カナダ連邦裁判所控訴審は2000年8月3日、トランスジェニック非ヒト動物が同国特許法の「発明」の定義に該当するとの判決を下し、下級審の判断を覆した。発明の対象は「ハーバード・マウス」として知られる、発癌性の組換え遺伝子を導入したトランスジェニック・マウスを含む。控訴審は2名の裁判官が賛成、1名が反対という多数決により結論した。
本件発明は既に米国、欧州及び日本で対応する特許が成立している(米国特許第4736866号(1988年);欧州特許第169672号(1992年)、ただし欧州特許には16件の異議申立がなされ現在未だ異議決定は出されていない)。対応日本特許の請求項1は次の通り:
「生殖細胞と体細胞とが胚形成期に導入された活性化腫瘍遺伝子配列を有することを特徴とするトランスジェニック非ヒト動物、及び当該遺伝子配列を有するその子孫」(特公平5-48093)カナダにおいても発明の新規性、進歩性及び有用性(腫瘍の研究に有用である)に関しては争いがなかった。しかし、特許庁審決(1995年)及び連邦裁判所第1審判決(1998年)いずれも、トランスジェニック非ヒト動物は同国特許法の「発明」の定義に該当しないとして特許性を否定した。指摘された論拠として、胚形成期の細胞に組換え遺伝子を導入し、導入後の細胞を親マウスの子宮に入れ懐胎させるといった、この動物の育成(作成)過程に人為的制御が及ばない部分があること、並びに、同一の個体を繰り返して得られない(再現性がない)ことがあった。さらに、単細胞微生物のような下等生物は特許対象として認めているカナダの従来の判例に対しては、下等生物と高等生物とは区別して判断すべきであるとされた。
これに対し控訴審判決は、その多数意見において、米国最高裁の著名なChakrabarty判決(1980年)を引用し、カナダ特許法における「発明」の定義もまた広く解釈すべきであるとの立場を取った。目的とする組換え遺伝子が細胞内に保持されたマウスを作成できることは充分な人為的制御及び再現性であり、例えばマウスの尻尾の長さが個体により異なることは発明とは無関係であるとされた。さらに、立法手段による制限を受けない限りは、特許法上、下等生物と高等生物とを区別すべき理由はないと判断された。
なお、本件審理にはカナダ環境法協会(CELA)が参加して、環境・倫理等の面から特許反対を主張したが、判決の結論に影響するには至らなかった。
控訴審判決に対するカナダ最高裁への上告が期限(10月2日)までになされたか否か本稿作成の時点では確認できていない。
〈参考文献〉
BNA International Inc.
"WORLD INTELLECTUAL PROPERTY REPORT"
'Federal Court of Appeal Rules Oncomouse Patentable'
(Page 319-320, Volume 14, Number 10, October 2000)
1. TRIPs協定加入準備、2. 特許権の司法、行政両面における保護強化、3.対特許庁手続きの簡素化、の3つの観点から下記の特許法改正が行われた。
1. TRIPs協定加入準備
1)特許権の保護範囲を「販売の申し出」を含むように拡大中国特許法第11条が、「販売の申し出」を含むように改められたので、特許製品または特許方法によって直接得られた製品の販売の申し出は、改正特許法の下では特許権の侵害を構成する。(TRIPs協定第28条に符合)
2)特許権付与の可否の決定に特許復審委員会の審判が利用可能特許権付与の可否決定に関する中国特許庁の特許復審委員会の審判は、これまでは、それが発明に付いての特許権または特許出願である場合にのみ利用可能であったが、これが実用新案、意匠を含むすべての特許権または特許出願についても認められるようになった(改正特許法第41条、46条)。(TRIPs協定第32条に符合)
3)訴訟前の仮処分が可能
仮処分は、特許法、民事訴訟法のいずれによっても、これまで不可能であったが、改正法の下では、訴訟を提起する前に、侵害行為の一時的差し止め命令と証拠保全の申立を裁判所に対して行うことができる。特許権者または利害関係人は、裁判所が仮処分請求を認めた時点から15日以内に訴訟を提起しなければならないこととなった。(改正特許法第61条、TRIPs協定第42条に符合)
2. 特許権の司法・行政両面における保護強化
1)第三者による使用または販売は最早免責されない
現行特許法においては、特許製品が特許権者の承認なしに製造または販売されたことを知らない第三者は特許権の侵害に対して責任を問われない。特許権者が第三者の過去の悪意を立証することは困難であり、この規定は現行法の施行時点から論争の的であった。改正法によって特許権者は前記の第三者に業としての侵害行為の差し止め命令を求めるとともに、状況によっては金銭による場合を含む損害賠償を求めることが可能となった(改正法第63条)。
2)損害額決定の法定化
現行特許法にはこれに関する規定はなく、損害額の決定は最高裁判所の命令によって司法手続において取り扱われてきた。改正特許法は第60条においてこの点を特定した。それによれば、特許権の侵害によって発生する損害の額は、侵害に起因する特許権者の損失、または、侵害に由来する侵害者の得た利益にしたがって計算される。それが困難な場合は、当該特許に設定される実施契約のロイヤリティーに妥当な倍数を乗じた額として計算される。これは、民事訴訟法の一般原理を反映した画期的な改正である。前記新第60条においては、特許権者の蒙った損害は、最早実際の経済的損失のみに限定されることはない。これは、中国の消費者保護法によって、損害の理論が継子扱いされて以来の注目に値する改正である。
3)特許管理機関AAPAの役割の明確化と強化
AAPA(Administrative Authorities for Patent Work)は、差止命令に関連する特許権侵害紛争のみを取り扱う。AAPAは、侵害者に対し、侵害行為の即時停止を命じることができ、利害関係人はこれに対して、行政訴訟法を根拠にAAPAを相手取って裁判所に訴えを起こすことができる。他方、AAPAは当事者の要請に応じて損害の額を調停することができ、この調停が不調に終われば、当事者は民事訴訟の手続に移行することができる。改正特許法第57、58条によれば、AAPAに更に次の権限を付与した。
T. 他人の特許を自己の特許と偽った者を処罰すること
U. 特許されていない製品または方法を特許されていると偽った者を処罰すること。
3. 対特許庁手続きの簡素化
1)実用新案に関する特許侵害紛争の解決のための調査報告書の提出要請実用新案特許は実体審査が行われずに権利設定がなされるので、実体審査を受ければ無効にされることを承知の上で、これを出願して競争相手の正当な活動を妨げるケースがある。改正特許法第57条は、実用新案制度の悪用を防止するために、侵害が実用新案特許に関係する場合は、裁判所またはAAPAが実用新案の特許権者に中国特許庁に調査報告書の提出を求めることができることとなった。
2)中間手続きの簡素化
T. 現行特許法の下では、特許付与の日から6箇月以内の特許取消し制度と、前記6箇月の期間経過後、特許権満了前機関に亘る特許無効請求制度が存在するので、特許取消し請求が、特許無効請求の手続き阻止する目的に悪用されるケースがあった。改正特許法では、特許取消し制度を廃止し、特許付与後の特許無効請求制度のみに一本化することとした。
U. 外国における調査および審査結果提出の非法定要件化
現行特許法においては、中国以外の国へのカウンターパート出願を伴う出願の場合には、審査請求時に前記の調査結果または審査結果を文書として中国特許庁に提出することが義務付けられており、正当な理由がなくこれを怠ると出願取り下げとみなされた。
改正法によれば、中国特許庁は、前記文書の提出を特定の場合にだけ出願人に求めることができるように改められた。これに対応を怠れば、やはり出願は取り下げたものとみなされる。
〈参考文献〉
BNA International Inc.
"WORLD INTELLECTUAL PROPERTY REPORT"
'Narrowing Patent Claim Won't Cure Misrepresentation on Inventorship'
(Page 322-323, Volume 14, Number 10, October 2000)
2000年6月14日に韓国特許庁(KIPO)は、韓国商標法(KTA)および不正競争防止法(UCPA)に関する改正案、さらには登録・未登録を問わず著名商標の希釈化や名声が害されることを防止する新たな希釈化防止基準について討議するために公聴会を開いた。この改正は、商標の国際登録に係るマドリッド条約の議定書(以下、議定書という)および商標法条約(TLT)へ韓国が加盟する意図を示したものと考えられる。韓国は2001年の年末までに議定書およびTLTへ加盟し、これらの改正案は2001年7月1日には実施される予定である。改正の主要な点を紹介する。
1. 議定書に関連した改正
我が国商標法第68条の2〜同第68条の39の特例に準じた法改正が行われると思われる。
1)国内登録における保護
改正案では、国際登録出願に基づく韓国商標出願の出願人には、その商標が国内で登録になるとすぐに損害を請求する権利が与えられる。これは議定書の第4条(1)(a)項に対応したものである。また、金銭的な損害は、侵害者に対して警告書が発送された時から商標が登録されるまでの期間に権利者が受けた遺失利益と等価である。韓国商標出願または国際登録への移行のコピーを添付すれば、商標出願の公開前であっても警告書を発行してもよい。
2)KIPOを本国官庁とする条件
韓国の国籍を有する者または韓国に居住する、あるいは韓国に会社の事務所を有する外国人は誰でも、KIPOに係属中の商標出願または登録商標を基礎としてKIPOを通じて国際商標を出願することができる。言語は我が国同様英語となるのではないかと思われる(未確認)。
KIPOは、国際出願に開示されている内容が親出願または登録商標の内容と対応しているか否かを審査し、その後、国際事務局へ発送する。
3)KIPOを指定官庁として指定する条件
韓国を指定する領域指定は、国際登録日に韓国で出願された商標出願としてみなされる。これは我が国も同様である(69条の9)。
4)商標登録の存続期間
国際出願を基礎とする韓国商標登録の存続期間は、国際登録日から起算して10年である。これは我が国も同様である(69条の21)
2. 商標法条約に関連する改正
商標法条約は手続きの簡略化を推進するための協力条約といえる。そのため、韓国でも商標法条約に答えるべく種々の要件を緩和する予定である。
1)形式的要件の削除
現行のKTAでは、商標を出願した法人の代表者名と、願書に出願日が記載されていることを要件としている。改正案では、上記のような情報は、例えば、新規商標出願、更新出願、および異議申立て時に必要ない。
2)更新手続きの簡素化
現行のKTAでは、既に更新出願に対する実質審査の要件は削除されている。しかしながら、国際分類に関する限り、登録のための更新出願では、1998年3月1日に韓国で採用された国際分類(ニース分類)をまだ使う必要がある。TLTにおいて更新出願の実質的審査をまったく行わないと仮定した場合、改定案では登録の更新が更新料の支払いのみに基づき有効となると提案している。さらに、改定案において、更新出願では登録されたのと同じ国の区分を使用することが許可されている。そのため、登録者は、以前の韓国の分類を使用することにより、登録時に含まれていた商品および役務の全てを包含する更新出願を行うことができる。
3)補正
TLTの第14条と調和して改正案では、出願に内在する欠陥によって商標出願を差し戻す前に、出願人にはその出願を補正する機会が与えられる。その補正によって欠陥が修正されれば、補正の提出日が韓国の出願日とみなされ、修正されない場合にはKIPOはその出願を差し戻す。
3. 商標法の希釈化防止についての改正
1) 現行のKTAの第7条(1)(xii)項では、不正目的のための外国商標と同一または類似商標の登録を保護していない。この規定は希釈に対する商標の保護が不十分であると認識されている。従って、改正を行う予定である。我が国の改正された商標法第4条1項19号に類似の規定となる予定である。
さらに、改正案では、他者の商標を希釈させる行為を侵害行為として扱う。
2) 韓国で登録されていない著名商標について保護を求める場合に現行の
UCPAでは著名商標の所有者は、自身の商標の地位が著名であることを証明する要件に加えて、混同の可能性があることを証明する必要があった。このような負担から開放されるように改正が行われる。さらに、従来では未登録の著名商標に対する希釈行為の保護には言及していなかったが未登録の著名商標も保護が計られることとなる。
4. その他の改正
1)登録要件の緩和
我が国の商標法第3条2項のような使用による登録制の規定を設けることとなった。
2)一般的または記述的な商標の取り消し
更新における要件が緩和されることで実質独占性になじまない商標が残る可能性がある。改正案では、商品または役務に対する登録商標が一般的または記述的になる場合、その商標の登録を取り消すための嘆願書をいつでも提出できるという改正を加えることとなった。
3)損害の額
改正案では、原告が期待していた1つあたりの利益と侵害がなければ販売することができた商品の数量とを掛けることによって損失額を計算してもよいこととし、損害額の算定を容易にした。
4)犯罪の罰金の増加
改正案では、商標の侵害に対する罰金の最高額を50,000,000ウォン(約500万円)から100,000,000ウォン(約1千万円)まで増やす予定である。また、最長投獄期間を5年から7年に延長することを提案している。
〈参考文献〉
BNA International Inc.
"WORLD INTELLECTUAL PROPERTY REPORT"
'Korea to Join Madrid Protocol, TLT, Adopt Anti-Dilution Safeguards'
(Page 325-327, Volume 14, Number 10, October 2000)
CAFCは8月29日に発明者についての不実記載に基づく不平衡行為(Inequitable
Conduct)は、発明者を適正なものとするようにクレームを限定する訂正によっては救済されない、と判示した。
特許権の行使不能という地裁判決を肯定して、CAFCはこの問題は発明者記載自体の問題ではなくて、発明者の不実記載であると指摘した。CAFCによると、記載された発明者による虚偽の宣言の重要性は発行された特許の発明者を訂正することで決定されるものではない。ニューマン判事はこれに反して、多数説はクレームが発明を決定するという役割を無視し、矮小化しており、inventorshipを否定した不合理で支持できない判決をおしつけるものであると述べた。
行使不能と判断された特許PerSeptive Biosystems Inc.は血液の分離に関する高速のクロマトグラフィについての3件の特許権者であり、これらは全て3人を発明者として示された同一の特許出願から生じた権利である。PerSeptiveはPharmacia
Biotech社を特許権侵害で訴えた。Pharmacia Biotech社はこの特許は正しい発明者の名前を欠いており、無効であって、記載された発明者によるInequitable
conductに基づいて行使不能であると反論した。
1996年1月に地方裁判所はこの発明者については正確ではなく、この特許が無効であるという判決に傾いていた。これは2人の別の発明者が詐欺的な意図をもって削除されたかどうかについての事実の論争を引用していた。裁判所はPerSeptiveの特許法256条に基づく発明者の訂正のモーションを否定した。
CAFCは1997年にStark v. Advance Magnetics Incにおいて、256条は削除された発明者の部分について、詐欺的な意図がない場合に発明者の訂正が認められ、そして記載された発明者の意図については問われることがない、と判示していた。地方裁判所はStarkに鑑みてモーションを再検討した。PerSeptiveの256条のモーションの否定を取り消し、記載されていない発明者の意図について証拠が導かれていないと結論した。しかしながらその特許は行使不能である、というのは記載された発明者がその特許出願の手続きにおいてinequitable
conductに関与していたからである。PerSeptiveは控訴した。訂正についての救済がないこと連邦裁判所は、発明者についての問題も出願手続きにおいてクレームの範囲を限定することによって救済される、とするPerSeptiveの議論を否定した。判事Clevengerは次のように判示した。
第1に、発行された特許の発明者が正確かどうかということはこの事件の宣言についての重要性を決定するものではない。隠されていた先行技術が特許を実際に無効にするかどうかということが重要でないことと同様である。第2に、意図的な虚偽の陳述の重要性は特許のクレームとは無関係である。クレームを限定することは誤った宣言の重要性をなくするというPerSeptiveの議論に同意することは、問題を誤った方向に導くものである。従ってこの問題は発明者自体の問題ではなくて発明者の不実記載であるということである。地方裁判所は、発明者の問題について記載された発明者が意図的に特許庁へ虚偽及び削除の表示を行ったと認識している。このような記述が重要であるという見解についての地方裁判所の中に明確な誤りは見られない。
最後に連邦地方裁判所は特許を行使不能と判断するについての権限を乱用しているものではない。Clevenger判事は、地方裁判所が見出した5つの意図的な虚偽についての少なくとも5つの例、これらは全て記載された発明者自身が正しい発明者であるかどうかについての中心的な問題である、について指摘した。
Inequitable conduct についての地裁判決は肯定された。
〈参考文献〉
BNA International Inc.
"WORLD INTELLECTUAL PROPERTY REPORT"
'Narrowing Patent Claim Won't Cure Misrepresentation on Inventorship'
(Page 333-334, Volume 14, Number 10, October 2000)
以上