国際活動委員会からのお知らせ(200210月)

 

〈米国〉

21世紀戦略プランにおける料金改定案の施行延期

 

20027月に米国特許商標庁から公表された「21世紀戦略プラン」の中で、2002101日より米国特許商標庁に対する手続料金を大幅に増額する提案がなされていた(「国際活動委員会からのお知らせ(2002年8月参照)が、関係団体からの反対意見が多く、現時点で未だ施行されるに至っていない。

なお、現在ほぼ同じ内容の別法案が、2003101日の施行予定で米国下院に提出され審議されている。

また、今年の101日付けで予想されていた物価上昇相当の特許費用の値上げ(FY2003)の実施も遅れており、20021010日現在では従来からの料金のままに据え置かれている(20021010日)。

 

〈米国〉

カタログ中のプリンタの開示は本質的に複写機を開示するものでない

 

CAFCは、「新規なコンピュータレーザプリンタ」により作られた時計盤の広告を掲載したカタログの先行技術よって、カラー複写機を用いて多色の時計盤を作るコンピュータ化された方法が本質的に(inherently)開示するものでないと判示した(Trintec Industries Inc. v. Top-U.S.A. Corp., Fed. Cir., No. 01-1568, 7/2/02)。この判決において、裁判所は、複写機とプリンタとの違いは自明であるとしても、自明性は本質的な開示事項とは異なると認定した。

この事件で、まず下級裁判所は特許が無効であると認定した。Trintec Industries Inc.は、多色の時計文字盤を製造する方法の特許(USP 5,818,717)の譲受人である。この方法は、コンピュータ内で多色の文字盤を生成し、信号をカラーのプリンタまたは複写機に送り、シート材の上にその文字盤をプリントしてこれをカットし、計器に取付けるというものである。

Top-U.S.A. Corp.は、18年以上、パッドプリント、彫刻、シルクスクリーン又は写真の方法によって、カスタマイズした時計文字盤を製造してきた。Top社がカラーレーザプリンタの技術を使い始めると、Trintec社はこれを特許権侵害として起訴した。

オハイオ州南部地区の地方裁判所の首席判事Joseph P. Kinnearyは、717特許は無効であるとするTop社による略式判決の申し立てを認めた。地裁は、本発明は、「新規なコンピュータプリンタ」で作られた多色の時計の広告を掲載している「Swedaカタログ」によって実質的に開示されていたと判示した。

この地裁の判決に対して、Trintec社は控訴した。

CAFCは、まず、「単一の先行技術文献が、クレームで述べられている各々の限定のすべてを明白に又は実質的に記載していれば、その先行技術文献は特許されたクレームを開示している」とした。そして、CAFCは、In re Robertson, 169 F.3d 743, 49 USPQ2d 1949Fed. Cir. 1999)を引用して、「本質的に認識されているというためには、不足している記述的な材料が、先行技術中に単に推定または可能性として存在するだけでなく、『必然的に存在』していることが要求される」と付け加えた。

Rader判事は、「問題となった本質的な開示は、『カラー複写機』や『複写機』に対する限定に言及しているクレーム38に関係しており」、また「地裁は、『カラー複写機(color photocopier)』という用語が『カラープリンタ(color printer)』を意味すると解釈した」と述べ、地裁の意見を引用して「地裁は、Sweda カタログがカラープリンタを本質的に開示していたと判断した」と述べた。この判断において、地裁は、上述の解釈に基づいて、「グラフィックアート産業の当業者ならば、カタログ中の『コンピュータレーザプリンタによって生成されるフルカラー表現』との記述には、カラープリント装置が必然的に存在していると認識するであろう」と理由付けをしている。

しかし、CAFCは、Swedaカタログにおけるカラープリンタの記述が本質的に複写機を開示していたとする地裁の結論を退けた。Rader判事は、「カラープリンタは、カラー複写機ではない」と述べた。詳しくは、以下の通りである。

717特許の発明の詳細な説明は、『発明の主要な構成要素は、プリンタであって、望ましくは、カラー複写機である』と教示している。・・・(中略)・・・これと同時に、本件特許は『カラー複写機は、カラーのプリントをするだけではなく、コピーをするものである』ということも認識している。具体的に、発明の詳細な説明では『先に述べたタイプのようなカラー複写機による複写』が教示されている。・・・(中略)・・・Steven J. Bares博士による裁判所において明白な証言は、この点を強調している。博士による証言とは、すなわち『デジタルカラー複写機は、スキャナを通してデジタル情報に変換された画像がデジタルカラーレーザプリンタに送信されるように、互いに直接的に接続されたデジタルカラースキャナとデジタルカラープリンタと含んでいる。』というものである。したがって、クレーム構成を正確に解釈すると、『カラー複写機』は、対象をカラーでプリントしかつカラーで複写するという両方の能力を要求している。」

プリンタと複写機との違いは、極めて小さくて当業者に自明のことであるかもしれない。しかし、「自明性(obviousness)」は「本質的な開示(inherent anticipation)」とは異なる。新規性判断には厳格な同一性が要求されるが、このケースの場合、理性的な陪審員でもSwedaカタログが明白に又は本質的にカラー複写機を開示していると結論することはできない、と判断した。

 

〈判決文〉

http://pub.bna.com/ptcj/011568.htm

 

〈参考文献〉

BNA International Inc.

"Patent, Trademark & Copyright Journal"

‘Catalogue Disclosure of Printer Was Not Inherent in Disclosure of Photocopier’

Page 216-217, Volume 64, Number 1580, July 12, 2002

 

〈オランダ〉

クレーム起草者が不注意で起草しなかった均等物も

均等論に基づく保護が認められる

 

オランダ最高裁判所は、2002329日均等論に基づく侵害の請求に係るvanBentum / Kool事件の判決を下した。本件特許の発明は、2つの床を備えたパレット搬送トラックに関するもので、トラックにパレットを積み込み及び積み下ろしする際に、垂直方向の伸張部を介して特別な積載スペースを確保するために、底部積載床は可動式、上部積載床は固定式として構成されている。これに対し、被告の製品に係るトラックは、固定式の底部積載床と可動式の上部積載床とを備えたものであった。

1審のハーグ地方裁判所は、被告製品は従来技術の明らかな改良品であるから、特許権を侵害しないと判断した。また、ハーグ控訴審は、クレームを起草した人がトラックに可動式の底部積載床と固定式の上部積載床のみをクレームに含めることを選択し、明細書を読む人はクレームされた通りのものだけに保護が求められていたものと当然結論付けるものと思われる、と判断した。この点に関し、控訴審は以下のように述べている。

クレーム起草者は、被告の変形例を含むクレームを容易に起草することができたわけであり、そのように出来たことも認めている。したがって、公平の点で、クレームを起草する時点で認識可能な自明な均等物に保護を与えることはできない。均等論は、特許権者に対する公平な保護と第三者に対する合理的な確実性との間の均衡を図るために設けられたもので、不注意な起草者に対する救済として適用されるべきものでない。さもなければ、法的確実性の信用に十分な妥当性が認められないことになる。

しかし、最高裁判所は、たとえクレームが不注意に起草された結果、自明な変形例がクレームに含まれないこととなっても、特許権の保護と第三者に対する合理的な確実性とは均衡するものであり、控訴審の解釈は当裁判所のそれと一致しないものであるとして、控訴審の判決を覆した。

この判決に基づき、例えば包袋禁反言に基づく正当な理由がある場合を除き、均等物は放棄されたものであると推定しなければならないという判断をオランダ裁判所が行うことはないと思われる。

 

〈参考文献〉

BNA International Inc.

"World Intellectual Property Report"

‘Supreme Court Rules on Equivalence in Patent Dispute’

Page 8-9, Volume 16, Number 7, July 2002

 

〈欧州〉

欧州では技術的な機能を有する形状を登録商標として登録することはできない

 

Koninklijke Philips Electronics NV v Remington Consumer Products Ltd,

Case C-299/99, June 18, 2002

 

3つのヘッドを有する電気かみそりに対する形状商標に関する長く待たれていたPhilips v Remington判決である。

2002618日欧州司法裁判所("EJC" the European Court of Justice)は、英国控訴裁判所により付託されて以来2年を経過して、本判決を言い渡した。最初に英国高等裁判所は登録商標を無効としたので、Phillipsがこの判決に対して控訴していた。

判決により判示された主要点は、技術的な機能(a technical function)は欧州では登録商標として登録できないという点である。この背景にある公的な政策上の理由は、そのような製品は特許又は意匠によってより適切に保護されるということである。登録商標は実質的に無制限の独占を許すのに対して、特許や意匠は独占期間の制限を設けている。記憶に値することは、問題となる製品は消滅して久しい特許により保護されていたことであり、より懐疑的な人は、Philipsはその独占を他の保護手段により延長しようとしたに過ぎないと考えるかも知れない。

控訴裁判所に判示された判決の要旨は以下の通りである。

英国控訴裁判所は7つの質問をECJに対して提示していた。最初の4つは有効性の観点を扱ったもので、残りの3つは侵害の争点を扱っていた。ECJは、もし有効性に対する見解が商標無効とする旨であれば、侵害の争点を取り扱わない旨の控訴裁判所の勧告を受け入れた。

技術的な機能の観点を集中していたのは、英国控訴裁判所がECJに送付した第4番目の質問であった。その質問とは以下のようなものである。

a)「もし技術的結果を達成するのに必要な物品の形状のみからなるのであれば」という商標法指針第31項(e)(ロ)の文言によって課された制限は、同じ技術的結果を達成することのできる別の形状があることを立証することにより克服できるのか。あるいは、

b)ある形状が、その形状の本質的な特徴が技術的結果にのみ貢献することを立証できれば、その形状はその形状ゆえに登録することができないのか。あるいは、

c)その他に何か、制限を適用するかどうかを決するのに適切な基準はあるのか、もしあるとすれば、それは何か。

この点は判決の核心であり、他の争点はこれを補足するものである。この質問に対するECJの出した解答は以下の通りである。

31項(e)(ロ)は、製品形状に必須の機能的特徴が技術的結果にのみ寄与することが確立されれば、その形状のみからなる標章はそのゆえに登録することはできない、と解釈しなければならない。さらに、この条項により課された登録拒絶又は登録無効の根拠は、たとえ同じ技術的結果が得られる別の形状があるということを立証することにより撤回することはできない。

 

〈参考文献〉

BNA International Inc.

"World Intellectual Property Report"

‘Philips v Remington: A Close Shave At the European Court of Justice’

Page 5-6, Volume 16, Number 8, August 2002

 

以上