● 諸外国の最新特許情報 国際活動委員会(2002年12月)


〈米国〉
CAFCがFesto事件の当事者に「禁反言の推定」に関する意見書の提出を命じた

 CAFCは、9月20日、Festo事件(Festo Corp. v. Shoketsu Kinzoku Kogyo Kabushiki Co., Fed. Cir., No. 95-1066, 9/20/02)において、「出願経過」と「均等論」について再び大法廷で審理すると発表し、最高裁判所から差し戻された禁反言の判断が地裁で解決されるべき事実問題か、それとも上訴裁判所で解決される法律問題かに関する意見書を提出することを当事者に命じた。特に、均等論に基づく侵害が阻却される推定の反証が事実問題か法律問題かについて30日以内に意見の提出を求めた。

 2年前、CAFC大法廷は、均等論に基づき、焼結金属工業株式会社が「磁気的に連結されたロッドレスシリンダ」に関するFestoの特許を侵害したとする請求を検討した。この事件における問題は、特許クレームが減縮補正された場合、均等論を主張し得るか否かというものであった。この判決の中で、大法廷は、賛成8、反対4で、特許性に関連する理由から為された減縮補正はすべて、補正されたクレーム要素に関する均等侵害の主張に対して、コンプリートバーを形成するものであると判示した(234 F.3d 558,56 USPQ2d 1865(Fed. Cir. 2000)(61 PTCJ 104, 12/1/00)。これに対し、2002年5月、最高裁判所は、全員一致で、CAFCの「ブライトライン(明確な線引き)」ルールを破棄し、代わりに、減縮補正は反証可能な推定(コンプリートバーが適用されるという推定)をもたらすに過ぎないと判示した(122 S.Ct. 183,62 USPQ2d 1705(2002)(64 PTCJ 98, 5/31/02)。

 この最高裁判決における理由は以下のとおりである。
「補正によってクレームを減縮する特許権者の決定はもとのクレームと補正されたクレームとの間の領域を放棄するものである、と推定され得る。しかしながら、補正が特定の均等物を放棄するものと合理的に判断することができない場合がある。例えば、均等物は出願時に予知できなかったかも知れない。また、補正をした理由が、問題の均等物とほとんど無関係であることもある。さらに、特許権者が問題となっている非実質的な代替物を合理的に予見し得なかったことを示す何らかの理由があるかもしれない。それらの場合、特許権者は、出願経過禁反言が均等の認定を妨げる推定を覆すことができる。そのために、補正時、均等物を文字通り含むクレームを起草することは当業者に合理的に期待し得なかったことを、特許権者が示さなければならない。」

 最高裁判所から差し戻されたことにより、CAFCは本事件で採るべき行為を決定するために控訴手続を再開し、その決定を補助する目的から以下の問題に関する意見書の提出を両当事者に命じた。
1. 放棄の推定についての反証(均等物に対する当業者の予見可能性、補正理由と均等物とが無関係であること、均等物を予測できない合理的な理由の問題を含む)の判断は、法律問題か事実問題か。また、特許権者が推定に覆すことができるか否かを決める際、陪審員が果たすべき役割は何か。
2. どの要因が最高裁判所で述べられた基準に含まれるのか。
3. 反証の決定に事実認定が必要な場合、すべての減縮補正は主張に係る均等物を放棄するものであるという推定をフェストが覆し得るか否かを判断するためには地裁へ差し戻すことが本件では必須であるか否か、またはそれらの判断を行ううえで現在の裁判記録が十分なものか否か。
4. 地方裁判所への差し戻しが必要でない場合、減縮補正は主張されている均等物を放棄するものである、という推定をフェストが覆し得るか否か。
  命令によれば、本事件は、既に提出された意見書および上述の質問に対する追加の意見書に基づき、大法廷で審理されることになる。当事者は追加の意見書を10月30日までに提出されなければならず、それは5,000語を超えるものであってはならない。
 法曹協会、貿易及び産業協会、政府からの意見書の提出も認められている。ただし、意見書の提出期限は10月30日であり、2,500語を超えるものであってはならない。

〈情報入手先〉
http://pub.bna.com/ptcj/951066.htm

〈参考文献〉
BNA International Inc.
"Patent, Trademark & Copyright Journal"
'Federal Circuit Orders Briefing On Estoppel Presumption in Festo'
(Page 454, Volume 64, Number 1590, September 27, 2002)



〈米国〉
出願人の長期間にわたる懈怠は拒絶の対象となり得る(In re Bogese, CAFC No. 01-1354, 2002年9月13日判決)

出願人が不当な程の長期に渡って手続を怠った場合には、PTOはかかる出願を拒絶することができる。

事件の背景
 Stephen B. Bogese氏は1978年に電話線とコンピュータとを迅速に接続することを可能にするコネクタの発明を特許出願したが、PTOから最終拒絶を受けたた際に如何なる補正もすることなく継続出願をして親出願を放棄した。

 1994年8月、審査官はBogese氏に対して「このシリーズの発明に関して次に継続出願をなした場合には、懈怠による衡平法上の原則(the equitable doctrine of laches)に基づいて拒絶する」旨を特別に通知した。
この警告にもかかわらず、Bogese氏が補正なしでもうひとつの継続出願を行ったため、審査官はこの出願のクレームに対して1995年3月16日に「出願人の特許を受ける権利は既に失効している」ことを理由として拒絶した。

  Bogese氏は1995年9月18日にはじめてクレームを補正して実質的な応答を行なうとともに、「特許を受ける権利の失効」を理由とする拒絶処分に対して異議を申立て、彼には1978年になした出願の利益に基づく権利が与えられている旨を主張したが、審査官はこの主張を認めず再度クレームを拒絶した。特許審判インタフェアレンス部もこの審査官の判断を維持したため、Bogese氏はCAFCに控訴した。

CAFCの判断
 裁判での争点は、出願人が不当な程の長期に渡って手続を怠った場合にPTOはかかる出願を拒絶することが可能か否かであった。Bogese氏は、PTOの処分には成文法や法規もしくは判例法上の何らの根拠もないと主張して争ったが、CAFCはこの主張を認めなかった。

 CAFCは近年、侵害行為に関する事件において、例え特許出願人が法令や規則を適正に遵守している場合であっても、妥当性なくかつ理由の説明もない手続の遅延(unreasonable and unexplainable delay in prosecution)の後に生じた特許権に基づく裁判上の権利行使においては「懈怠による衡平法上の原則」(the equitable doctrine of laches)が適用されるとの判断を下している(Symbol Technologies Inc. v. Lemelson Medical, 277 F.3d 1361, 61USPQ2d 15151 (Fed. Cir. 2002)(63 PTCJ 282, 2/1/02))。
Dyk判事は、「Symbol Technology事件における我々の判断の妥当性についての個々のパネルメンバーの見解が如何なるものであろうと、我々はその判断に拘束されるのであって、PTO自身に認められた裁判上の権限を否定する根拠を見出すことはできない。」と述べている。

 裁判所の観点からすれば、過度な遅延を許容するか否かについてのPTOの権限は、特許権の行使を認めないことに対する裁判所の権限よりもなお一層広く認められるべきであるとし、Dyk判事は、「PTOは他の行政機関と同様に、手続期限と出願審査のため要求とを妥当に定めることができる」と理由付けを行なっている。

 行政機関は予め通知をすることなくペナルティや罰金を課すことはできないが、Bogese氏は充分な通知を受け取っているものと認められる。第1に、PTOは、Hull事件(191 USPQ157(Bd.Pat.App.&Inter.1975))を引き合いに出して出願手続の遅延について予め警告を行なっている。第2に、Bogese氏は担当審査官から「審査を進行させる上で意味のある補正を行なうべきであり、かかる手続がなされない場合には特許を受ける権利が失効する」旨の特別警告を受けている。

 裁判所は、「本件事実に照らせば、Bogese氏は8年以上の期間に12もの継続出願を行なっており、それらの出願に対してはPTOから審査手続進行のための要求がなされ且つそのための機会も与えられていたにもかかわらずBogese氏が何ら実質的な手続をなしたと認めることもできないのであるから、PTOの行為が独断的であるものとすることはできない。」とし、継続出願の連鎖を継続させる権利を有しているとするBogese氏の主張を認めなかった。また、審査の遅延の責任の一端はPTOにあるとするBogese氏の主張も根拠がないとして退けられた。

 さらに、裁判所は、State Industries Inc.事件(State Industries Inc. v. A. O. Smith Corp., 751 F.2d 1226, 224 USPQ2d 418(Fed.Cir.1985)(29 PTCJ 289, 1/17/85))に基づいてなした「発明者は、競業者の製品が市場に現れている間は、競業者の製品を解析した上でのクレームを草稿して特許付与を得るために、出願留保してもよい。」とするBogese氏の主張をも認めず、先行出願に開示され且つサポートされている発明を新たにクレームするための出願人の試みと、特許付与のための更なる審査手続の継続にBogese氏が失敗したこととは、区別されるべきであると判断した。

〈判例入手先〉
http://pub.bna.com/ptcj/011354.htm

〈参考文献〉
BNA International Inc.
"Patent, Trademark & Copyright Journal"
'PTO Can reject patent For Unreasonable Delays By Applicant'
(Page 434-435, Volume 64, Number 1589, September 20, 2002)



〈米国〉
米国特許法2002年改正の概要

1. 1999年米国発明者保護法(AIPA)により改正された米国特許法は、2002年にも改正された。この改正は、21世紀司法省充当費委任法(The 21st Century Department Of Justice Appropriations Authorization Act(H.R. 2215; Public Law 107-273)の第VI章である知的財産及びハイテクに関する技術的改正(Intellectual Property and High Technology Technical Amendments Act of 2002)によりなされ、ブッシュ大統領の署名により2002年11月2日に施行された。改正内容は多岐にわたる。単なる技術的な変更も多いが、中には第102条(e)に関する重要な改正も含まれる。

2. 主な改正内容
(1)特許法第102条(特許要件;新規性及び特許を受ける権利の喪失)(e)が改正された。
(2)特許法第303条(特許商標長官による再審査の決定)(a)に第3文が追加された。
審査において既に引用された先行技術でも特許性に関する実体的な新たな疑問(substantial new question)がある場合には再審査の根拠となる。
(3)特許法第141条(連邦巡回控訴裁判所への提訴)
当事者系再審査による特許性ありとの判断に不服の第三者請求人は、審判部に提訴する(第134条(c))以外に、CAFCに控訴することもできるようになった。

3. 第102条(e)の改正について
改正された第102条(e)項は直ちに施行され、審査及び再審査に係属しているすべての案件に適用されている。
改正後の条文は以下の通りである。
"Section 102(e) of title 35, United States Code, is amended to read as follows:
"'(e)the invention was described in(1)an application for patent, published under section 122(b), by another filed in the United States before the invention by the applicant for patent or(2)a patent granted on an application for patent by another filed in the United States before the invention by the applicant for patent, except that an international application filed under the treaty defined in section 351(a)shall have the effects for the purposes of this subsection of an application filed in the United States only if the international application designated the United States and was published under Article 21(2)of such treaty in the English language; or'.".

仮訳は以下の通り:
(e)(1)特許出願人による発明前に、その発明が合衆国に提出され第122条(b)に基づいて公開された他人の特許出願に記載されているか、又は
(2)特許出願人による発明前に,その発明が合衆国に提出された他人の特許出願に対して与えられた特許に記載されていた場合。
ただし、第351条(a)において定義される条約に基づいてなされた国際出願は,合衆国を指定国とし、その国際出願が当該条約第21条(2)(a)に基づいて英語で公開された場合に限り、本項の効果を享受するものとする。
米国特許法第102条(e)の改正に関する最も重要な点は、PCT国際出願が先行技術になる場合の条件に関する。以下の3条件が満足された場合にのみ、国際出願日が引用日となる:
(1)その国際出願の国際出願日が、2000年11月29日又はそれ以降であり、
(2)その国際出願が米国を指定しており、かつ、
(3)その国際出願が英語で国際公開されること。
又、2000年11月29日よりも前に出願されたPCT国際出願に基づき発行された米国特許には、特許法第371条(c)(1)、(2)及び(4)(国内移行要件)を満たす日を以て、第102条(e)(2)が適用される。2000年11月29日よりも前に出願された国際出願の国際公開については、国際出願日または米国への国内移行日を以て102条(e)を適用しない。

米国特許法第102条(e)項改正を運用するための4つの資料が作成され、米国特許商標庁のホームページに掲載されている。
 ・資料I:審査のガイドライン(19ページ、9つの事例について解説あり)
 ・資料II:トレーニングスライド(パワーポイント40ページ)
 ・資料III:先行技術として適用できるかを決めるフローチャート
 ・資料IV:102条(e)改正に関するメモ(Kunin副長官から技術センター長宛)

上記の資料にアクセスするためには、米国特許商標庁のホームページのPatentsの中からAIPA(American Inventor's Protection Act of 1999)にアクセスし、続いてWhat's New on the AIPA Web Site から入ると良い。

以上