● 国際活動委員会からのお知らせ(2001年12月)

〈オーストラリア〉
地理的名称("Phoenix")であっても商標登録可能である

審問官(Hearing Officer)は、商標"Phoenix"(指定商品:第3類化粧品)の商標の登録性が争われた控訴審において、"Phoenix"は地理的名称であるから登録できないというオーストラリア商標庁の拒絶を覆した(Unilever plc, [2001] ATMO 39)。
1. 判決の概要
商標Phoenixは、使用の証拠が無くとも登録されるべきであると判断すると共に、本件においてPhoenixは商標として機能することを確認し、Phoenixは地理的意味よりも鳥類学的意味が与えられるべきであり、Unilever社の意図する使用は当該商標に自他商品識別力を発揮させるものであると判断した。
2. 事実
Unilever社の商標登録出願(商標:Phoenix、指定商品:第3類化粧品)について、オーストラリア商標庁審査官は、1995年商標法の規定に基づき、当該商標が地理的名称であることから自他商品識別力に欠けると判断した。
Phoenixは米国アリゾナ州のSalt River沿いにあって、人口が100万弱の州内最大都市であり、データ処理やエレクトロニクス研究の中心地であるほか、コンピュータ部品・航空機・機械・食料・テキスタイル等の産地であるが、化粧品はそれ程でもない。
問題の商標は、自社ブランドLynxと一緒に、鳥のデバイス(図案)と一緒に使用することを意図したもので、使用証拠無しで英国及び米国(Phoenixの所在国)で登録されていた。
3. 商標の自他商品識別力
商標法によれば、商標は自他商品識別力を有する場合のみ、登録される(商標法第41条)。そこで、審問官は、かかる法規定の枠内で、マークが自他商品識別力に欠けるために商標登録されないものかどうかにつき検討した。
登録要件を具備するためには、商標として自他商品を識別する「固有の適応性(inherent adaptation)(自己識別力)」を有するものであるか、そうでなければ、出願日の時点で実際上出願人特有のものである場合に限り登録される(商標法第41条(6))。この自己識別力とは「商標自体の性質から生じるものであって、後発的に取得されるものではない(商標自体の本質的な性質は使用等によって変わるものでない。)」ことを意味するというのが、過去の裁判所の解釈である(Burger King Corporation v Registrar of Trade Marks [1973] 128 CLR 417 at 424におけるGibbs判事の意見参照)。
審問官は更に実際的なアプローチを採用し、以下の問題点−「商標PhoenixはUnilever社の製品を識別するものであるか、どうか?」−を検討した。
問題の商品は
・米国アリゾナ州フェニックスで製造されたか?
・フェニックスで製造されたことを理由に、問題の商標を付して販売されたか?
・オーストラリアに輸出されたか?
以上の質問に対する答えは否定的であったことから、そのような状況にあっては普通の購買者がPhoenixなる語をどう考えるか、また、その語の本来の意味(Phoenixは、一説によれば、500年の長期に亘って生存し、火葬用の薪の灰から復活した伝説の鳥(不死鳥)の意味もある。)に重きを置くかどうかということを考慮して判断すべきであるとの立場であった。かくして、本件の状況で"Phoenix"は商標として明らかに機能するので、当該商標PhoenixをPhilips Electronics NV v Remington Consumer Products, 40 IPR 279 at 301(UK CL)事件においてJacob判事が言う"limping mark(真意の欠けるマーク)"、換言すれば、「明らかに固有名詞の商標として常に使用されるマーク」として特徴付けるのは適当でないと判示した。
4. 実務と手続
オーストラリア商標庁の実務と手続のマニアルによれば、登録され得る地理的名称は物品又はサービスと地理的関係のないものであるとされている。しかし、審問官は、そのマニアルは問題を単純化し過ぎたものであり、問題となっている場所の大きさやそこでの産品だけが考慮されるべき関連事項でなく、商標が使用される態様や使用の意図も考慮すべきであると認定した。
5. 登録局の実情
2001年8月の時点で、"Phoenix"なる語を全体に又は一部に含む商標(出願中と登録の両方を含む。)が77件もオーストラリア商標登録局に係属している。しかし、審問官の意見としては、商標登録局の実情は、British Sugar plc v James Robertson & Sons Ltd.事件におけるJacob判事の判決で述べられている理由によって無視されるべきである、とのことである。この判決では、登録局の実状を調査することは、「事実問題を補助するものでなく、業者が独占権の確保を欲している用語であることを確認することになりかねない。特に、登録局の実情は、市場で何が実際に起こっているかを告げるものでない。」と判断されている([1996] RPC 281)。
オーストラリアにおける商標庁の現行実務は、商標登録局の実情を維持する一貫性が望まれる一方、商標庁が過去の誤りを堅持する必要はないというOcean Spray Cranberries Inc v Registrar of Trade Marks, [2000] FCA 177で判示された原則を追認しているものである。
しかし、処理中の出願が過去の判決とは区別されるものであると審査官が確信した場合に限り、良心的に既成手法を変更すべきであると、審問官は判示した。

〈参考文献〉
BNA International Inc.
"World Intellectual Property Report"
''Phoenix' Registrable as Mark Despite Its Geographic Name'
(Page 3-4, Volume 15, Number 11, November 2001)

〈米国〉
所定の植物が米国特許法101条の特許の対象となるかの当事者間の争い

米国連邦最高裁判所において、植物特許法及び植物品種保護法が植物又は植物品種の連邦独占排他権の唯一の根源となるかについて口頭弁論が行なわれた(J.E.M. AG Supply Inc. 対Pioneer Hi-Bred International Inc. 米国No. 99-1996、口頭弁論2001年10月3日)。
申立て人は、有性繁殖植物品種に特許保護を認めることは、種子研究関連企業による植物品種遺伝子の独占を招き、農場経営者に対し甚大な打撃を及ぼすこととなる旨訴えた。しかしながら、答弁者及び連邦政府は、特許保護は産業革新を奨励するものであり、また特許法の下で植物及び種子に与えられる保護は植物品種保護法の下で与えられる保護と抵触するものではない旨主張した。
植物特許
Pioneer Hi-Bred International Inc.(以下、「パイオニア社」という。)は有性繁殖する雑種及び近交トウモロコシ植物を網羅する17件の特許を所有する。その特許製品は、「穀粉及びかいばの生産」のための使用のみを許容し再販売を禁ずる制限付きライセンスのもとで販売されている。パイオニア社はJ.E.M. AG Supply Inc.(以下、「J.E.M.社」という。)等に対し特許侵害の訴訟を提起した。
連邦地方裁判所は、米国第35法典(以下、「米国特許法」という。)第161条に基づく植物特許保護が無性繁殖植物*に限定されているのに対し、同法第101条に基づく保護は有性繁殖植物にも及ぶ旨の判決を下し、J.E.M.社の略式判決申立を却下した。
中間上訴において、連邦巡回区控訴裁判所は、200 F.3d 1374, 53 USPQ2d 1440(Fed. Cir. 2000)(59 PTCJ 481, 1/21/00)判例法を根拠に、米国第7法典(以下、「植物品種保護法という」。)§2321が有性繁殖植物に特許によらない保護を与える一方、米国特許法第161条は無性繁殖された植物のみに特許保護を与えるものだとした。しかしながら、同控訴裁判所は、申立て人による「米国特許法第161条は植物についての特許の範囲の消尽を認めるものである」との主張を退けた。裁判所は、Diamond vs. Chakrabarty事件(447 U.S. 303, 206 USPQ 193(1980)(484 PTCJ A-1, 6/19/80)における最高裁判所の、米国特許法第101条に規定する特許対象要件は「人間により太陽の下で作られた如何なるもの」にも及ぶとの見解を引用した。
再審理の許可
2001年2月20日、連邦最高裁判所はJ.E.M.社による裁量上訴の申立を許可した。その申立における論点は以下の通りである。
「第三者が植物もしくは植物品種を有性繁殖すること、又は有性繁殖を介して(種子を介して)繁殖させた植物もしくは植物品種を販売もしくは使用することを排除する権利を認める米国特許法第101条の下で承認される特許は、1970年制定の植物品種保護法§2321以下と1930年制定の米国特許法第161-164条とが他人の植物又は植物品種を繁殖、販売又は使用を排除する権利を獲得するための手段として互いに排他的であるため、無効ではないか?」
再審理のための申立書は2000年6月に提出され(60 PTCJ 168, 6/23/00)、連邦最高裁判所は2001年2月20日に裁量上訴を承認した。当事者の意見は62 PTCJ 472(9/21/01)にまとめられている。
以下、その経緯を概略する。
申立て人(J.E.M.社の顧問弁護士ジョンソン氏)との討論内容
レンクイスト裁判所長官:植物法令により与えられる権利は特許法の下で与えられる権利と異なるか?
ジョンソン氏:それらの権利は有性繁殖された植物に関して相違する。有性繁殖された植物は植物品種保護法の下で独占的に保護されるものである。
スティーブン裁判官:農場経営者による種子の保存が侵害に該当することを支持した裁判所があるか?
ジョンソン氏:通常の特許の対象である種子の保存をした農場経営者が侵害の責任を問われる旨を支持した連邦地方裁判所が少なくとも1箇所存在する。しかしながら、我々の知る限り、連邦控訴裁判所がその判決を維持した例はない。
ギンスバーグ裁判官:米国特許商標庁が植物の特許性の問題について見解を示す立場にあったか?
ジョンソン氏:その立場にあった。官庁が通常の特許を承認する限度において、米国特許商標庁は種子生育植物に対し特許を承認する権限を有している。
ギンスバーグ裁判官:米国特許商標庁及び連邦巡回区控訴裁判所の両者がこの問題を取上げているなら、その見解内容は尊重されるべきではないか?
ジョンソン氏:行政官庁が所轄する法令の解釈は、それについて議会が特に議題としてとり挙げなかった場合に限り、司法的解釈に重きがおかれるものである。植物特許及び植物品種保護法の解釈においては、立法権をもつ議会が植物特許法及び植物品種保護法の制定という形でその意向を明確に示しているのであり、園意向が最も重きを置かれて考えられるべきである。
ギンスバーグ裁判官は、植物制定法令は通常の特許の保護範囲から有性繁殖植物を除外するものである旨を議会が示したことはない、としてジョンソン氏の意見には同意せず「科学は植物特許法及び植物品種保護法が制定されて以来進歩しており、そのことは細菌ですら特許され得るとの判決を下したChakrabarty事件において認識されたものではないか」との考えを示した。
被申立て人(パイオニア社の顧問弁護士シーズ氏)との討論内容
ソウター裁判官:米国特許法第101条の下で特許保護を求める場合と、植物品種保護法の適用を受ける場合とで、出願人の負担に相違はあるのか?
シ−ズ氏:特許保護を受ける方が、新規性、有用性、非自明性の要件を理由とされる分困難である。本件の場合、植物品種は特許され、且つ植物品種保護法の下で登録もされたものである。しかしながら、本特許は承認されるまで自明であるとの理由で繰り返し拒絶された。植物品種保護法は非自明性の要件はなく、植物品種保護法の証明書の獲得のための手続は特許よりはむしろ著作権のための出願に近いものである。
ギンスバーグ裁判官:その他の知的所有権の分野で二重保護の問題はあるか?
シーズ氏:特許の分野においては似たような問題は存在しないが、知的所有権関連法は意匠特許と著作権との間での重複等、数多くの重複システムを許容するものである。植物特許の場合、明細書記載要件を満たすことが困難であること及び生物は「自然物」であることを論拠に保護されるべきでないとの理由で特許されないといった1930以前の問題に対して議会が対応したものである。その結果、植物特許法は、緩和された記載要件の下で所定の植物に特許を認めるものである。
ブレイヤー裁判官:何故議会は新規且つ顕著な種子品種に関し、農場経営者に種子を保存することを許容し(植物品種保護法§2543)、また種子を研究のために使用し及び繁殖することを認容する(植物品種保護法§2544)権利制度(植物品種保護法)を制定する一方で、新規且つ非自明な種子品種のそのような実施を禁じる別の権利制度(通常の特許)とを制定したのか?
シーズ氏:議会は植物品種保護法が米国特許法第101条の範囲を狭めるように解釈がされる必要があるのなら、そのことをはっきりと示しておく必要があったが、実際にはそうしなかったところから考えると、両者による保護は互いに排他的なものではないと考えられるからである。
政府代表者との討論内容
政府を代表する法務長官代理ワラス氏は、「生物が特許法101条の下で保護されることができない」との見解を明確に否定した最高裁判所のCharkrabarty事件の判決において、植物特許法及び植物品種保護法が中心的な役割を演じたと、と述べた。
ブレイヤー裁判官:植物品種保護法で保護されるものは特許で保護され場合もあるか?
ワラス氏:植物品種が双方の法律で同時に保護されることはよくあることである。但し、特許の保護を獲得する方が困難であり、時間もかかるものである。本年において、5,000件を超える植物品種保護法に基づく証明書が発行されたが、植物品種及び種子に関する通常の特許は1,800件しか承認されていない。
スティーブンス裁判官:特許された種子を購入した農場経営者がその種子を用い、有性繁殖を通じてより多くの種子を生産したなら、それは侵害の罪に問われるのか?
ワラス氏:パイオニア社の特許された種子の販売に基づくライセンスは「穀粉又はかいば」の生産のための農場経営者による更なる種子の使用のみを付与対象とするものである。農場経営者により生産された種子がその他の目的で使用されたなら、特許権者はその補償を受けるべきであろう。政府は、種子関連企業の間断のない革新に報酬を与え、奨励する義務があるからである。
以上
米国特許法第161条
養殖変種、突然変種、交配新種および新規に発見された苗木を含めて、顕著にして新規な植物変種を発明しまたは発見し、かつそれを無性繁殖させた者は、塊茎植物または野生植物の場合を除き、本法の規定に従って、その変種について特許を受けることができる。発明の特許に関する本法の規定は、別段の定めがある場合を除き、植物特許に適用する。
無性繁殖植物
種子以外の手段による繁殖を意味し、接ぎ木、芽接、挿木、取り木、株分、寄せ継ぎ等の園芸技術を広く含む方法。

〈参考文献〉
BNA International Inc.
"Patent, Trademark & Copyright Journal"
'Parties Debate Whether Certain Plants Are Patentable Subject Matter Under §101'
(Page 534-535, Volume 62, Number 1543, October 12, 2001)

〈米国〉
特許/クレーム構造
発明の目的によるクレームの定義付けは誤りであり、構成限定に欠ける

非数値限定を伴ったクレーム用語を発明の目的に照らして解釈することはクレーム中に機能的限定がある場合にのみ妥当であるとの判断を、米国連邦巡回区控訴裁判所は9月6日示した(Ecolab社対Envirochem社事件、連邦巡回裁判第00-1402号、2001年9月6日)。
固形皿洗い洗剤「キャスト」に関わる特許侵害事件において、地方裁判所は"substantially uniform"(実質的に均一)なる用語が、クレームされたキャストの耐用期間中に同質の洗浄溶液を形成する構成要件を含むという解釈をしたのは誤りがあったと、同控訴裁判所は判決した。その用語は通常の意味に解釈すべきであったとし、同控訴裁判所は文言侵害とした略式判決を覆した一方で、地方裁判所によって考慮されなかった宣誓供述書の関連性についての判決については差し戻した。
侵害裁判判決
Ecolab社は商業用皿洗い機に使用する固形の「実質的に均一であるアルカリ性洗剤」キャストの特許(再発行特許第32,818号。以下、「'818号」という。)を保有する。主成分が苛性アルカリと水コンディショナーであるキャストは、殆ど一表面でキャストを包囲する使い捨て容器内に含まれている。その使用に当たっては、容器は皿洗い機のディスペンサーにおいて逆さに配置される。そして、水タンク中に溶解し流入するキャストの露出面に対して断続的に水が噴射され、皿洗いサイクル用の洗浄液を形成する。
特許'818号を侵害していると主張し、Ecolab社はEnvirochem社を訴えた。Envirochem社は和解合意において侵害を認め、固形キャスト洗剤の製造、販売を取り止めることに同意した。しかしEnvirochem社は新製品を開発したため、Ecolab社は再度訴えた。ニュージャージー州地方裁判所のグリーンウェイ判事は結局、Ecolab社による文言侵害を求めて略式判決の申立を認めたため、Envirochem社は控訴した。
構成限定なし
同地方裁判所の侵害判決は、"substantially uniform"(実質的に均一)なるクレームの用語の解釈に基づいている。その用語は、「キャストの耐用期間中、同質の洗浄溶液が形成されるキャストの上から下までの成分の連続性のレベル」を意味すると考えられる。
連邦巡回区控訴裁判所は、同地方裁判所はそのクレーム解釈を誤ったと判決した。
リン判事曰く誤りの一つは、裁判所が発明の用途に則って争点となっている用語を定義付けたことであった。Ecolab社の主張に反し同判事は、非数値限定用語は他の用語と同様の解釈則を用いて解釈されると述べた。
Laitram社対Cambridge Wire Cloth社事件において裁判所は、用語"slightly greater"(わずかにより大きい)は用語"spacing"(間隔をあけること)に関連するとして、間隔をあける目的に照らして解釈したのは正しかったと認定した。しかしその事件では、クレーム文言自体は間隔をあけることの限定に関連した幾分かの機能的限定を含んでいる。反対にキャストの耐用期間中、同質の洗浄溶液を形成することに関してクレームされた機能要件はない。
通常の意味
クレーム中の用語は一般的に通常慣れ親しんだ用語の意味において解釈されるという原則であるのに、同地方裁判所が"substantially uniform"(実質的に均一)なる用語をそのように解釈しなかったのは誤りであると、連邦巡回区控訴裁判所は続けた。
リン判事は、通常"uniform"(均一)は「常に形状、程度において同じである、つまり変わりがないこと」を意味し、また"substantially"(実質的に)は「相当な程度」、若しくは「それが特定される大部分であるが、全部ではない」ことを意味すると説明した。さらに判事は、"substantially uniform"(実質的に均一)は「アルカリ性洗剤」を限定しているので、クレームの用語自体は"substantially uniform"(実質的に均一)を、商業用洗浄剤含有物質の全体的な構成ではなく、洗剤自体に結び付けると付け加えた。
裁判所は、特許'818号の明細書も"substantially"(実質的に)、及び"uniform"(均一)の特定な定義を開示していないと説明した。"about"(およそ)という用語のように、"substantially"(実質的に)は厳密な数値境界を避けるために一般に使用されると、リン判事は付け加えた。
控訴裁判所は、用語"substantially uniform"(実質的に均一)を加えるクレーム補正において、特許権者はキャストの均一性を維持することの重要性に気付いたことを認定した。しかし同判事は、当該補正時の応答書簡においては同質の溶液を有することについて何も述べていないと主張し、「特許権者によって機能がクレーム自体において言及されていない場合、そのような機能的限定は持ち込んで解釈することはならない」と記した。
宣誓供述書
さらに地方裁判所は、特許'818号のクレーム範囲に関するTinker宣誓供述書の関連性と効果について認識しなかったのは誤っていたと、連邦巡回区控訴裁判所は判示した。
その宣誓供述書は、特許法103条下の引例の組合せによるクレームの拒絶を克服するために提出された。リン判事は、クレームされた混合物(即ち「式5」)においてではないが、宣誓供述書によって先行技術の混合物のキャストの上下間のアルカリ度、及びトリポリホスフィン酸塩濃度における重要な差異を示すデータが提示されたと認めた。
宣誓供述書は"substantially uniform"(実質的に均一)の意味を数値的に限定するというEnvirochem社の主張を退けながらも、同控訴裁判所は、その宣誓供述書は関連性があることを認めた。裁判所によると、式1〜4の上下で顕著に成分が分離することが宣誓供述書によって認められたという点で、それは混合物の成分に関して、特許権者による"substantially uniform"(実質的に均一)の特許権の一部放棄である。
リン判事は、「上記、つまりクレーム文言、明細書、出願経過を考慮し我々は、"substantially uniform"(実質的に均一)はアルカリ性洗浄キャストに関連するとして、形状において大部分であるが全部同じなのではないと意味すると推測する」と記し、「このフレーズへの作用言語の追加に対して、クレーム文言、クレームシンタックス、明細書、出願経過、又は判例法において裏付けはない」と締めくくった。
裁判において、若しくは審判請求趣意書の中でTinker宣誓供述書が検討されなかったことを考慮し、連邦巡回区控訴裁判所はそのデータの解釈を地方裁判所に差し戻した。しかしリン判事は、地方裁判所に「Tinker宣誓供述書の式1〜4のそれのように、苛性、トリポリホスフィン酸塩のパーセント分離を有する如何なるキャスト混合物は、'実質的に均一'に成り得ないことを念頭に置くように」と警告した。
侵害
文言侵害について同控訴裁判所は、問題は同質の液体が形成されるかどうかではなく、キャストが上から下まで非常に近い成分の一貫性を有するかどうかであると強調した。
連邦巡回区控訴裁判所は、クレーム解釈に関して再審理させるべく地方裁判所に差し戻した。裁判所は被疑侵害製品のパーセント変化による組み合わせが、Tinker宣誓供述書中の式1〜4で述べられている物と同等、または大きければ、そのような製品は文字通り侵害することはできないと強調した。
リン判事は均等論侵害に関しては、"substantially uniform"(実質的に均一)の限定は、特許性に関して追加されたものであり、その限定によってクレームの範囲を狭めるものであると認定した。従って、出願経過禁反言によって、その限定に関する均等論侵害の事実認定は禁じられると判決を下した(Festo社対金属工業株式会社事件)。
Envirochem社のクレーム1に関する文言侵害について、略式判決は無効となり、控訴裁でのクレーム解釈に基づき侵害判断をすべく、事件は差し戻された。

〈参考文献〉
BNA International Inc.
"Patent, Trademark & Copyright Journal"
'Defining Claim By Invention's Purpose Was Error, Absent Functional Limitation'
(Page 476-477, Volume 62, Number 1540, September 21, 2001)