●国際活動委員会からのお知らせ

〈米国〉
外国で正当権利者によって実施されたものであっても、
その米国への輸入は271条(g)項の侵害の責任を負う


プロセス特許に関する、271(g)の規定における侵害責任は、外国における正当権利者によってプロセスが使用されたものであっても、その製品を米国で正当な権限なく輸入する場合にも生ずる(2000年10月3日のCAFC判決、Ajinomoto Co. v. Archer-Daniel-Midland Co Fed. Cir., No 99-1098, 10/3/00)。
[事実]
以前のソヴィエト連邦の研究機関であるGenetikaの研究者は、動物補助飼料に使用されるアミノ酸スレオニンを過剰に製造するE. Coliバクテリア株の修飾方法を開発した。そして1978年にソヴィエト発明者証を得た。対応する米国特許は1981年に発行された。Genentikaは'765特許の米国での権利を味の素社に譲渡し、スエーデンでは、ABPインターナショナルにプロセスの使用のライセンスをした。家畜の補助飼料の製造業者であるADM社は、1993年にABP社から得たバクテリア株を使用してスレオニンを製造し始めた。
味の素社は35USC271(g)に基づいてADM社を訴えた。根拠はADM社によって輸入されている遺伝子工学的に得られたバクテリアは'765特許に基づき製造されたとするものである。
地裁判事は特許権の侵害を認め、味の素社に損害賠償を認めた。
[CAFCの判断]
271(g)の規定は米国内での正当な権限のない(unauthorized)行為に適用される。外国で正当に実施された製品かどうかは関係ない。外国で製造させた製品が米国のプロセス特許にカバーされているものと同じであれば、その製品の米国への輸入は271(g)の規定により侵害の責任が生ずる。

〈参考文献〉
BNA International Inc.
"PATENT, TRADEMARK & COPYRIGHT JOURNAL"
'Section 271(g) Liability Turns on Imports, Not on Authority to Use Process
Abroad'
(Page 643-644, Volume 60, Number 1494, October 13, 2000)


〈米国〉
インターネットによる音楽配信の寄与侵害
(A&Mレコード有限会社 対 ナップスター有限会社の件、No.00-16401)


ナップスター社は、ユーザー間でのMP3ディジタル音楽の交換が促進されるようにするために、インターネットユーザーに無料でMusicShareソフトウエアを提供している。ナップスター社は、そのサーバーにアクセスするユーザーは誰でも共有できるMP3のファイル名のディレクトリーとインデックスを維持している。使用したいユーザーがファイル名をクリックすると、ナップスター社のサーバーは、使用を要請しているユーザー及びダウンロードのためにファイルを提供している「ホスト」ユーザーに関して、MusicShareプログラムに伝達する。こうして双方のユーザー間の接続を容易にし、両方のユーザーは他に何もしなくてもファイルのダウンロードが開始される。双方の接続に必要なステップはナップスター社のサーバー無しには不可能だけれども、MP3ファイルは、事実上インターネットを通じて双方のユーザー間で配信される。A&Mレコード有限会社及びその他十数社の大手レコード会社は、寄与的及び代償的な著作権侵害の件で、ナップスター社に対して訴訟を起こした。さる7月、カリフォルニア北地区管轄の連邦地方裁判所のMarilyn Hall Patel判事は、レコード会社側が、ユーザーによる著作権の直接侵害に関するナップスター社の寄与的及び代償的侵害を立証するであろうと表決した後に、仮差止命令を発令した。
ナップスター社が控訴し、連邦第9区巡回控訴裁判所は、「差止命令の理非と形式とが第一印象による実質的な疑問を残す」ことに基づいて差止命令を停止した。
[ナップスター事件はソニー事件の類推に拠る]
第9巡回控訴裁判所はその停止命令を継続するか、それによりその審理の間ナップスター社が業務を継続することを認めるかどうかの争点について口頭弁論を審理した。
ニューヨークの ボイズ・シラー&フレクスナー事務所のDavid Boies弁護士はナップスター社のために次のように主張した。
(1) いかなる侵害ユーザーもナップスター社とは直接関係はなく、商業活動には従事していない。
(2) ナップスター社は実質的に非商業的・非侵害使用の可能性がある技術を提供している。
(3) 消費者は非商業ベースで音楽を共有している。
(4) ナップスター社はそのユーザーの侵害行為の明確な所在についての知識或いはそれを知る方法を持たないインターネットのプロバイダーである。
Boies弁護士はナップスター社のサービスを、ソニー・アメリカ対ユニバーサルスタジオ事件(464U.S.417 (1984))において著作権の寄与侵害とはならなかったビデオカセットレコーダーの販売に例えた。同事件における新技術のごとく、たとえいくつかの侵害使用が起こるとしても、本事件における技術は実質的な非侵害使用の可能性がありさえすればよいと、Boies弁護士は主張した。技術が急速に進歩している場合、本事件においてこのことは特に重要であると、Boies弁護士は示唆した。Boies弁護士によると、寄与侵害は特許法においては制定法上の問題であるが、著作権法においては裁判官が創った法理である。Boies弁護士によると、特許の領域においてでさえ、ソニー事件の判決は、告発された製品が寄与侵害であるためにはその製品が侵害以外の目的を持つべきではないと述べている。彼は、その製品についての寄与侵害の認定は、その製品をカバーする特許独占権を拡張することと"機能的に均等"であると説明した。上級判事であるRobert R. BeezerはBoies弁護士に対し、彼がナップスターを"機械装置"、"製品"あるいは"サービス"とみなしているのかどうか尋ねた。Boies弁護士は、ナップスター社が提供する楽曲のディレクトリーは製品であるが、ナップスター社が提供する接続はサービスであると述べた。そして、そのサービスは装置であるナップスター社のサーバーを含むと述べた。しかしソニー事件の判決は物質的な装置に限定していないと主張した。Beezer判事は、訴訟代理人は、ソニー事件のもとでは、ユーザーが望む限りナップスターは機械装置として機能し得ると述べるであろうと示唆した。提案は侵害及び非侵害的要素の双方を禁止しており、それは以前の制限であると指摘しながら、差止命令は広範過ぎるとBoies弁護士は答弁した。
[ナップスター社のコピーに関する認識]
Beezer判事は、レコード会社の弁護士であるロスアンゼルスのミッチェル、シルバーバーグ&クナップのRussell J. Frackman弁護士に対し、寄与侵害の証明に必要とされる「認識」に焦点を絞るよう強調した。ナップスター社がいかに「ニュージャージー、ハッケンサクのある若者とグアムの誰かとがシェアしている音楽ファイル」について知り得るのか。Frackman弁護士は、ナップスター社は侵害するためにそのシステムを設計したのであるから認識していると答弁した。「ナップスター社は、正当な使用のために設計したと言っている。」とBeezer判事は口を差し挟んだ。Frackman弁護士は、審理で提示された証拠が、ナップスター社は「著作権侵害の音楽を交換」するためにそのシステムが使用されるだろうことを認識していたことを示していると論じて、それに異議を唱えた。Mary M. Schroeder判事は、差止命令の発効はナップスター社の操業を停止することになるかどうかを知りたがった。地方裁判所のパテル判事はそうは思わなかった、とFrackman弁護士は答弁した。しかし、もし「大量の侵害」があれば、仮差止の段階でもその様な結果(操業停止)は認容できるので、それは関係ないと主張した。Frackman弁護士は、ナップスター社がその実質的な非侵害使用が可能であると主張しているのに対し異議を唱えた。ナップスター社は、SonyのVCRのように装置でもなければ製品でもない。ナップスター社は、顧客が所有している何百万ものレコードを何百万もの人々に配信するために、古い技術に必要な手段を提供するビジネスプランである、と彼は言った。ナップスター社は、ユーザーに彼らを互いに接続可能にするInternet Protocolを提供しているとFrackman弁護士は続けた。Fenovisa Inc.対Cherry Auction Inc., 76 F. 3d 259, 37 USPQ 2d 1590(9th Cir. 1996)において、彼らの模造の録音物が売られていることに対し寄与責任があると判決が下った古物交換のオペレーターにあったと同程度の侵害行為の認識がナップスター社にはあると彼は説明した。古物交換オペレーターは、誰がその敷地に入るかをコントロールできるので、あの判例とは異なるとBeezer上級判事は示唆した。ナップスター社は、誰がオンラインになるかは分からない。ナップスター社は著作権を取得したmaterialが取引されていることを知っているとフラックマン弁護士は反論した。そのうえ、侵害を立証するためにあらゆる侵害物を確認する必要はない。Frackman弁護士は、ナップスター社によって確認された実質的な非侵害使用を斟酌した。Frackman弁護士によると、ナップスター社の"new artists"プログラムの下で許可を得て譲渡された録音物はナップスター社の商取引のわずか1.2%に過ぎない。この件に関していつ判決が下されるのか当面のきざしはなかった。

〈参考文献〉
BNA International Inc.
"WORLD INTELLECTUAL PROPERTY REPORT"
'Napster Oral Argument Debates Internet Contributory Infringement'
(Page 362-363, Volume 14, Number 11, November 2000)

〈米国〉
クレームは明細書に記載された構造に制限されるため
侵害しないとされた判決(Wattsv. XL Systems Inc)


パイプの部分を接続するための方法に向けられたクレームは明細書に記載された構造に制限されるので侵害しないとUSCAFCが判断した。本件は、地裁でクレームの"sealingly connected"の表現がfunctionalであるので、means-plus-functionであると考えられて実施例に限定すべきとした判断を、CAFCは"means"を使っていないので、means-plus-functionではないとして覆した。しかしながらクレームの"external threads dimensioned such that one such joint may be sealingly connected directly with another such joint"という表現は"dimensioned such that"という言葉を使っているので不明瞭であり、従って明細書の中身を参照すべきであって、実施例の中の具体的な構造に限定すべきであると判断した。「・・するような寸法を持つ」という表現は機能的表現であり、請求範囲を広く取るためにむしろ推奨されたクレームドラフティングの手法であったといえる。
しかしこのCAFC判決によると、「・・のような寸法を持つ」という表現は不明瞭とされて、結果とし、方法のクレームであるにもかかわらず、実施例の構造に限定されてしまった。
一般に機能的表現はクレームを広くとるものとされているのであるが、この判決はそのpracticeに対する警告を示すものである。その意味で新しい米国のクレーム解釈が限定的な方向に動いている現在の動向を示す。尚、更に最近Festo v.焼結金属工業の件で、prosecution history estoppelを102条および103条以外のすべての補正に対して認めることとし、更に補正されたクレームに対しては均等論を適用しないという厳しい判断がでている。これらの一連の傾向は米国の権利行使が従来よりも権利者に対して厳しくなっていることを示す。従って特許担当者の能力によって権利行使の可否が決まる可能性が高まった。

〈参考文献〉
BNA International Inc.
"PATENT, TRADEMARK & COPYRIGHT JOURNAL"
'Claims Were Not Infringed As Limited To Structures Defined in Specification'
(Page 80-81, Volume 61, Number 1500, November 24, 2000)

〈台湾〉
台湾における異議、取消し、職権審査についてのガイドライン

台湾の知的所有権省は、特許審査のガイドライン(異議申立て、取消し及び職権審査)に関する第9章を補完し、2000年7月10日に公布した。ガイドラインは発明、実用新案、意匠に対する異議申立て、取消し、職権審査に適応するものであり、下記領域をカバーする。
● 異議申立て、取消し、職権審査及び関連する立法
● 異議申立て、取消し、職権審査の初期条件(申請人の条件、時期的制限、取消し・異議申立てのための事実・証拠の記録及び補正、同一の理由及び証拠に基づく審査を繰り返さない)
● 異議申立て、取消し、職権審査の取扱い(答弁書、審査官との面会、及び侵害の場合の取り下げ、審査中の申請者の行動、証拠のルール)
● 異議申立て、取消し、職権審査の決定、取消しではないとの決定(最初の取消しではないとの決定を取消したあとの新しい決定、取消しではないとの決定の効果)
近年、異議申立て、取消しの件数は増加しており、新しいガイドラインが必要となった。
[特許における新規性の解釈]
特許法の第20条第1段落第1項及び第98条第1段落第1項は新規性に関する規定であり、出願日前にその発明の内容が出版されている場合には新規性がないとみなされる。ただし、その開示及び使用が研究・開発のためであり、出願日から6ヵ月前であれば、新規性喪失の例外とする。特許法の第20条第1段落第3項及び第98条第1段落第3項は展示・出展さ
れたものは新規ではないと規定しているが、かかる展示が政府の後援または認めたのもであれば、6ヵ月以内に出願すれば、新規性は喪失しないものとする。IPOは審査のガイドラインにおいて、新規性に関する下記の質問に答えている。
● 使用とは異なる展示:不特定多数の者が見ることができる公共の場にただ置かれていること。
● 不特定多数の者が見るため、ある期間、その物体またはイラストを集めた展示である。
● 展示期間中、不特定多数の者が見るため、物体、イラストなどとして展示された発明、実用新案。アイテムの展示された期間、発明・実用新案の内容が不特定多数の人々に公知になったものが実体のないもの。
● 政府がスポンサーまたはROC(Government of the Republic of China)がスポンサーになっているか、ROCのエージェンシーにより是認され、許可されたもの。展示における、展示されたアイテムの新規性については、IPOは2000年6月20日、次のような説明を加えた。
● ROCと相互関係を結んでいる国々の原則と一致させるため、政府がスポンサーとしているもの、認識している展覧会でも、政府のエージェンシーがスポンサーとして名をつらねており、政府のエージェンシーの協力または委任のあったものに限定される。
● もし、そのものが販売用として展示されていたのであれば、「出版公知、博覧会公知」とはみなされない。博覧会には一般への販売用のものは含まない。
[日本人の出願人及び発明者の名前の漢文表記について]
特許法・特許規則では、特許出願は漢文で記載されていなければならない。出願人が外国人である場合には、出願人・発明者の名前は中国語に翻訳しなければならず、詳細はIPOが定める。出願人または発明者が日本人である場合には、その名前の漢文表記は伝統的な簡略されていない漢字表記に限定されず、日本式漢字表記も含む。正確なデーターはIPOにある。2000年7月6日、IPOは日本人の出願人の名前を伝統的な漢字表記にすることを求めた。データーの正確性を求めるために、IPOは必要な場合には伝統的な漢字を使用する。
[IPOが外国特許・商標出願のための身分証明の簡略化]
2000年6月23日、IPOは外国の出願人により提出された会社または個人の証明の要求を簡素化することを明らかにした。簡略化された処理は特許出願・商標出願のすべてのタイプに適応される。これにより、代表者または出願人により署名された代理人(弁護士)への委任状、出願人の国籍は認められる。委任状の公証人による証明などは必要としない。しかし、IPOは出願人に、認証された宣誓書の提出が必要である。宣誓書は5年間有効である。

〈参考文献〉
BNA International Inc.
"WORLD INTELLECTUAL PROPERTY REPORT"
'Guidelines Issued for Oppositions, Cancellations, EX Officio Exams'
(Page 358-359, Volume 14, Number 11, November 2000)


以上