● 国際活動委員会からのお知らせ(2001年3月号)

〈米国〉
特許商標庁
有用性に関する審査官の為のガイドライン完成

特許商標庁(PTO)は2001年1月5日、遺伝子関連の発明者は“特定の、実質的な信頼できる有用性(specific and substantial credible utility)”を明確にすべきとする審査官用ガイドラインを発表した。このガイドラインはすべての技術分野に、かつ101条、112条の有用性に関して適用される。
1999年暮、PTOは有用性に関する中間のガイドラインを発表して、一般公衆のコメントを求めていた(64 Fed. Reg. 71440, 59 PTCJ 434, 435, 1/7/00; 65 Fed. Reg. 3425, 59 PTCJ 508, 1/28/00)。
ガイドラインは審査官に“クレームされた発明が特定の、実質的な信頼できる有用性を主張しているかどうか”は、当業者の視点で、記録証拠に基づき、クレームとそれを支持する明細書記載を検討して判断すべきことを要求している。クレーム発明に対する“特定の、実質的な有用性”の主張が信用できない場合、またクレーム発明が“確立された有用性”を有しない場合、審査官はクレームを有用性の欠如として101条で、発明の使用方法の開示不充分として112条で拒絶しなければならない。
中間ガイドラインに対するコメントとPTO見解(1)遺伝子は発見であり発明ではないので、PTOは特許を付与すべきでない。
PTO見解:発見でも法定要件を具備すれば特許される。合衆国憲法は“発見(Discoveries)”という用語を用いて、国会に発明が行う技術進歩を促進する権限を与えている。
(2)遺伝子は自然に存在するもので、新たな化合物ではない。したがって、遺伝子を分離した者はそれを、発明、発見したとはいえない。
PTO見解:自然から得た化合物を特許することは、すでに確立された原則であり新たな実務ではない(参考:1873年、ルイーパスツールのイーストに関する特許)。
(3)ヒト遺伝子の配列はヒトを意味する核となるものであり、何人も特許を認めるべきではない。
PTO見解:特許は遺伝子、遺伝子情報、配列の所有を認めるものではない。

〈参考文献〉
BNA International Inc.
"Patent, Trademark & Copyright Journal"
'PTO Finalizes Guidelines for Examiners on Utility Requirement'
(Page 252-253, Volume 61, Number 1506, January 12, 2001)

〈米国〉
商標「VW」とドメイン名「vw.net」の法定闘争

ドメインネームの登録に際して、一部に不実(Bad Faith)があった場合には、Anticybersquatting Consumer Protection Actに規定する「Safe Harbor」[Section 43(d)(1)(B)(i)]の恩恵を受けられないと、アメリカ裁判所第四巡回裁判区は判決した(2001年1月22日)。1996年、ヴァーチャルワークス社(Virtual Works Inc. 以下、VWI社と略す。)
は、Network Solutions, Inc.にドメインメーム「vw.net」を登録した。VWI社は約2年間、インターネットサービスプロバイダーとして「vw.net」を使用した。1998年12月、ドメインネームの取得に関心があるとの数々のフォルクスワーゲン(Volkswagen)のディーラーから接触を受けた。VWI社社員から「フォルクスワーゲン社がドメインを購入するしないに関わらず、ドメインネームを最高落札価格にて販売する」とのボイスメールを24時間の回答期限を設けて、米国フォルクスワーゲン社に送った。フォルクスワーゲン社は最終的にVWI社をAnticybersquatting Consumer Protection Actに基づき、提訴した。
J. Harvie Wilkinson主判事は、(1)VWのマークが有名であり、(2)「vw.net」はVWのマークに類似しており、(3)VWI社は商業上、VWを使用しておらず、(4)ドメイン名登録時に、vwi.orgとvwi.netの取得可能性があった、と指摘している。ただ、これらの事実は単独では、有名な商標に似ているドメインであり、その取得・登録に不実があったと証拠付けるのは難しい。
しかし、VWI社が多額の金でフォルクスワーゲン社にドメイン名の購入を働きかけていたこと、vw.netとフォルクスワーゲン社のマークVWの混同が予見できたこと、更にVWI社は他のドメイン名(vwi.net等)が使用できる状況にあったことが判断をする上で重要ある。
不実かどうかは、ドメイン名を使用しようとするものが公正(Fair)な気持ちで、合法的にドメインを使用しようとしていると信じられるか、あるいは信じるべき妥当性があるかによって判断される。
今回の事例は、1999年ACPAが発効する以前に登録されたドメイン名に関するものであり、Wilkinson判事はユニークな事例と判断している。彼は、「ACPAは保護するべきマークと類似する文字の様々な組み合わせを囲い込む権利を企業に与えるものではない」と指摘にしている。

〈参考文献〉
BNA International Inc.
"Patent, Trademark & Copyright Journal"
'Even Partial Bad Faith Bars 'Safe Harbor' for Cybersquatter'
(Page 304-305, Volume 61, Number 1508, January 26, 2001)

〈米国〉
クレーム補正時の不注意は禁反言の障害を克服できない

1. 連邦巡回控訴裁判所の判示内容
本件特許のクレームは誤って狭く限定してしまったという特許権者の主張は、手続記録中の補正についての説明がなければ、その補正は特許性を理由付けするために行われたとする禁反言の推定を克服できない、と連邦巡回控訴裁判所は2001年1月23日に判決した(Pioneer Magnetics. v. Micro Linear Corp., Fed. Cir., No. 001012)。
均等侵害がないとするサマリー判決を維持する控訴裁判所は、Warner-Jenkinson Co. v. Hilton Davis Chem. Co.とFesto Corp. v. Shoketsu Kinzoku Kogyo Kabushiki Co. Ltd.の判決に頼っており、特許権者は、訂正が特許性に関するものでないことを立証する責任を満足させることができなかったと判決した。
2. 本件特許の成立経緯及び提訴
パイオニア社(Pioneer Magnetics Inc.)は、米国特許4,677,366を所有している。それは、入力電圧の変形レベルを受け取るために、並びに出力電圧を発するために、設計された回路のための"unity power factor power supply"に関するものである。
'366特許のクレームは、「整流器(a rectifier)」と、「ブーストコンバーター(a boost converter)」と、「制御回路(a control circuit)」と、「アナログスイッチング増幅回路(a switching analog multiplier circuit)」と、「パルス幅変調を含む回路(circuit means including a pulse-width modulator)」との要件を必要とするものである。
審査官は、Carpenter特許を引用して、U.S.C.102(b)の規定の下に予見性があるとしてクレーム1-5及び8-9を拒絶した。
パイオニア社は、その後クレーム1、7を訂正し、クレーム2-6を削除した。クレーム1への訂正は、クレーム2-6を加えることであり、そして、原クレーム5中の「回路手段」を「パルス幅変調を含む回路」に、そして、原クレーム4中の「増幅器」を「アナログスイッチング増幅回路」に変更した。パイオニア社は、原クレーム1-6になかった「アナログスイッチング」の要件を加えた理由を説明しなかった。
1987年1月に審査官は各クレームを許可し、特許はその年遅く登録された。
1995年12月に、パイオニア社は、マイクロ社(Micro Linear Corp.)を特許権侵害で訴え、侵害製品は、均等の法理の下に「アナログスイッチング増幅回路」の要件を含む各クレームを侵害したと主張した。
カリフォルニア州地方裁判所のLourdes Baird判事は、マイクロ社に非侵害のサマリー判決を下した。パイオニア社は控訴した。
3. 控訴裁判所における審理
(1)訴裁判所主席裁判官H. R. Mayerは、決定に当たり、もし、クレームの補正が禁反言を引き起こすならば、裁判所は、第一に、如何なるクレーム限定が均等論に符号されるかを推定されるものを、またその補正がクレームの文言上の範囲を狭めているかを決定しなければならない、と関連をまず述べた。続けて、Mayer判事は、パイオニア社が「アナログスイッチング増幅回路」は、均等に合致していると主張していること、及び、クレーム1の「増幅器」から「アナログスイッチング増幅」回路への補正は、クレームの文言上の範囲を狭めたとすることは疑いがないと判断した。
もし、補正の理由が、特許性に関連しないものであることを手続記録によって示されるならば、裁判所は、禁反言が除外されるか否かを決定するための目的を考慮しなければならないと、判事は付言した。もし、補正の理由が、特許性に関連するのであれば、均等論はその補正の内容に関して何も役立たない。
しかし、もし説明が何も立証されなければ、裁判所は、出願人が補正のために特許性に関する確かな理由を持つたことを推定する必要がある、と裁判官は所見を述べた。
(2)注意は不十分な理由である
パイオニア社は、「スイッチング」の限定が不注意による誤りにより追加されたので、地方裁判所は過去の訴訟における禁反言に基づくサマリー判決を下す際誤りを犯したと主張し、パイオニア社の代理人によるその主旨の法定宣言書を引用した。
控訴裁判所はこの主張に対して立場を変えなかった。Mayer判事は当初クレームの補正の理由を決定する上で、公的な特許訴訟の記録だけがその理由の根拠となり得るので、代理人の宣言書は考慮され得ないと説明した。さらに、訴訟記録自体は「スイッチング」の補正の理由がそもそも不注意であったことを示していないと強調した。補正の注記部分には、パイオニア社がクレーム6を独立クレームの記載とするためにクレーム1を補正したことが示されているが、裁判所は「パイオニア社が故意にクレームを変更したが、不注意に注記を訂正しなかった可能性も同等にある」と認識した。
さらに、不注意理論を拒絶して、裁判所は以下のように推敲した。「たとえ、その補正に対するパイオニア社の説明を認容するとしても、不注意は本件の事実についての過去の訴訟における禁反言の障害を克服する十分な理由ではない。特許の公開通知機能は、特許クレームが誤って作成され認容されたかどうか特許権者の競業者に推測させることにより損なわれるだろう。特許出願人にはクレームの記載の誤りを是正する多くの機会がある。また、特許出願人は審査期間中にクレームを補正できる。さらに、特許権者はアメリカ特許法§251(1994)で規定されている2年以内にクレームを拡張して特許証の再発行を求めることもできる。」
さらに、控訴裁判所は、「スイッチング」の限定の補正は自発的なものであり拒絶を克服するためになされたものではないので、特許性とは関係がないというパイオニア社の示唆を拒絶した。Festo判決が明らかにしているように、補正が自発的なものであるという単なる事実は過去の訴訟における禁反言から保護されるものではないとMayer判事は意見を述べた。「自発的なクレームの補正は他の補正と同様に扱われ、…特許のための法的な要件に関連した理由によりクレームの範囲を狭くする自発的な補正はその補正されたクレームの要素に関する過去の訴訟における禁反言を生じさせる。」と同判事はFesto判決を引用して強調した。
(3)先行技術を回避する補正
パイオニア社が特許性以外に補正する理由を立証することができなかったと判断して、控訴裁判所は、その補正が、「禁反言の適用についての代表的原則」となる先行技術を避けるためになされたと結論付けた。この点につき、Mayer判事は、審査官がCarpenter特許を引用してクレーム1-5及び8-9を拒絶したことを挙げている。パイオニア社はその後Carpenter文献に対し'366発明を顕著にするためにアナログスイッチング増幅回路を含むクレーム1に補正した。従って、その限定の付加は先行技術を回避するために作られた、と控訴裁判所は判決した。また、控訴裁判所は、「スイッチング」の限定がクレームの認可にあったって、「スイッチング」限定ではなく「パルス幅変調」の限定が、Carpenter特許に対してその発明を顕著にするものであるから、不必要であったとするパイオニア社の主張を拒絶した。
地方裁判所のサマリー判決は維持された。

〈参考文献〉
BNA International Inc.
"Patent, Trademark & Copyright Journal"
'Inadvertence in Amending Claims cannot Overcome Prosecution History
Estoppel Bar'
(Page 322-323, Volume 61, Number 1509, February 2, 2001)


以上