤廃を提案している。

この規則を撤廃することにより、WTO紛争処理委員会によって4月7日に採択された「カナダ特許法の第55.2(2)条に記された薬品備蓄の例外は、"知

的財産権の貿易関連の側面協定(TRIPS協定)"で示された義務に反するものである、との3月17日付世界貿易機関(WTO)の裁定の要件をカナダは満た

すことになる」、という趣旨の声明をカナダ産業省は発表した。一方、EU欧州連合は、カナダの薬品に対する特許保護の程度をめぐってこれをWTOに提訴

した。

撤廃に対する一般の声を求めるために、カナダ連邦政府の上記提案はカナダ官報第1部の8月5日号に掲載され、掲載から30日以内に関係者らからこの

規則撤廃の技術的な面に関するコメントが提出された。

尚、"特許医薬品の製造と貯蔵に関わる規則"は、備蓄例外に法的な効力を与えるものであり、カナダ産業省の書類によるとこの備蓄例外の下では、ある特

許の満了にともないこの特許処方医薬の規制許可を受ける権利を有する一般薬品(一般名称で販売される医薬品)製造業者はこの特許が実際に満了する前の

6ヶ月間、この特許薬品の一般薬品版を製造し備蓄することが許されている。

WTOの仲裁人は、カナダが紛争処理委員会の裁定を実施するのに必要とな"妥当な時間"を、8月31日に決定する予定であった。しかし一方で、カナダ

政府による"特許医薬品の製造と貯蔵に関わる規則"の撤廃の提案をWTO裁定の要件を満たすものとしては認められない、とのEU欧州連合の指摘がある。

更に、上記のWTO裁定はカナダの"早期実施例外"順守を支持した。カナダ産業省の書類によると、この"早期実施例外"の下では、ある特許の満了後にその特

許医薬と同等の製品を販売する規制許可を取得する目的で、第三者はその特許発明の保護期間中にこの特許発明を使用することが許されている。

以上