● 国際活動委員会からのお知らせ(2001年8月)

〈米国〉
結論の出された外国事件に用いるための証拠開示命令請求は却下される

1. 第2巡回区控訴裁判所(以下「本控訴裁」という)は2001年5月25日、「外国訴訟等手続きにおいて利用するための米国第28法典(裁判所及び裁判手続法)§1782*(以下「§1782」という)に基づく証拠開示命令の請求は、当該外国訴訟等手続きの結論が出された後は却下する。」との判決を下した(Ishihara Chemical Co. Ltd. v. Shipley Co. L.L.C., No.00-9580(L))。
2. Ishihara Chemical Co. Ltd.(以下「石原化学」という)及びShipley Co. Ltd.(以下「シプリィ社」という)は、スズ合金等による電気メッキ関連製品事業において競合関係にある。1999年7月14日、石原化学が請求したシプリィ社の持つ日本特許第2,140,707号(以下「707号特許」という)の無効審判についての審理が日本国特許庁(以下「JPO」という)において開始された。
1999年10月26日、石原化学はニューヨーク州東部地区地方裁判所に、§1782を根拠として、JPOでの無効審判手続きにおいて利用すべく証拠開示をシプリィ社に対して命令することを求める申請を行った。同地裁が2000年4月18日に、この申請を全面的に認める決定を下したのに対し、シプリィ社は、JPOでの審判は§1782にいう「外国法廷」ではない、などとしてこの決定につき争った。2000年11月16日同地裁は事実関係説明及び口頭弁論の後に、あらためて、この証拠開示命令請求の一部は認めるが、書面質問及び自認要求についての命令請求は認められないとする決定を下した。両者は共にこれを不服とし、シプリィ社は2000年12月20日に、石原化学は2001年1月19日に、それぞれ上訴した。当該上訴審が係属中の2001年1月17日に、JPOは石原化学の請求した上記無効審判について口頭審理を行った。
石原化学が当該上訴理由申立書中で「要求に係る証拠は本来、2001年1月17日にJPOで行われる口頭審理に提出される予定だったが、残念ながら当該口頭審理は終結した。しかし、これから得られる証拠は新たな無効審判に用いる予定である。」と述べたのを根拠に、シプリィ社は、請求された証拠開示が、もはや外国訴訟等手続きにおいて「利用される」ことがなくなったから当該証拠開示命令の申請および当該上訴は訴因消滅として却下されるべきであると主張した。これに対し石原化学は2001年3月1日上訴補充理由申立書において、「当該証拠は、現在係属している無効審判での新しい証拠として用いるか、もしくは、それが不可能なときには707号特許について第2の無効審判を請求しそこで用いる予定である。」と従来の主張を一部変更した。
3. 本上訴審での争点は次の2点である。
3-1. 石原化学の証拠開示命令申請は§1782について「ジェネラル・ユニバーサルトレーディング社対モルガン・ガランティトラスト社」事件判決による判例法である「外国訴訟等の手続きが差し迫っていること」との要件を満たすか、本上訴は訴因を有するのか。
3-2. 本上訴は単独の救済申請の一部分とみなすべきなのか、もしそうなら民事訴訟手続規則54(b)に鑑みて、上記の地裁決定は見直す必要があるのか。
4. 任命により同席したニューヨーク州南部地区地方裁判所のデニー・チン判事は上記争点3-1について、石原化学が§1782の要件を満たしていないとのシプリィ社の主張に同意した。チン判事は、要求された証拠開示が訴訟等手続きにおいて「利用される」ためには、その訴訟等手続きが現実的に係属している必要はないにしても、少なくともまさに開始される状況になくてはならないとし、従って、当該証拠開示をJPOにおける当該無効審判において新たな証拠として用いるとか、これとは別の新たな無効審判を請求してそこで用いるつもりだといった石原化学の主張にくみすることはできない、と判示した。さらに同判示は、JPOでの口頭審理はすでに終結したため、日本の法律によれば石原化学はこの要求のあった証拠開示の結果を用いることはできないだろう、と付け加えた。この判断に際し、JPOにて審査官・審判官経験のある日本人弁理士による「日本特許法第131条第2項に照らし、JPOは、無効審判請求時には提出されなかった新たな証拠の採用には概して消極的である …(中間略)… 石原化学はこの場合、現在係属中の無効審判で新たな証拠の提出はできないと思われる。」との見解も証拠として採用された。
5. 上記争点3-2について本控訴裁は訴因消滅により審理不要としながらも、付記懸念事項として、民事訴訟手続規則54(b)は上訴申立事項が2以上あったときであって、この判決が全部の申立事項について判示していない場合に適用されるところ、本件上訴は石原化学の証拠開示命令要求という単一の申立に係るものであって、本控訴裁としては、単一申立に係る部分的救済決定や、単一救済理論構成中の代替案が提示されている場合に審理することは妥当性を欠くと考えるとした。
さらに、チン判事は、その証拠開示がJPOでの新たな無効審判手続用に提出するのだとの石原化学の主張は、今回の証拠開示命令の申請とは無関係な事実及び争点の検討を法廷に不適切に強いることになり、従って、1976年「シングルトン対ウルフ」事件判決で連邦最高裁が判示した「一般的な原則として、連邦控訴裁は、いまだ判決のされていない点を審理しない」との判例法を準用する地方裁判所規則の原則にも適合しないと述べた。
結論として、双方の当該上訴は訴因消滅として棄却された。
この判決の全文はhttp://pub.bna.com/ptcj/009580.htmにて入手可能
6. 米国第28法典(裁判所及び裁判手続法)§1782の概要
地方裁判所は当該地区の居住者等に対し、外国法廷又は国際法廷における訴訟等手続において利用されるための証拠や陳述書の提出、又は書類等の作成を命ずることができる。但し(1)この情報開示を請求される者がその申請の行われる地方裁判所の地区に居住もしくは滞在していること(2)その情報開示が外国法廷の訴訟手続において利用されること、及び(3)その申請が外国法廷もしくは国際法廷又は何らかの利害関係人によるものであることを条件とする。

〈参考文献〉
BNA International Inc.
"World Intellectual Property Report"
'Discovery for Concluded Foreign Case is Barred'
(Page 15-16, Volume 15, Number 7, July 2001)

〈米国〉
商標をミススペルしたドメインネームは、
反サイバースクワッティング消費者保護法に違反する

1. 第3巡回区控訴裁判所(以下「本控訴裁」という)は、2001年6月15日識別力がある、または著名な商標を意図的にミススペリングしたドメインネームの登録は、反サイバースクワッティング消費者保護法における不法行為を構成する旨の判決を下した(Shields v. Zuccarini, 3rd Cir., No. 00-2236, 6/15/01)。
ここで、反サイバースクワッティング消費者保護法(以下「ACPA法」という)とは、1999年に施行された連邦法であり、他人または他者の識別力、または著名性を有する商標もしくはドメインネームと「同一または混同を生ずる程度に類似する」ドメインネームを、当該純正商標等に化体した業務上の信用から利益を得る悪意をもって登録、もしくは使用するというサイバースクワッティングを禁止し、それに違反した者には裁判所の裁量により1ドメインネームにつき1000ドル乃至10万ドルの損害賠償金及び法に規定する「例外的な」場合には、それに加えて弁護士費用の支払いまでをも命じることを可能とした法律である。
2. 原告のシールズ氏はグラフィック・アーチストとして、15年間に渡って「Joe Cartoon(社)」という名のもとに漫画に関する商売をしており、同氏作の人気を博した漫画はTシャツ等にプリントされ全米中で販売されていた。1997年にシールズ氏は、ドメインネームとして「joecartoon.com」を登録した。そのウェブサイトは、月に70万以上のアクセスを数える人気の高いものであった。
1999年11月にドメインネームの「卸売業者」であるズッカリーニ氏は、「joescartoon.com」、「joecarton.com」、「joescartons.com」、「joescartoons.com」、「cartoonjoe.com」の5つのドメインネームを登録した。これらのサイトには、他のサイト等の広告が表示されており、一旦ユーザがアクセスすると、そこにある広告を連綿とクリックしない限りそのウェブページから抜け出せないものであった。ズッカリーニ氏は、ユーザが広告を1クリックする度に10乃至25セントの利益を得ていた。1999年12月シールズ氏はズッカリーニ氏に対し、同氏の上記5つのドメインネームの使用をやめるよう警告状を送った。
ズッカリーニ氏がこの警告状に返答しなかったため、シールズ氏は、ACPA法下シールズ氏に認められる権利を侵害するものとしてズッカリーニ氏をペンシルバニア州東部地区地方裁判所に訴えた。一方ズッカリーニ氏は、シールズ氏による訴訟提起の直後に、当該5つのサイトを政治的抗議声明を主張するような内容のサイトに変更した。同地裁は米国第15法典(以下「通商法」という)§1117(権利侵害に対する回復措置)に基づき、ズッカリーニ氏の問題の5つのドメインネームのシールズ氏への移管及び、当該純正ドメインネームと同一又は実質的に類似するドメインネームの使用等の永久的差止を命ずる仮処分を下し、さらにその4月後にはACPA法下認められる1被侵害ドメインネームあたり1万ドルの損害賠償金の支払い並びに弁護士費用3万9000ドル余の支払いを命ずる簡易判決を下した。これに対してズッカリーニ氏は控訴した。
3. ACPA法上の保護を受けるにあたっては、通商法§1125(d)(1)(A)に規定される要件として次の争点への立証をしなければならない(スポーティ・ファーム対スポーツマン・マーケット社事件判決判例)。
3-1. 「Joe Cartoon」は保護に値する識別力または著名性を有するマークか。
3-2. ズッカリーニ氏の当該ドメインネームは上記シールズ氏のマークと「同一もしくは混同を生ずる程度に類似」しているか。
3-3. ズッカリーニ氏は当該ドメインネームを、そこから利するという悪意をもって登録したか。
4. まず争点3-1について、ACPA法下識別力または著名性が認められるためにはマークの本来的もしくは後天的識別力、マーク使用の期間・地域的広がり・流通チャネル等の諸要因を考察しなければならないとされるところ、シールズ氏の会社が15年もの間「Joe Cartoon」の活動のみで経営が成り立っていることやニューヨークタイムズ紙に特集が組まれたこと、同氏の漫画関連で結構な売上を計上していること等を根拠に、本控訴裁は、原告の商標「Joe Cartoon」はACPA法上の保護要件である識別力及び著名性を備えていると判断した。
次に争点3-2について本控訴裁は、ズッカリーニ氏のドメインネームは、シールズ氏のドメインネーム文字より幾つかの文字を追加したり削除したりしたに過ぎず、これに極めて似ていると判断した。本控訴裁のオールディサート判事は、ACPA法は、識別力又は著名性を有する商標と同一のドメインネームの登録のみならず、このような商標と混同を生じさせる程に類似する(confusingly similar)ドメインネームにも適用されることを示した。そして、混同を生じさせる程に類似である場合とは、識別力又は著名性のある商標をミススペリングしたドメインネームを意図的に登録したものであって、わずかなスペリングエラー又はタイピングエラーをなしたインターネットのユーザを、意図しないサイトにアクセスさせる場合をいうと述べた。
「ACPA法は、他人の著名な名称等をドメインネームとして登録し、その上でそれを販売したり、本人に使わせないよう妨害する等の行為を防止するものであって、他人の著名名称等を意図的にミススペリングしたものはACPA法の発動対象ではない」というズッカリーニ氏の主張に対し本控訴裁は、ACPA法の立法過程を引用し、「Disney」を意図的にミススペリングしたドメインネーム「Dosney」の例と同様に、本件は消費者が誤りをおかすことによって特定のサイトのアクセス数を増加させ、その結果広告料をより多く得ることを想定してドメインネームを登録しているとし、本件におけるズッカリーニ氏の行為は、ACPA法が禁止しようとした典型的な行為であると断じた。
さらに争点3-3に関し、ズッカリーニ氏がシールズ氏の当該商標に基づき利益を得ることを意図したものであったかどうかにつき判断するにあたり、オールディサート判事は、当該悪意の認定にあたり検証が必要とされる通商法§1125(d)(1)(B)(i)に規定される事項を考察した上で、(1)ズッカリーニ氏の当該ドメインネームについての商標権等の知的所有権の未発生、(2)当該ドメインネームとズッカリーニ氏の名前との因果関係の不存在、(3)商品等の善意提供に関連する当該ドメインネーム使用実績の欠如、(4)非商業的もしくは公正なる目的での当該ドメインネーム使用の欠如、(5)シールズ氏のサイトから顧客を引き込むための当該ドメインネームの意図的保持、を認定した。さらに本控訴裁は、ズッカリーニ氏はその行為によって商標に化体した業務上の信用を傷つけているとし、商業的な利益を期して、または混同の蓋然性を生み出すことでシールズ氏の商標を汚しもしくは毀損する意図をもって、このような行為を行ったと認定した。同時に、ズッカリーニ氏が第三者である商標権者の許可を得ずに、当該商標権者の商標と同一のもしくは混同を生じさせるほど類似するドメインネームを数千にわたって登録しているのも、それと知って行っているのだと断じた。
ズッカリーニ氏は、左記の政治的抗議声明の行為は憲法の第1修正条項によって保護されているとし、従って自身のドメインネームの使用は、「当事者が(ドメインネームの使用が)公正な行為さもなくば合法的な行為と信じ、かつ、そう信じるについての合理的根拠が存在する場合には悪意の認定をしてはならない」とする通商法§1125(d)(1)(B)(ii)に規定される「回避」条項に該当する旨主張した。これに対し本控訴裁は、シールズ氏が訴訟を提起する以前にはズッカリーニ氏は商業的な目的で自分版の「Joe Cartoon」サイトを使用しており、1999年12月にシールズ氏からの警告上を受け取った段階で自身の行為が不法行為とみなされることを知らされたこと、シールズ氏による訴訟提起の申立を受けて数時間後の2000年2月1日午前3時には自身のサイトを政治的抗議声明ページに変更したこと等に徴すれば、ズッカリーニ氏は、自分が「公正」と主張するドメインネームの使用はシールズ氏による当該訴訟提起より後のもののみが該当することを自身で認めたことになるところ、一般的に被告の「公正な使用」が商標権侵害訴訟提起後の行為について認められたからといって同じ被告による当該提起以前の不法行為についての責任が免除されるなどということはないとし、従って同地裁がズッカリーニ氏による上記「回避」条項に係る主張を退けたのは正当であると判示した。結論的に本控訴裁は、ズッカリーニ氏が当該擬似ドメインネームを登録したのは不正に利益を得る悪意があったという十分な証拠が認められるとして、本件はACPA法に規定する「例外的な」場合に該当する、と判断した。
5. ACPA法の解釈にあたり、本控訴裁は、
5-1. 識別力もしくは著名性を有する名称を意図的にミススペリングしたものをドメインネームとして登録するものは、ACPA法に規定する不法行為を構成する、と地裁は判じたのには誤りがあるか、
5-2. 地裁が、1ドメインネームあたり1万ドルの損害賠償金を法に基づき裁定したことに裁量権の乱用(逸脱)があったか、
5-3. 本件がACPA法に規定する「例外的な」条件を満足するとして原告シールズ氏側の弁護士費用の支払いまでを被告に命じたことに誤りがあったか、
の各点について結論を出す必要があったが、本訴についてはこれらいずれの点においても本控訴裁は同地裁の判断を支持するとし、ズッカリーニ氏の当該ドメインネームの使用の永久的差止、1ドメインネームあたり1万ドルの支払い及び弁護士費用の支払いを命じた同地裁の判決を認容する判決を下した。

〈参考文献〉
BNA International Inc.
"Patent, Trademark & Copyright Journal "
'Domain Names That Misspell Trademarks Violate the Anticybersquatting Statute'
(Page 172-174, Volume 62, Number 1529, June 22, 2001)

〈欧州連合(EU)〉
加盟国は欧州連合(EU)広域特許における争点を解決できず

EU加盟国は、2001年5月31日の域内市場相の審議会で行われた交渉において、国内特許庁とヨーロッパ特許庁(EPO)間の対立のみならず言語に関する意見対立が合意への障害となって、EU特許を制定しようとの提案に対する各国の意見の食い違いを解消できなかった。
しかしながら、加盟国は2001年末までにEU広域特許を制定すべく、懸案事項の解決にあたっての「共同提案」の採択に向け前進した。この共同提案として、加盟国国内特許庁に対して、例えば国内言語による調査等の一定の職務が割り当てられる。また、共同提案は「国内特許庁は、共同体特許の潜在的出願人への助言、共同体特許出願の受理及びEPOへの移送、共同体特許に関する啓蒙活動等の重要な役割を担うべき」と指摘している。EU広域特許は、2000年リスボンで加盟国首脳が連合に対し2010年までに世界で最も経済競争力のある地域となることを付託したときに、大枠がまとめられた改革の一つである。
EU特許合意の前に立ちはだかる最も厄介な問題として、最終的な特許発行時の言語の問題がある。欧州委員会は当該言語数として、ミュンヘンのEPOが現在要求している11言語ではなく、3言語(英語、フランス語、ドイツ語)を提案している。
しかしながら、南欧諸国、とりわけ国内特許庁が南米の出願をも取り扱うスペインがこの言語の選択に反対している。あるEU外交官は「スペインは、この3言語にスペイン語が含まれないとすれば、南米の特許出願はヨーロッパから米国に逃げてしまうだろうと反対している」と匿名で語った。
委員会はコスト削減のためEU特許は3言語だけで発行されるべきであると強調する。現在、ヨーロッパの特許が米国特許の3倍のコストを要し、その過剰コスト分の40%が翻訳にかかる費用となっているという事情が背景にある。
また、法律論争の取扱いにおける国内裁判所と欧州裁判所間の対立と同様に、EPO〜国内特許庁間の手数料分配問題も、委員会提案合意を妨げる障害となっている。
EU当番議長国スウェーデンのリーフ・パゴルスキー通商相が表明した「EU特許は2001年末までに合意に達することができるだろう」という楽観論に対し、ある委員会役員は「スペイン、イタリア、ポルトガル及びギリシアが彼らの見解を変えない限り、2001年末までの合意など空しい望みである」との悲観的見解を匿名で語った。

〈参考文献〉
BNA International Inc.
"World Intellectual Property Report"
'Member States Fail to Resolve Differences on EU-Wide Patent'
(Page 6-7, Volume 15, Number 7, July 2001)