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〈米国〉
CAFC判決:データネットワークのクレイムの瑕疵ある解釈が非侵害の誤判定を招来した
〈概要〉
CAFCは、データ通信ネットワークに関する特許における“ポリシー識別情報のキャッシング”のクレイム文言についての地裁による過度に狭い解釈(2種類の情報のキャッシングを必須とするとの解釈)が、唯一つのキャッシュのシステムは特許を侵害しない、との誤判定を誘導した、と判示した(2003年5月13日、Storage Technology Corp. v. Cisco Systems Inc., Fed. Cir., No. 02-1232, 5/13/03)。
控訴裁判所は、その特許について非侵害であるとする簡易判決を取り消し、地裁が、クレイム解釈の基礎を前文の文言と審査経過における出願人による誤った宣言に置いたこと、及びクレイムに不明瞭な点がないにも拘らず本質的でない証拠に不適切に従ったことを指摘した。しかし、第2の特許のクレイムについては、その特許についての非侵害であるとの簡易判決を維持した。
手続きの経緯
Storage Technology Corp.(Storage Tek)は、Cisco Systems Inc.(SSL)を、CiscoのNetFlow Feature Acceleration技術及びMulti-Protocol Label Switching(MPLS)技術が、データ通信ネットワークに関するStorage Tekの2つの米国特許(第5,842,040号及び第5,566,170号)を侵害すると主張して訴えた。カリフォルニア州北部の米国地方裁判所のSusan Illston判事は、クレイム解釈の結果、Ciscoの主張を認め、2つの特許についての非侵害の簡易判決を言い渡した。これに対し、Storage Tekは控訴した。
'040特許のクレイム
分離された“パケット”又はプロトコル・データ・ユニット(PDUs)内でネットワークを介して流れるデータを扱う複数のネットワーク装置からなる最新データ通信ネットワーク。ネットワーク装置は、システム管理部により設定された“ネットワーク・ポリシー”のセットに基づいて、各通過するパケットを次にどこに送るかを決定する。
Storage Tekの'040特許は、高速パケットデータネットワークにおけるネットワーク・ポリシーの効果的な実行に関する。発明は、主メモリからコピーされる確定ネットワーク・ポリシー情報を記憶するキャッシュメモリを含む。この発明に含まれるネットワーク・プロセッサは、パケットの到着を調べ、主メモリ内のネットワーク・ポリシーのどれをそのパケットに適用するかを決定する。ポリシー識別情報が、適用されるネットワーク・ポリシーのインスタンスであると識別した場合には、そのポリシー識別情報は、識別キャッシュにコピーされる。第2のキャッシュは、ネットワーク・ポリシーのインスタンス自体のコピーを記憶する。
'040特許のクレイム1は、“ポリシー識別情報”をキャッシングするステップを含んでいる。地裁は、Ciscoのネットフロー技術が唯1つのキャッシュを有し、それ故に対象クレイムを侵害しないと判断し、クレイムには、ポリシー情報及びポリシー自体のための分離されたキャッシュが必須であると解釈した。
Storage Tekは、地裁が、ポリシー識別情報のキャッシングのみならず、ネットワーク・ポリシーのインスタンスのキャッシングをも必須であるとクレイムの文言を解釈したのは誤りであると争った。これに対しCiscoは、開示内容及び審査経緯からすると、発明は、キャッシュされたポリシーのインスタンスを検索するために、キャッシュされたポリシー識別情報を利用するものであり、従ってクレイムは、キャッシュされたポリシーのインスタンスが必須の要件であると解釈されるべきである、と反論した。
連邦裁判所は、Storage Tekの側に立ち、クレイム1についての地裁の解釈は過度に狭すぎたと判示した。まず、S. Jay Plager上級判事は、クレイムの文言からは、キャッシュされるものとして識別情報だけが要求されており、ネットワーク・ポリシーのインスタンスまでは要求されていないことが明白であると判示した。
控訴裁判所は、'040特許の独立クレイムの前文における“ポリシー・キャッシング方法”又は“ポリシー・キャッシュ”というフレーズの存在にクレイム解釈の基礎を置いた地裁判決を取り消した。'040特許における、ポリシーのインスタンスのキャッシュが必須とされるどのクレイムも、クレイム本体に明白に“ポリシーのインスタンスのキャッシュ”の限定が含まれている。Plager判事は、次のように述べた。
「このように、前文の用語“ポリシー・キャッシング方法”又は“ポリシー・キャッシュ”は、クレイムの範囲を限定するものではなく、クレイムの本体において明らかにされた発明の対象を単に明らかにするものであり、クレイムは、ポリシー識別情報のキャッシング、ポリシーのインスタンスのキャッシング又はその両方を含むクレイムの特徴部分の限定に従う。クレイム1は、ポリシー識別情報をキャッシュするステップのみを含む。それゆえ、地裁が前文の文言を基礎にクレイム1の範囲を更に限定したのは誤りであった。」
控訴裁判所は、また、明細書、審査経緯、及びネットワーク・ポリシーのインスタンスのキャッシュを必須とするとクレイム1を解釈したCiscoの鑑定証人による宣誓書に対する地裁の判断を採用しなかった。その中で、Plager判事は、クレイム中に追加的な制限を読み込む場合には、既に確立されているルールがあるが、地裁はこれを無視したと非難した。Ciscoは、クレイム1では、ネットワーク・ポリシーのインスタンスのキャッシュが必須であるという理論を支持するため、'040特許の図1は、“キャッシュド・インスタンス・クラシフィケーション”キャッシュと“キャッシュド・インスタンス・ポリシー”キャッシュの2つのキャッシュが開示されていると主張したが、判事はこれを退けた。裁判所は、クレイムには、キャッシュされるネットワーク・ポリシーのインスタンスを必須とする明確な言葉が欠如していることを、図2にはそのようなステップが存在しないことと共に指摘し、明細書は、ネットワーク・ポリシーのインスタンスをキャッシュするステップを必須とするようにクレイムを解釈するための基礎を提供していないと判示した。
クレイム1の意味を狭める出願人による審査経過上の主張を信頼したとCiscoが正当化したことも、また、控訴裁判所は退けた。Plager判事は、ネットワーク・ポリシーのインスタンスのキャッシングに言及するクレイムの文言が存在しないことは、クレイムの解釈に反映される。出願人の誤った宣言だけでは、クレイムの文言を無効にする事はできない、と判示した。
最後に、控訴裁判所は、クレイム1の解釈を支持するCiscoの専門家による宣誓書形式による本質的でない証拠を信頼した地裁に異議を唱えた。本質的でない証拠に頼る事は、本質的な記録を調べた後で、なお曖昧な点が残っている時にのみ適切とされる、とPlager判事は強調した。
控訴裁判所は、クレイム1及び18における“プロトコル・データ・ユニット(PDU)・ネットワーク・ポリシー”の地裁での解釈についての同様の問題を発見した。従って、控訴裁判所は、非侵害の簡易判決を退け、'040特許に関して、事件を下級裁判所に差し戻した。
'170特許の解釈は支持される
'170特許は、“プロトコル・データ・ユニット送信装置”によるパケットの送信に関する。'170特許の発明は、ネットワーク送信装置に“プリプロセッサ”を加え、プリプロセッサは、パケットヘッダにパケットの送信促進のために“次オペレーション情報”を加え、それにより処理時間の短縮とネットワーク送信装置の“スルーアウト”を向上させる。
この特許に関して地裁は、CiscoのMPLS技術による侵害はあり得ないと判定した。何故なら、その装置では、一つのネットワーク装置は、パケットにラベルを付け、第2のネットワーク装置は、そのラベルに基づいてパケットを送信するからである。それ故、裁判所によれば、MPLS装置は、クレイムで必須されるような“次オペレーション情報”を付加しない。
Strage Tekは、地裁はクレイムを確定する'170特許の前文における“送信装置”の字句の解釈を誤ったと争った。
しかし、連邦裁判所を説き伏せることはできなかった。発明のキーとなる利益は、送信装置での次オペレーション情報の使用が送信装置による実行とは別に処理を減少させる点にあると明細書では強調している、とPlager判事は判断した。何故なら、明細書は、プリプロセッサ及び送信プロセッサが単一の送信装置の一部であると明示しており、クレイム17及び23の前文における“送信装置”の字句により、クレイムの範囲は、両プロセッサが1つの送信装置内に含まれなければならないと限定される、と判事は説明した。
控訴裁判所は、審査経過の中に、そのようなクレイム解釈のサポートを発見した。
'170特許に関する地裁のクレイム解釈の判断を維持することで、連邦裁判所は、CiscoのMPLS技術における申立の“次オペレーション情報”が一つのネットワーク装置によって付加され、第二の下流ネットワーク装置によって使用されると続けて言及した。控訴裁判所は、従って、Ciscoは'170特許を文言侵害していないとする下級審の簡易判決を維持した。
審査経緯の引用により、裁判所は、また、'170特許についての均等論に基づく非侵害の簡易判決も支持した。審理の間、Plager判事は、出願人は、プリプロセッサにより付加される次オペレーション情報は、送信装置におけるプロセッサの処理時間を減少させるために用いられる、と明確に述べていると、説明した。「Storage Tekは、両プロセッサを含む送信装置の存在は不要であり、どの情報ネットワークも送信装置と等価である、と主張することはもはやできないであろう」と判事は強調した。
〈概要〉
一定の温度範囲で遂行される「成長」ステップを有するクレームされた大腸菌細胞の製造方法は、開示されたステップの前に、その温度範囲から外れる温度で細胞をインキュベートし、成長させることを排除しないと、5月7日に連邦巡回裁判所での控訴裁判で判決された。
連邦巡回裁判所は、地方裁判所による特許の「成長」ステップの解釈を拒絶し、非侵害の略式判決を無効にして、特許権者に同意し、プリアンブルの用語「comprising」は幅広い解釈ができる(open-ended)ものであり、したがって、より高温での初期の成長を認めた。しかしながら、連邦巡回裁判所は、クレームの用語「improved competence(改良された適性)」は、クレームの範囲を限定するものではなく、特定の数的限定を要求するものではないという下級裁判所の解釈を支持した。
告訴された侵害者に対する判決
タンパク質を製造するために、特別の遺伝子を含むDNA分子をバクテリア大腸菌の中に導入すると、その大腸菌は、DNA分子とその遺伝子の多数のコピーを複製するための工場として働くことになる。
Invitrogen Corp.は、「改良された適性」で、たとえば外から侵入したDNAを受入れる能力を促進して、遺伝子変化を起こさせることができる大腸菌細胞を製造するプロセスに関して、特許(4,981,797)を保有している。
Invitrogen Corp.は、797特許の一定のクレームを侵害しているとして、Biocrest Manufacururing L.P.とStratagene Holding Corp.とStratagene Inc.(以下総称してStratagene)を告訴した。
クレームの解釈のためのマークマンヒアリングの後、テキサス州の西部地方の地方裁判所は、Stratageneの行為に略式の非侵害の判決を出した。Invitorogenは上訴した。
「成長」ステップ:温度は幅広い解釈ができる(open-ended)
797特許のクレーム1は、以下のように示されている。(強調が加えてある)
1. 遺伝子変化を起こさせることができる改良された適性(improved competence)の大腸菌細胞の製造方法は、以下のステップより構成される。
(a) E.coli細胞を、18℃〜32℃の温度で、成長誘導性のある培地中で成長させ、
(b) 前記E.coli細胞に適性を与え、
(c) その細胞を凍結する。
地方裁判所は、「成長」ステップについて、「成長は、18℃〜32℃の間(18と32も含めて)の温度で遂行されるものでなければならず、凍結の前に、細胞の温度が32℃を越えるときはあり得ないものである」と解釈した。
(これに対して)連邦巡回裁判所は、地方裁判所のクレーム解釈を誤りとした。クレーム1はクレームに開示されたステップの前に18℃〜32℃の範囲を外れた温度での成長を認めるものであるとRader判事は主張し、クレームの語を指摘した。
方法クレームの中の移行句である「comprising」は、クレームがopen-endedであることを示し、追加のステップを認めるものであるとRader判事は続けた。列挙されたステップを導入するためにcomprisingという語を使うことによって、クレーム1は、特許の実施者に、そのクレームは、種々の活動、列挙されたステップ以前のE. coli成長をさせる活動さえも認めることを知らせている、とRader判事は説明した。そのようなクレームから外れた活動は、もちろん、クレーム1に列挙された温度範囲により限定されるものではないと彼は述べた。
審査経過は、先行するステップの否認を欠いている
連邦巡回裁判所によると、クレームされた温度範囲でのE. coli細胞を成長さるステップに先立つステップについての明白で曖昧でない否認も審査手続は示していない。
Rader判事は、出願人がクレームを「37℃以下で18℃〜32℃」に置換えるために補正したことを認めた。
しかしながら、32℃以上の先駆となる成長を伴うすべての細胞を排除するよりも、むしろ、出願人は単に、続くステップ(b)で細胞を適正にするため、要求された範囲内で基本となる細胞を成長させる条件を明記したに過ぎないとRader判事は強調した。
審査経過を正確に読むことだけでなく、その特有の化学的背景の中でのクレームの語の検討によると、ステップ(a)は、ステップ(b)に直接先立つ成長のみを含んでいることを示している。
クレームが明記しているように、この成長は、18℃〜32℃の範囲内に入らなければならない。E.coli細胞をステップ(a)で18℃〜32℃で成長させることは、ステップ(b)で適正にされる多数の細胞を産出する。
したがって、クレームの範囲は、クレーム(a)の範囲から外れる温度でのE. coliの成長も含めて、ステップ(a)に先行する準備段階のステップを排除するものではない。
改良された適性:プリアンブルによる限定
Invitorogenはまた、プリアンブルの用語「improved competence」は、意図した効果を単に述べたに過ぎないから、地方裁判所によってクレームを限定するものとして解釈されるべきでないと主張した。Stratageneは、裁判所はその語を限定するものとして正確に解釈する一方、その後少なくとも10倍の適性の増加を要求し、繰返しの凍結と解凍は適性を減少させないことを要求するように解釈すべきだと反論した。
プリアンブルの限定効果に対するInvitorogenの議論に関して、Rader判事は、地方裁判所は、出願人は「improved competence」という語を、クレームを先行技術から区別するために加えたものであり、したがって、クレームの限定を否定することはできないと正確に論じている点に注目した。
(しかしながら、一方で)連邦巡回裁判所は、「improved competence」との限定は、固有の数的限定を要求し、かつ、繰返しの凍結と解凍により減少されないというStratageneの主張に対して、如何なる証拠も見出せなかった。
クレームの語それ自身は、固有の数的限定を含まないとRader判事は見て、明細書も審査経過もいずれもそのような限界を提供していないと付け加えた。
要約すると、上訴裁判所は、地方裁判所は成長ステップ(a)の解釈に関して誤りを犯し、誤ったクレーム解釈に基づいて、Stratageneは、797特許を侵害していないという略式判決を誤って出したものであると判断した。その判決は無効にされ、事件は差戻された。
出典
BNA International Inc. “Patent, Trademark & Copyright Journal”, ‘Claimed Temperature Range Did Not Preclude Higher Temperatures Before Claimed Method’, Page 70-71, Volume 66, Number 1622, May 16, 2003
(本ダイジェストは、著作権者の許諾の下、原論文の要約を掲載するものです。)
類似クレームへの拒絶の非開示は特許を無効にする可能性がある
〈概要〉
5月23日に行われた連邦巡回裁判所によると(Dayco Products Inc. v. Total Containment Inc. Fed. Cir., No. 02-1497, 5/23/03)、異なる審査官に対して、主張している特許クレームと本質的に類似の同時係属出願におけるクレームへの拒絶の開示を怠ると、強制力を持たない特許を生み出す不衡平行為が認定される。
連邦巡回裁判所は、類似のクレームを調査するもう一人の審査官による相反する決定がAkron Polymer Container Corp.対Exxel Container Inc.の重要性判断基準テストおよび規則56の要件を満たすと裁決するが、地方裁判所の不施行および無効の略式判決を無効にした。これは、地方裁判所が詐欺的意図を検討していなかったためである。
事件の背景
Daycoは、ホースおよび連結アセンブリに関する特許を5つ(5,129,686; 5,199,752; 5,297,822; 5,380,050; 5,486,023)所有しており、それらは地下ガス封じ込めシステムを使用する点において互いに関連している。Daycoは、特許権を侵害しているとしてTotal Containment Inc.(TCI)を訴え、TCIは特許権は無効であり、これは不衡平行為だとし、また、特許侵害は存在しないとして反訴した。これに対して、ミズーリ州西部米国地方裁判所の上級裁判官Scott O. Wright氏は、TCIに対して特許侵害は存在しないという略式の判決を下した。だが、連邦裁判所は’686特許に関しては、この判決を支持し、他の特許に関しては判決を取り消し、案件を下級裁判所に差し戻した。これは、請求された連結アセンブリの様々な要素に対する地方裁判所の主張の構成に過失が発見されたからである(258 F.3d 1317, 59 USPQ2d 1489)。
係争中の特許は、1989年9月15日提出の出願(’161出願)に対する一連の継続出願を通じて優先権を主張し、特許(5,037,143)として発行された。Daycoは、既に破棄になった当初の優先権1992年12月18日を有する類似技術に直接係る上述した出願とは異なるファミリー出願(196出願)の譲受人でもある。
‘196のファミリー出願および係争中の特許の基となる出願が、二人の異なる審査官、NicholsonとArola、それぞれの審査に委ねられた。Nicholsonは、係争中の特許の基となる出願であることを認識していたがが、Arolaは196ファミリー出願のクレームが、係争中の特許のクレームと同一であり、Wilson特許を超えて特許性がないとして拒絶されていた事を知らなかった。
差し戻し請求に対して地方裁判所は、Daycoが意図的に196出願に関する重要な先行技術および情報を、即ち、Wilson特許の開示およびWilsonに基づいた本質的に類似の196クレームへの拒絶の開示を、怠ったという不衡平行為を犯したと主張するTCIの見解に同意した。それに対し、Daycoは上訴した。
’196出願は、“判断に影響を及ぼす重要な情報”であった
地方裁判所は、同一の代理人が出願と係争中の特許との両方に従事したが、審査官Arolaへ196出願の開示をしそこなっていると示し、196出願係属において一部強制力を失う判決を審査官Nicholsonに下した。
連邦裁判所判事Timothy Dykは、類似の主題だが特許性がある明瞭なクレームが存在する係属中の異なる出願を有する発明者は、審査官に対してその各出願を開示しなければならないと示した。(自明型の二重特許という司法的に制定された原理In re Lonardo, 119 F.3d 960,43 USPQ2d 1262(Fed. Cir. 1997)(54 PTCJ 215, 7/17/97))
‘196出願と関連した特許のその特許期間の一部を放棄することにより、Daycoは196出願の係属に関する情報が、判事Dykが関連付けたように、不衡平行為発見の根拠にはならないと主張したが、それに対し判事は以下のように詳述した。
係争中の特許の特許期間は、196ファミリーにおける出願を考慮して、ターミナルディスクレーマーを提出することにより更なる短縮ができなかった(係争中の特許の期間が初期の143特許の期間に限定されていたので)と示すDaycoの主張が正しい一方で、特許期間の短縮は、ターミナルディスクレーマーにより二重特許の拒絶を克服するただ1つの結果ではない。ターミナルディスクレーマーを使用して二重特許の拒絶を克服するために、出願人は、“出願に付与される如何なる特許の規定は、一般に出願もしくは拒絶の根拠を形成した特許に従った前述特許が有するその期間の間のみ、実施するべきである”とディスクレーマーの中に書き記さなければならない。したがって、Arolaへの196出願の開示は、係争中の特許として発行された出願の二重特許の拒絶を導くことになるだろう、また、係争中の特許が196ファミリーから発行した特許に“一般に所有されていた”限り、係争中の特許を要求するディクレーマーは実施可能であった。審査官Arolaへの196出願の開示を怠った為に、196ファミリーに関して一般所有者制限に対応していない特許を特許権者は受領した。したがって、196出願の係属は判断に影響を及ぼす重要な情報であった。
詐欺的意図が見られない
上訴裁判所は、196出願が不衡平行為の認定に必要な重要性の判断基準レベルを満たしている一方で、TCIには詐欺的意図を示す判断基準が認定できない、したがって、詐欺的意図の判断基準の要求を満たす196出願の存在を審査官Arolaへ通知し損なったという地方裁判所の略式判決には根拠がないと結論を下した。
Wilson特許
地方裁判所は、Daycoが、その代理人が判決に影響を及ぼす重要な情報であるWilson特許を認識していたにも係わらず、意図的にWilson特許を審査官に提出しなかった点が詐欺的意図の認定に値すると示した。だが連邦裁判所は、この地方裁判所の略式の判決に対して「審査官が重要な情報となるWilson引例を見出したという単なる事実は有益ではあるが、事件の方向性を決定付けるものではない。」と示した。
また、不衡平行為の認定に関して、上訴裁判所は、不衡平行為とは故意に差し控えたことではなく、詐欺的意図をさすと強調し、引例を差し控えたという決定からは、単純には、推断できないと付け加えた。したがって、Wilson引例を提出しなかったことが不衡平行為を立証できるような根拠にはならないと示した。
無効、許可されないクレームの分類
連邦裁判所判事Dykは、係争中の特許を先行する引例は存在しなかったと示唆する専門家の証言を考慮することを地方裁判所が拒否していたので、この地方裁判所が下した無効の略式判決を保留する判決を下した。
上訴裁判所は、また、地方裁判所が個々の論拠に基づいたクレームの正当性の言及を行わなかったことは間違いであったと示し、その正当性の略式判決の付与を保留にした。
したがって、判決は無効になり、本件は、侵害問題の審理のため地方裁判所に差し戻された。また、地方裁判所に、重要な新規の証拠が先行する発明の問題もしくは不衡平行為に関する他の問題に対して審理を必要とするかどうか決定するよう命令した。
出典
BNA International Inc. “Patent, Trademark & Copyright Journal”, ‘Nondisclosure of Similar Claims’ Refection May Void Patents’, Page 142-143, Volume 66, Number 1624, May 30, 2003
(本ダイジェストは、著作権者の許諾の下、原論文の要約を掲載するものです。)
以上
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