● 国際活動委員会からのお知らせ(2001年11月)


〈英国〉
英国データベース権の問題点が欧州司法裁判所に委ねられる
(バーミンガムWragge社Alexandra Brodie氏寄稿)


英国競馬協会他 対 ウィリアム・ヒル・オーガナイゼーション有限会社事件
これは、英国著作権及び1997年データベース規則に基づく権利の侵害に関する英国控訴審判決である。ちなみに、英国のデータベース規則はEUの1996年3月11日「データベースの法的保護に関する指令」から派生した規則であり、1998年1月1日より施行されている。
これは、データベース規則のもとで判決が下された最初の主たる事件であり、解釈上の幾つかの重要な問題を扱っている。
1. 事実
英国競馬協会(The British Horse Racing Board:以下「BHB」という)は長年に亘って英国の競馬情報の大規模なデータベースを構築した。そのデータベースは日々更新され、BHBはその維持に1日約400万ポンドを費やしている。
BHBはそのデータベースに含まれる情報の使用につき複数の第三者にライセンスを許諾している。しかしながら有名な英国の出版社チェーンであるウィリアム・ヒル社(William Hill Organization Ltd.:以下「WH」という)はBHBに無断でそのデータベースに含まれる情報を用いてインターネット上に仮想場外馬券場を設定したのである。
BHBはデータベース権の侵害であるとしてWHを訴え、第一審ではBHBが勝訴した。
2. ラディ判事による2001年2月9日第一審判決
ラディ判事は高等法院において以下のように判決した。
2-1. 英国では伝統的に、データベースのコピー行為に対しては文字通りコピーライト(著作権)で保護されてきたが、当該データベースに内在する情報は保護されなかった。これに対し、データベース規則は、データベースに含まれる情報の無断使用に対して、その情報がそのままの表現で複製されていることという要件なしで保護するものである。
2-2. データベースは、その中の情報がシステマティックに調整されて個々のデータが個別にアクセス可能になっているものをいい、この要件を備えないものはデータベースと見做さない。
2-3. データベースがデータベース規則による保護を受けるに値するには、その中の情報を取得、検証及び表現するにあたって相当額の投資がなされている必要がある。
2-4. データベース権の侵害は、データベースの使用がデータベースの整備中になされたかに関係なく、或いは、データベースを検索する方法の如何によらず発生しうる。
2-5. データベース権の侵害は、データベース内に設定された方法と異なる方法で情報が使用されたか否かに拘らず発生しうる。
2-6. データベースの所有者は以下の二つの使用のみを防ぐことができる。一つは、データベースの内容の一部の恒久的或いは一時的な他の媒体への移設として定義付けられるデータベースの抽出であり、他の一つは、データベースの内容の一部を頒布、貸与、オンライン転送、その他いかなる伝達形式によろうと公衆に対し利用可能とすることとして定義付けられるデータベースの再利用である。ここで、複製は要件とならない。それゆえハイパーリンクを設けることはそのウェブサイトを有するデータにおけるデータベース権の侵害となり得る。
2-7. 取得或いは使用された情報はデータベースの本質的な部分でなければならない。この本質的な部分は質的な意味においても、同時に、量的な意味においても判断されるべきである。また、使用された情報はそれが取得されたデータベースの全体と比較されるべきである。しかしながら、たとえ取得された情報が量的にデータベースの大部分となっていなくても、取得された情報が価値ある場合は、その価値がデータベースの所有者または侵害者の何れに対するものであるかに拘らず、その取得された情報は本質的と見做されうる。
3. ピーター・ギブソン判事、クラーク判事、ケイ判事による2001年7月31日控訴審判決
本質的に控訴審では第一審判決が支持されたが、EUデータベース指針に関する他の加盟国における判決とは一致していない点が認定された。特に、WHは、データベース規則はデータベースの個々の内容ではなくデータベースを全体として保護することを意図していると反論した。
WHは、BHBデータベース中で提供されているアクセス方法は用いていないので、データベースを侵害していないと反論している。この課題に関する問題点は控訴裁判所で公式に表明されると直ぐに、欧州司法裁判所に提出されることになる。

〈参考文献〉
BNA International Inc.
"World Intellectual Property Report"
'Question on Database Right To Be Referred to ECJ'
(Page 10-11, Volume 15, Number 10, October 2001)

〈米国〉
1回使用カメラを改装するのは修理であり、侵害的な再製造ではない

米国連邦巡回区控訴裁判所(CAFC)は、米国で製造された使用済みの1回使用カメラを海外設備により改装して米国に輸入する行為は、カメラ特許を侵害する再製造というよりは許容し得る修理であるために、関税法第337条を侵害するものではなかったと、2001年8月21日に判示した(Jazz Photo Corp. v. International Trade Commission, Fed. Cir., No. 99-1431, 8/21/01)。
国際貿易委員会(ITC)の侵害決定を覆して、CAFCは、新しいフィルム及びフィルム容器を入れ、カウンターをリセットし、破壊した本体ケースを再封緘する製造者の行為は、判例法の下では再製造というよりも修理に似たものであると説明した。裁判所は、特許された組み合わせ品を使用する許諾事項には、「その使用適性を保持する」ことも含まれ、先例によるとその物品に残存する有用な能力を配慮する必要があると指摘した。
1. ITCは侵害を認定
富士写真フィルム株式会社(以下「フジ」という)は、Jazz Photo Corp.、Dynatec International Inc.及びOpticolor Inc.(包括的に以下「ジャズ・フォト」という)を1930年関税法第337条に基づき提訴した。フジは、ジャズ・フォトが、種々の海外設備により再使用の目的で改装した使用済みの1回使用カメラを輸入することは、カメラ及びその種々の部品に関する14のフジ特許を侵害すると主張した。ITCは、ジャズ・フォトがいわゆる「レンズ付きフィルム(LFFP)」を輸入することは14に及ぶフジ米国特許のほとんどのクレームを侵害すると決定した。CAFCはジャズ・フォトによるITC一般排除命令の差し止めを求める控訴を審理した。
2. 再製造か修理か
ジャズ・フォトにより輸入されたLFFPは、その海外の「再製造者」により(1)厚紙カバーの除去(2)LFFPケース本体の開封(3)巻き上げ軸の交換又はフィルムカートリッジの改良(4)フィルムカウンターのリセット(5)電池の交換(6)スプールまたはロールへのフィルム巻き上げとLFFP本体ケースの再封緘及び(7)新厚紙容器による包装、により改装されたものであった。
ジャズ・フォトは、これらの行為が禁止されている再製造であり従って特許侵害を構成するというITC決定に反論した。ジャズ・フォトは、新しいLFFPを組み立てているのではなく、単に使用済みカメラのフィルムを交換しているに過ぎないと主張し、LFFPはフジが提案する1回使用よりも長い有効な寿命を有していることを指摘した。ジャズ・フォトによれば、特許権はカメラについては消尽しており、フジはジャズ・フォトが必要な工程によりカメラに新たなフィルムを再装填するための権利を制限することはできないのである。
3. カメラは修理されたものであり、再製造ではない
CAFCは、再製造者が当初のLFFPの寿命が終わった後に1回使用カメラを生産することにより禁止されている新たな再製造に従事したというITCの決定を拒絶した。
ITC決定における証拠及び理由にもかかわらず、先例によると、新しいフィルム及びその容器を入れ、フィルムカウンターをリセットし、壊したケース本体を再封緘する行為は修理と見ることができ、再製造にはあたらない、とCAFCは説明した。ニューマン判事は、Dana Corp.(使用済みのクラッチの再生)、General Electric(銃マウントの分解と再生)における修理の判決が支配的であると引用した。ニューマン判事は、この争点に関する最高裁判所のアプローチは以下の通りであると総説した:
最高裁は、Aro Manufacturing事件において、「下級審の意見においては、『修理』か『再製造』かは多くの因子に依存することを指摘する見解があるが、最高裁の3判決のいずれもが、特許された組み合わせ物の使用許諾には、その使用適性を維持する権利を含むと判決している点が重要である。」と指摘して、許可行為と禁止行為とを区別するにあたりいかなる特定の「因子群」に依拠することに反対すべきであると警告した。実際、この基準は先例における共通の道筋であり、物品に残存する有用な可能性、及びその有用な可能性を達成するにあたり交換した部品の性質と役割に配慮することを要求している。
CAFCはジャズ・フォトの主張に対して、フィルムと電池以外のLFFP当初構成部品のすべては有効な残存寿命を有しており再使用されていること、および、改装されたLFFPは、実質的に、特許権が消尽した当初のカメラであると指摘した。
CAFCはLFFPが再使用されるべきでないというフジの意図にITCが依拠した点を考慮の対象外とした。Aro Manufacturing事件において議論されたように、組み合わせ物全体として利用できる寿命よりも短い寿命の不特許部品の交換は、修理の特徴であり再製造ではない、とニューマン判事は書いている。
再製造による特許侵害の判断は従って逆転された。米国内で最初に販売され特許権が消尽したLFFPに関しては、ITCの排除命令は破棄された。

〈参考文献〉
BNA International Inc.
"Patent, Trademark & Copyright Journal"
'Refurbishing Single-Use Cameras Was Repair, Not Infringing Reconstruction'
(Page 402-403, Volume 62, Number 1538, August 31, 2001)

〈米国〉
クレームの用語の首尾一貫した使用(Consistent Use)は、
暗示による定義としての適格を有する

1. 米国連邦巡回区控訴裁判所は、2001年8月17日に、明細書及び審査経過を通じたクレーム用語の首尾一貫した使用は、限定的な定義を暗示するものと認められる可能性があるとの判決を下した(ベルアトランティックネットワークサービス社対コバッドコミュニケーションズグループ社、Fed. Cir. No. 00-1475, 8/17/01)。
非侵害のサマリージャッジメントを認容して、同控訴裁判所は、明細書及び出願経過中での用語の首尾一貫した使用により暗示された用語の定義によって、インターネット通信特許が限定されると判断した。その裁判によれば、特許権者自身が辞書編集者(lexicographer)であることを認めるというルールは、特許明細書中で明確な定義形式が使用されている場合のみに限定されない。
2. DSL特許
デジタル加入者線(DSL)技術は、従来の電話線における銅製電話線の一対をインターネットで用いるための高速で多チャンネルのデータ配信システムに変えた。通常利用できるのは、同じ速度で送信しかつ受信する「対称な」(SDSL)システム及び送信よりも早い速度で受信する「非対称な」(ADSL)システムである。
ベルアトランティックネットワークサービス社(以下、「ベル社」という)は、基礎をなすハードウェア及び設備を置き換えることなしに、DSLサービスに対して様々な速度やモードを与えるシステムに関する特許(USP5,812,786)を保有している。その発明は、ADSLシステムに対して「調整可能な様々な速度」の機能(ADSL/AVR)を与えることによって現在のDSL技術に対して能力を付加する。同特許によれば、その発明は、双方向モードのADSLよりも伝送速度を速くするために下り制御信号チャネルのデータ速度を制御可能に速くすることを許容する一方で、通常のADSLの利点を有する。1999年、ベル社は、コバッドコミュニケーションズ社(以下、「コバッド社」という)等を、'786特許を侵害するADSL及びSDSLサービスを販売しているとして、提訴した。
バージニア州東部米国地方裁判所のジェロメ・フリードマン判事は、非侵害のサマリージャッジメントを発行した。彼は、'786特許のクレーム1及び21によって必要とされるある限定は、文言上及び均等論上のいずれもコバッド社のDSLシステムにないと決定した。
ベル社は控訴した。
3. クレームは、明細書に「照らして(In Light of)」読む
ベル社は、クレーム1の「複数の異なるモード」という限定に関する地裁のクレーム解釈について争った。
ベル社は、「モード」という語の通常の意味に基づいて、'786特許によって考えられている「モード」の領域は、地裁によって議論されている3つのモード(通常の方向、双方向、逆方向)に限定されないと主張した。ジョンソンワールドワイドアソシエイション社対ゼブコ社事件判決(175 F.3d 985, 989, 50 USPQ2d 1607, 1610(Fed. Cir. 1999)(58 PTCJ 34, 5/13/99)を引用して、「モード」という文言の解釈を明細書中に記載されている3つの大きなカテゴリに限定することによって、地裁は、ある実施例の限定を不適正にクレームの用語に加えたと主張した。
連邦裁判所は、次のように説明して同意しなかった。
「我々は、「クレームを明細書に照らして読むことと、明細書からクレームに対し限定を入れて読むこととの間に明確なラインが往々にしてある」ことを認識している。例えば、ジョンソンワールドワイド判決を根拠として、ベル社は好適な実施例の記載に依拠してクレームの用語を限定することは許されないと主張する。ジョンソンワールドワイド判決では、我々は、クレームの用語の意味は、好適な実施例における、その用語の特定の用法によって限定されないと判決した。我々は、「記載における議論の対象となっている用語の様々な使用は、限定された定義を与えるよりも寧ろその用語に幅を与える」ことを理由とした。
しかしながら、ベル社によるジョンソンワールドワイド判決の解釈と、記載の役割に関する特徴付けは、あまりにも狭すぎる。我々は、スキムドライフシステム社対アドバンストカーディオバスキュラーシステム社事件判決(242 F.3d 1337, 58 USPQ2d 1059(Fed. Cir. 2001)(61 PTCJ 489, 3/23/01))において、記載は、「クレームの意味に関する指針を与えるものであり、例え明確な定義形式で指針が与えられていない場合であっても、クレームの解釈態様を規定しうる」と判断した。従って、特許権者が特許明細書全体に亘ってクレームの用語を単に一つの意味に首尾一貫した態様で用いたときには、特許権者は「暗示的に」その文言を定義付けたものと解釈される。」
4. 暗示的なクレームの定義
特許権者が用いるクレーム用語は通常の意味で解するという推定規定は強く働く一方で、特許権者が自身の辞書編集者として、クレームの用語に対して通常と異なる意味を与えることも許容される、と同控訴裁判所は説明した。
アーサー・アジャーサ判事は、明細書は、クレームの用語に対して「新しい意味を与える明確な意図」を示さなければならないことについては認めたが、「クレームの用語は、再定義の明白な表明をしない場合でも再定義したのが明らかと解される場合がある」ことを指摘した。彼は、また、アーノン特許に基づく自明性の拒絶の後の審査官及び特許権者による主張を引用して、審査経過は、送受信機が3つの可能なモードに限定されるという解釈を支持するとした。
さらに加えて、その裁判所によれば、ある従属クレームは、三つの記載されたモードのうちの一つにおける送受信機の動作をサポートしている。従属クレームの限定は、独立クレームに対して読み込むべきものでないけれども、裁判所は、従属クレームの文言は、単に、'786特許が「モード」という用語を暗示的に第1と第2のチャネル間のバンド幅の相対的な割当を意味するものと定義づけしていると説明した。
5. クレーム中の他文言の解釈
裁判所は、地裁は、「チャネル」という用語を周波数によって分割される通信経路に限定するというよりは、寧ろ広い通常の意味を適用すべきであったとのベル社の考えをはねつけた。ガジャーサ判事は、'786特許の明細書は、周波数によって分割される通信経路としての役割を有するバンド幅の量という定義が第1及び第2のチャネルに対して暗黙に与えられていることを示した。
しかしながら、同控訴裁判所は、地裁が「チャネル」の用語を、単なる1方向の経路に限定されるよりも、むしろ単方向及び双方向通信のいずれもサポートしているとしたのは誤っていたとする点でベル社に同意した。裁判所は、「暗示的」定義論をここでも用いて、クレーム及び明細書における用語の首尾一貫した使用を引用し、単方向通信と解釈した。ガジャーサ判事は、明細書及び審査経過中で、「チャネル」を双方向通信について言及するものとして使用している個所はあっても、それらは、先行例の制御チャネル、信号チャネル又は通常のテレフォンシステムの議論において用いたものであって、上り方向と下り方向のデータ通信に関する議論では単方向の伝送について言及したことが明らかであると指摘した。
最終的に、裁判所は、特許は通信セッションの間又はその間以外の両方において時々送信モード又は速度を「選択的に変える」ことの可能性を示唆しているとの地裁の判断について同意した。このケースでは、ガジャーサ判事は、特許は、明確に又は暗示により単に通信セッションの間のみに変えることという限定を定義しているのではないと説明した。
ベル社の主張した均等論の下におけるクレーム侵害については、連邦裁判所は、侵害の判断は、ペンウォルトコーポレーション対ドュランドウェイランドインク事件判決(833 F.2d 931, 4 USPQ2d 1737(Fed. Cir. 1987))における「オールエレメントルール」に反するものと判断した。ガジャーサ判事は、ベル社の均等論の理論は、クレーム1及び21に含まれる少なくとも2つの限定を全く欠くものであると説明した。
コバッド社の非侵害のサマリージャッジメントは、認容された。

〈参考文献〉
BNA International Inc.
"Patent, Trademark & Copyright Journal"
'Consistent Use of Claim Term Qualifies as Definition by Implication'
(Page 403-404, Volume 62, Number 1538, August 31, 2001)