● 国際活動委員会からのお知らせ
関連出願において、特許庁審判インタフェアランス部が、スウェアビハインド(swear
behind:先行技術文献適用を回避するために行なう、現実出願日よりも前の有効日適用の主張)による、CIP出願の基礎となった親出願日の享受の主張を認めなかったことを、情報開示しなかったことは、インイクィッタブルコンダクト(inequitable
conduct:不公正な行為)に該当し、特許権の行使は許されないとした地裁判決を、CAFCは支持した(2000年11月8日)。
1. 事実関係
Li Second Family Limited Partnership(以下「リ社」という)は、自社が有する、半導体ディバイスの製造方法に関する米国特許第4,946,800号(以下「800号特許」という)に基づいて、Toshiba
Corpを、ヴァージニア州東部地区連邦地方裁判所に特許権侵害で提訴した。リ社は、800号特許の製造方法を利用して製造される半導体ディバイスについては、米国特許第4,916,513号(以下「513号特許」という)を有している。513号特許となる出願(以下「第1出願」という)の出願手続中に、審査官から新規性及び進歩性の欠如を理由とする拒絶理由通知があり、リ社は、スウェアビハインドによるCIP出願の基礎となった親出願日の享受を主張したが、この主張は、審査官及びその後の審判手続での審判官によって認めてもらえなかった。
800号特許となる出願(以下「第2出願」という)の出願手続中にも、同様な拒絶理由通知を受けたので、リ社は、又もやスウェアビハインドによりCIP出願の基礎となった親出願日の享受を主張したところ、第2出願の担当審査官は、この主張を認めた。リ社は、第2出願の出願手続中、関連出願として、第1出願の存在を書面で審査官に報告してあったが、第1出願に対してなされた、スウェアビハインドによるCIP出願の基礎となった親出願日の享受の主張を認めなかった審決の存在は、書面で報告していなかった。
2. 連邦地方裁判所の判決の概要
リ社が、第1出願に対する、スウェアビハインドによるCIP出願の基礎となった親出願日の享受の主張を認めなかった審決について、第2出願において書面又は口頭で情報開示しなかったことは、Inequitable
Conductであり、リ社は、第2出願に基づく特許権の行使はできない。
3. CAFCの判決理由概要
3-1. リ社が第2出願に提出した関連出願報告書面における第1出願の言及は、第1出願において引用された先行技術文献との関連でなされたものであり、第1出願に対する審決について言及はなされていないので、リ社は、この関連出願報告書面によって、第2出願の審査官に第1出願に対してなされた審決を、充分には情報開示していてはいない。
3-2. リ社は、第1出願に対する審決では、スウェアビハインドによるCIP出願の基礎となった親出願日の享受の主張を認められなかったにも拘わらず、関連出願報告書面を添付した第2出願の回答書で同様なスウェアビハインドによるCIP出願の基礎となった親出願日の享受を意図的に再主張した。
3-3. リ社は、第2出願において、出願を担当した特許弁護士が、問題となった審決を審査官に口頭で大要を伝えたと主張するが、米国特許商標庁に対しては、手続をすべて書面で行なう必要があり、審査官との面談の内容を書面による記録に留めるのは、審査官が自分で行なうことを示さない限り出願人の義務である。
3-4. 情報開示義務は、重要な情報(material information)についてのみ適用があるが、有効出願日(effective
filing date)は、先行技術文献が引用可能かどうかを決定するので、出願人のスウェアビハインドの主張は、重要な情報に当たる。
3-5. リ社は、スウェアビハインドによるCIP出願の基礎となった親出願日の享受の主張が認められなくても、第2出願に基づく特許は特許性があると主張するが、たとえ、そうであったとしても、米国特許商標庁に対する情報隠蔽は、重大であり(2
USPQ 2d 2015)、Inequitable Conduct責めを免れることはできない。
3-6. 重要性の基準は、通常の審査官であれば、情報を重要と考えたかどうかであり、その情報により最終的に特許性の問題を決するかどうかではない。
〈参考文献〉
BNA International Inc.
"Patent, Trademark & Copyright Journal"
''Failure to Call Board Decision to Attention Of Examiner Was Inequitable
Conduct'
(Page 62-63, Volume 61, Number 1499, November 17, 2000)
2000年11月29日、米国連邦巡回控訴裁判所(CAFC)の大法廷は、フェスト(Festo)事件の判決を言い渡したが(Festo
Corp.対Shoketsu Kinzoku Kogyo Kabushiki Co., No.95-1066, 2000 WL 1753646,
-F.3d-, -U.S.P.Q.2d-(2000年11月29日CAFC))、その判決によって特許侵害事件における特許クレームへの均等論の適用に厳しい制限が置かれることになった。大法廷判決であるので、これまでの判例は、今回の判決の内容の範囲で覆されることとなる。出願経過禁反言は、特許出願手続において特許を受けるために発明者がクレームについて意見を述べるとき又は補正をするときに生じる。発明者が特許クレームに対する拒絶理由を克服するために補正によって発明の一部を放棄した場合、又はクレームを減縮解釈するような意見を提出した場合、発明者はその後、放棄したクレーム範囲を復活させるために均等論の適用を求めることはできない。近年CAFCは、特許クレームに対する先行技術に基づく拒絶理由を克服するための補正(たとえば、先行技術から区別するためにクレーム構成要素を追加又は限定すること)により、そのクレーム構成要素に関して均等論の適用がまったく排除されるべきものなのか、それともある程度の均等論は残されるのかについて議論を重ねてきている。
フェスト判決によりこの論争に幕が下りた。フェスト事件において裁判所は、特許性に実質的に関与する拒絶理由に対するクレームの補正であって、そのクレームの範囲を狭めるものがあれば、結果として均等論の適用は全く受けられないという考えを採用した。限縮補正されたクレーム構成要素に関していえば、特許権者が均等論に依拠することは完全に不可能となった。したがって、現存する圧倒的多数の特許が出願手続中に少なくとも1回は補正されていることからして、フェスト判決は均等論に基づき権利行使できる範囲を大幅に狭め、特許の価値を低下させる可能性がある。更に、出願経過禁反言を最小限に押えるために、今後の特許出願手続を注意深く行うことが必要となっている。
CAFCは、この事件の争点を検証するとともに、更に均等論に関する次の4つの問題点を追加的にまとめ、答えを求めた。
1. クレームの補正が出願経過禁反言を構成するか否かを判断する限りにおいて、「特許性に関する実質的な拒絶理由」(Warner-Jenkinson
Co.対Hilton Davis Chem. Co.判決、520 U.S. 17, 33 117 S. Ct. 1040, 137 L.Ed.
2d 146(1997年)を参照)は、米国特許法第102条又は第103条に基づく先行技術を克服するための補正に制限されるのか、それとも「特許性」は特許許可に影響を与えるあらゆる理由を意味するのか?
2. ワーナー・ジェンキンソン判決のもとで、「自発的」クレーム補正、すなわち、審査官に要求されずに、又は審査官が述べている拒絶理由に応答するために行われた補正は、出願経過禁反言を構成すべきなのか?
3. クレーム補正が出願経過禁反言を構成するとして、ワーナー・ジェンキンソン判決のもとで、補正されたクレーム要素に均等論に基づく均等が存在している場合に、それがどのような範囲で得られるのか?
4. 「(補正クレームについて)何の説明も立証されない」ため(ワーナー・ジェンキンソン判決、520
U.S. at 33, 117 S. Ct. 1040)、ワーナー・ジェンキンソン判決のもとでの出願経過禁反言の推定が働くとして、補正されたクレーム要素に均等論に基づく均等が存在している場合には、それがどのような範囲で得られるのか?
これに対してCAFCは、次のように答えた。(1)特許性に関する実質的な拒絶理由は、先行技術を克服することに制限されず、特許取得のための制定法上の要件に関するすべてを含む。(2)自発補正は、審査官が要求した補正と同様に取り扱われる。(3)クレームの範囲を減縮する補正は、補正されたクレーム構成要素に関していえば、直ちに均等論がまったく適用されなくなる。(4)ワーナー・ジェンキンソン判決で最高裁判所は、「説明されていない補正」も同様に均等論への依拠を妨げるものである、と述べている。
これらの答えから、均等論の分析のためのテストが導き出される。第1に、裁判所は、特許されたクレームが補正された理由を説明するための内在的な証拠(Intrinsic
Evidence)の記録(すなわち、特許請求の範囲、明細書、出願経過記録)に注目する。内在的証拠から理由を確かめることができなければ、均等要素によって補正された構成要素が満たされるとはいえない。補正が実質的に特許性に関与していれば、裁判所はそれがクレームの範囲を狭めるのかを判定する。狭めているものであれば、そのクレーム構成要素は、均等論に基づいて侵害しているとされている製品や方法に匹敵するものとはいえず、文言上の侵害の要件が満たされていることが必要となる。補正が減縮補正でない場合にのみ、又は補正理由が特許性に実質的に関わるものでない場合にのみ、均等論に依拠できる余地が生まれる。
ヨーロッパコミッション(以下EC)は、去る10月19日ソフトウェア特許の特許性に関するハーモナイゼーションの必要性を調査すべく協議を開始すると発表した。
これは、米国において付与されたビジネス方法特許の急増に起因するものであり、ビジネス方法特許の発展がヨーロッパのハイテクノロジー部門または急成長を続けるオープンソースソフトウェアにとって何らかの影響があるであろうということに基づく。コメント期限は12月15日である。ヨーロッパ共同体における各国の法律はコンピュータソフトウェア特許に対する特許性について曖昧な状態である。EPCではソフトウェアプログラム自体の特許性を排除している。
欧州特許庁はEPC52条において以下の事項を言明している。「コンピュータで実行される発明が特許されるためには、技術的特徴を有しなければならない、または先行技術に対する技術的貢献を提供しなければならない」。欧州の状況をステートストリートバンク事件後の米国法と対比すると、欧州の特許性はコンピュータで実行される発明が有用な結果、具体的な結果、または現実的な結果をもたらすかどうかを着目するのに対し、米国はコンピュータで実行されるビジネス方法特許は、それらがコンピュータプログラム技術のいかなる利点を具現化するかどうかに関わらず特許されるという点で相違する。ECは、かかる事項についての方針を決定することを言明した。それには以下の事項に注意されるだろう。
@ 欧州及び他国双方における革新と競争
A 中小企業を含む欧州ビジネス
B e-コマース
C 無料またはオープンソースソフトウェアの創造と普及
また、調査ペーパー「コンピュータプログラムの特許性の経済に対する影響」がロンドンの知的財産権機関によって用意された。このペーパーの著者は米国、欧州及び日本のソフトウェア特許に対して適用される法律を調査した。ペーパーでは、がらくたの特許を付与しているUSPTOを批判している。著者の不満はたぶん先行技術データベースに対するアクセスの不足にある。著者は特に一般の自由なソフトウェア開発者または特別のオープンソースソフトウェア開発者に対するソフトウェア特許法に対する影響を懸念している。
しかしながら、提案はなされていないが、欧州特許法は米国法に従うようモディファイすべきである。
〈参考文献〉
BNA International Inc.
"World Intellectual Property Report"
'Commission Begins Consultations on Harmonization of Software-Patent
Laws'
(Page 389, Volume 60, Number 1494, October 13, 2000)
なお、11月29日にリリースされたEPCの改訂結果によると、以下の如く取り扱われる。
改訂後の52条においても、コンピュータプログラムそのものは依然として不特許対象として含まれることになる。すなわち、コンピュータで実行される発明の特許性はそれが新規であり、また先行技術に対して革新的な技術的貢献を伴うものでなければならないとする、従来のプラクティスは何ら変更していないままである。その結果、改訂後のEPCにおいては、技術的特徴のないコンピュータプログラムそのもの、及びビジネス方法は特許されないことになる。
2000年9月15日、ソウル地裁はクレジットカード会社によって起こされた訴訟において個人の登録者が「マスターカード」をドメイン名として使用することを永久に差し止める命令を下した。裁判所は、被告がウェブサイトmastercard.co.krを通じてホームショッピングに類似するサービスを提供したものと認め、このようなドメイン名を使用することは原告のビジネスとの間に混同をきたすおそれがあるため不正競争行為にあたるもの、と判断したものである。
同判決は、先に同じソウル地裁によって1999年10月に下された決定、すなわちドメイン名chanel.co.krの使用に対する一時差し止め命令に同調するもので、この一時差し止め命令では第三者の著名な識別名あるいは商標を第三者の同意なしに第三者のビジネスと類似するビジネス分野にかかわるウェブサイトに使用することは不正競争防止法("UCPA"、2000年2月14WIPR46を参照されたい)による不正競争行為にあたるもの、との裁定が下されていたものである。
[混同の可能性要件の緩和]
しかしながら、被告のビジネス(様々なインターネットビジネスに対する電子メールソリューションとマーケティングソリューションとの提供)と原告のビジネスとの違いに鑑み、マスターカード事件が混同の可能性要件を大幅に緩和することになったことは注目に値する。すなわち、マスターカード事件の判決は、これまで例えばViagra事件などにおいて示された韓国裁判所の保守的な態度とは大きくかけ離れたものである、と言える。ちなみにViagra事件においては、双方の販売する商品が異なる、との理由でドメイン名登録のキャンセルを求める商標所有者の要求が却下されたものである。
[反希薄化規則が将来に及ぼす影響]
更に、韓国商標法及び不正競争防止法に対する反希薄化改正が2001年7月1日に発効すれば、他人によって不法占拠されている著名なnTLDドメイン名にかかわる訴訟事件の件数が大幅に減少することが予想される。これは、混同のある、なしにかかわらず第三者によるこのようなドメイン名の使用が登録商標あるいは著名識別名の特徴あるいは名声を損なったり希薄化したりするおそれがあることを示しさえすれば、このようなドメイン名の登録が無効とされることになるからである。
[紛争解決メカニズムの完成も間近]
韓国のサイバー不法占拠対策の分野におけるもう一つの注目すべき前進は、韓国情報通信省内に臨時委員会が設けられたことにみられる。この臨時委員会は韓国ネットワーク情報センター内に管理メカニズムあるいは裁決機関を創設することについて話し合うためのフォーラムを提供することを目的として設立されたもので、ICANN(Internet
Corporation for Assigned Names and Numbers)の規則に基づくUniform Dispute
Resolution Procedure(統一紛争解決手続)に類似するものである。なお、臨時委員会は紛争解決手続き確立に関するプロポーザルを間もなく提出するものと期待されている。
以上