●国際活動委員会からのお知らせ(2002年7月)
〈米国〉
クレーム本体において、発明の完全な構成が規定されていれば
前提部にある目的、用途等はクレームを制限しない
米国連邦巡回区控訴裁判所(CAFC)は2002年5月8日、クレーム前提部の用語が単にシステムの用途(intended use)を述べる場合には、限定的には取り扱われないと判示した(Catalina Marketing Int'l Inc. v. Coolsavings. com Inc., Fed. Cir., No. 01-1324, 5/8/02)。
CAFCは、非侵害の略式判決を一部破棄し、クーポン発行コンピュータシステムに関する特許において、端末の所在に関する前提部(preamble phrase)に限定的効果を与えるのは不適切であると判示した。前提部の用語が限定的であるか非限定的であるかの状況を明らかにした上で、CAFCは本件における前提部の用語はシステムの用途を述べるに過ぎず、非制限的であると判示した。
競合するクーポンサービス
原告Catalina Marketing Int'l Inc.(CMI)は、コンピューター端末からクーポンを配布するシステムに関する特許(US 4,674,041)を有している。好ましい実施態様においては、本システムは中央ホストコンピューターシステムに連結されたキオスクのような遠隔端末において、お客にクーポンを発行する。
被告Coolsavings. com Inc.(CSI)は、インターネットウェブサイトからクーポンの配布を監視し制御する、ウェッブ準拠クーポンシステムを使用している。使用者はインターネットにアクセス可能などのコンピューターからも単にCoolsavings.comウェッブサイトにログオンすることによりCoolsavingsシステムにアクセスできる。CMIはCSIのインターネットクーポン配布システムが '041特許を侵害すると主張してCSIを提訴した。
イリノイ州北部地裁は、非侵害の略式判決を出した。地裁は、インターネットに接続されCoolsavingsシステムを使用している家庭内コンピューターは、クレーム1の前提部にある文言である、 「予め特定したサイトにある端末 "located at predesigned sites such as consumer stores" 」 のクレーム要件を満たさないと判断した。
これに対し原告は、「原審は当該前提部の文言を不当にクレームの限定に用いている」として控訴した。CAFCは原告に同意した。
前提部は限定的であるか否かの判断基準
CAFCのRader判事は、リトマス試験のようにはいかないと断った上で、過去の判例から、以下のような原則的取り扱いがあるとした。
(1)前提部が重要な構造又は工程に言及し、クレームに命、意味、活力を与えている場合には、前提部は限定的である(Pitney Bowes, 182 F.3d at 1305)。
(2)逆に、特許権者がクレーム本体(claim body)において発明の完全な構成を定義しており、前提部が単に発明の目的又は用途を述べるためにのみ使用されている場合には、前提部はクレームを限定しない(Rowe v. Dror, 112 F.3d at 473, 478, 42 USPQ2d 1550, 1553(Fed. Cir 1997)。
また、以下のような道しるべを示した。
(3)Jepson形式のクレームは、その前提部をクレームされた発明を限定する目的で使用するものであるから、前提部はクレーム範囲を限定する(Rowe 112 F.3d at 479; Epcon Gas Sys., Inc. v. Bauer Compressors, Inc., 279 F.3d 1022, 1029, 61 USPQ2d 1470, 1475(Fed. Cir. 2002))。
(4)前提部において争点となる(disputed)特定の文言を先行する文言として使用し、本文においてこれを引用する場合には、前提部と本文の両方に依拠してクレーム発明を定義するものであるから、前提部はクレーム範囲を限定する(Bell Communications Research, Inc. v. Vitalink Communications Corp., 55 F.3d 615, 620, 34 USPQ2d 1816, 1820(Fed. Cir. 1995))。
(5)同様にして、前提部が本文の限定または用語を理解するのに必要不可欠である場合、前提部は限定的である(Pitney Bowes, 182 F.3d at 1306)。
(6)明細書において付加的な構造又は工程を重要であると強調している場合には、前提部はクレーム限定として扱われる(Corning Glass, 868 F.2d at 1257; General Electric Co. v. Nintendo Co., 179 F.3d 1350, 1361-62, 50 USPQ2d 1910, 1918-19(Fed. Cir. 1999)。
(7)審査過程において先行技術と区別するために前提部に明瞭に依拠する場合には、前提部はクレームを部分的に規定するのであるから、限定的である(Bristol-Myers Squibb Co. v. Ben Venue Labs., Inc., 246 F.3d 1368, 1375, 58 USPQ2d 1508, 1513(Fed. Cir. 2001))。
(8)特許権者がクレーム本体において発明の完全な構成を定義しており、前提部が単に発明の目的、利点、又は用途を述べるためにのみ使用されている場合には、前提部はクレームを限定しない。
本件の前提部の取り扱い
本件においては、クレーム1の前提部は非限定的的である。その理由は、次の通りである。審査過程において、特許権者は先行技術を区別するために前提部に依存していない。さらに、請求項1の争点となっている文言を前提部から取り除いても端末自体の構造的な定義又は操作に影響を与えない。すなわちクレーム本体は発明の完全な構成を定義していると言える。端末が店内にあることは、単に端末の用途を示すに過ぎない。CAFCは、前審地裁のクレーム解釈は、装置の特許に方法的な限定を課するものであり、誤りであると判示した。
クレーム25における前提部の文言
CAFCは、クレーム25は、前提部のみでなくクレーム本体にも "located at predesigned sites such as consumer stores" という文言を含んでいる。よってこの用語はクレーム範囲を限定する。ただし、such asの表現はより広い属概念genusの例を示すのであり、このgenusを特定の種概念speciesに限定すると解釈する地裁判決は誤りある。
非侵害の取り扱い
CAFCは、結論として、クレーム1に関する文言上も均等論の下でも非侵害とした原審を、クレーム解釈の誤りを理由に破棄し、差し戻した。クレーム25については、文言上の非侵害は支持したが、均等論の下での非侵害については、地裁が正しいクレーム解釈の下で適切な審理をするように求め、破棄し地裁に差し戻した。
〈判決文〉
http://pub.bna.com/ptcj/011324.htm
〈参考文献〉
BNA International Inc.
"Patent, Trademark & Copyright Journal"
‘Preamble Phrase Is Not Limitation When It Merely States Intended Use’
(Page 61-62, Volume 64, Number 1573, May 17, 2002)
〈米国〉
クレームの用語が通常の意味を有するとの推定は、
実施例の指摘に基づいて反駁されるものでない
クレームの用語が通常の意味を有するとの推定(presumption)は、明細書に開示された発明の実施例の単なる指摘によって反駁されるものでない。CAFC判決(判決日5月3日、CCS Fitness Inc. v. Brunswick Corp., No. 01-1139, 5/3/02)。
CAFCは、練習機のクレーム用語 「reciprocating member(往復運動部材)」 を特許図面に示された形態に不当に限定したとして、地裁による非侵害の略式判決を部分的に破棄した。CAFCはまた、 「member」 には侵害被疑装置を含むような広い通常の意味が与えられるべきでないことを示唆するものは明細書又は審査経過に何も無いと判断した。
楕円形Fitness練習機
CCS Fitness Inc. は、固定式練習機又は楕円練習機の3件の特許(5,924,962, 5,938,567, 及び5,683,333)の譲受人である。この楕円練習機によれば、使用者はひざに無理な力をかけることなく、循環系の運動を行うことができる。特許は、垂直フレームに取付けられる 「foot member(脚部材)」 構造をクレームしており、この 「foot member」 は床にほぼ平行な 「reciprocating members(往復動部材)」 又は長手方向の構造と交差するものであった。
Brunswick Corp. のLife Fitness部(Life Fitness)は、湾曲した複数の 「pedal levers」 を備える楕円練習機を製造した。CCS Fitness Inc. は、Life Fitnessを特許侵害で告訴した。両当事者は、略式判決を請求した。
コロラド地区の合衆国地方裁判所の主席判事Lewis T. Babcockは、Life Fitnessは特許権を侵害しないとする略式判決を下し、Life Fitnessの装置のpedal leversは 「reciprocating members」 の構成を具備しない認定した。これに対し、CCSは上訴した。
通常の意味の推定
両当事者は 「reciprocating(往復運動)」 の意味を議論しなかったが、CCSは、地方裁判所のクレーム用語 「members」 が特許図面に示されたまっすぐな一体の形態に限定されるものであるとの解釈に異議を唱えた。他方、Life Fitnessは、「members」 は曖昧であり明細書及び図面に基づいて明瞭にすべきものであるという地裁の見解を擁護した。
CAFCは、CCSに同意した。Paul Michel判事は、クレームの解釈において、クレームの用語はその普通の慣例的な意味を持つ、という重度の推定がなされることを指摘した。この推定は反駁され得るが、単に好ましい実施例を指摘することによって反駁されるものでないとPaul Michel判事は説明し、『 実際、本件における地裁の分析とは違って、考えられるすべての形態及び将来的に可能性のある形態を特許権者が明細書に記載することを要求するものでない、ことをCAFCの判例は明らかにしている。 』と述べている。
クレームの用語 「members」 の通常の意味を普通の技術辞書で調べ、CAFCは、それが 「 ・・・ 梁若しくは帯、又はこれらの組合せ」 をいうものと認定した。そして、そのような解釈に基づき、CAFCは、用語の通常の意味は、単一の構成要素のみを含む直線的棒(straight-bar)構造に限定されないと結論した。
反駁の可否
CAFCは、以下の場合、特許の内的証拠に言及することで通常の意味の重度な推定に反駁できると説明した。
・ 特許権者がそれ自身の辞書編集者の役を務め、その用語を明確に定義している場合
・ 特許権者がその用語を、特定の実施例、明瞭に放棄された主題事項、発明に対し重要であると記載された実施例に基いて、先行技術から区別する場合
・ その用語が曖昧であり、より明確にするために内的証拠に依拠する必要がある場合
・ その用語がmeans-plus-functionの形式で表現され、明細書に開示された構造又は工程に限定される場合
これらの原則を適用し、CCSの主張は「member」の用語には通常の意味が与えられなければならないという推定を覆すものでない、とCAFCは判断した。
〈判決文〉
http://pub.bna.com/ptcj/011139.pdf
〈参考文献〉
BNA International Inc.
"Patent, Trademark & Copyright Journal"
‘Presumption of Ordinary Meaning For Claim Term Was Not Rebutted’
(Page 29-30, Volume 64, Number 1572, May 10, 2002)
〈米国〉
米国最高裁判所判決概要
Holmes Group, Inc. v. Vornado Air Circulation Systems, Inc.(No. 01-408)
判決日:2002年6月3日(口頭審理:2002年3月19日)
判決
原審(CAFC)破棄差戻
概要
カンザス連邦地裁において争われた原告Holmes社と被告Vornado社の訴訟において、原告Holmes社の訴状ではトレードドレスに関する問題のみが主張されており、被告Vornado社の反訴によって初めて連邦特許法上の問題が主張された地裁判決の控訴審がCAFCに係属し、CAFCによって下された判決に対する控訴審判決である。
最高裁は、本件のように被告Vornado社の反訴によって初めて連邦特許法上の問題が主張された場合には、その控訴審の裁判管轄権はCAFCには無いものと判断して、カンザス連邦地裁の判決を破棄したCAFCの判決を破棄してカンザス連邦地裁に差戻した。
背景
Vornado社は、換気扇とヒータの特許権を有する製造者である。Vornado社は、競業者であるDuracraft社が製造するスパイラルグリルに使用されているファンが自社のトレードドレスを侵害しているとして、Duracraft社を相手取って1992年に提訴したが、第10巡回区控訴裁判所は、Vornado社はファンデザイン分野においてトレードドレスに関して保護されるべき権利を有しないと判断してDuracraft社に有利な判決を下した(Vornado-I判決)。
Vornado社は、このVornado-I判決にもかかわらず、1999年11月26日に、Holmes社が、製造するスパイラルファンに使用されているファンとヒータが、Vornado社の保有する特許権、および、既にDuracraft社との訴訟において保護されるべき権利はないと判断されたトレードドレスを侵害しているとして、米国国際貿易委員会(ITC)に提訴した。
その数週間後、Holmes社は、自社の製品がVornado社のトレードドレスを侵害していないこと、および、宣伝用資料中においてそのような侵害の告発を行う行為を認めない旨の裁判所命令を求めて、Vornado社を相手取ってカンザス連邦地裁に訴訟を提起した。これに対してVornado社は、Holmes社の特許権侵害を強く主張して反訴した。
カンザス連邦地裁は、被告Vornado社が、スパイラルファンデザインにおいてトレードドレスに関する権利を根拠として再度訴訟を提起することは、Vornado-I判決によって生じる禁反言の効果により認められないとして原告Holmes社の主張を認める判決を下すとともに、被告Vornado社にとって有利となるような特許法に関係する反訴部分についての全ての審理を延期した。
被告Vornado社は、このカンザス地裁判決を不服とし、本件は特許法に関連する事件であるとしてCAFCに控訴した。これに対して原告Holmes社が、CAFCには本件の裁判管轄権なしとして異議申立をおこなったにもかかわらず、CAFCはカンザス地裁の判決を破棄する判決を下した。
本最高裁判決は、このCAFC判決を不服とする控訴審判決である。
最高裁は、全員一致により、カンザス連邦地裁の判決を破棄したCAFCの判決を破棄してカンザス連邦地裁に差戻す判決を下したが、その判断内容の概要は以下のとおりである。
最高裁の判断(Scalia判事の意見)
本件においては、原告Holmes社がカンザス連邦地裁に提出した訴状中にはもともと連邦特許法に基づく主張がなかったにも関わらず、被告Vornado社がなした反訴によって連邦特許法に関する問題がはじめて含まれることとなっている。そのような場合に、果たして、CAFCにその控訴審の裁判管轄権が認められるのか否かが問題とされる。
連邦議会は、連邦地裁で取り扱った訴訟の裁判管轄権が、本来その連邦地裁に属するものであり、その訴えに関連する特許部分がその連邦地裁の裁判管轄に属するものである場合には、連邦地裁の最終判断に対する訴えについての裁判管轄権をCAFCに専属的に与えている。このように、連邦地裁の最終判断に対してCAFCが裁判管轄権を有するか否かの問題は、連邦特許法に基づく訴えが連邦地裁に提起されたか否かに照らして判断されるべきものである。
裁判手続を定める連邦法第1338条(a)に照らせば、訴訟の内容が特許法の問題に帰属するか否かは、原告から提出された訴状や宣誓書においてなされた原告の主張の中に、その訴訟を特許法の問題として取り扱う必要性が認められるか否かで判断されるべきであり、訴訟の提起が連邦特許法に根拠を有しているか否か、あるいは、原告の権利の救済のために連邦特許法上の重要な論点の解決が求められているか否かという観点から判断されるべきである。
本件においては、原告Holmes社がカンザス連邦地裁に提起した訴訟において連邦特許法に依拠するいかなる主張もなしていないことが明白であり、従って、CAFCがその控訴審の裁判管轄権を有するとの主張を認めることはできない。
被告Vornado社は、連邦地裁の裁判管轄権を理由に、 「well-pleaded-complaint rule」 により反訴が認められるべきである旨を主張するが、これを認めることはできない。
これまで、 「arising under jurisdiction」 を確立し得るか否かの問題について判断された判例は、被告がなした抗弁に対して 「arising under jurisdiction」 の確立を認めるか否かという事案であり、被告のなした反訴に対して 「arising under jurisdiction」 を確立し得るか否かという事案ではない。
しかしながら、これらの判例のいずれにおいても、連邦裁判管轄権(federal jurisdiction)は、合衆国における問題(a federal question)が、原告が正当な弁護を行うための訴状の文面に記載されている場合にのみ認められるという原則に基づいて判断されている。また、被告のなした反訴に対して 「arising under jurisdiction」 を認めることは、判例を基礎として長年蓄積されてきた考え方とも矛盾する。
その理由は、以下のとおりである。第1に、「well-pleaded-complaint rule」 は、原告が訴えの主人である故に、原告に対して州立裁判所での審問の大義を有することを可能としているのである。これに対して、被告Vornado社が主張するような規範に従うこととすると、連邦法のもとで法廷に持ち込まれた事件を、被告が単に反訴をなすことで取り去ることを許容し、原告の裁判地選択を無効とすることとなる。第2に、被告に対してこのような権限を与えることは、裁判地を移転させることが可能な分野を急進的に広げることとなり、州政府の公正な独立に対する尊厳に反することとなる。最後に、「arising under jurisdiction」 を確立するための被告による反訴が許容されることとすると、管轄区域の抵触を解決するための規範である 「well-pleaded-complaint」 の原則の執行の明瞭性と容易性とがないがしろにされることとなる。
また、被告Vornado社は、特許法に関する解釈の一貫性を促すという観点から連邦法第1295条(a)(1)および第1338条(a)を解釈すれば、特許法に関する反訴が提起された場合には、常にCAFCに対して専権的に裁判管轄権が認められるべき旨を主張するが、これも認めることはできない。
ここで問題とされるべきことは、特許法の一貫性を確実なものとするという連邦議会の目標について判断することではなく、法令の文言が意味するものの公正な解釈についての判断である。裁判管轄権を付与する法令である連邦法第1295条(a)(1)の言い回し(phrase)に照らしても、被告Vornado社の主張を認めることは困難である。その言いまわしは、立法目的のための何らかの新表現(neologism)ではなく、全ての法学生にとって良く知られている 「well-pleaded-complaint rule」 を想起させる表現である。
連邦法第1295条(a)(1)それ自身はそのような表現を用いておらず、むしろ連邦法第1338条の下での裁判管轄に言及しているのであり、特許に関係するあらゆる法令はこの 「well-pleaded-complaint rule」 を行使することを確立している。
連邦法第1338条(a)が、自己の権利のための 「well-pleaded-complaint rule」という一事を意味しているということは解釈における魔法であって前例がない離れ業であると言わざるを得ず、連邦法第1295条(a)(1)4に照らせば、むしろこれとは全く異なる 「respondents complaint-or-counterclaim rule」 を意味するものと解釈できる。
従って、被告Vornado社の反訴によって初めて連邦特許法上の問題が主張された本件の場合には 「arising under jurisdiction」 は確立されず、CAFCには裁判管轄権が無いものと判断してカンザス連邦地裁の判決を破棄したCAFCの判決を破棄し、カンザス連邦地裁に差戻す。
〈判決文〉
http://supct.law.edu/supct/html/01-408.ZS.html
〈参考文献〉
http://pub.bna.com/ptcj/01408.pdf
以上