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国際活動センターからのお知らせ (2003年10月)

〈米国〉

CAFC判決:誤差範囲を示すために数値に‘About(約)’を付けたクレームは不明瞭でない

〈概要〉
 粘性値が“about 0.06(約0.06)”である液体を注入して地下のオイル井及びガス井を粉砕する方法を開示した特許は、当業者であれば“about”は測定において生じる実験誤差の範囲を包含するために用いられたと理解できるため、米国特許法第112条第2パラグラフの規定により不明瞭であるとして無効になるものではない、とCAFC(連邦巡回区控訴裁判所)は判決を下した(BJ Services Co. v. Halliburton Energy Services Inc., Fed. Cir., No. 02-1496, 8/6/03)。

 また、原判決における$98.1 million という陪審の損害額を支持し、同裁判所は、実験結果が全て上記の数値よりも僅かに上又は下であったという原告の証拠を考慮した上で、当業者であれば明細書を参照してクレームの意味を理解できるものと認定した。更に、同裁判所は、方法クレームのポリマーの“C*”濃度を測定する方法の知見が当業者にはあるという証拠が存在したため、実施可能要件の欠如を理由に特許無効と判断することを拒絶した。

BJ Service Company  :原告−被控訴人、特許権者(USP 6,017,855)
Halliburton Energy Services Inc.  :被告−控訴人

オイル井、ガス井の粉砕方法
 BJ Service Companyは、オイル井及びガス井を刺激するために地下層を粉砕する方法に関する特許(USP 6,017,855)を所有している。この発明は、地下層を粉砕するのに十分な高圧力で粘性のある液体を孔の中に注入する工程を含むものである。

 BJは、HalliburtonのPhoenix systemが ’855特許を侵害したと主張し、特許権侵害としてHalliburtonを訴えた。陪審は、特許は有効であって侵害が生じており、BJに$98.1 millionの損害賠償金を与えるとの評決を下した。Texas Southern地裁のSim Lake判事は、Halliburtonによる、法律問題としての判断の求め及び新しい公判の申立を否定した。その後、Halliburtonは控訴した。

実施可能要件の欠如
 CAFCは、特許は無効でないとした陪審の結論を重要な証拠が支持するか否かを決定する、という方針を定めた。
’855 特許のクレーム17には、次のような記述がある。

 “blending together an aqueous fluid and a hydratable polymer to form a base fluid, wherein the hydratable polymer is a guar polymer having carboxymethly substituents and a C* value of about 0.06 percent by weight; adding a crosslinking agent to the base fluid to form a gel; … ”

 C*の濃度に関しては、明細書中で“それはポリマー鎖の重なりを起こすのに必要な濃度である。架橋したゲルを効果的に得るのに好適なポリマー鎖の重なりは、ポリマー濃度がC*濃度を超えた際に起こると考えられている。”と記述されていた。

 Halliburtonは、まず、’855特許はC*濃度の測定方法及び測定条件を開示していないため、米国特許法第112条第1パラグラフの実施可能要件を満たさないことになり無効であると主張した。

 この無効の主張にCAFCは同意しなかった。Mayer裁判長は、「本件特許は実験条件について述べていないが、BJは、当業者がC*濃度の測定方法に関する知見があることを示すために、発明者の証言、専門書の抜粋等を提出した。」と述べた。更に、「Halliburtonは、C*濃度は選択された条件に応じて変化するということを単に述べたにすぎず、測定条件について立証する専門家も連れてこなかった。」とCAFCは強調した。

 また、CAFCは、“about 0.06”に対する定義が特許中に存在しない点についても、実施可能要件を満たさないとする判定はしなかった。Mayer裁判長は、「C*濃度の測定器を所持する当業者が、得られた結果が“about 0.06”であったか否かを知り得たか」という問題は、実施可能要件の問題ではなく、明瞭性の問題であると強調した。

誤差範囲は当業者にとって不明瞭でない
 “about 0.06”という用語が、同法第112条第2パラグラフに基づき不明瞭であるとして特許を無効にするか否かについて、CAFCは、程度を示す用語はしばしば問題を生じることを指摘した。しかしながら、Mayer裁判長は判例(Seattle Box Co. v. Indus. Crating & Packing Inc., 731 F.2d 818, 221 USPQ 568 (Fed. Cir. 1984))を引用し、クレーム中の用語が正確でないからといって自動的にそのクレームが無効になるわけではないと述べた。CAFCは、当業者が明細書を参酌してクレームの意味を理解できるか否かに着眼することにした。

 CAFCは、BJの主張に納得した。その主張は、“about”を付けたのはどのような測定においても生じる実験誤差の範囲を包含するためであり、当業者であれば “about 0.06”が包含しようとする範囲を容易に理解できる、というものである。

Mayer裁判長は、最後に概略次のようにまとめた。
 ――― 専門家により得られた実験結果は、平均が0.0569であり、全て0.06の僅かに上か下であった。この証拠に対して、Halliburtonは、ランダムで都合良く従来技術と同程度になった専門家の実験結果を提出した。しかし、BJは、Halliburtonがソフトウェアを改変する等して測定機器を不法に改良したり、テスト結果を不当に混ぜ合わせたりした事実を示す証拠を提出した。更に加えて、BJは、Halliburton側の生データを不法改良なしに分析すると、その結果はBJ側の専門家による値とほぼ同値であることを述べた。これらの事実は、Halliburton側の信用面に影響を与えた。’855特許は不明瞭性及び実施可能用件の欠如によって無効になるものではないとした陪審評決は、証拠に基づいて支持される。

  また、Mayer裁判長は、陪審評決は証拠の重要な点に反するものではないため、Halliburtonによる新しい公判の求めを否定したことは、自由裁量の乱用ではないと述べた。
以上のようにして、地方裁判所の判決は支持された。

文責 阿部豊隆

出典
BNA International Inc., "Patent, Trademark & Copyright Journal", ‘Claim Using ‘About’ With Numerical Figure to Show Range of Error Is Not Indefinite’, Page 451-452, Volume 66, Number 1634, August 15, 2003
(本ダイジェストは、著作権者の許諾の下、原論文の要約を掲載するものです



〈米国〉

CAFC判決:ツーウエイテストは、 同一の特許され得る発明がクレームされているか否かを決定するために適用される

〈概要〉
 ツーウエイテスト(Two-Way Test)は、競合する当事者が同一の特許され得る発明をクレームしているか否かを決定するために、37 C.F.R. 1.601(n)により適用されねばならないと、CAFCは判決した。事実上のインターフェアレンス(抵触)は、特許権者と再発行特許出願人の間には存在しないというPTO(米国特許庁、控訴抵触審判部)の決定を肯定し、PTOがツーウエイテストを適用し、対応するクレームは同一の特許され得る発明を定義しないと結論したことは誤まりでないと、CAFCは判決した。

インターフェアレンスの却下
 ワシントン大学(University of Washington)はDNA配列に関する特許第5,302,529号を所有する。リリー社(Eli Lilly & Co.)は自身の特許第4775624号を放棄して再発行特許出願第09/185,633号を行い、PTOに対して'529特許と'633出願との間にインターフェアレンスを請求した。ワシントン大学は、当事者のDNA分子は異なる配列即ち化学構造を有することを説明し、事実上のインターフェアレンスはないとの簡易判決を求める反論書を提出した。PTOは、反論書に同意しインターフェアレンスを却下した。

 リリー社は、'529特許のクレーム1をインターフェアレンスにおける唯一の抵触する主題(count)に相当するものとして指定することによってインターフェアレンス主題事項を再定義する弁駁書を提出した。PTOは、37 C.F.R. 1.601(n)に基きツーウエイテストを適用し、'529特許のクレーム1が属(genus)として解釈される場合も種(species)として解釈され場合も、対応する'633出願のクレームは、'529特許のクレーム1のような「同一の特許され得る発明(same patentable invention)」を定義せず、そして対応するクレームの間に事実上のインターフェアレンスはないとした。リリー社は提訴した。

ツーウエイテストは適切に適用された
 米国特許法第135条は、インターフェアレンス手続きを規定しており、2つの出願(又は出願と発行済み特許)が同一の「特許され得る発明」を記述するかどうかを決定し、同一である場合、競合する当事者のどちらが重複する主題事項を最初に発明したかを決定することを意図する。本件の問題点は、「同一の特許され得る発明」を両当事者がクレームするかどうかを決定するためのツーウエイテストが、仮の先行当事者の種クレームが仮の後行当事者の属クレームを予期するとされる場合に、認められるかどうかであると、Gajarsa裁判官は述べた。リリー社は米国特許法第135条(a)がインターフェアレンスの開始又は停止においてPTOに或る裁量を許すことを認め、また「同一の特許され得る発明」を両当事者がクレームするかどうかを決定するためPTOがツーウエイテストに頼ることに反対しなかったと、Gajarsa裁判官は述べた。

 しかしながら、リリー社は反駁し、米国特許法第135条(a)におけるPTOの裁量は単に1つの特許が最初の発明者に付与されるという法定の強制規定により抑制され、特に、仮の後行当事者の属クレームが仮の先行当事者の種クレームにより予期されると申立てられる場合、適正な試験は、ワンウエイテスト(one way test)であり、換言すると、当事者Aのクレームされた発明が当事者Bのクレームされた発明を予期するか若しくは自明なものであるとする場合、又は当事者Bのクレームされた発明が当事者Aのクレームされた発明を予期するか自明なものであるとする場合、当事者Aのクレームされた発明は当事者Bのクレームされた発明と同一の特許され得る発明であると、主張した。

 CAFCはリリー社により説得されなかった。インターフェレンス手続きはそれが正当とされるときのみ行われることをツーウエイテストが保証する、とGajarsa裁判官は述べて次のように詳述した。

 PTOの手法は、種クレームが属クレームを予期すると申立てられたときインターフェレンス手続きを宣言する過度のワンウエイテストに基く要求を拒絶するが、属クレームが最初に発明されたとの結論にインターフェレンス手続きが至るならば、属クレームと種クレームの両者が別々の特許され得る発明であることが可能である。このようにPTOのツーウエイテストは、クレームされた発明が単に範囲が重複するだけ(merely overlap in scope)であって同一の特許され得る発明を定義しない状況の下で両当事者に特許権が与えられると結論されるような不必要で無駄なインターフェレンス手続きの増加を回避する。これは、米国特許法第135条(a)により許されたPTOに固有の裁量の明白な適用である。

 文字通りに防御され得る上に、PTOの37 C.F.R. 1.601(n)の解釈は、規則の公布に付随したPTOの最終規則通知(Notice of Final Rule)に適合すると、Gajarsa裁判官は述べ、もし種クレームが「属クレームとは別に特許され得る」ならば、属クレーム及び種クレームは「別個の特許され得る発明」を定義するという最終規則通知の記述を指摘し、属クレーム又は種クレームが関連する先例からみて、ツーウェイテストは合理的であり且つ整合し、属クレームの早期の開示は、必ずしも属クレームの種の要素の特許化を阻止しないと、述べた。

 CAFCは、PTOの37 C.F.R. 1.601(n)は、ワンウェイテスト又はツーウェイテストの間の選択を要求すると解釈され得ることを確認した。しかしながら、Gajarsa裁判官の解釈においては、PTOは基礎的な発明の広い特許をインターフェレンスに従がわせることを回避するためツーウェイテストを合理的に選択した。「同一の特許され得る発明」を両当事者がクレームするかどうかを決定するためにツーウエイテストを設置するとのPTOの解釈は、規則言語の明白な誤りでも矛盾でもないとのPTOの37 C.F.R. 1.601(n)の解釈を、CAFCは容認した。

主題事項の再定義は適切に拒絶された
 リリー社は、'529特許のクレーム1をインターフェアレンスにおける主題に相当するものとして指定することによってインターフェアレンス主題事項を再定義した弁駁書のPTOによる却下を取消すことをCAFCに求めた。CAFCは、本件の特別の状況の下ではPTOが弁駁書を却下することが可能であったと推論し、説得されなかった。PTOが'529特許のクレーム1を明確に解釈しなかったことは明かである。しかしながら手続き上の誤りが生じた限り、PTOは本件において取消し得る誤りを犯さなかった。何故なら、PTOは、ツーウエイテストを適用し、狭く又は広く解釈しても、'529特許のクレーム1は、リリー社が議論しなかった主題に対応する'663再発行出願の対応クレーム1−82及び84−90と同一の特許され得る発明を定義しないから、また'529特許のクレーム1の2つのクレーム構造のいずれかに基づく実際上のインターフェアレンスはないから、PTOは取消される誤りを犯さなかったとCAFCは結論し、PTOの決定は支持された。

反対意見
 ローリー裁判官(Lourie)は、反対意見において、インターフェアレンスを宣言するかどうかについてPTOが裁量を有するとの多数意見に賛成したが、そのような裁量は法令及び実務規則に限定されると主張した。ローリー裁判官の意見では、ツーウェイテストの下で両当事者が同一発明をクレームしないことを根拠とし、リリー社の'633出願とワシントン大学の'529特許との間にインターフェアレンスを宣言することを拒絶したPTOの拒絶は、規則37 C.F.R. 1.601(n)がツーウェイテストでなくワンウエイテストを明白に記述する故に、裁量の乱用である。PTOの決定を肯定することは、DNA配列を含むインターフェアレンス問題の評価に不慣れな地方裁判所における長期の訴訟につながり、それ故、破棄がより経験のあるPTOが当事者のそれぞれの権利を決定することになると、ローリー裁判官は強調した。

文責 神田藤博

出典
 BNA International Inc., "Patent, Trademark & Copyright Journal", ‘Two-Way Test Applies to Determine If ‘Same Patentable Invention’ Is Claimed’, Page 288-289, Volume 66, Number 1629, July 11, 2003
(本ダイジェストは、著作権者の許諾の下、原論文の要約を掲載するものです)

以上


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