● 国際活動委員会からのお知らせ(2002年11月)


〈米国〉
"Step for" を伴わない方法クレーム限定は、その限定が行為を含まないことが示されなければ、35 USC112-6に基づくステップ・プラス・ファンクションの限定事項として解釈されない

 CAFCは、非侵害判断の一部を覆し、方法クレームに35USC112-6の適用を否定した(Masco corp. v. United States Fed. Cir., No.01-5107, 8/28/02)。問題の方法クレームは、"Step for"に続いて行為を並べており、「transmitting a force」というクレームの文言は、§112-6の適用を外れる行為を説明するものであると認定した。このような限定にステップ・プラス・ファンクションクレームの解釈を適用することは、これらの方法クレームの保護の範囲を不明確なものとし、定着しているクレームの範囲に関する特許権者の予測を混乱させることになるであろうと裁判所は述べた。

原告Masco corp.は、電子式ダイアル組み合わせ錠に関し2つの特許(5,540,068及び5,778,711)を取得している。Mas-Hamilton Groupは、「X-07」という高セキュリティの電子式ダイアル組み合わせ錠を製造し、政府会計事務所に供給していた。Mascoは、「X-07」錠の使用は特許侵害にあたると主張し、損害賠償を求めて合衆国を提訴した。

連邦請求裁判所(Court of Claims)首席判事Edward J. Damichは、特許'068と'711のそれぞれのクレーム1に含まれるいくつかの限定に関する解釈を述べた。そのクレームは、電子式錠(注:原文はclock)を制御する方法が「comprising the steps of」で記述され、続いていくつかの要素が列記されている。列記された要素の1つは、所定位置にレバーを"駆動する(to drive)"ためにレバーとダイアルが接続された後、"レバーに(to the lever)"与える"力を伝達する(transmitting a force)"と規定されている。裁判所は、Mas-Hamilton Group V. LaGard Inc.,事件における親特許(5,307,656)の解釈に基づき、"to drive"の意味を"to push"であると解釈し、侵害被疑製品X-07のレバーが"引っ張られている(pushed)"いるとの結論し、政府は非侵害であるとの略式判決を下した。請求裁判所は、Mas-HamiltonIでの訴訟で十分かつ深く行われたとし、push/pull問題に関し、Mascoに再訴訟を認めることを拒絶した。
これに対しMasco は、CAFCに控訴した。

"drive"クレームの解釈
CAFCは、"drive"を"push"と解釈する根拠がないとするMascoの主張を却下した。判事Richard Linnは、証拠として、"to drive"はドイツ特許に基づき予想される拒絶を回避するために補正によって挿入された語句であるという履歴を指摘した。裁判所によれば、その補正は、本件特許の押す動作(pushing action)をドイツ特許で明らかにされた引張動作(pulling action)から異ならしめるためのものであった。

Step-Plus-Function
Mascoは、請求裁判所は特許'068特許'と'771特許'の第1クレームの方法における第4のステップに対し、§112-6の適用を誤っていると主張した。特に、裁判所が、クレーム1における"steps of ・・・ transmitting a force"という句を、行為ではなく、機能として解釈している点が誤りであると主張した。政府側は、その句は行為として解釈するのはあまりにも漠然としていると反論した。

CAFCは、Mascoの主張を認めた。Richard Linn判事は、§112-6は、ミーンズ・プラス・ファンクションと同様、ステップ・プラス・ファンクションにも適用されるとの意見を示した。"means"という語句を使えば、その法律の適用が推定されると同様に、方法クレームにおいて、"step for"という語句を使えば、§112-6を行使させたい特許出願人の意図を意味するものだ、とも付け加えた。しかし、出願人がstep forを使用しても、§112-6が関係するのは、ステップ・プラス・ファンクションが行為を伴わないで記述されたときのみであると判事Linnは述べている。

この事件ではどちらの特許も"step for"の記述はなく、その代わりに"step of"が使用されていると裁判所は指摘した。従って、判事Linnによれば、これらの限定がステップ・プラス・ファンクション形式にあるとする推定は働かない。

請求裁判所は、何らかの行為を説明していれば、限定がステップ・プラス・ファンクション形式ではないとする意見を維持した。その意見によれば、"function"は、その要素が何を実現するかであり、"act"はその機能がどのように実現されるかである。

請求裁判所は、"transmitting"は行為ではなく、むしろ機能であったとしている。これは、単に"transmitting"というだけでは、力がどのように伝達されるかが説明されていないことによる。裁判所は、その限定は行為を伴わない機能を表し、従って、ステップ・プラス・ファンクション限定であるとの意見を維持した。
CAFCはこれに同意しなかった。特許出願者は、"step for"を使用しており、§112-6を思い出させたい意図を示すものではないと主張した。このような場合において、そのクレーム限定が、行為として解釈されるものを何も含まないことの説明が無いのであれば、裁判所はクレーム限定の範囲を制限するために§112-6に頼るべきではないと述べた。

判事Linnは次のように説明した。
この事件のように、"steps of"句に続いて主張される方法を構成する行為を列記することで、方法クレームが記述されることが多い。こうした状況において、§112-6を適用すると、これらの方法クレームの権利範囲を不確かなものとし、現在すでに定着しているクレームの権利範囲に関する特許権者の予測を混乱させることになるであろう。

「裁判所は、特許の世界で常識化された予測を混乱させる変更を採用する前には慎重でなければならない」。従って、裁判所は、"step for"を含まない方法クレームに関しては、限定が行為を含まないことの説明が無いのであれば、クレームの限定をステップ・プラス・ファンクション限定と解釈しない態度をとっている。この事件では、"transmitting a force"限定の問題になっている機能は、レバーをカムに対し動かすことである。機械辞典や通常の辞書の定義を引用し、裁判所は、transmittingは、"transmitting a force"限定の機能がどのように実現されるかを説明する行為であるとの結論を下した。
裁判所は、限定が、§112-6に基づく解釈に関するステップ・プラス・ファンクション限定として記述されているとの請求裁判所による判決を取り消した。

No Issue Preclusion
最終的に、CAFCは請求裁判所が、X-07錠のレバーが押されるか、引っ張られるかという疑問及び、押すことが均等物であるかどうかという疑問に対する争点除外を行なった誤りがあるという、Mascoの主張に同意した。

判事Linnは、Mas-HamiltonIにおいては、X-07錠のレバーが実質的に異なる方法でカムに引っ張られ、X-07はソレノイドもしくはその均等物を使用していないという異なった結論が出た。これらの結論のどれか1つでもあれば、非侵害の判決を支持するのに十分であったであろうと説明している。さらに、Mas-Hamilton IIでは、レバーがカムに引っ張られるという結論に基づかず、その代わりにX-07がソレノイドではなくステッパモータを使ったとする認定に関しては、地方裁判所が明らかに間違いを犯していないという意見を維持した。

Mas-Hamilton IIにおいては、Push/pull問題にけりがついていないので、先例によって、X-07のレバーが引っ張られるか否かという点と、押すことと引っ張ることが均等か否かという問題について、Mascoは再訴訟することができると判示され、従ってPush/pull侵害問題は、下級裁判所に差し戻された。
連邦請求裁判所の判決は、一部維持され、一部取り消され、差し戻された。

〈判決文〉
http://www.ipo.org/2002/IPcourts/Masco_v_US.htm

〈参考文献〉
BNA International Inc.
"Patent, Trademark & Copyright Journal"
'Method Claim Without "Step For" Term Requires Proof of No Act for §112-6'
(Page 417-419, Volume 64, Number 1588, September 13, 2002)


〈オーストラリア〉
オーストラリア特許法改正案

調査結果の提出を要求する知的財産法改正法案2002号がオーストラリア連邦国会に提出された。
オーストラリア特許法の改正に関する問題は、出願人に対しオーストラリア特許庁へ調査結果を開示する新たな要求が導入されたことであるが、幸いこの要求に変更がなされる見込みである。

2002年4月1日に発効した改正法は、オーストラリア特許法及び規則に対する多数の改正を含んでいた。これらの改正の中で、出願人により又は出願人の為にいずれかの場所でなされた発明に関する特許性評価のすべての文書調査の結果を、出願人が特許の付与前にオーストラリア特許庁へ報告する新しい要請が導入された。

開示すべき調査結果は、出願人自身の調査結果を含んでいた。開示義務を満たさない者に対する罰則は、特許の喪失ではなく、提出すべきであった先行技術を回避するために特許権者が特許を補正する権利を喪失するというものであった。
調査結果提出義務に関する法律が不明瞭であったことから、オーストラリアで特許保護を求める発明者は、注意深い対応が必要であった。

改正案
最近、調査結果の提出要求を改正する知的財産法改正法案2002号がオーストラリア連邦国会に提出された。その法案が提出されたとき、関係大臣は、現行規定が出願人に過剰の負担を与えてきたことを指摘した。改正の目的は、関連する情報が開示されることを確実にしながら、出願人の負担を減少するため、提出要求の情報の範囲を狭くすることであることを大臣は示した。

未決定の法令は、調査結果を開示する出願人の義務を、対応出願において外国特許庁によりなされた調査結果をオーストラリア特許庁へ知らせる義務に変更するものである。従前のように、オーストラリア出願の特許付与前に行われた関連する全ての調査結果を提出することが必要である。調査結果提出の提案された新らたな要求の詳細は、法令に規定されることになる。法令草案は公開されていないが、特許庁は、法令が以下の内容を規定することを認めている。
国際調査報告書(ISR)及び国際予備審査報告書(IPER)は、公開された記録事項であるから、提出することが必要でない。

規則は、調査結果の提出期限について更なる情報(特に、調査が「完成した」とみなされる日付)についての指針を提供することになり、調査結果をオーストラリア特許庁へ提出する期限が明確になる。なお、従前の規程のように、その期限は調査の完成から6月とすることが期待されている。
調査結果の提出様式は未決定である。別々に調査報告書が作成された場合、調査報告書の写しが提出されねばならないようである。例えば、ヨーロッパ補助調査報告書をオーストラリア特許庁へ開示する場合、実際の調査報告書の写しも同時に提出する必要があるものと思われる。

PCT第15条(5)により要求される国際型調査が新規則の下で開示されねばならないかどうかを明瞭にすることが求められるが、この問題は、未解決である。新規則に不明確性があるとすると、旧法に基づく調査結果の最初の提出のための期間が2003年1月1日以後に延期されることが有り得るが、この点については不明である。

開示義務の改正は、正しい方向の一歩であり、出願人の仕事を、現行法令下における仕事よりも容易にするように見える。しかしながら、規則案が発表されるまで、改正案の全体は不明瞭のままである。改正法の内容が明らかにされて施行されるまで、オーストラリア特許出願の発明者は、開示義務を満たすための注意深い取組みが必要である。

〈参考文献〉
BNA International Inc.
"World Intellectual Property Report"
'Amendments to Patent Law Disclosure Requirements Introduced'
(Page 3, Volume 16, Number 9, September 2002)


〈ロシア〉
内外国人によって支払われる政府料金に関する政令の取消決定を確認したロシア最高裁判所の裁定

ロシア連邦の最高裁判所破棄部は、2002年7月25日、同最高裁判所が2002年1月に制定された政令第8号についてした取消決定を確認する裁定を出した。取り消された上記政令というのは、ロシア国内の登録者及び外国の登録者がロシアの通貨(ルーブル)で支払うべき新商標登録料を両者共通の同一料金とするというものであった(2002年3月のWIPR、第13頁参照)。この料金改正によれば、国内のロシアの会社が支払うべき商標登録料の額は従来のそれの約30倍となり、政府の登録料の収入も3倍になることが見込まれていた。

上記政令第8号は、ロシアの弁護士が提起し、ロシアの憲法及び税法の下では、特許及び商標の料金は政令によってではなく、連邦法によってのみ設定することができると主張して争った訴訟に基づいて取り消されたものである。
現に効力を有する上記最高裁判所の決定は、出願人やロスパテント(ロシア特許庁)の役人らをあっと驚かせている。ロスパテントはそれにとって不利な上記決定について、最高裁判所最高会議幹部会及び憲法裁判所に提訴して争う見込みである。上記決定は、それが最終的に支持された場合には、WTO(世界貿易機関)に加盟しようとするロシアの企図にとって確実に一つの障害となるであろう。

ロシア国民及び外国の国民から徴収される異なった額の料金は、締約国における「内国民待遇」(内外人の同様な待遇)を規定するパリ条約の規定と抵触する。
主観的な側面からみると、上記決定は、国内の会社にとって有利な国庫収入制度を創設することによってただ乗り的な出願をすることを安上がりの事業としてしまうため、ロシアに数多くいる商標盗用者に対し意識すると否とに拘らず一つの誘因を提供することになりかねない。

〈参考文献〉
BNA International Inc.
"World Intellectual Property Report"
'Ruling Confirms Cancellation of Decree On Fees Paid by Nationals, Foreigners'
(Page 11-12, Volume 16, Number 9, September 2002)