● 国際活動委員会からのお知らせ(2002年2月)

〈米国〉
開示されてはいるがクレームされていないステップは
公衆に献呈されたとはいえない

外科的骨固定に関する方法特許において、開示されてはいるがクレームされていないステップは公衆に解放されたとはいえないと、米国連邦巡回区控訴裁判所(CAFC)は12月12日に判示した(Smith & Nephew Inc. v. Ethicon Inc., Fed. Cir., No. 00-1160, 2001年12月12日)。
非侵害である旨の略式判決を撤回して、CAFCは「…よりなるステップを含む(comprising the steps of)」というクレーム用語は、特許方法を実施するにあたってクレームされていない追加のステップが実行されても良いことを示す指標であると指摘した。CAFCは、マクスウェル対J.ベーカー社事件(Maxwell v. J. Baker Inc.)判決は、開示されてはいるがクレームされていない主題に関する均等論侵害の場合に限り適用されるとして、マクスウェル判例を適用することを拒否した。反対意見の中で、ポール・ミシェル判事はマクスウェル判決の考え方が均等論に限定されるべきという主張に反論し、また、被疑侵害製品は骨固定具をしっかり固定するという追加的ステップを必要とする設計になっている点で侵害にあたらないと主張した。
骨固定特許
スミス・アンド・ネフュー社(Smith & Nephew Inc.)(以下、「S&N」という。)は、骨の中に空けられた穴に弾力性のある足部を有する縫合糸固定具を挿入することにより、骨内部に縫合糸(suture)を固定する方法特許(USP 5,601,557)を所有する。縫合糸固定具が挿入されると、弾力的足部は自動的に網状骨組織に拡大し、縫合糸を固定する。一旦固定されると、縫合糸は損傷した靱帯や腱のような組織を回復期間中に所定の場所に再固定するように使用できる。'557特許は、「固定具を穴に打ち込む(lodging)ステップを含む(comprising)」方法をクレームする。
エティコン社(Ethicon Inc.)もまた、骨の中に空けられた穴に押し込む縫合糸固定具を製造している。弾力的足部を使用して縫合糸を固定する代わりにエティコン社の固定具では、外科医の操作によって拡大される足部を有し、外科医が縫合糸を引っぱり出すと骨に固定されるようになっている。下級裁判官(magistrate)は、クレーム1中の「固定具を打ち込む」という用語は何らかの操作が行われるであろうことは意味しても、穴に固定具を固定するために押し込み操作以上の手技(manipulation)を必要としてはならない、と解釈した。
S&Nはエティコン社を'557特許侵害として提訴した。しかしながら、オレゴン州地裁のマルコム・マーシュ判事は、下級判事のクレーム解釈を追認し、文言上も均等論下でも非侵害であるとのエティコン社の略式判決の動議を容認した。地裁は、エティコン社の固定具は、特許された方法発明とは異なり、後続する引っぱり固定のステップの後に初めて固定される状態に至る、と説明した。
引っ張り固定のステップは必要ではない
S&Nは、エティコン社固定具は追加された引っ張りステップを必要とするか否かはともかく、クレームされた全ステップを実施しているから自社の方法特許を侵害する、と主張した。
CAFCはこの見解に同意した。
クレーム中での"Comprising"の使用
CAFCのニューマン判事は、クレーム1における「…よりなるステップを含む(comprising the steps of)」というクレーム用語は、特許方法を実施するにあたってクレームされていない追加のステップが実行されても良いことを示す指標であると指摘した。
ミシェル判事が、comprisingの用語は正確なクレーム用語を回避する「狡猾な用語」であるとした点を認めつつもニューマン判事は、この用語が圧倒的に多くの特許クレームに使用されている点を指摘する。ニューマン判事によれば、この用語は「クレームは、従来技術と区別される本願特許発明に係る権利範囲を簡潔に記載するとの意図をもって提示されたものであって、特許発明を実施するための便覧ではない。」という原則を満足させる。特許発明がクレームに列挙されたステップに加えて追加的なステップを伴って実施されても良いことを認識させるためにcomprisingの用語を使用することは、欠点でもなく、狡猾でもない、とニューマン判事は書いている。
ニューマン判事はまた、本判決の大半がマクスウェル対J.ベーカー社事件判決(86 F.3d 1098,39 USPQ2d 1001(Fed. Cir. 1966))と整合しないとするミシェル判事による非難を却下する。ニューマン判事の説明は以下の通りである。
「本裁判所は、開示されたすべての工程がクレームに含まれていない限り特許権者は、クレームしていない工程のみならずクレームされた工程全体をも公衆に献呈(dedicated)したことになるというマクスウェル判決に与することはできない。マクスウェル判決の争点は、明細書に開示されたがクレームされていない均等な主題に均等の範囲が及ぶか否かであり、クレームされた方法に係る各ステップを被疑侵害者が実際に実施している場合の文言侵害の問題はマクスウェル判決の論じてはいないところである。」
ニューマン判事は、S&Nがエティコン社の固定具の足部もまた高度の弾力性合金であるとする証拠に留意している。
CAFCは非侵害の略式判決を取り消した。

〈参考文献〉
BNA International Inc.
"Patent, Trademark & Copyright Journal"
'Disclosed but Unclaimed Step Was Not Dedicated to Public'
(Page 160-161, Volume 63, Number 1553, December 21, 2001)

〈米国〉
クレーム中の用語の意味は好適な実施例(preferred embodiment)
の記載内容に限定されない

クレーム中の用語の一般的な意味は、好ましい実施例(preferred embodiment)の記載内容によって必ずしも制限を受ける訳ではない、連邦巡回区控訴裁判所は11月15日にこのような判断を下した(Rexnord Corp. v. Laitram Corp., Fed. Cir., No. 00-1395, 11/15/01)。
控訴裁判所は、侵害にあたらないとした略式判決を覆した上で、広義のクレーム解釈に基づく実施例が明確に記載されていないからといって、好ましい実施例(preferred embodiment)の内容を用いてクレームを限定するのは正当ではない、と判決した。控訴裁判所によれば、好ましい実施例(preferred embodiment)の記載では狭い語義が用いられているが、"発明の概要(Summary of Invention)"の欄に記載された二つの実施例ではより広い語義が使用されている。
非侵害判決の経緯
レクスノルド社(Rexnord Corp.)の有する特許(5,634,550号)は、飲料品の製造の際に、瓶や缶等の物品を、"上流(upstream)"と"下流(downstream)"の二つのコンベヤーベルト間で移送するメカニズムに関するものである。
この発明は、移送される物品が二つのコンベアーの隙間に落ちてしまうという課題を解決するために、"移送コンベアー(transfer conveyor)"を用いている。この移送コンベアーは、その一端から下流コンベアーの"移動部(transition section)"に向けて突出する(projects)、即ち、片持ち梁状態となる(cantilevers)ような構成を有する。移送コンベアーの表面は、多数の個々の"チェーン・リンク(chain links)"を"チェーン・ピン(chain pins)"で互いに連結して造られている。このチェーン・リンクは二つの"部(portions)"から成り立っている。即ち、"リンク・モジュール部(link module portion)"と"片持ち梁部(cantilevered portion)"である。レクスノルド社は、ライトラム社(Laitram Corp.)及びイントラロクス社(Intralox Inc.)(以下、「ライトラム」と総称する。)の移送ベルトが、上記5,634,550号特許のクレーム5及びクレーム15〜19を侵害しているとして、ライトラムを相手に訴訟を起こした。
ウィスコンシン州西部地区地方裁判所のバーバラ・クラブ裁判官は、侵害に当たらないとの略式判決を求めるライトラムの申立(motion)を認め、これにレクスノルド社が控訴していた。
クレーム構成(Claim Construction)
レクスノルド社は、地方裁判所が上記5,634,550号特許のクレーム中の用語である"部(portions)"を、ある物体から"分離して(separate)"いる部分に限定して解釈し、"分離して(separate)"いても"一体化して(integral)"いてもよい部分であると解釈しなかったのは、失当であると主張した。レクスノルド社がこの用語についてより広い解釈を求めたのは、訴えの対象であるライトラムのコンベヤーベルトに含まれるチェーン・リンクが、一体化した(integral)構成、言い換えれば単一部品(one-piece)からなる構成を有していたためである。
連邦巡回区控訴裁判所(CAFC)はこの主張を認めた。「辞書の定義によれば"部(portions)"とは「ある全体のある部分(any part of any whole)であって、その全体から分離されていても、その全体と一体化していてもよい」。それゆえ、ある物体の"部(portions)"とは、"分離して(separate)"いるという特性と、"一体化して(integral)"いるという特性の何れをも含意している。」クリヴェンガー判事はこのように説明した上で、「このような広い語義を裏付ける証拠として、ライトラム自身が口頭弁論の際にはっきりと、この辞書の定義が両方の意味を企図している(contemplates)ことを認めている。」と付け加えた。
「しかし、地方裁判所はこれらのクレームについて、チェーン・リンクの"リンク・モジュール部(link module portion)"と"片持ち梁部(cantilevered portion)"が、チェーン・リンクから分離しているのみならず、互いに他からも分離している必要があると解釈した。」と控訴裁判所は述べた。「そして、地方裁判所はこうした解釈の基に、クレームされたチェーン・リンクは複数部品(two-piece)からなる実施例に限定されるべきである、と判決したのである。」とクリヴェンガー判事は説明した。上記5,634,550号特許の文章記載中で説明され、図面に描かれている唯一の実施例は、複数部品(two-piece)からなる実施例であって、単一部品(one-piece)からなる構成を明示的に表す実施例は存在しない、というのが地方裁判所の判旨であった。
控訴裁判所は、地方裁判所がその実施例に依拠して解釈した点を退けたことについて、その理由を以下のように説明した。
判例によれば、出願人が自らの発明について、考え得る可能な限りの将来的な実施例を総て明細書に記載する必要がないのは明らかである...「もし、構造のクレームが、明細書に記載された実施例と全く同様に動作する装置に限定されてしまうならば、クレームの存在意義は無くなってしまうだろう。出願人もまた、先行技術の有無にかかわらず、当該実施例そのもの以上の広い権利範囲を主張できなくなるであろう。」...要するに、発明を判断する基準はクレームであって、そのための情報を与えるのが明細書なのである。これは次のような過去の言葉にも表現されている。「明細書は教える。クレームは請求する。」
「好ましい実施例(preferred embodiment)に複数部品(two-piece)からなる構成が記載されている以上、"好ましい実施例の説明(Description of a Preferred Embodiment)"には"一体化した(integral)"構成が書かれているとは通常予期しないであろう。」クリヴェンガー判事はこのように強調した上で、なおも以下の点を指摘した。「明細書の"発明の概要(Summary of the Invention)"の欄に記載された3つの実施例のうち、2つの実施例が"部(portions)"という語についてのより広い解釈を支持するものであるのに対して、"分離した(separate)"部分であることを要するとする狭い解釈に係る実施例は1つだけである。」加えて、「文章記載の中には、本発明が好ましい実施例(preferred embodiment)以外の実施形態もとりうることがはっきりと記載されている。」と控訴裁判所は付け加えた。
控訴裁判所は結論として、「本特許において"部(portions)"という単語は、本発明が"一体化して(integral)"いる構成でも"分離して(separate)"いる構成でもよいということを表している」と述べた。
出願経過は決定的な証拠ではない(Inconclusive)
連邦巡回区控訴裁判所は以下のように続けた。「本特許の"部(portions)"という用語を特別な意味に解釈すべきか否かについて、出願経過は決定的な証拠とはならない(inconclusive)。」クリヴェンガー判事は、地方裁判所が出願経過の一部に頼ったことを非難した。それは、審査提示クレーム33(特許発行時のクレーム5)において、発明者がインデントを付けたパラグラフ構造が正確でないとして、審査官が異議を唱えたという点であった。クリヴェンガー判事は、「審査官がクレームを拒絶した理由については、パラグラフ構造が正確でなかったためであって、クレームが広過ぎたためではないことを明らかにしている。」と強調した。「重要なことは、審査官は"分離して(separate)"いるか"一体化して(integral)"いるかという点について、明示的に言及していないということである。」と控訴裁判所は付け加えた。
クリヴェンガー裁判官は以下のように約言した。
クレームの文言において"部(portions)"という単語が、"一体化して(integral)"おり"分離して(separate)"いない部分を指すものとして、極めて明確に数多く用いられていることを考えると、"部(portions)"という単語に対して、"分離して(separate)"いる部分と"一体化して(integral)"いる部分とを包含する、より広い解釈を与えざるを得ない。特許権者が明細書中に単一部品(one-piece)の実施例を明確に開示しなかった、また、審査官が単一部品(one-piece)の構成の例示を要求しなかった、という事実は、明細書中における"分離している(separate)"という限定をクレームに適用する充分な理由にはならない。
結局のところ、"部(portions)"という用語が、"一体化した(integral)」と"分離した(separate)"の双方の意味を包含している点は、疑いの余地がない。明細書中に発明が記載された時点(好ましい実施例(preferred embodiment)が記載された時点ではない)において、それらは独立した2つの実施例だったのであって、他の一つの実施例とは明確に区別されるものがあったのである。2対1という数の比率を考慮すれば(即ち、広く定義された実施例が2つであるのに対して、狭く記載された実施例が1つである)、"分離して(separate)"いる構造に制限されない広義に係るこれらの実施例が、"リンク・モジュール部(link module portion)"と"片持ち梁部(cantilevered portion)"との双方を含む単一の構造を指すものと解するべきである。
議論の対象となった用語の意味を地方裁判所が不必要に限定したとして、控訴裁判所は非侵害とした略式判決を覆し、事件を更なる審議に差し戻したのである。

〈参考文献〉
BNA International Inc.
"Patent, Trademark & Copyright Journal"
'Meaning of Claim Terms Is Not Limited To Detail Given for Preferred Embodiment''
(Page 68-69, Volume 63, Number 1549, November 23, 2001)

〈米国〉
商標権の移転により商標権者には
グレー・マーケット(並行輸入品市場)における保護も認められる

商標権の移転により米国における標章の所有者となった者には、関税法に基づくグレー・マーケット商品についての保護の利益を享受するのに十分たる資格が与えられる旨、連邦控訴裁判の判決が下された。(Vittoria North America L.L.C.対Euro-Asia Imports Inc.、第10巡回区控訴裁判所、No. 00-6277、12/12/2001)
法廷は、原告ビットリア・ノース・アメリカ有限会社(Vittoria North America L.L.C.)(以下、「VNA社」という。)が米国において商標権を所有すること、及び、イタリア企業ビットリアS.p.A社(以下、「Vittoria Italy社」という。)から新たに設立された国内(米国)企業であるこのVNA社への商標権の移転によりその標章に化体したグッドウィルも適正に移転されたものである、とした前審における略式判決を認容した。法廷はまた、本件において、当該外国企業と国内販売業者との事業関係が親密であるとはいえ、その関係はグレー・マーケット保護の適用除外に関する要件「共同支配」(common control)には該当しない、との結論も示した。
本件の争点
グレー・マーケット商品とは、有効な米国の商標が付された外国製の商品であって、米国の商標権者の同意なしに輸入された商品をいい、原則として、グレー・マーケット商品の米国での販売は商標権の侵害に該当し、またその輸入は米国関税法(米国第19法典§1526)に基づき差し押さえの対象となる。ただし、グレー・マーケット商品であっても、一定の条件を満たせば、関税法に基づく差し押さえの対象から除外される(Kマート社対カルティエ社事件判決(486 U.S. 281, 6 USPQ2d 1897(1998)(36 PTCJ 105, 177, 6/2/88))。
本件の争点は、米国企業とイタリアにおける関連企業との間での商標権の移転の有効性、及び当該米国企業とイタリア関連企業との関係が関税法に基づくグレー・マーケット保護の適用除外の対象となるか否かについてである。
事件の経緯
VNA社は米国において自転車のタイヤに係るVittoriaブランドの商標をVittoria Italy社から譲渡されて所有し、またVittoria Italy社によりイタリアで製造されたタイヤを米国内で独占販売する権利を有する代理店でもある。VNA社はVittoria Italy社の意向の下で米国に設立された企業であり、その前身はHibdon Tire Centerである。
ユーロ・アジア・インポーツ社(Euro-Asia Imports)(以下、「EAI社」という。)は海外でVittoriaブランドのタイヤを正規に購入し、それを米国内に輸入した。この行為に対し、VNA社は商標権を侵害しているとして損害賠償を求める民事訴訟を提起すると共に、米国関税法第526条の下でのグレー・マーケット商品の排除権に基づき、輸入差し押さえを求めた。
米国オクラハマ州西部地区地方裁判所はVNA社の主張を認める部分略式判決を下したが、それに対しEAI社は上訴した。
商標の所有権の移転について
EAI社はまず、VNA社の米国における商標Vittoriaの所有権に関し、Vittoria ItalyからVNA社への商標権の移転は無効である旨主張した。その理由として、EAI社は、Kマート社対カルティエ社事件判決を引用しながら、移転交渉は対等な立場で行なわれたものではなく、またVNAは譲渡のために「相当の対価を支払っていない」と主張した。
しかしながら、デビッド・M・エベル判事は、カルティエ社事件の判決は商標の有効な移転の要件を確立することを趣旨とするのではなく、米国商標権者であって当該商標の付した商品の外国製造者により所有された者又は共通の支配下にある者を関税法の下でのグレー・マーケット商品保護に関する適用除外としたものであり、権利の移転の有効性の是非を判断するための参考とはなり得ないものであるとして、EAI社の主張を退けた。
エベル判事はまた、Vittoria Italy社からVNA社への権利の譲渡は、標章に化体したグッドウィルが移転されていないため無効である、とのEAI社による主張も退けた。その理由として、判事は次の通りに述べた。商標またはサービスマークの移転においてグッドウィルの移転をも要求する目的は、消費者がその標章に化体した商品又は役務についての正確な情報を受けとることができることを保証するためである(シュガー・バスターズ有限会社対ブレナン事件, 177 F.3d 258, 50 USPQ2d 1821(第5巡回区控訴裁判所1999)(58 PCTJ 144, 6/3/99)を引用)。
控訴裁判所は以下のように認定した。商標Vittoriaの移転前後におけるVNA社の活動は、標章の使用と、公衆による商品と標章との関連性認識とにおける一貫性を維持するためになされたものであり、VNA社は広告、プロの競技者に対する後援、展示会への参加を通じて、当該標章が自転車のための高性能レーシングタイヤを指標し続けることを確保すべくいくつもの重要措置をとっていた。さらにEAIは、商標Vittoriaに係る商品の種類又は品質が毀損された旨のいかなる主張も行っていない。
その結果、法廷は米国における商標Vittoriaの移転は有効であると結論付けた。
「共同支配」の適用除外について
EAI社はまた、VNA社がVittoria Italyの支配下にあることを理由に、VNA社は関税法の下でのグレー・マーケットの保護を享受できない旨主張した。
法廷は、グレー・マーケットの保護規定の除外適用性について考慮した。米国第19法典§133.23(d)(1)によると、この除外が適用される、つまり、真正商品の並行輸入が本国における商標権侵害とされないのは、「商標又は商号が、米国所有者と同一の商号の所有者、米国所有者の親会社もしくは子会社、さもなくば米国所有者と何らかの共同所有(common ownership)の関係にある者もしく何らかの共同支配(common control)下の関係にある者、…の正当権原の下で付された」場合である。ここで、「共同支配」とは「方針及び業務上の実効的な支配をいい、必ずしも共同所有と同義である必要なない」旨定義されている(第19法典§133.2(d))。
エベル判事は、VNA社とVittoria Italy社との間に親密な事業関係があることは認めるが、その関係は§133.2(d)において規定する「共同支配」の関係に該当するものではない、と判示した。その理由を以下のように述べた。VNA社とVittoria Italy社との間での米国での商品開発及び販売のための共同意思決定及び協力関係があるとの主張は両者の間に親密な事業関係があることを推定させるのがせいぜいであって、Vittoria Italy社がVNA社に対し保証責務のための弁済を行なっているとの事実が存在しても、そのことから直ちにVNA社がVittoria Italy社に支配されていると推定することはできない。また、Vittoria Italy社はVNA社に対しVNA社の広告を援助するために資金を投資しているが、Vittoria Italy社にはその資金がどのように使われるかを法的に管理する権利は存在していない。従って、EAI社が挙げる証拠は、VNA社とVittoria Italy社との間に親密な事業関係があることを推定させるものではあるが、「共同支配」の関係にあるとの結論に結びつくものではない。
従って、VNA社はVittoria Italy社との間には、米国第19法典§133.23(d)(1)において規定する「共同支配」の関係は存在しない、とする。
更に、「VNA社及びVittoria Italy社には詐欺行為を図った事実も、関税法に対して議会が付した規制を覆す意図もないものと認められる。VNA社がVittoria Italy社の「意向」のもとで設立されたとEAI社は主張するが、VNA社の前身Hibdon Tire CenterとVittoria Italy社との間で対等な交渉がされなかったことを証明する証拠をEAI社は示していない。
以上により、法廷はVNA社の部分略式判決を支持した。
この判決の全文はhttp://pub.bna.com/ptcj/006277.htmにて入手可能
Kマート社対カルティエ社事件判決(K Mart Corp対Cartier事件)
当該事件の判決では、
1)米国商標所有者の外国子会社[支配会社が共通のもの(common control)によって外国での販売だけのために製造されたグレー・マーケット商品の通関をこれまで認めていた合衆国税関の手続規則を支持し;
2)非子会社である外国の使用受諾者によって外国での販売だけのために製造されたグレー・マーケット商品の通関をこれまで認めていた合衆国税関の手続規則を取り消し;
3)米国の会社が非子会社である外国の会社から米国の商標権を買収している場合は、税関はグレー・マーケット商品の通関を阻止できるとして、
前審判決を支持したものである。

〈参考文献〉
BNA International Inc.
"Patent, Trademark & Copyright Journal"
'Transfer of Rights Established Ownership Of Trademark for Gray Market Protection'
(Page 168-169, Volume 63, Number 1553, December 21, 2001)