● 国際活動委員会からのお知らせ(2002年1月)

〈カナダ〉
Boston ChickenとBoston Pizzaの名称は混同を生じるほど類似しない

Boston Pizza International Inc.対Boston Chicken Inc.
カナダ連邦裁判所
2001年9月17日判決

「BOSTON CHICKEN」と「BOSTON CHICKEN Design」の商標の登録抹消を求める訴えにおいて、カナダ連邦裁判所は、記述的商標に関する混同のおそれの評価においては、商標中の共通の要素の第三者による使用が非常に重要な因子である、と判示した。
−−−背景−−−
原告Boston Pizza International Inc.(BPI)は、冷凍あるいはホットのピザ、スパゲティ及びそれらの料理のための材料並びにレストランサービス及びそのフランチャイズ運営についての「BOSTON PIZZA」(1970年9月18日登録)を含むカナダにおける多数の商標の所有者である。1994年までに、「BOSTON PIZZA」のレストランがカナダの5つの州に93店舗あった。
被告Boston Chicken Inc.(BCI)は、「BOSTON CHICKEN」と「BOSTON CHICKEN Design」の2つのカナダ登録商標の所有者である。被告商標は、テイクアウトのレストラン及びケータリングサービスについて、1992年5月29日に登録された。1994年末において、「BOSTON CHICKEN」の商標の下に、530店舗のレストランが米国において運営されていた。証拠が示すところによれば、被告は、オンタリオ州ウィンザーにおいてケータリングサービスを営むことによって「BOSTON CHICKEN」の商標の使用をカナダにおいて開始した。
原告BPIは、被告BCIの「BOSTON CHICKEN」と「BOSTON CHICKEN Design」の2つ登録商標が、被告BCIのサービス内容を識別するものでなく、それらが原告BPIの商標「BOSTON PIZZA」と混同するので登録性がなく無効であり、また被告BCIは、カナダにおいて先に使用されている原告商標と混同を生じており、それらの商標について登録を得られる資格がないとして、同商標の登録抹消を求めた。
−−−抹消の手続及び混同の論点−−−
混同の可能性を立証する責任が原告に掛かっているというのは、登録抹消手続におけるありふれた法理である。原告BPIは、その主張を支持するために、商標「BOSTON PIZZA」の長期にわたる使用に照らして、それがフランチャイズレストランチェーンとの関係において、識別性を有し、かつ生得的でない識別性にかかわらず、保護に値するものであることを主張した。裁判所はこれに同意した。
裁判所が、「BOSTON PIZZA」と「BOSTON CHICKEN Design」の間の混同の問題を素早く処理し、これら2つの商標間に混同はないと判示して、文字商標「BOSTON PIZZA」と「BOSTON CHICKEN」の間の混同のおそれを裁定することのみを進行したことは注目に値する。
「BOSTON PIZZA」と「BOSTON CHICKEN」の間の混同のおそれに関して、裁判所は、人が記述的商標に直面して混同のおそれを決定するとき、問題の商標間の小さな相違でも混同の可能性を小さくするのに十分であることを再度力説した。裁判所は、人が記述的商標を採用する場合、ある程度の混同が生じるであろうことは甘受すべきであると述べた。
被告BCIは、その主張を立証するため、レストラン業界における「BOSTON」の語を含む商号/商標を使用する第三者の存在に関するかなりの数の証拠を提出した。そのような状況下で、被告BCIは、原告BPIからの混同の証拠の提出がないことから、多くの第三者が「BOSTON」の語を含む商号/商標を使用しているということは、カナダの消費者が「BOSTON」の語を見慣れているので、問題の商標を識別するのに、「BOSTON」の語よりもむしろ、「PIZZA」と「CHICKEN」の語に注目するであろうとの推論が合理的であると考えられる余地を生ずると主張した。
裁判所は、被告BCIの主張を支持した。そして、米国において、Broadway Chicken, Inc.事件について商標抗告審判部(Trademark Trial and Appeal Board)により判示されたケースに言及したことは興味深い。商標抗告審判部での論争点は、連邦裁判所での論争点と近似していた。即ち、原告の商標「BROADWAY CHICKEN」は、レストラン及びバーサービスのための登録商標「BROADWAY PIZZA」及び「BROADWAY BAR & PIZZA」と混同を生ずるかというものであった。
−−−混同の可能性はない−−−
商標抗告審判部は、広範な第三者の使用の証拠故に、混同の可能性はないと判示した。共通の「BROADWAY」の語を含む商標のレストラン/食事場所という特定の分野におけるそのような使用の証拠は、購入者が問題の分野における商品又はサービスの出所を識別する手段として、商標の他の要素に着目するよう慣らされていることを示唆するものである。
上記の記述的商標に関する原則と、共通の語句「BOSTON」の第三者の使用証拠とが、裁判所が、カナダの消費者が問題の商標における他の特徴、即ち本件でいえば「CHICKEN」と「PIZZA」の語により注目し、そして、その特徴により両商標を識別するであろう、と判断する決定的な要素となったことをはっきり示した。被告BCIを支持する判決は、周囲の環境がその判決に影響を与え得るほど重要であることを示した。本件はまた、記述的商標の採用は、自らの危険負担においてなされるべきである、という商標権者へのリマインダーでもある。

〈参考文献〉
BNA International Inc.
"World Intellectual Property Report"
'Names of 'Boston' Chicken, Pizza Are Not Similar Enough to Confuse'
(Page 4-5, Volume 15, Number 12, December 2001)

〈米国〉
271条(f)侵害責任は、化学特許の「コンポーネント」を供給することを含む

35 U.S.C. 271条(f)に規定される特許侵害の責任は、機械特許に限定されず、特許が付与された化学組成物特許における「コンポーネント」を米国外で組み立てさせるために、米国外へ出荷する場合にも追求され得ると、ニューヨーク州南部地区地方裁判所は、10月18日に判決した(Bristol-Myers Squibb Co. v. Rhone-Poulenc Rorer Inc., S.D.N.Y., No. 95 Civ. 8833(RPP), 10/18/01)。
しかしながら、裁判所は、当該規定が想定している複数の「コンポーネント」ではなく、クレームされた組成物のうちの単一のコンポーネントを供給しているに過ぎにないことを理由に、被疑侵害者は271条(f)のサブセクション(1)に違反していないと判示した。また、米国に常駐する従業員がイタリアからアイルランドへコンポーネントの出荷を手配した場合には、米国外で行われた出荷は271条(f)に違反しないから、責任は発生しないものと判示した。
1. 外国製品のための中間生成物の供給
ブリストル−マイヤーズ・スキュイブ社(以下、「ブリストル社」という。)は、被告のローネ−ポウレンク・ローレル社等(以下、総称して「RPR社」という。)をブリストル社が"Taxol"なるマークを付し販売している半合成のタキソールを準備する過程に関連して、RPR社の特許(Re. 34,277)のクレーム12乃至14を侵害していないとの確認判決を求めて訴訟を提起した。
'277特許のクレーム14は、「保護されたタキソール」と呼ばれる「タキサン」派生物の中間生成物について規定している。クレーム12乃至14は、また、'277特許の下でタキソールを生成する際に用いられるタキサン派生物の中間生成物を規定している。
RPR社は、ブリストル社が、アイルランドのソードにてクレーム14の中間生成物の生成において用いるべくニューヨークのシラキューズから前駆体の要素を供給することは271条(f)に違反しているとして、反訴した。
両社は、略式判決を求めた。
2. 271条(f)は化学のコンポーネントに適用される
271条(f)は次のように定められている。
(1)特許発明の構成部分のすべてまたは要部を、米国内もしくは米国外へ正当権原なく供給し、または供給せしめた者は、そのような構成部分が、全体もしくは部分的に組み立てられていないが、もし米国内で組み立てれば特許権を侵害するような態様で米国外で組み立てられるような状態にあるとき、侵害の罪に問われるものとする。
(2)特許発明の実施のために特に製造され、または改造された特許発明の部品であって、特許を侵害しない用途に用いられる一般的商品となりえない部品を米国内もしくは米国外へ供給するか、供給せしめた者は、その部品が全体または部分的に組み立てられていないが、その部品が米国内で組み立てられれば特許を侵害するような態様で製造もしくは改造されたことを知り、かつその部品の米国外での組み立てを意図していた場合は、侵害の責任を負うものとする。
ブリストル社は、最初は、化学組成物は、一般的に、「コンポーネント」を有するものとして記述されないため、271条(f)は、化学組成物の特許には適用すべきでないと主張した。それを支持するために、ブリストル社は、機械的な組み立てに関する特許を含むケースであるディープサウスパッキング社対レイトラム社事件(406 U.S. 518(1972))における最高裁の意見を引用した。
地裁は、納得しなかった。ロバート・パターソン・ジュニア判事は、271条(c)における寄与侵害についての規定は、「コンポーネント」という字句を、特許された機械とともに、特許された組成物をいうために用いられていることを指摘した。彼は、101条における「組成物(Composition of Matter)」である特許された組成物は、化学の特許を含むことを追記した。彼は、「議会は、コンポーネントという字句がサブセクション(c)における場合とサブセクション(f)における場合とで異なる意味を有すると意図していることを法令は示していない」と記した。
従って、裁判では、271条(f)は、化学の特許に適用されると結論付けた。
3. 271条(f)(1):1つ(Single)対複数の(Multiple)コンポーネント
RPR社は、ブリストル社は、クレーム14にて特定された化合物の実質的なコンポーネントである「Bラクタム側鎖前駆体」を供給しているから271条(f)(1)に違反していると主張した。ブリストル社は、271条(f)(1)では、被疑侵害者が、複数のコンポーネントを供給することを要するとしているため、その法令は、適用されないと反論した。
地方裁判所は、ブリストル社を支持した。パターソン判事は、法令中でおける"Components"を複数形で繰り返し参照していることを挙げて、271条(f)(1)の明白な意味は、複数のコンポーネントが米国から或いは米国へ供給され、又は供給されるようにした場合にのみ適用されると断言した。彼は、法令のセクション毎の分析を指摘して、この規定の立法過程はこの解釈を支持するものであると追記した。
彼は、「ブリストル社は、単に、米国からBラクタム前駆体を供給したに過ぎないため、271条(f)(1)下の責任はない」と結論付けた。
4. 271条(f)(2):一般的商品
RPR社は、また、ブリストル社が供給したBラクタム側鎖前駆体は、特別に製造され、又は特別に改良されたクレーム14のコンポーネントであって、一般的商品や日用品ではないものであるから、ブリストル社は、コンポーネント271条(f)(2)を違反していると主張した。
裁判所は、この主張を退けた。ブリストル社のBラクタム側鎖前駆体はクレーム14で特定される組成物のコンポーネントそのものではなく、むしろ、その側鎖のコンポーネントが保護される(2R, 3S)3−フェニリソセリン派生物であるとし、それ故、ブリストル社は、271条(f)(2)の下でクレーム14を文言上は侵害しない、とパターソン判事は結論付けた。
さらに、彼は、ブリストル社が均等論の下で侵害者として責任を負うか否かについては、重大な事実の問題を生じさせると付け加えた。従って、そのクレームに関する略式判決を求めたRPR社の提起は否定された。
5. ブリストル社の逆提訴「出荷を起こさせること(Causing Shipments)」
また、RPR社は、ブリストル社がアイルランドでのタキソールの加工のために必要な他のコンポーネント("10-DAB")をイタリアから出荷するための手配をアメリカに常駐する人員が行ったのであるから、'277特許のクレーム12乃至14を271条(f)の下で侵害していると主張した。RPR社によれば、「米国内もしくは米国外へ供給するか、供給せしめた」というフレーズは、米国外において行われた出荷であって、米国内の者がその出荷の手配をした場合も含まれる。
そのクレームに関する略式判決に対する逆提訴において、ブリストル社は、「米国内もしくは米国から」というのは、供給されるコンポーネントについて言っているのであって、供給せしめた人について言っているわけではないと主張した。そのような解釈の下では、米国内にいる誰かが引き起こした米国外における出荷は、271条(f)に違反しない。
裁判所は、ブリストル社に同意した。271条(f)のサブセクション(1)及び(2)の双方は、直接的にか、又は第三者を通じてかを問わず、米国内又は米国からのコンポーネントの供給及び米国外におけるそのようなコンポーネントの組み立てについて規定しているとし、法のいう場所とはコンポーネントの場所であって、供給を引き起こした人の場所ではないことを繰り返しかつ首尾一貫して述べつつ、「米国内もしくは米国から」とは、それ故、供給の場所に関するものであり、被疑侵害者の場所に関するものではないとパターソン判事は結論付けた。
裁判所は、この結論は、ディープサウス事件を覆そうとの議会の意図を確認する立法過程とも一致するものであると述べた。また、パターソン判事は、判例法を引用して、他の裁判の決定とも一致するものであると、付け加えた。
RPR社の解釈は、米国外で製造、使用又は販売された製品をかかわらせる行為に対する寄与侵害の責任を論ずる際に起こってくるものであろうが、法令の文言上又は立法過程でこれを支持し得るようなものが全くない、と同判事は断言した。
裁判所は、「10-DABは、ソードに供給され、米国に入ることはなかったのであるから、ブリストル社は、271条(f)を侵害するものではなかった」とし、そのクレームに関する略式判決に対するブリストル社の逆提訴を認めた。

〈参考文献〉
BNA International Inc.
"Patent, Trademark & Copyright Journal"
'§271(f)Infringement Liability Includes Supplying Chemical 'Components''
(Page 28-29, Volume 63, Number 1547, November 9, 2001)

〈米国〉
訴訟上の不正行為を根拠に特許無効としてはならない

合衆国連邦巡回区控訴裁判所は、訴訟上の不正行為は特許権侵害訴訟における原告請求の棄却の根拠とはなっても、特許無効の根拠とはならないと11月5日に判決した(Aptix社 対 Quickturn Design Systems社、Fed. Cir., No. 00-1468, 11/5/01)。
当該控訴裁判所は、地方裁判所判決の特許無効に係る部分を破棄して、特許権自体を無効とする典拠としてキーストーン・ドリラー社 対 ジェネラル・エクスカベイター社事件における最高裁判所のアンクリーンハンド判決を採択することを拒絶した。同控訴裁判所は一般的にアンクリーンハンドが認定されたからといって後続の訴訟事件での原告の訴追権まで奪われるものではないとし、特許取得に係る不正行為と特許行使に係る不正行為とを区別した。尚、ロバート・メイヤー首席判事は反対意見において、裁判所に対する誠実義務は特許商標庁に対する誠実義務と少なくとも同程度に尊重され得ると反論した。
第一審裁判所における訴訟上の不正行為による訴えの棄却:
アプティックス社はフィールドプログラマブル(出荷先で機能変更可能な)回路基板に関する特許(5,544,069)(以下、「069特許」とも略称する。)の所有者であって、その特許はアプティックス社の創立者で最高経営責任者のモーセン氏の発明によるもので、メタ・システムズ社(以下、「メタ社」と略称する。)にライセンス供与されている。クイックターン・デザイン・システムズ社(以下、「クイックターン社」と略称する。)に対する特許侵害訴訟において、アプティックス社は裁判所規則によって当該特許発明の着想日を提示するよう求められ、数回に亘る相矛盾する発明者ノートブックを提出した。そのため、クイックターン社はアプティックス社が先行技術を意図的に回避しようとしたとして反論した。
カリフォルニア州北部地区地方裁判所のウィリアム・アルサップ判事はクイックターン社の反論を認めた。つまり、同地方裁判所は、訴訟上の不正行為を根拠に当該「069」特許を無効とする判決を行い、キーストーン・ドリラー社 対 ジェネラル・エクスカベイター社事件、290 U.S. 240, 19 USPQ2d 228(1933)(「キーストーン第1事件」)において唱えられたアンクリーンハンドの原則の下に原告請求を棄却した。また、同地方裁判所は、米国特許法(35 U.S.C.)第285条(弁護士費用)における例外的事件と認めて、アプティックス社に対しクイックターン社の弁護士費用の支払いを命じた。アプティックス社とメタ社は共に控訴した。
不正行為の証明:
アプティックス社が重大な訴訟上の不正行為をなしているとの当該地方裁判所の結論は記録により明白且つ有力に裏付けられているとして、合衆国連邦巡回区控訴裁判所における控訴審が開始した。ランドール・レイダー判事は、モーセン氏が署名及び日付の入ったページに新たな資料を追加した後に同氏の1989年におけるノートブック17ページを裁判所に提出したという地方裁判所における認定に注目した。実際、当該ノートブックの後の「フォトコピー上のインク」版には同氏が本物であると主張する1989年のノートブックに同氏の筆跡による加筆があったものと、控訴裁判所は認定した。
モーセン氏のノートブックは同氏の車から盗まれ後に匿名者によって返却されたという反論にもかかわらず、同氏は当該ノートブックの信憑性に係る証言聴取において合衆国憲法修正第5条の黙秘権を行使したとレイダー判事は付け加えた。また、同判事はバクスター対パルミジアーノ事件425 U.S. 308(1976)を引用して、上記ノートブックの消失及び再現に係る同氏の証言拒否によって控訴審は同氏に不利な結論を導き出せると主張した。
更に同判事は、「アプティックス社自身でさえ、ノートブックの盗難及び後の謎めいた返却に対する真顔の説明だけではそれらの出来事がモーセン氏自身によるでっち上げであったことになるから、控訴審は自由にアプティックス社に対して不利な結論を導き出せるということについて反駁しようともしていない」と付け加えた。
棄却判決及び弁護士費用裁定の正当化:
地方裁判所における訴訟上の不正行為の認定はアンクリーンハンドの原則の下に原告請求の棄却を十分に正当付けるものであると控訴裁判所は続けた。
レイダー判事は最高裁判所が上記キーストーン第1事件において訴訟中に詐欺行為を行った特許権者に対する原棄却判決を容認した点に注目した。同判事は、「本件の地方裁判所はキーストーン第1事件と同様に広範な裁量を有し、アプティックス社を法的に救済不能と認定し、衡平の欠缺に対する同社の訴えを棄却した」と記した。控訴裁判所は、更に、本件における詐欺及び不正行為によって本件は米国特許法第285条の例外的事件に該当するとの判決理由を述べて、地方裁判所はまたクイックターン社の弁護士費用の支払いを裁定する大きな裁量を有していたと判決した。
特許無効の否定:
しかしながら、連邦巡回区控訴裁判所は当該「069」特許が無効であるとの地方裁判所の認定に対しては異議を唱えた。レイダー判事は「訴訟上の不正行為は、一方において不正な訴訟当事者の請求を棄却する根拠を提供するものの、元来の授与された所有権に影響を与えたり更に具体的な作用を加えたりするものではない」と判決理由を述べている。レイダー判事は最高裁判所或いは連邦巡回区控訴裁判所は訴訟上の不正行為によって特許無効を未だかつて宣言したことはないと主張した。同判事は地方裁判所がキーストーン第1事件に依拠した点を退け、最高裁判所が同事件で訴訟上の不正行為は当該不正行為を行う訴訟当事者たる原告に不利に働きはしても、当該特許権自体は訴訟上の行為と無関係に存続すると強調した。
訴訟上の不正行為に対する矯正手段と特許権取得過程における不正行為に対する矯正手段とは異なるという点を控訴裁判所は重要視した。特許商標庁の面前での不公正行為は如何なる当事者によるものであっても特許を無効とするのに対し、アンクリーンハンドの原則は原告当事者のみを退けるとレイダー判事は説明する。アンクリーンハンドが認定されたときは一般的に、当該事件における救済が阻止されるのみであって、後続の訴訟事件での原告請求権まで否定されないと同判事は更に説明した。
アンクリーンハンドに対する救済は当該不正行為そのものを対象とし、当該訴訟対象物である特許権自体を対象とするものではないことが一連のキーストーン事件の全体より説明されると連邦巡回区控訴裁判所は判示した。レイダー判事はキーストーン第1事件においてその効力が最高裁判所によって容認された第6巡回区の下級審判決を引用した。同判事はまたキーストーン・ドリラー社 対 ノースウェスト・エンジニアリング社事件、294 U.S. 42, 24 USPQ 35 (1935) (「キーストーン第2事件」)を引用して、同一特許と関係する後続の侵害訴訟事件における訴追請求が先行する詐欺行為によって害されることはないとする多くの判決が最高裁判所によってなされている点に注目した。
もしアプティックス社が特許商標庁の面前における不公正な行為によって当該「069」特許を取得したのであれば、第一審裁判所は当該特許の無効を宣言する完全な裁量を有しているものと連邦巡回区控訴裁判所は認めた。しかしながら、レイダー判事は、記録からは当該特許権の取得過程における何らの不正行為も認められない点を強調した。更に同判事は、メタ社が本件訴訟事件より以前にアプティックス社から当該「069」特許のライセンス供与を受けていると認めて、如何なる会社も訴訟係属中または特許商標庁での権利取得過程における不正行為に関与していない点を追加した。
特許商標庁での権利取得過程における不正行為の開示が欠如していることを根拠に、同控訴裁判所判断に従って、当該「069」特許は有効に授与された所有権として推定維持される。第一審裁判所は、単に訴訟係属中の不正行為のみに基づいて当該特許無効を宣言しており、明らかにキーストーン第1事件及びアンクリーンハンドの原則の限界を越えている、と同控訴裁判所は結論した。
上述のとおり、同控訴裁判所は、地方裁判所における原告請求棄却と弁護士費用の裁定は容認したが、特許無効の判定は以下のように説明して破棄した。
既に議論された範囲内で、裁判所は自由に訴訟係属中に起った不誠実な行為を認定できる。訴訟係属中の不誠実な行為を処罰するための当該「裁判所に固有の権能」は「事件の処理を整然且つ迅速に達成できるよう裁判所が自己の業務を遂行するために必然の結果として裁判所に与えられたものである。」(中略)「法廷侮辱行為を処罰する権能は総ての裁判所が本来備えているものである。」(中略)たとえ極めて過酷な処罰であっても、訴訟の完全なる棄却は裁判所の裁量範囲内である。(中略)そして、弁護士費用の評価というより過酷でない処罰も、同様に裁判所に固有の権能の範囲内である。(中略)従って、地方裁判所はアプティックス社に対する救済を否定し、或いは、アプティックス社に対して弁護士費用の支払いを命じることによっては裁判所の裁量権を乱用したことにはならない。
反対意見:
ロバート・メイヤー首席判事は反対意見において、当該「069」特許を無効とする地方裁判所の判決を容認したいと述べた。同判事はもしモーセン氏の詐欺行為が裁判所の面前でなく特許商標庁において起ったならば、当該「069」特許は無効であろうと指摘した上で、裁判所に対する誠実義務は特許商標庁に対する誠実義務と少なくとも同程度に尊重され得ると主張した。メイヤー判事の見解では、救済を求める当事者による特許発行後の不正行為があった場合は特許無効の宣言を妨げるべきアンクリーンハンドの原則に限界はない。
メイヤー判事に従えば、モーセン氏によってなされた詐欺行為のタイプは当該特許そのものを傷つけるものである。同判事は「文書偽造は偽って本物であると称する技術ノートブックとそれを支持する文書の信憑性判断が困難であるとするに十分に広汎である」と反論した。更に、同判事は「アンクリーンハンドの原則はかかる偽造者への恩恵や裁判所における汚点を許すものではない」と明言した。

〈参考文献〉
BNA International Inc.
"Patent, Trademark & Copyright Journal"
'Patent Unenforceability May Not Be Based Upon Litigation Misconduct'
(Page 49-50, Volume 63, Number 1548, November 16, 2001)