国際活動委員会からのお知らせ(20028月)

 

 

〈米国〉

オール・エレメントルール適用により均等論による侵害主張の阻止

 

CAFCは、侵害被疑装置がクレームの要件に均等の物を含まない場合は、均等論侵害は認められないと、判断を下した(Cooper Cameron Corp v. Kvaerner Oilfield Products Inc., Fed. Cir., No. 01-1383, 5/14/02)。

一部略式判決を容認し、CAFC "all element" ルールを適用し、クレームの要件である "二つのプラグの間(between the two plugs" が、 "二つのプラグの上部(above the plugs" という構造に当たらないと結論した。しかし、CAFCは、明細書の記述内容において、記載要件に足らないところは、特許に含まれる図面によって補われていると説明して、特許無効の略式判決を覆した。

Oil Wellheads.

原告Cooper Cameron Corpは、海洋油田に関する2つの特許(5,544,7076,039,119)を有している。特許のクレームは修理及び保守のための "改修" 期間中油田の状態を保護する水平スプール木組みを、保護の対象とするものである。

’707特許のクレーム10は改修部分が " 2つのプラグ間(between the two plugs" からスプール木壁を通して側面に沿って延びていることを規定している。’119特許のクレーム1は、改修部分が "BOP掘削機の下で且つチュービングハンガーの上(below the BOP bore and above said tubing hanger"に延びていることを記載している。したがって、’119特許の改修部分は、’707特許のクレーム10と異なって、"2つのプラグ間(between the two plugs" であることを要件としない。

被告Kvaerner Oil field Products Inc.は、 "プラグ" 上部に配置され、そのプラグ間には配置されない改修部を有する "サイドバルブ木(side valve tree" を販売している。Cooper は、Kvaernerが、’707特許のクレーム10に均等論適用により抵触し、’119特許のクレーム1に文言抵触するとして、提訴した。

テキサス南地区地裁のNancy F Atlas判事は、Kvaernerに略式判決を示し、’707特許には非抵触であって、’119特許は35USC1121パラの記載要件を満たしていないので特許無効とした。

All-Limitation Ruleの適用

地裁は、原告の均等論による侵害主張は、侵害被疑装置が、クレーム全ての要件について、それぞれが均等物を含むことを要件とする "オールエレメント" 即ち、"全要件" ルールを満たしていないので、成立しないと結論した。この事件では、特許は2つのプラグ "" に延びている改修部分を必要とするが、侵害被疑装置は、2つのプラグ "" に改修部分を有している。

原告は、侵害被疑装置が改修部分を有しているのに、特許の改修部分要件の均等侵害を否定したのは、均等論の適用の誤りであると控訴審において主張した。これに対し、CAFCは地裁のオールエレメントルールの判断を支持し、Alan Lourie判事は、均等論はクレームの各要件に適用するもので、全体としての発明に適用するものでなく、この考えは、最高裁判決(Warner-Jenkinson Co v. Hilton Davis Chem. Co., 520 U.S. 17, 41 USPQ2d 18651997))で容認されていると指摘した。

記載の代用としての図面

地裁は、優先権主張の基礎とするEP出願の当初の明細書の記載は、2つのプラグ以外の場所にある改修部分に対応する’119特許のクレームを支持する開示がない。したがって、開示要件を満たさず特許は無効であるとした。

原告は、控訴審で、2つのプラグ以外の、BOPの下で且つチュービングハンガーの上に改修部分が終端していることが、事実当初の開示及び図面により記載されていると主張した。

CAFCは、原告主張を認め、妥当な場合、当業者に対し、図面により、何がクレームされ、特許権者が実際にクレームされたものを発明したという認識を与えるのであれば、当該図面のみにより開示要件を満たすと判断した。その判決例としてVas-Cash Inc. v. Mahurkar, 935 F.2d 1555, 19 USPQ2d 1111を挙げている。

刊行物(printed publication

SISL(ジョイントベンチャー)により書かれた4つの報告書により特許は発明容易であるとの被告主張に対し、これら報告書は102条に規定される刊行物(printed publication)ではないとした地裁の略式判決判断は誤りであると、被告は控訴審で主張した。Lorie判事は、この被告主張を認め、略式判決は誤りであるとした。その理由として、これらの書類が刊行物であると推測しうる重大な事実が存在する。すなわち、地裁は、130ページ中の4頁目に "confidential" のスタンプがあることがprior referenceとして公開性を満たさないと結論しているが、この一つの明示により、報告書全体がSISLの参加者に共有が許された互いに秘密とする情報であるとすることはできない。

CAFCにより、’707特許に対する均等論適用による侵害がないとした略式判決は、確認され、更に開示要件を充足しないことによる特許無効の略式判決は否定され、刊行物によるanticipationの争点に対し、差し戻しが判決された。

 

〈判決文〉

http://laws.lp.findlaw.com/fed/011383.html

 

〈参考文献〉

BNA International Inc.

"Patent, Trademark & Copyright Journal"

‘Equivalents Infringement Is Barred By Application of ‘All Elements Rule’’

Page 82-83, Volume 64, Number 1574, May 24, 2002

 

 

〈米国〉

容易に交換可能な部品の交換は修理に該当し、許される。

 

特許された部品の組み合わせ(完成品)における部品の交換は、その部品が「容易に交換可能であれば修理に該当し許される」と、米国連邦巡回控訴裁判所(以下、「CAFC」ともいう)は判示した(判例:Husky Injection Molding Systems Ltd. v. R&D Tool & Engineering Co., Fed. Cir., No. 01-1346, 2002517日言渡)。

裁判所は、非侵害の略式判決を支持し、修理及び再生産についての判例を検討し、交換される部品が特許発明において消耗されているか、又は必須であるかを考慮する必要はないと結論付けた。裁判所はさらに、消耗されていない部品を交換する権利があるか否かは、安全性のような政策的な面には左右されず、装置を購入した購入者による装置を改変し得る権利によって決まると判示した。

経過

ハスキー射出成形装置社(以下、「ハスキー社」という)は、射出成形機についての再発行特許(米国特許第33,237号明細書)を所有している。その特許は、成形工程において得られる中空のプラスチック製品を冷却する少なくとも2セットの空洞を有する支持板を有する射出成形機をクレームしている。成形型と支持板はその特許の構成要素にはなっているが、各々単独には特許されていない。

R&Dツール&エンジニアリング社(以下、「R&D社」という)は、ハスキー社の射出機の部品の代替物である型と支持板を製造、販売し、ハスキー社と競合している。ハスキー社はR&D社を訴え、型と支持板を組み合わせて顧客(消費者)に販売することは特許された装置の再生産に該当し、特許法第271C)条の寄与侵害になると主張した。

ミズリー州西部のUS地裁のスコット判事は、R&D社の非侵害の申立を認めた。裁判所は、ハスキー社の特許装置の消耗されない部品をR&D社の部品と交換することは、再生産には該当せず許されると結論付けた。

これに対しハスキー社はCAFCに上訴し、その部品は発明に必須の要件であるから、特許装置のその部品をR&D社の部品と交換することは再生産になり許されないと主張した。

CAFCは、その主張を認めなかった。特許法第271C)条に基づきダイク判事は、特許された事項の「要部(material part)」の販売者は、もしこのような特許の侵害に使用されるために特に製造され、又は特に採用された部品ならば、R&D社は寄与侵害になると判示した。しかし、R&D社が寄与侵害者となるためには、購入者による部品の交換が修理に該当せず、交換した購入者が直接侵害者にならなければならないと付け加えた。

判例の検討

裁判所は、修理及び再生産についての判例を検討し、以下の3つに大別した。

1  全特許事項が消耗され、再び使用可能にするために再生産が必要である場合、

2  消耗された物品が交換される場合、及び

3  一部は消耗されず装置が異なった機能を行えるようにするために交換される場合。

そして、次のように判断した。(1)についてダイク判事は、Cotton-Tie Co. v. Simmons, 106 U.S.16 Otto891882)を引用し、再生産に該当し、侵害となるだろうと述べた。(2)は、消耗した部品の交換がAroの判決(Aro ruling)のdefinitive及びbright-lineテストに合格すれば修理に該当し、許されると判示した。ダイク判事は部品が個別に特許されていない場合に、特許された部品の組み合わせにおいて消耗された部品を交換することは、その部品が組み合わせ特許において必須であるとか、交換に費用がかかるので難しいとかに関係なく、再生産に該当せず許されると判示している。 3)の消耗されない部品を交換して装置の機能を変えることは、裁判所によれば "kin to repair"(修理と同種)である。Wilbur-Ellis Co. v. Kuther, 377 U.S. 422, 141 USPQ 7031964)においてダイク判事は、魚の缶詰の装置の大きさを変えることは常識では修理を超えるものであるが、古い組み合わせにおいて容量を変えることは修理と同等であると判示している。そして、缶のサイズは「発明の部分」ではないが、容量を変えることは購入した特許権の範囲であると説明している。

修理に該当するか否かについての判示

組み合わせの要素がその特許にとっていかに必須であっても「発明の核心(heart of the invention)」かどうかで再生産になるかどうかを判断するアプローチをAro判決(Aro ruling)がはっきりと拒絶していることを裁判所は強調した。一方、特定の部品が交換可能かどうかについての審理を解決しないで、明らかに交換可能な部品をAro判決が取り扱っていることをダイク判事は認めている。

CAFCは、何が交換可能で何が交換不能な部品であるかの線引きをしないで、もし修理される部品が容易に交換可能な部品であれば修理になると判示し、次のように付け加えた。

特定の部品が容易に「交換可能」であれば侵害は存在しない。例えば、Surfco事件(Surfco Hawaii v. Fin Control Systems Pty Ltd., 264 F.3d 1062, 60 USPQ 1056)では、訴訟に係る特許は離脱可能なフィンを有するサーフボートに関するものであった。

Aro事件において、「修理」の概念は、主として破壊された、又は消耗された部品の交換を目的とするものであった。しかしながら、破壊も消耗もされない部品の交換も「修理」に含まれる。したがって、特許されたサーフクラフトの新しいフィンを異なるフィンのセットで交換することは再生産には該当しないと我々は判断する。

裁判所によれば、本件では特定の部品が容易に交換可能であることについては疑問がない。このように、修理か否かは部品が発明の必須要件がどうかとは無関係であると判決し、「発明の核心(heart of the invention)」という過去の基準を別の言葉(表現)で復活させようとするハスキー社の試みを拒絶した。

ハスキー社はまた、組み合わせ特許の権利者は、より安全にする等の明らかに公共政策的を正当化がなされなければ、消耗されない部品を自発的に交換する権利を有しない、と主張した。

裁判所は、ハスキー社の主張は、安全性を上げることについては関係のないWilbur-Ellis判決(Wilbur-Ellis Co. v. Kuther, 377 U.S. 422, 141 USPQ 703 1964))とは直接的に一致しないことを指摘した。 Sufco事件において交換されたフィンは安全性を改善したが、Sufco事件の判決は政策的な正当化に基づくものではなく、購入した装置を改変し得る購入者の権利に基づくものであるとダイク判事は判示した。

「装置の購入者は、交換が公共の政策に合うかどうかにかかわらず、容易に交換可能な部品を交換することによって装置を改変する権利を有する」 と結論付けた。

CAFCは、略式判決を支持した。

 

〈判決文〉

http://laws.findlaw.com/fed/011346.html

 

〈参考文献〉

BNA International Inc.

"Patent, Trademark & Copyright Journal"

‘Permissible Repair Exists For Readily Replaceable Parts’

Page 76-77, Volume 64, Number 1574, May 24, 2002

 

 

〈米国〉

米国特許商標庁に対する手続料金の改正案

 

20027月、米国特許商標庁から「21世紀戦略プラン」が公表された。この戦略プランは、審査の質及び費用対効果の向上等を図るために今後5年間にわたって米国特許商標庁を改革することを内容とするものであるが、一方において米国特許商標庁に対する手続料金を大幅に増額する規定(2002101日から施行予定)を伴うものである。この料金規定案*1についてはすでに複数の関係団体から反対意見が提出されていることから、料金規定案が修正されたうえで施行される可能性が現時点では残っているとしても、出願から特許期間満了までの特許庁に対する費用が増加することは避けられないものと予想される*2。以下に改正料金案の一部を示す。

 

種類

摘要

金額(US$)

改正案

現行

基本出願料

通常出願(再発行,PCT国内移行含む)

仮出願

意匠

300

160

130

740

160

330

審査請求料

特許

意匠

1,250

560

独立項数加算料

3を超える各独立項について

    独立項:4

        5

        6

以後、前独立項の加算料に125%を乗じた金額

 

160

320

640

 

84/項

全体項数加算料

20を超える各独立/従属項について

      21−25

      26−30

      31−35

      36−40

以後、請求項が5増加するごとに前加算料に125%を乗じた金額

 

80/項

160/項

320/項

640/項

 

18/項

枚数加算料

明細書と図面の合計枚数が50枚を超える場合

未定

関連出願加算料

120条、121条又は365条(c)に基づく3以上の先の出願の言及を含む出願

  言及の数:3

       4

       5

       6

以後、言及の数が増加するごとに前加算料の倍額

 

 

1,000

2,000

4,000

8,000

 

 

審判

審判請求

520

320

 

請求理由提出

1,730

320

設定登録料

特許

意匠

1,660

600

1,280

460

維持年金(特許のみ)

   3.5年度

900

880

 

   7.5年度

3,000

2,020

 

  11.5年度

5,000

3,100

 

*1              http://www.uspto.gov/web/offices/com/strat2001/21stCSP_Legislation.pdf

*2  加算料なし(独立項3以下、全体項数20以下、枚数50枚以下、関連出願の言及2以下)の場合、費用の増加率は51%である。

 

 

以上