● 諸外国の最新特許情報 国際活動委員会(2003年1月)


〈米国〉
辞書はクレームを解釈する際の出発点である

 辞書・百科事典・学術文献は、外的証拠ではなく、クレームを解釈する際の出発点として、発明の詳細な説明や出願経過に優先するものである(CAFC判決、Texas Digital Systems Inc. v. Telegenix Inc., Fed. Cir., No. 02-1032, 10/17/02)。

LED特許
 原告(Texas Digital Systems Inc.)は、4件の米国特許(4,845,481; 4,965,561; 4,734,619; and 4,804,890)を譲り受けている。これらの特許は、発光ダイオードにおける画素色を制御する方法と装置に関するものである。特許権を取得後、原告は特許権侵害を理由に被告(Telegenix Inc.)を提訴した。

  陪審員は被告有罪の評決を下した。そして、Magistrate判事(Paul D. Stickney)は被告が悪意をもって一件以上の原告特許を侵害したと判断し、原告に相当額のローヤリティ、高額な賠償額、判決までの利息、差止めを認めた。

辞書とクレーム解釈
 CAFCの判決は、まず始めに辞書・百科事典・学術文献とクレーム解釈との関係を説明し、クレーム解釈はクレーム中の用語が当業者によって与えられている通常の意味を有するという「推定」(heavy presumption)に基づいて行わなければならないことを指摘した。Linn判事は、辞書・百科事典・学術文献が通常の意味を判断するうえで特に有効であることがCAFCの判例で認められていると述べ、その中で以下のように説明を加えている。

 「特許発行時に公衆が利用可能な辞書・百科事典・学術文献は、当業者によってクレーム中の用語に与えられている意味を考える際に信頼できる情報源として機能する客観的な資源である。これらの書物は、専門家証人や特許付与に関連した事項や、当事者の考えや、訴訟の影響を受けていない、一般的な理解を先入観なく反映したものである。そして、それらの書物は、技術及びその技術を説明するために当業者が用いる用語を理解するうえで助けとなる最も意味のある情報源である。」

  したがって、地裁と控訴審の判事が裁判のあらゆる段階でこれらの書物を参照することは正しいことである。よって、それらの書物を「外的証拠」又は「特別な形の外的証拠」として分類分けすることは間違ったことであり、適正な分析とは言えないと、Linn判事は述べている。

  辞書に複数の意味が掲げられている場合、どの意味が発明者による用語の使い方に最も矛盾無く一致しているかを判断するために必ず内的証拠が参照されなければならない。そして、複数の定義が内的証拠に矛盾なく一致している場合、クレームの用語はそれらの矛盾のない意味をすべて含むものである。つまり、クレームの用語は通常の意味を有するという推定が覆されるものか否かを判断するために、内的証拠は参照されるものである。

  要するに、辞書編纂者として機能する特許権者が通常の意味とは異なる言葉の定義を明らかに用いている場合、クレーム中の用語が辞書に定義された意味を持つをいう推定は覆される。実際、明細書や出願経過に比べて、辞書はクレームを解釈する際の好ましいスターティングポイントとなるものであるとして、以下のように裁判所は述べている。

  「クレーム中の用語の通常の意味を確認する前に、クレーム解釈の初期段階として明細書や出願経過を参照することは、クレーム中に限定事項を持ち込むことに関する先例の忠告に叛くものである。

  ・・・例えば、発明が一つの具体的な形でのみ又は一つの実施形態として明細書に記載されている場合、内部証拠に基づくクレーム解釈を開始点とすれば、開示された一つの具体例又は実施形態はクレームの用語がそのような一つの具体例又は実施形態だけを含むように限定して解釈される危険がある。

  ・・・確かに、当裁判所の先例がその判決の中でクレームの用語は内的証拠を参照して解釈しなければならないとして要求してきたことであると信じられているかもしれない。・・・しかし、クレーム中の用語の意味が明細書に記載された具体例や実施形態に限定して当業者に解釈され得ない場合にあって、そのように限定された方法でクレームの用語を解釈することは誤った結果を招きかねないし、明細書に記載の構成をクレームの限定事項に取り込んで解釈してはならないという禁止行為を犯すものである。」

  辞書を調べ、さらに内的な記録を用いることで、明細書に記載の事項を限定事項として取り込むことの危険を危険を犯すことなく、発明者の意図する限定事項の外縁を正確に決定できるのである。

〈判例入手先〉
http://pub.bna.com/ptcj/021032.pdf

〈参考文献〉
BNA International Inc.
"Patent, Trademark & Copyright Journal"
'Dictionaries Are Not Extrinsic Evidence, But Starting Point for Claim Construction'
(Page 576-578, Volume 64, Number 1594, October 25, 2002)



〈米国〉
明細書にクレームの文言が無くても記載要件及び明確性要件を充足する

 審査段階でクレーム限定事項として追加された文言が明細書に何ら記載されていなくても、記載要件及び明確性要件は充足される。(All Dental Prodx LLC v. Advantage Dental Products Inc., Fed. Cir., No. 02-1107, 10/25/02)

  CAFCは無効の略式判決を覆し、クレームで用いられている用語と同一の用語で明細書がクレームされた発明を正確に記載している必要はなく、問題となったクレームの用語の意味を明確にするために審査経過に依拠することができると説明した。また、裁判所は、侵害被疑製品は前もって形成された特定の形状と大きさをしており、クレームされた「最初の同定不能な塊」(originally unidentified mass)という文言を満足しないものであるとして、非侵害の略式判決を支持した。

特許無効、非侵害の判断
 Advantage Dental Products Incは、カスタム型歯科用印象(口腔の歯などの陰型で、これから人工歯などの陽型をつくるもの)のトレイを製造する方法の特許(USP No.5,213,498)を所有している。この特許は、熱硬化性材料からなる「最初の同定不能な塊」を、トレイ又は容器を必要とすることなく人の歯上に成型し得る温度まで加熱して柔軟にする工程を含みもので、冷却後に硬くなった成型型が印象を形成するものである。

  All Dental Prodx LLCは、Advantage Dental Products Incを被告として、489特許の無効を確認するとともに、All Dental Prodx LLC社の製品"Temp Tabs True Blue"が特許権を侵害するものでないことを確認する判決を求める訴訟を提起した。これに対し、ニューヨーク州東部地区地方裁判所の主席判事Jacob Misherは、All Dentalの主張を認め、特許無効と非侵害の略式判決を下した。この地裁判決に対してAdvantageが控訴した。

記載要件を充足するか
 地裁は、米国特許法第112条第1及び第2パラグラフに基づき、498特許のクレームが無効であると判断した。「最初の同定不能な塊」の定義が明細書または審査経過のいずれにも欠落していることから、地裁は「クレームの範囲を理解できない」と判断した。また、地裁は、特許は発明の「記述を欠いている」とも結論付けた。

  しかし、CAFCは、地裁の認定を却下した。まず、Alan Lorie判事は、498特許のクレームが第112条第1パラグラフの記載要件を充足するか否かに関する重要事実の真の論点がないとするAdvantage社の意見に同意した。Lorie判事は、「争われている用語は模範的というほどに明瞭ではないが、きわめてシンプルで分かり易く、特許明細書を参照すれば理解できるものである」と認定した。また、Lorie判事は、発明が何であるか明瞭であるし、また特許明細書ではそのような意味に使われていることも明らかであると、結論付けた。

  CAFCは、記載要件を充足するためには、クレームで用いられている用語とまったく同一の用語で明細書に発明が記載されている必要はないことを強調し、クレームされている発明を出願日の時点で出願人が発明していたことを当業者に示せばよいだけであると述べている。具体的に、Lorie判事は以下のように述べている。

  「498特許の原出願は、「最初の同定不能な塊」という用語を含まず、実際に出発材料の形状に関する記載は特許明細書のどこにも無かった。しかし、後にクレームに記載された限定が明細書に具体的に記載されていなかったことは致命的なことでなく、その新しい用語は明細書に述べられている発明が真に発明されたものであることを反映したものであり、それは当業者が明細書を読めば分かることである。・・・また、この発明は、特定可能な形状をもたない熱硬化性材料の塊を熱することを含み、明細書に記載されている。

  一方、発明でない部分も明らかであり、そこでは熱硬化性材料の塊を熱するものでない。したがって、重要事実に関する問題は存在せず、明細書にはクレームされた発明が法律で定められている程度に記載されている。よって、記載要件の不満足を理由とする無効の略式判決は誤りであることから破棄する。」

明確性要件
 控訴裁判所は、498特許は第112条第2パラグラフの要件を充足しているとするAdvantage社の主張に同意した。Lourie判事は特許法を引用し、第112条第2パラグラフの規定が、明細書は「出願人が発明とみなす主題を指摘し且つ明確に請求している一以上のクレームを最後に記載しなければならない」ことを述べている点を指摘した。また、判事は、この要件の本来の目的は、特許によって認められている法律的保護の範囲を公衆に知らしめるようにクレームが記載されることを保証することであると述べるとともに、このような要件が規定されていることにより、利害関係人(例えば、特許所有者の競業者)は特許を侵害しているか否か判断できるのであると説明している。

  そのような判断のためにはクレームを解釈することが必要であり、そのために特許明細書と出願経過は必要な手がかりとなるものである。この点について、Lourie判事は以下のように述べている。

  「本事件では、クレームの「最初の同定不能な塊」という文言の意味を明確にするために、出願経過が役立つ。特許権者は、この限定に基づいて二度先行技術との違いを主張している。

  まず始めに、出願人はTureaudの自動的に形成されたトレイの形状は「最初の同定不能な塊」ではないとして本件発明との違いを主張した。次に、Ginsburgの予め形作られた熱可塑性物質は熱可塑性物質を特定の形にして適用するものでないとして本件発明との違いを主張した。審査段階でなされたこれらの主張はある特定の形状を放棄するものである。特に、二回目の主張は「最初の同定不能な塊」という限定が「あらゆる形状」を包含するものでないことを明確にしている。「最初の同定不能な塊」という文言が歯科用トレイ以外のすべての形状を含むものとするAdvantage社の主張は、審査過程における最初の主張のみを重視し、二回目の主張を無視するものである。これらの主張と明細書における発明の説明を適正に評価すれば、この文言はまさに地裁がいうとおり、「予め形作られた特定の大きさや形を持たない塊」を意味するものである。

  ・・・地裁の判断と異なる点は、そのように解釈された文言が明確であるかということである。詳細な説明を再検討し且つ審査経過を参酌すれば、「最初の同定不能な塊」という文言の意味は明確且つ明瞭である。したがって、地裁は文言を正しく解釈しているものの、その文言が不明瞭であると結論付けた点において間違っている。

〈判例入手先〉
http://pub.bna.com/ptcj/021107.htm

〈参考文献〉
BNA International Inc.
"Patent, Trademark & Copyright Journal"
'Description, Definiteness Requirements Met Even Absent Phrase in Specification '
(Page 12-13, Volume 65, Number 1595, November 1, 2002)



〈米国〉
クレーム用語の広い定義は、限定する意思の明確でない審査経過に基づいて限定解釈することはできない

 クレーム用語の広い定義は、審査経過が明確でないときは、限定解釈されない。
CAFCは、地裁の非侵害の略式判決を取り消し、実施可能要件についての拒絶に伴う審査官の見解と出願人の応答に基づいて地裁が"on"及び"onto"の通常の意味を不当に限定解釈したと認定した。CAFCは、特許権者が辞書の広い定義を排除するために限定する意図で問題の用語を使用したかどうかは明確でないと判断した。

分析装置
 ユニパース診断会社(Unipath Diagnostics Inc.)は、分析試験装置についての特許(5,622,871; 5,602,040; and 5,656,503)の承継人である。これらの特許に開示された発明の好ましい態様は妊娠検査装置であり、その装置の一部は試験対象尿と接触するよう配置されている。もし、女性が妊娠していれば、着色したラベルが妊娠した女性にみられるコリオニック・ゴンドトロピン・プロティン(hCG)と結合する。

  装置には二つの結合ゾーンがあり、最初の結合ゾーンは、hCGプロティンのみと結合する試薬を有し、第二のゾーンはそのプロティンが存在するかどうかにかかわらず装置が適切に作動していることを示す着色ラベルと結合する試薬を有している。

  ユニパースとその親会社インバーネス・メディカル(Inverness Medical Switzerland gmbh)は、ワーナー・ランバート(Warner Lambert Co., 現ファイザー(Pfizer, Inc.))を米国特許'871, '040及び '503特許を侵害するとして地裁に訴えた。

  ニュージャージー州地裁の判事キャサリン S. ハーデンは特許のクレームを解釈し、非侵害の略式判決を下した。ユニパースは控訴した。

クレーム構成 (Claim Construction)
 問題となっている他の複数のクレームの代表である'871特許のクレーム1には、該ラベルされた試薬(labeled reagent)は "該テスト ストリップ(test strip)上で乾燥している" と記載され、テスト ストリップの"onto a portion"でラベルされた試薬を乾燥することによって "ラベルされた試薬の流動性(mobility)は促進される(facilitated)" と記載されている。ユニパースは、地裁の略式判決はこれらの用語の誤った解釈に基づいてなされたと強く主張した。

  CAFCは、"・・・流動性は・・によって促進される"というフレーズ(phrase)の適切な解釈はこの判決と同日に下されたインバーネス・メディカル(Inverness Medical Switzerland gmbh)対 プリンストン・バイオメディテック 会社(Princeton Biomeditech Corp.)の判決(No. 01-1188, Fed. Cir. 10/31/02)の中でなされていることに初めて気がついた。ティモシーB.ダイク(Timothy B. Dyk)判事によれば、このフレーズの適切な解釈は、同じ解釈をここに適用することによって、"移動の能力(capacity)は、砂糖を含む材料によってより容易になる" となる。

  裁判所は次に、"ラベルされた試薬は、テスト ストリップ上で乾燥"というフレーズの中の"on"及び"該テスト ストリップの一部の上にラベルされた試薬を乾燥"というフレーズ中の"onto"を地裁が誤って解釈したというユニパースの主張について検討した。

  CAFCは、辞書の定義がクレーム用語の通常の意味の根拠になると認定した。CAFCは"on"及び"onto"には特別の意味はないことに同意し、次いで特許発行日現在におけるクレーム用語の辞書の定義を検討した。

  用語の通常の意味に2通りの選択肢があるとき、その用語は両方の選択肢を含むように解釈されると裁判所は説明した。しかしながら、その用語が両方の意味を有すると最終的に結論づける前に、明細書又は審査経過がそのうちの一つの意味だけを意図していたかどうかを決定しなければならないと裁判所は付け加えた。

  ユニパースは、このフレーズはラベルされた試薬のストリップ内の配置(disposition)を含むように広く解釈すべきであり、表面への配置に限定解釈すべきではないと主張した。一方、ワーナーは用語が表面配置に限定解釈されると主張し、その理由として明細書にラベルされた試薬はキャリアーの厚さ方向に含浸するよりも表面層としてのキャリアーに適用されるのが好ましいと記載されていることをあげている。

  CAFCは、ユニパースに同意した。ダイク判事は表面配置は好ましいが明細書にはその態様だけとは開示されていないことを指摘した。彼は、発明の好ましい態様に基づいてクレームを制限解釈するのは不適当であると付言した。

審査経過、審査官の拒絶理由
 ワーナーは、審査経過が"on"及び"onto"の限定された使用だけを示すことを指摘した。ワーナーによれば、審査官は"ここに記載のように可溶なグレージング(grazing)技術による表面層"だけがラベルされた試薬を移動可能にすると述べて、より広いクレームを拒絶したと指摘した。特許出願人はクレームを補正して対応した。それによって、出願人はグレージングの態様よりも広い解釈をクレームから除外(disclaim)したとワーナーは主張した。

  ダイク判事は、USPQ2d1109を引用しながら、"審査官のクレーム解釈に反対しないことは通常、広い解釈を除外することは明らかである、と述べている。しかしながら、ワーナーが引用した審査経過からの説明は審査官の拒絶からの議論ではないと彼は指摘している。

  審査官はまた、出願人に "キャピラリー運搬可能な従来の多孔テスト ストリップの中で移動可能/溶解可能な乾燥、粒状ラベル試薬を供給する多くの同等な前処理/適用技術が公知技術としてあるという証拠を提出する"ことを勧めた、とダイク判事は述べている。

  CAFCは、審査官の拒絶に続く補正がテスト ストリップを被覆する態様及びテスト ストリップの一部の上の試薬を乾燥させる態様という2つの特色のある態様をはっきりと示しているというユニパースの説明に同意した。ダイク判事は以下のように結論付けている。

  「 原告の審査経過の読み方だけがもっともらしいとは考えないが、権利者が表面及び内面への配置の両方を含むより広い辞書の定義を除外するような限定された意味の用語を使用したことは確信できない。それ自体あいまいである審査経過に基づいてクレームの用語の広い定義を限定解釈することは不適切である。」

  我々は、[Schwing gmbh v. Putziengesellschaft, No.01-1615(Fed.Cir.2002)(64PTCJ479,, 10/4/02)]で述べたように、"クレーム用語を解釈するのに審査経過は有用な材料であるありうるけれども、出願人が主題の用語の広い解釈を放棄したと競業者に信じさせるようなやり方をしないのであれば、クレームの範囲を限定解釈するのに審査経過を使用すべきではない。"

  CAFCは、クレームにおける "on" 及び "onto" の意味は、テスト ストリップの"on"又は"onto"のラベル化された試薬がテスト ストリップの表面層又は中の配置されるという意味であると結論付けた。

  クレームの構造に関しての地裁の略式判決は破棄され、ケースは地裁に差し戻された。

〈判例入手先〉
http://pub.bna.com/ptcj/011147.pdf

〈参考文献〉
BNA International Inc.
"Patent, Trademark & Copyright Journal"
'Broad Definition of Claim Term Is Not Limited by Ambiguous Prosecution History'
(Page 29-30, Volume 65, Number 1596, November 8, 2002)

以上