● 国際活動委員会からのお知らせ
〈米国〉
製品クレームは、その製品が製造される方法に限定されない
連邦巡回控訴裁判所判決(Vanguard Products Corp. v. Parker Hannifin Corp.
Fed. Cir., No. 99-1427 12/14/00)
(1)ガスケットの製品クレームのクレーム用語「と一体である」("integral
therewith")は、明細書中および過去の審査経過中において製品の同時押し出し方法に言及されていても、製品の押し出し方法に限定して解釈してはならない。
控訴裁判所は、連邦地方裁判所のクレーム解釈と当クレームに対する侵害を認めた陪審の表決とを容認し、連邦地方裁所が行ったクレーム中の用語を解釈するための辞書的定義の使用を是認した。連邦控訴裁判所は、明細書中および過去の審査経過における同時押し出しに対する積極的な言及は、同時押し出し以外の製造方法を「明確に放棄」したものではないという見解を示した。
(2)連邦地方裁判所における経緯
Vanguard社は、電磁的障害の遮断を指向するガスケットに関する特許(USP 4,968,854号)を保有する。そのクレーム1は、厚いエラストマー層と、「これに一体化された」("integral
therewith")薄いエラストマー外層からなる改良型ガスケットを記載する。
Vanguard社は、Parker Hannifin Corp. が自社の特許を侵害したと主張して、訴訟を起こした。在コネチカット州連邦地方裁判所のAlfred
V. Covello判事は、「これに一体化された」という用語は、Parker社の製品に対するVanguard社の特許権の有効性を阻害しないと結論し、陪審は当特許権がParkerの製品に対し有効であり、当特許権を侵害するとした。Parker社は控訴した。
(3)争点
連邦地方裁判所は、クレームの用語「これに一体化された」は、特許権を特定の製品に限定するものではないと主張した。ここに、特定の製品とは、エラストマー層が「同時押し出し法」、すなわちエラストマー層同士を成形ダイを強制的に通すことによって接合する方法によって製造される製品を指称する。
控訴審において、Parker社は、連邦地方裁判所は、「一体化」という用語の意味を拡張するために、「一体化」の持つ辞書的な定義の不適切な使用を決めこんだと論じた。Parker社は、「これに一体化された」とは、ガスケットを製造するために、同時押し出し法、すなわち、明細書中に示された唯一の方法の使用を要すること、および、クレームが先行技術に読めるとして連邦地方裁判所の判断に対抗した。連邦控訴裁判所は納得しなかった。
(4)控訴裁判所の判断
辞書は禁じられた非本質的な証拠ではなく、クレームを構成する有用な源泉である。辞書の定義は、明細書と審査経過が、発明者または発明が属する技術分野において認識された有用性が、用語に限定された特定の意味を生じさせたことを示すとき、辞書は、裁判所が使用された用語に帰着される正確な意味を決定することを助けるために往々にして有用である。
我々は、「一体化」が当該特許において、その一義的な辞書上の意味に用いられていることを決定する上で連邦地方裁判所が何等過誤を冒していないものと認識する。当該特許明細書は、前記の用語が製品を説明するために使用されており、特別な製造方法の指定として使用されているのではないことを示している。連邦控訴裁判所はまた、Parker社の「これと一体化された」という用語を解釈するための過去の審査経過に対する依存も退けた。Pauline
Newman判事は、審査官と出願人が双方とも製品クレームを、製品それ自体を表現するものとして扱っていること、および、出願もそれにしたがって然るべく審査されたことを指摘した。同判事は次の見解を補足した。
過去の審査経過は、発明者が製品の経済性と同時押し出し法による製品の優秀性を賞賛したこと、および、「私どものシステムは、3層の同時押し出し法による結果として、ただ一回の工程で足ります」と審査官に説明したことを示している。しかしながら、過去の審査経過は、Vanguard社の発明者達が、同時押し出し法によって製造される製品を越えるクレームの範囲を「明白に放棄した」というParker社の議論を支持するものではない。クレーム10は、「同時押し出しされた」ガスケット層を特定して記述している。連邦地方裁判所は、この限定をクレーム1に読み込むことを正当に拒絶している。
製造方法は、たとえそれが、方法上の利点を謳ってはいても製品クレームを特定の方法に限定したクレームに変換するものではない。我々は、"integral"「一体化」という用語はエラストマー層同士の関係を記述したものであって、接合手段を記述したものではないという連邦地方裁判所の判断を支持する。この用語は、クレームを明細書に記載された製造方法に限定するものではない。特許性の基準に合致する新規な製品は、その製品が製造される方法に限定されることはない。
〈参考文献〉
BNA International Inc.
"Patent, Trademark & Copyright Journal"
'Product Claim is not Limited to Process by which Product was Made'
(Page 205-206, Volume 61, Number 1504, December 22, 2000)
〈米国〉
自明性の決定はグラハムテストで支持されなければならない
非自明性による特許の無効という法的な結論を導く場合には、GRGrahm V. Jhn
DEeereco., によって述べられた4つの事実のテストについての見解によって支持されなければならない。
裁判所によれば、これは特に技術的に複雑ではないケースにおいて重要である。このようなケースでは、発明を理解するときの容易性によって、発明者による開示が発明者自身に対して用いられるという後知恵の可能性が増加する。裁判所は侵害の判断を支持したが、更に事実を認識するため無効とした原審を破棄し差戻した。
原審
Chance Co. は2件の特許USP 5,139,368(以下、368特許)及びUSP 5,171,107(以下、107特許)を所有している。それは居住用及び商業用の建造物の土台についての方法であり、特に沈下構造を安定化させるスクリュー型アンカーや金属ブラケットを用いたものである。1989年にRuizと彼の会社Foundation
Anchoring Systems Inc. はChance製品の代理店となることに同意した。
Chanceは1996年にChanceの地域においてRuizが他の製造会社の製品の代理店を申し出たと知ったので、Chanceはその代理店契約を終了させた。Ruizによる他社のスクリューアンカーと金属ブラケットの市場での売買は368特許及び107方法特許を侵害していると考えられた。RuizはChanceを契約違反で訴え、更にChanceの特許は無効であって、侵害していないとする確認訴訟を起こした。Chanceは侵害であるとして訴えた。
ミズーリ州の東部地区地方裁判所のキャサリンペリー判事は、1999年にRuizがChanceの特許のクレーム1〜4と6〜8を侵害しているが、しかしこれらの特許は自明であって無効であるとした。両者は控訴した。
Graham Factors
CAFCによれば、自明性による特許の無効の結論を導くには、Graham v. John Deere
Co., (383US1,148USPQ459(1966))によって特定された以下の4つのテストに基づかなければならない。
1. 先行技術の範囲と内容
2. その技術の通常の知識レベル
3. 先行技術とクレームされた発明の間の相違点
4. 非自明性のsecondary consideration
連邦裁判所は地方裁判所がグラハム分析を実行していないことによる誤りがあるというChanceの主張に同意した。CAFCによれば、それはグラハムについて述べていないだけでなく、その開示と先行技術又は両者によってなされた証言についても分析を欠いている。グラハムテストはこのようなケース、即ち発明がそれほど技術的に複雑ではない場合に特に重要である。
従来技術の範囲
地方裁判所は、Chanceの特許を、スクリューアンカーとコンクリートの脚部でフラーエンドリッパー方法によって使用されているコンクリートの脚部を組合せたグレゴリー特許に教示されている金属ブラケットと桟橋の使用に鑑みて、自明であるとして無効とした。CAFCの判決の中で最初のグラハムテストについてのこの見解を支持して、判事マイケルは地方裁判所はなぜグレゴリー特許とフラーエンドリッパー方式が386と107特許の自明性を決定する先行技術の範囲として適当であるかを説明することを欠いていると述べた。
『地方裁判所は、スクリューアンカーと金属ブラケットを組合せることは容易であると判断したに違いない。というのは、ブラケットの必要性は明らかだからである。結合クレームは古い要素と新しい要素との結合によって構成されるという一般的なルールがあるので、コンビネーションクレームは類似する要素が別々の先行技術特許に見出されることで無効であると宣言することは、103条の下においてすべての実際の特許が存在し得ないという可能性がある。このテストはある要素が他に代わるものとして適当かどうかというものではない。地方裁判所はなぜグレゴリー特許において用いられた金属ブラケットと結合してスクリューフラーとリップラーの方法によるスクリューアンカーを用いることが自明であるかを支持する特別な認定をしなければならない。』
従来技術のレベル
当業者のレベルについていえば、地方裁判所は通常の知識を有する者を土木の技術についての熟練した者であると定義していると連邦裁判所は続けた。判事は、通常の知識レベルについての明確な見解を欠くことは常に回復できる誤りではなく、そのような欠陥が103条の下での最終結論に影響するときに問題がある。しかしながら、通常の知識を有する他の者がChanceの特許を自明であるとすることについて、Ruizが明確で確信できる証拠を要求したかどうかは議論があると指摘した。
Chanceの販売店(Jones)は、最初にスクリューアンカーを持った金属ブラケットを使用したのが、1989年10月か11月であると証言した。一方、証言者のJonesは、30年以上も鉄製品の運搬についての装置や施設の建設と設計に携わっているので、通常の知識を有する者以上の知識を持っている。当業者のレベルがいかなるものかということについてのより具体的な認識がなければ、地方裁判所は何故ジョーンズの証言が自明性の知見を支持するかを適切に決定することができない。
CAFCは、適当な当業者のレベルの知見を欠いていることによってのみ、地方裁判所の決定を覆すことを否定した。しかしながら地方裁判所の瑕疵と他のグラハムの項目についての知見が、グラハムテストが適用されていないことを示していると結論付けた。
Secondary Considerations
地方裁判所は、Secondary Considerationsについて検討又は少なくとも考慮をした証拠を欠いているという瑕疵があると上訴裁判所は続けた。マイケル判事は、1991年以来Chanceの売上げが年間20%増加しているという証拠と共に、その土台のビジネスの成功を享受しているというChanceの証言を引用した。地方裁判所が、この証拠は自明性を覆す強い状況証拠として不十分としているか、又は自明性についてこの点を全く考慮していないかは不明確であると判示した。
従って、連邦裁判所はSecondary Considerationsにより自明性への反証となる、クレームされた発明とChanceの商業的な成功の間に関連があるかどうかについて、地方裁判所が検討するために差戻した。
〈参考文献〉
BNA International Inc.
"Patent, Trademark & Copyright Journal"
'Obviousness Determination must be Bolstered by 'Graham' Findings'
(Page 143-145, Volume 61, Number 1503, December 15, 2000)
〈欧州〉
欧州特許条約の見直しの結果について
2000年11月20〜29日にミュンヘンにおいて開催され欧州特許条約を見直すための外交官会議において、欧州特許機関の加盟国は、均等物および中央限定手続きを含めるように、また出願料金を抑制するように条約を改正するための票決を行った。しかしながら、代表者達は、不特許事由リストからコンピュータプログラムを除外することを否決した。
全体的に見ればこの会議では、法的な確実さをより向上させるような特許条約の重要な改正を行った、とEPOの管理理事会の理事長ローランド・グロッセンバッハーは11月29日に発表した。この会議におけるいくつかの重要な改正を紹介する。
1)EPOの公式言語(英語、ドイツ語、フランス語)のうちの何れか1つの言語への翻訳は、出願時には必要とされない。これにより、顕著な費用の節約をもたらすことが期待される。また、日限の徒過によって生じる意図しない法的結果を更に保護することを認めた。ただしこれらの改正は加盟国の国会で批准されなければならないため改正されたEPCは、おそらく今後4、5年間は実施されないだろう、と理事長は述べている。
2)重要な改正の中に、EPO以前に手続が移行する前に特許権者が中央手続において特許の保護範囲を限定する選択肢を得たことがある。これは、つまり成立した特許の限定をする場合に、わざわざ国内の特許庁を介す必要がないことを意味する。特許付与後に無効となった場合、その特許は迅速かつ非官僚的な手続きによって限定することができる、と理事長は述べている。
3)会議では、欧州特許によって提供される保護範囲を明確かつ強固とするために、いわゆる均等物を含めることに同意した、と理事長は述べた。しかしながら、会議では、あまりに物議をかもしたため、最先の優先日ではなく侵害日における知識に基づいて均等物が判断されることを明確化する改正案までは可決されなかった。
4)ソフトウェア特許に関する論争について
EPO管理理事会は、ソフトウェアの特許性を会議の優先事項としたにもかかわらず、会議の加盟国は不特許事由リストからコンピュータプログラムを除外しないことを決定した。
ソフトウェアの不特許性に関する法的な見解は変更されていない、と管理理事会の理事長は出席者に確認した。以前と同様に、コンピュータによって実行される発明は、最新技術に対して新規かつ進歩的な技術的寄与を含んでいれば特許され得る。従って、データ処理における使用またはビジネス方法を実行するための技術的解決課題は従来通り特許可能である。これは、技術的解決課題と非技術的方法との間の明確な区別を引き出す発明の概念自体に従うものである。この原則によれば、技術的性質を有しないコンピュータプログラムまたはビジネス方法は認められ得ないものとなる。
〈参考文献〉
BNA International Inc.
"World Intellectual Property Report"
'European Patent Convention'
(Page 21-22, Volume 15, Number 1, January 2001)
〈英国〉
英国特許裁判所が「バイアグラ」特許を自明性により無効と判断
英国特許裁判所は、ファイザー社の欧州特許702555号を無効とする判決を下した(2000年11月8日付)。同特許は、勃起不能の治療のためのピラゾロピリミジノン化合物の使用に関する。対象化合物には、商品名「バイアグラ」で知られる医薬品の有効成分が含まれる。本件訴訟は、同様な治療薬を開発中のLilly
ICOS社が原告となって特許無効の判決を求めたものである。
本件特許の優先日当時、生体内で産生された一酸化窒素(NO)が勃起の達成を媒介することが知られていた。NOは、環状グアノシンモノリン酸(cGMP)の生成を活性化し、生成したcGMPは平滑筋を弛緩させる作用を示す。海綿体の平滑筋が弛緩して血流量が増加することで勃起が誘発される。他方、cGMPは、ホスホジエステラーゼ(PDEs)と呼ばれる一群の酵素によって5'GMPに分解される。この分解により、平滑筋の弛緩作用は失われる。本件特許におけるピラゾロピリミジノン化合物は、特定のPDEを選択的に阻害し、これにより海綿体におけるcGMPのレベルを維持することで治療効果を示すものとされる。
対応するピラゾロピリミジノン化合物に関しファイザー社は先に物質特許を取得しており、先の特許出願は本件特許の優先日前に公開されていた。先の特許出願では、対象化合物でのPDE阻害による治療用途として、高血圧等の種々の疾患を挙げていた。本件特許のクレームは、勃起不能の治療のための第二医薬用途の形式で記載された(対応の日本国特許第2925034号公報を参照)。
自明性の論点に関して、両当事者のために多数の専門家による証言がなされた。裁判所は専門家証言の有用性と限界について詳細に考察した上で、結論として、本件発明は優先日前の3つの文献(Rajfer,
Murray及びBush)の各々から容易に達成できたと判断した。いずれの文献も、勃起不能の治療のためにPDE阻害剤を使用することを教示するものとされた。無効の判断は「バイアグラ」の有効成分である単一の化合物に限定されたクレームを含めて全クレームに及んだ。「バイアグラ」の顕著な商業的成功等の二次的要因を考慮しても、自明性の結論は変わらないとの立場が示された。ファイザー社の控訴が予想されている。
なお判決文はhttp://www.courtservice.gov.uk/judgments/viagra.htmで入手できる。
〈参考文献〉
BNA International Inc.
"World Intellectual Property Report"
'Patents Court Finds Patent for Viagra Invalid for Obviousness'
(Page 11-12, Volume 15, Number 1, January 2001)
以上