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諸外国の最新特許情報 国際活動委員会
(2003年2月)
〈米国/ペルー〉
植物「マカ」を原料とする生産物の特許に対するペルー農民たちの異議行動
リマ発:
ペルーの農業従事者グループは、USPTOがマカ(Maca)*を原料とする生産物に対して特許を付与するとした決定し対して異議を唱えている。(*)マカ:標高の高いアンデス地方の高原でのみ育成する、大根に似た根菜。
マカは1980年代に殆ど絶滅したが、予想もされていなかった理由(バイアグラ:Viagra)により、数年前に新たな日の目をみるようになった。
マカは、特定の地域では性的不全のための民間療法として何世紀にもわたって用いられてきたものであったが、バイアグラの大流行によって、20年前には僅か約50ヘクタール(123エーカー)しかなかった栽培面積が3,000ヘクタール(7,410エーカー)以上へと急激に拡大した。
地元の製薬会社は農業従事者に対してより多くのマカを栽培するように説得し、1990年代後半には「ナチュラル・バイアグラ(Natural Viagra)」と銘打って多数のマカ製品が製造されるようになった。米国に拠点を置く企業も市場参入し、「Maca
Magic」、「Maca Boost」、「Maca Mojo」、「Vimaca」など、明らかにマカとバイアグラとを関連づけるようなネーミングがなされた20以上の米国マカ製品が市場に出回るようになった。
しかしながら、ペルーの農業従事者からの情報によれば、ニュージャージーを拠点とするPure World Botanicals社の製品であるマカ抽出物に対してUSPTOが特許を与えた8月を境に、ペルー生産者と米国企業との関係が悪化しはじめたとされる。この製品は「MacaPure」とネーミングされ、性的能力を増進させるための自然産物として販売されている。また、これ以外にも3つのマカ関連特許が既に付与されており、さらに多くの特許が付与されようとしている状況にある。
ペルーの農業従事者たちがマカ特許に対して闘う一方で、バイアグラの開発者であるファイザー(Pfizer)がマカ製品製造のためにマカ特許を保護すべくペルー政府と火花を散らす、という皮肉な展開をみせている。
ペルー農民の法的行動:
ペルーの農民グループは、マカ特許は違法であるのみならず非倫理的であると主張している。ペルーの「地球にやさしい生活協会(Association for
Sustainable Livelihood)」の会長であるAlejandro Argumedo氏は「このような特許は、農業社会であり原住民の共同社会であるペルーのような国から、知恵と資源とを盗む窃盗行為を正当化しようとするもの以外の何物でもない」と主張している。
マカ栽培者の団体と一緒に闘っているArgumedo氏のグループは、バイオ侵害(Biopiracy)を構成するものであるとしてこの問題をWIPOに持込んだ。また、「知的財産権と消費者保護のためのペルー政府機関(Indecopi)」は、この特許調査のためのワーキンググループを結成した。Argumedo氏は、政府機関がマカ特許付与の決定に対して異議を唱える決定をなすであろうことを確信しており、「ペルー政府は、この闘いに関与すべきである。我々は、富める国の企業がペルーに進出し、そして我々の知恵と先祖伝来の産物に基づいて利潤を上げることを許すことはできない。我々が、そのような利潤の見返りとして得るものは何もない。」と話している。
特許付与の根拠は生産物ではなくプロセスにある:
「MacaPure」の発明者の一人であるQun Yi Zheng氏は、会社はマカについて3年間研究を継続し、その結果それまで誰もがなし得なかったことを成し遂げたのであり、マカ特許が全く正当なものであることが科学的に証明されると主張する。氏は、「「MacaPure」への特許付与は、綿密な科学的プロセスに対して特許が付与されたことを意味しているのであって、例えこのプロセスがマカを用いて実行されるものだとしても、マカそのものに特許が与えられたものではない。我々は、プロセスを開発し、その開発したプロセスを権利として保護しているのである。実に単純明快である。」とも述べている。
彼は、ペルーの農民たちがマカ市場から締出されてしまうとするArgumedo氏の主張に対しても異論を唱えており、「この特許は、ペルー農民がマカで商売をすることを禁止しようとするものではない。事実、我々の発見は、ペルーの農民だけが供給し得るマカの需要を大きく拡大することにつながるのである。」と主張している。
〈参考文献〉
BNA International Inc.
"World Intellectual Property Report"
'Farmers Object to Patents On Products Taken From Maca'
(Page 10-11, Volume 16, Number 12, December 2002)
〈カナダ〉
カナダ最高裁ハーバード発ガン遺伝子マウスの特許性を5対4で否定
ハーバード大学の遺伝子移植に係る高等生物(higher life form)の"発ガン遺伝子マウス"は、発明として法的に規定されている製造物(manufacture)又は合成物(composition
of matter)のいずれでもないことから、カナダ特許法のもとで特許性は否定されるとカナダ最高裁は判決した。5対4の多数決により、カナダ最高裁は、ハーバード大学の研究用に開発された遺伝子的に変形されたガンにかかり易いマウス(cancer-prone
mouse)に特許を与えることを特許庁長官に命じた控訴裁判所の判決を否定した。また、同裁判所は、下等生物(lower life form)が特許性を有することは高等生物が特許性を有することを意味するものでないと説明し、下等生物は高等生物よりも容易に合成物又は製造物として具体化され得るものであると述べている。一方、Ian
Binnie裁判官(少数意見)は、反対意見の中で、発ガン遺伝子マウスは特許に値する相当な科学的成果物であると反論している。
判決は、1985年6月のハーバード大学のガンにかかり易いマウスを作る方法及び遺伝子的に変更された動物自体に特許を求める特許出願から始まった17年の法律論争に終止符を打った。ガンにかかり易いマウスは、既に米国(米国特許第4,736,866号)、欧州連合諸国で特許の対象とされている。ニュージーランドは、HIVに感染し易いように遺伝子的に変更された遺伝子移植マウスに既に特許を付与した。
このような世界的な状況のもと、カナダ特許庁審査官は、1993年に出願された生産物のクレームを拒絶したが、方法クレームは許可した。その審査結果は、特許庁長官の再審理及び審判のヒアリングの後、特許庁長官により支持された。ハーバード大学による裁判所再審部への上訴は拒絶されたが、裁判所控訴部への更なる上訴は、2対1の決定で許可された。特許庁長官は、その判決に不服申立てを行っていた。
Bastarache判事(多数意見)は、特許法の明示の規定を無視して公共政策の立場から特許を拒絶する権限を特許庁長官は有する、との考えを否定する一方、ある種の発明が道徳的・倫理的又は政策的な理由を根拠に特許性を排除されてきたがそれらは特許法の明示の規定に照らして正当なものであったことを確認した。更に同判事は、国会が発ガン遺伝子マウスを生じた生物学医療研究を奨励したいと欲していることも事実であるが、同時に国会が高等生物に特許を付与することを奨励するのに慎重でありたいと欲している事情もあることを認めた。
最高裁の判決は、カナダにおけるバイオ技術の研究開発に重大なマイナス効果を及ぼすであろうと、12月5日、カナダのバイオ技術研究者を代表する協会は、警告した。特に判決は、バイオ技術、特に農業、糖尿病及びガンのワクチン、並びに盲目の治療の分野において、カナダが行ってきた指導的役割を終わらせるであろうと、BIOTEC
Canada代表のJanet Lambertが述べた。
しかしながら、最高裁の判決は、発ガン遺伝子マウスの特許性に反対する政府の戦いを支持してきた環境グループ及び宗教グループから称賛された。判決は、大きな法的及び倫理的勝利であり、最高裁判所は、研究及び商業的利益が倫理の前に置かれてきた他国の政策の潮流に反対していく勇気を示したと、Sierra法律防衛基金顧問のJerry
DeMarcoが述べた。
Ian Binnie裁判官(少数意見)は、自然界に存在する改造物でない動物体内の各単一細胞を改造する科学的成果は、特許法第2条にいう1つの発明"合成物"であると主張した。Binnie裁判官は、多数意見が引用した国会での論議に関して、発明の定義を法定化した1869年の時点で国会は発ガン遺伝子マウスの出願を予想していなかったが、同時に、月ロケット・抗生物質・電話・電子メール・可搬式コンピュータも予想していなかったと述べ、国会が法律の制定を選択するまで高等生物に特許付与しないことを宣言する権限は特許庁のみならず裁判所も有しない、と意見を述べている。
〈参考文献〉
BNA International Inc.
"Patent, Trademark & Copyright Journal"
'Canada Supreme Court Rejects 5-4 Patentability of Harvard 'Oncomouse''
(Page 138-139, Volume 65, Number 1601, December 13, 2002)
〈スペイン〉
ピカソの名前を含む商標は相続人にのみ属するものでない
スペイン最高裁判所の係争管理部は、Ann-Paloma Ruiz-Picassoの弁護士によって申し立てられたROUGE PICASSOの文字を含む商標の破棄請求について決定した(2002年10月4日)。
事件の概要
高名なPablo Picassoの娘は、3つの商品区分(香水及び化粧品/エッセンシャルオイル・ヘアートリートメント・ケアプロダクト/バスソープ・ソルトアンドローション、スキンプロダクト)について、国際的な登録商標「Paloma
Picasso」を所有している。事件は、PICASSO. S.A. 社がROUGE PICASSOの文字と赤色のシルエットカラーデバイスを含む複合的な商標の出願を、3つの商品(洗濯用漂白剤/クリーニング・ポリッシング・スカーリング・研磨用の製品/エッセンシャルオイル・化粧品・ヘアーローション・歯磨製品)関して行ったことに端を発したものである。この出願が提出されたとき、Rouge
Picassoの商標所有者の一人は、商品の区分3に関してPICASSOの登録商標を有するJaime Picasso Marsalから正当な権限を得ていた。
判決
最高裁判所は、事件当事者が自己の苗字を商標として登録出願した場合、その共通する苗字が他の特徴(ただし、識別力を有し且つ第三者の権利を減縮するものでない場合に限る。)を伴っていることを条件として、そのような苗字を含む標章は両方とも登録されると判決の中で述べ、Picassoの苗字はAnne-Paloma
Ruiz-Picassoに独占的に所属するものなく、同一の苗字を有する者は識別力を有する他の特徴と共にその商品に当該苗字を用いることができると判示した。また、最高裁判所は、Paloma
Picassoの周知性に関する証拠が一切提出されなかったことを別の理由として掲げている。いずれにしても、裁判所は、Picassoの名は周知かもしれないが、混同しない以上、それを含む別々の商標が共存することに何ら問題はないと判断した。
〈参考文献〉
BNA International Inc.
"World Intellectual Property Report"
'Picasso Trademark Does Not Belong Exclusively to Artist's Heirs'
(Page 11-12, Volume 16, Number 12, December 2002)
以上